【解説・配点付き】2019年九州大学物理の解答・解説
2019年の九州大学・物理の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2019年九州大学物理
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は力学の問題です。
テーマは「ブレーキをかけた自転車。自転車とともに動く観測者から見た慣性力と、力・力のモーメントのつり合い。前輪・後輪の垂直抗力、後輪が浮かない条件とタイヤがすべらない条件、 $\dfrac{F}{N_{\mathrm F}}$ のグラフ、前輪だけ・後輪だけ・両輪のブレーキの最大の減速」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。
図1のような、自転車とそれに乗った運転者を考える。両者をあわせて一体と考え、自転車・運転者とよぼう。運転者はじっと動かず、水平の路面を慣性でまっすぐ進んでいるとする。
この自転車・運転者全体の質量を $M$、重心Gは前輪と後輪のまんなかで高さ $H$ のところにあるとする。前輪と後輪の中心の間隔を $L$ とする。また、車輪は軽く、その回転が運動に与える影響は無視できるとする。
まず、前輪のみにブレーキをかけた場合を考える。すると図1に示すように、前輪のタイヤには、路面から、路面と平行な摩擦力がはたらく。その大きさを $F$ とする。以下では、ブレーキをかけたほうのタイヤのみに摩擦力がはたらき、ブレーキによって生じる摩擦以外の摩擦や空気抵抗は無視できるとする。
(1) ブレーキをかける前の自転車の速さを $V$ として、停止するまでに進む距離を求めよ。ただし、 $F$ は一定とする。
自転車の加速度を $-a\,(a>0)$ とし、自転車とともに運動する観測者を考える。この観測者から見ると自転車・運転者は静止しており、慣性力が外力とつりあっている。外力としては、前輪が受ける摩擦力(大きさ $F$)、前輪および後輪が路面から受ける垂直抗力(それぞれ、大きさ $N_{\mathrm{F}}$ および $N_{\mathrm{R}}$)、および重力の4つあり、それらが満たす関係式を求めたい。重力加速度の大きさを $g$ として、以下の問いに答えよ。
(2) 摩擦力以外の3つの外力とこの観測者から見た慣性力について、その向きと大きさを、矢印の向きとおおよその長さで、解答欄の図中に示せ。ただし、矢印の始点はそれぞれの力の作用点とせよ。
(3) 前輪および後輪が路面から受ける垂直抗力による、重心Gを通り紙面に垂直な軸のまわりの力のモーメントを、それぞれ書け。ただし、力のモーメントは反時計回りを正とする。
(4) この観測者から見た、自転車・運転者にはたらく力および力のモーメントのつりあい条件を表す式を書け。ただし、自転車・運転者全体を剛体とみなしてよいとする。
(5) 前問で求めた関係式を解いて、加速度の大きさ $a$、垂直抗力の大きさ $N_{\mathrm{F}}$ および $N_{\mathrm{R}}$ を、摩擦力の大きさ $F$ の関数として表わせ。
(6) $F$ と $N_{\mathrm{F}}$ の比 $\dfrac{F}{N_{\mathrm{F}}}$ を、 $F$ の関数としてグラフに描け。ただし、 $F\geqq0$ である。
(7) 後輪が浮き上がらないために $F$ が満たすべき条件を書け。
ブレーキが弱いとタイヤは路面に対してすべらず、タイヤにはたらく摩擦力は静止摩擦力とみなしてよいとする。ブレーキを強くすると摩擦力は大きくなる。摩擦力が最大摩擦力を超えるとタイヤは路面に対してすべり始め、タイヤにはたらく摩擦力は動摩擦力になるとしよう。タイヤと路面の間の静止摩擦係数を $\mu$ として、以下の問いに答えよ。
(8) $\mu$ が十分大きくタイヤはすべらないと仮定して、後輪が浮き上がらずに得られる最も大きな減速、すなわち $a$ の最大値を書け。
(9) 実際にタイヤがすべらずこの最大の減速を得るために、 $\mu$ が満たすべき条件を書け。
次に、後輪にもブレーキをかけて減速している場合を考える。「両輪とも路面から離れず、かつタイヤがすべらない」という条件の下で得られる最大の減速、すなわち加速度を $-b$ とした時、 $b$ の最大値を求めたい。ただし、タイヤと路面の静止摩擦係数 $\mu$ は前問(9)で求めた条件を満たすとする。
(10) 後輪のみにブレーキをかけて得られる最大の減速、すなわち $b$ の最大値はいくらか。
(11) 前後両輪のブレーキを使ってよいとして、最大の減速になる場合を考える。その場合に、前輪にはたらく摩擦力 $F_{\mathrm{F}}$ および後輪にはたらく摩擦力 $F_{\mathrm{R}}$ は、それぞれいくらか。
解答の方針
【(1)の方針】
止まるまでの「距離」を聞かれていて、時間は聞かれていない。自転車・運転者を止めているのは摩擦力 $F$ だけで、重力と垂直抗力は進む向きに垂直なので仕事をしない。だから、摩擦力の仕事と運動エネルギーの変化を結べば、加速度を経由せずに距離が求まる。
- 止まるまでに進む距離を $x$ と置く。
- 摩擦力の仕事 $-Fx$ =(止まったときの運動エネルギー)-(はじめの運動エネルギー)を立て、 $x$ について解く。
【(2)〜(5)の方針】
まず運動を想像する。ブレーキをかけると、体は前につんのめる。自転車に乗って見ると、重心 G に前向きの慣性力がかかっているように見える。一方で、自転車を止める摩擦力 $F$ は路面、つまり G より $H$ だけ下で後ろ向きにはたらく。G より下を後ろへ引かれるので、自転車・運転者は G のまわりを時計回り(前のめり)に回されようとする。それでも回らずに静止して見えるのは、前輪の垂直抗力が増え、後輪の垂直抗力が減って、反時計回りのモーメントで打ち消しているから。だから $N_{\mathrm F}>N_{\mathrm R}$ になる(下の図)。


自転車とともに動く観測者から見れば静止しているので、慣性力を入れた剛体のつり合い(水平・鉛直・モーメントの3式)だけで解ける。減速する剛体に乗って慣性力を入れ、「つり合って見える」として3式を立てる型と同じ。重力と慣性力はどちらも G にはたらくので、G のまわりのモーメントには出てこない。
- 自転車とともに動く観測者を決め、力を「重力 → 触れているもの(前輪:垂直抗力 $N_{\mathrm F}$ と摩擦力 $F$ 、後輪:垂直抗力 $N_{\mathrm R}$ )→ 慣性力」の順に書く。慣性力は加速度と逆向き(前向き)に大きさ $Ma$ ((2))。
- G のまわりのモーメントを、力ごとに回す向き(反時計回りか時計回りか)と腕の長さ(作用線までの距離。垂直抗力は $\dfrac L2$ 、摩擦力は $H$ )を決めて書く((3))。
- 水平・鉛直のつり合いと、G のまわりのモーメントのつり合いの3式を立てる((4))。
- 未知数 $a$ ・ $N_{\mathrm F}$ ・ $N_{\mathrm R}$ の3つを3式で解き、 $F$ で表す((5))。
【(6)〜(9)の方針】
(5) より、ブレーキを強くする( $F$ を大きくする)ほど $N_{\mathrm F}$ は直線で増え、 $N_{\mathrm R}$ は直線で減る(下の図)。後輪が浮く=後輪の垂直抗力が0なので、後輪が浮かない条件は $N_{\mathrm R}\geqq0$ 。これがブレーキの強さの上限になり、減速の上限にもなる。


(9) は、タイヤがすべらない条件 $F\leqq\mu N_{\mathrm F}$ を $\dfrac{F}{N_{\mathrm F}}\leqq\mu$ と読みかえるのが決め手。(6) のグラフの高さは「その強さでブレーキをかけるのに必要な $\mu$ 」そのもの。グラフは増える一方なので、いちばん強くかける所(後輪が浮くギリギリ)で必要な $\mu$ が最大になる。(6) は (9) への誘導(下の図)。


- (5) の $N_{\mathrm F}$ を入れて $\dfrac{F}{N_{\mathrm F}}$ を $F$ の式で表し、 $F\to$ 大で近づく値(漸近線)と原点での値を読んでグラフを書く((6))。
- (5) の $N_{\mathrm R}$ に $N_{\mathrm R}\geqq0$ を立て、 $F$ の範囲を求める((7))。
- (5) の $a=\dfrac FM$ に (7) の $F$ の最大を入れる((8))。
- すべらない条件 $F\leqq\mu N_{\mathrm F}$ を、 $F$ が最大(このとき $N_{\mathrm R}=0$ 、 $N_{\mathrm F}=Mg$ )の所で立て、 $\mu$ の範囲を求める((9))。
(10)(11)。
後輪の摩擦力も路面で後ろ向きなので、前輪と同じく自転車・運転者を前のめりに回す。つまり後輪のブレーキは、強くかけるほど後輪が軽くなり、後輪の最大摩擦力 $\mu N_{\mathrm R}$ が下がる。自分で自分の上限を下げてしまうので、後輪だけのブレーキは弱い(下の図)。


(11) は、前輪と後輪の摩擦力はどちらも路面(G より $H$ 下)で後ろ向きなので、つり合いの式には合計 $F_{\mathrm F}+F_{\mathrm R}$ だけが入る。だから減速の上限は、「後輪が浮かない」と「2つのタイヤがすべらない」の2つ。(9) の条件の $\mu$ なら、すべるより先に後輪が浮く。結局 (8) と同じ「後輪が浮くギリギリ」が最大の減速で、そのとき後輪の垂直抗力は0なので、後輪の摩擦力も0になる。
- 後輪の摩擦力を $F_{\mathrm R}$ 、加速度を $-b$ として、(4) と同じ3式を立て((4) の $F$ を $F_{\mathrm R}$ 、 $a$ を $b$ に置きかえるだけ)、 $N_{\mathrm R}$ を $F_{\mathrm R}$ で表す。
- すべらない条件 $F_{\mathrm R}\leqq\mu N_{\mathrm R}$ を $F_{\mathrm R}$ について解き、最大の $F_{\mathrm R}$ から $b=\dfrac{F_{\mathrm R}}{M}$ の最大を求める((10))。
- 両輪では、合計 $F_{\mathrm F}+F_{\mathrm R}=Mb$ で3式を立てる。浮かない条件 $N_{\mathrm R}\geqq0$ から $b\leqq\dfrac{gL}{2H}$ 、すべらない条件2本を足して $b\leqq\mu g$ 。
- (9) の $\mu\geqq\dfrac{L}{2H}$ から、きついのは浮かない条件。 $b$ が最大のとき $N_{\mathrm R}=0$ なので $F_{\mathrm R}\leqq\mu N_{\mathrm R}=0$ 、残りは前輪((11))。
解答




解答をテキストで読む
(1)
摩擦力 $F$ は進む向きと逆向きで、重力・垂直抗力は仕事をしない。止まるまでに進む距離を $x$ とすると、非保存力(摩擦力)の仕事が力学的エネルギーの変化に等しい( $W=\Delta E$ )ので
$$-Fx=0-\frac12MV^2$$
答 $\dfrac{MV^2}{2F}$(3点)
(2)
自転車とともに動く観測者から見る。自転車の加速度は後ろ向き(大きさ $a$ )なので、慣性力は前向きに大きさ $Ma$ で、G にはたらく。力は「重力 → 触れているもの → 慣性力」の順に
・重力 $Mg$ :G から下向き
・垂直抗力 $N_{\mathrm F}$ ・ $N_{\mathrm R}$ :前輪・後輪と路面の接点から上向き
・慣性力 $Ma$ :G から前向き
長さの関係は (4)(5) で決まる:水平のつり合いから慣性力は摩擦力 $F$ と同じ大きさ、鉛直のつり合いから $N_{\mathrm F}$ と $N_{\mathrm R}$ の長さの和は重力の長さと同じ。摩擦力が前のめりに回すのを打ち消すため、前輪の方が長い( $N_{\mathrm F}-N_{\mathrm R}=\dfrac{2FH}{L}$ )。
答 下の図(4点)
(3)
G のまわりのモーメントは「力の大きさ × 腕の長さ(G から作用線までの距離)」で、向きは回す向きで決める(反時計回りが正)。
・前輪の垂直抗力 $N_{\mathrm F}$ :G より $\dfrac L2$ 前で上向き → 反時計回り
・後輪の垂直抗力 $N_{\mathrm R}$ :G より $\dfrac L2$ 後ろで上向き → 時計回り
答 前輪 $\dfrac{N_{\mathrm F}L}{2}$、後輪 $-\dfrac{N_{\mathrm R}L}{2}$(4点)
(4)
観測者から見て静止しているので、水平・鉛直のつり合いと、G のまわりのモーメントのつり合いの3式を立てる(上の (2) の図)。前向きを正とする。
・水平:前向きの慣性力 $Ma$ と後ろ向きの摩擦力 $F$
・鉛直:上向きの $N_{\mathrm F}$ ・ $N_{\mathrm R}$ と下向きの $Mg$
・G のまわり:重力と慣性力は G にはたらくのでモーメント0。摩擦力 $F$ は G より $H$ 下で後ろ向きなので、腕の長さ $H$ で時計回り( $-FH$ )。前のめりに回す向き
答 水平 $Ma-F=0$、鉛直 $N_{\mathrm F}+N_{\mathrm R}-Mg=0$、モーメント $\dfrac{N_{\mathrm F}L}{2}-\dfrac{N_{\mathrm R}L}{2}-FH=0$(4点)
(5)
未知数は $a$ ・ $N_{\mathrm F}$ ・ $N_{\mathrm R}$ の3つで、式も3本。水平の式から $a$ 。モーメントの式から $N_{\mathrm F}-N_{\mathrm R}=\dfrac{2FH}{L}$ 、これと $N_{\mathrm F}+N_{\mathrm R}=Mg$ を足し引きして
答 $a=\dfrac FM$、$N_{\mathrm F}=\dfrac{Mg}{2}+\dfrac{FH}{L}$、$N_{\mathrm R}=\dfrac{Mg}{2}-\dfrac{FH}{L}$(4点)
(確かめ: $F=0$ なら重心がまんなかなので $\dfrac{Mg}{2}$ ずつ。ブレーキを強くするほど前輪に重さが移る)
(6)
(5) より
$$\frac{F}{N_{\mathrm F}}=\frac{F}{\dfrac{Mg}{2}+\dfrac{FH}{L}}=\frac{2LF}{MgL+2HF}=\frac{L}{H}\cdot\frac{F}{F+\dfrac{MgL}{2H}}$$
・$F=0$ で0(原点を通る)。原点での傾きは $\dfrac{2}{Mg}$
・$F$ を大きくすると増え続け、 $\dfrac{F}{F+\dfrac{MgL}{2H}}$ は1に近づくので、漸近線 $\dfrac LH$ に下から近づく。上に凸
・$F=\dfrac{MgL}{2H}$ ((7) の上限)で $\dfrac{L}{2H}$ (漸近線のちょうど半分)。これより右は後輪が浮いて (5) の式が成り立たない範囲
答 下の図(原点を通り、上に凸で増え、漸近線 $\dfrac LH$ に近づく曲線)(4点)
(7)
後輪が浮く=後輪の垂直抗力が0。浮かない(路面に接したままでいる)条件は $N_{\mathrm R}\geqq0$ (その状態にとどまる条件なので等号あり)。(5) より
$$\frac{Mg}{2}-\frac{FH}{L}\geqq0$$
答 $F\leqq\dfrac{MgL}{2H}$(3点)
ブレーキを強くするほど $N_{\mathrm R}$ は直線で減り、この値で0になる(下の図)。
(8)
(5) より $a=\dfrac FM$ なので、 $F$ が最大のとき $a$ も最大。(7) の上限を入れて
答 $\dfrac{gL}{2H}$(4点)
(確かめ:後輪が浮くギリギリでは、路面に接しているのは前輪だけ。前輪の接点のまわりのモーメントを考えると、垂直抗力と摩擦力は接点を通るので0。重力 $Mg$ は腕 $\dfrac L2$ で反時計回り、慣性力 $Ma$ は腕 $H$ で時計回りなので $Mg\cdot\dfrac L2=Ma\cdot H$ 、同じ $a=\dfrac{gL}{2H}$ が求まる(下の図))
(9)
前輪のタイヤがすべらない条件は $F\leqq\mu N_{\mathrm F}$ 。これは $\dfrac{F}{N_{\mathrm F}}\leqq\mu$ と同じで、(6) のグラフの高さが「すべらないために必要な $\mu$ 」になる。グラフは増える一方なので、最大の減速を得る $F=\dfrac{MgL}{2H}$ で成り立てば、それより弱いどのブレーキでも成り立つ。このとき $N_{\mathrm R}=0$ より $N_{\mathrm F}=Mg$ なので
$$\frac{MgL}{2H}\leqq\mu Mg$$
答 $\mu\geqq\dfrac{L}{2H}$(5点)
((6) のグラフの $F=\dfrac{MgL}{2H}$ での高さ $\dfrac{L}{2H}$ そのもの)
(10)
後輪だけにブレーキをかけると、後輪に後ろ向きの摩擦力 $F_{\mathrm R}$ がはたらく。後輪の接点も G より $H$ 下なので、力の図は (2) の摩擦力を後輪に移しただけで、3式は (4) と同じ形(下の図)。
$$Mb=F_{\mathrm R},\qquad N_{\mathrm F}+N_{\mathrm R}=Mg,\qquad \frac{N_{\mathrm F}L}{2}-\frac{N_{\mathrm R}L}{2}-F_{\mathrm R}H=0$$
よって $N_{\mathrm R}=\dfrac{Mg}{2}-\dfrac{F_{\mathrm R}H}{L}$ 。後輪がすべらない条件 $F_{\mathrm R}\leqq\mu N_{\mathrm R}$ に入れると
$$F_{\mathrm R}\leqq\mu\left(\frac{Mg}{2}-\frac{F_{\mathrm R}H}{L}\right)\qquad\therefore\ F_{\mathrm R}\leqq\frac{\mu MgL}{2(L+\mu H)}$$
このとき $N_{\mathrm R}\geqq\dfrac{F_{\mathrm R}}{\mu}\geqq0$ 、 $N_{\mathrm F}>0$ で、両輪とも路面から離れない。 $b=\dfrac{F_{\mathrm R}}{M}$ より
答 $\dfrac{\mu gL}{2(L+\mu H)}$(5点)
( $\dfrac{\mu L}{L+\mu H}<\dfrac{L}{H}$ は $\mu H<L+\mu H$ と同じで必ず成り立つので、後輪だけの最大の減速は、前輪だけの (8) の $\dfrac{gL}{2H}$ より必ず小さい)
(11)
前輪・後輪の摩擦力はどちらも G より $H$ 下で後ろ向きなので、3式には合計だけが入る。
$$Mb=F_{\mathrm F}+F_{\mathrm R},\qquad N_{\mathrm F}+N_{\mathrm R}=Mg,\qquad \frac{N_{\mathrm F}L}{2}-\frac{N_{\mathrm R}L}{2}-(F_{\mathrm F}+F_{\mathrm R})H=0$$
よって $N_{\mathrm R}=\dfrac{Mg}{2}-\dfrac{MbH}{L}$ 。減速の上限は2つ。
・後輪が浮かない: $N_{\mathrm R}\geqq0$ より $b\leqq\dfrac{gL}{2H}$
・タイヤがすべらない: $F_{\mathrm F}\leqq\mu N_{\mathrm F}$ 、 $F_{\mathrm R}\leqq\mu N_{\mathrm R}$ を足して $Mb\leqq\mu Mg$ 、つまり $b\leqq\mu g$
(9) の条件 $\mu\geqq\dfrac{L}{2H}$ より $\dfrac{gL}{2H}\leqq\mu g$ なので、きついのは「後輪が浮かない」の方。 $b$ の最大は $\dfrac{gL}{2H}$ で、(8) と同じ後輪が浮くギリギリの状況になる(上の (8) の図)。このとき $N_{\mathrm R}=0$ なので、 $F_{\mathrm R}\leqq\mu N_{\mathrm R}=0$ より $F_{\mathrm R}=0$ 。残りは前輪で $F_{\mathrm F}=Mb=\dfrac{MgL}{2H}$ ( $N_{\mathrm F}=Mg$ で $F_{\mathrm F}\leqq\mu Mg$ も満たす)。
答 $F_{\mathrm F}=\dfrac{MgL}{2H}$、$F_{\mathrm R}=0$(5点)
出題意図
(1) 摩擦力のした仕事と運動エネルギーの変化から、止まるまでの距離を求めることができるか
(2)〜(5):自転車とともに動く観測者から見て慣性力を入れ、剛体の力と力のモーメントのつり合いを立てて、前輪・後輪の垂直抗力を求めることができるか。
(6)〜(9):後輪が浮かない条件とタイヤがすべらない条件を、ブレーキの強さ $F$ の関数として捉えることができるか。
(10)(11):後輪のブレーキ・両輪のブレーキで、「浮かない」と「すべらない」の2つの限界のうち、どちらが先に効くかを判断できるか。
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや難 | |
| 目標得点 | 35点 | 30点 |
| 目標時間 | 25分 | 25分 |
自転車のブレーキという初見の設定が、この大問をやや難にしている。
小問が11もあって長く見えるが、問題の本質は剛体の「水平・鉛直・モーメントのつり合い」だけ。
決め手は、ブレーキをかけると前のめりになる、という運動を想像できるかどうか。
前のめりになるから前輪が強く押しつけられ、後輪は軽くなって浮きやすくなる。
これが見えていれば、後半の「浮く」「すべる」の条件も自然に立てられる。
差がつく所・失点しやすい所
- (3)(4):運動を想像できるか。ブレーキをかけると前のめりになる、つまり摩擦力が G のまわりを時計回りに回し、前輪の垂直抗力が増えて打ち消す、という発想に行き着けるか。摩擦力のモーメント $-FH$ を落とす・符号を逆にすると、(5)〜(11) がすべて崩れる。
- (9):すべらない条件 $F\leqq\mu N_{\mathrm F}$ を $\dfrac{F}{N_{\mathrm F}}\leqq\mu$ と読みかえ、(6) のグラフの高さが必要な $\mu$ だと気づけるか。気づけば、後輪が浮くギリギリ( $N_{\mathrm F}=Mg$ )の値を読むだけ。
- (10)(11):後輪のブレーキは強くかけるほど後輪が軽くなって効かなくなる、両輪では「浮く」と「すべる」の2つの限界のどちらが先に効くかを比べる、という発想に行き着けるか。
コラム 自転車は前輪のブレーキで止まる
この大問の結論は、実際の自転車の止まり方そのもの。自転車整備の解説や自転車店の解説でも、同じことが説明されている。


- 前輪のブレーキが主役:ブレーキをかけると前のめりになり、前輪が路面に強く押しつけられる((5) の $N_{\mathrm F}$ が増える)。押しつける力が大きいほど最大摩擦力も大きいので、前輪はよく効く。最も短く止まれるのは、後輪が浮く直前まで前輪をかけたとき。これが (8) と (11) の結論。
- 後輪のブレーキが効きにくい理由:減速すると後輪は軽くなる( $N_{\mathrm R}$ が減る)。後輪のブレーキを強くかけるほど後輪の最大摩擦力が下がり、すぐにすべってしまう。これが (10) の結論で、後輪だけの最大の減速は、前輪だけより必ず小さい。
- かけすぎると前に倒れる:前輪を強くかけすぎると、後輪が浮いて前に転倒する。(7) の「後輪が浮く」がこれ。前輪がよく効くからこそ、強くかけすぎない加減が大事。
- 法令の決まり:自転車のブレーキは、前輪と後輪の両方を制動できること、乾いた平らな舗装路で時速10 kmから3 m以内に止まれることが決められている(道路交通法施行規則)。(1) の式 $x=\dfrac{MV^2}{2F}$ で逆算すると、必要な平均の減速は $\dfrac{(10/3.6)^2}{2\times3}\fallingdotseq1.3\ \mathrm{m/s^2}$ で、重力加速度の約 $0.13$ 倍。
九大の物理は、こうした身近な現象を題材にすることがある。ブレーキをかけたら体がどうなるかを思い浮かべるだけで、式の向きと符号が見えてくる。物理を身近な現象に結びつける癖を持とう。
2019年九州大学物理
第2問 解答・解説
第2問は電磁気の問題です。
テーマは「磁束密度が時間変化するときの長方形コイルの誘導起電力をグラフで表し、一様な磁場の中で回るコイルの電流の向き・電流が受ける力・外力の仕事率を会話文で求め、コイルを2つ組み合わせて仕事率が時刻によらなくなる角度を求める」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。
幅 $L$ [m]、奥行 $D$ [m] の長方形状の一巻きコイルを使って、磁場の中にコイルを入れたときやその中で動かしたときにみられる現象について調べる。コイルに発生する起電力を測るため、コイルの両端部に $R$ [Ω] の抵抗を接続した閉回路をつくり、抵抗にかかる電圧を測る。以下では、コイルおよび導線の電気抵抗、コイルで発生した電流のつくる磁束、コイル以外の回路部分への磁場の影響、電圧計に流れる電流を無視する。
問1. はじめに、時間変化する一様な磁束密度 $\vec{B}$ [T] の磁場の中に置かれたコイルについて考えよう。図1に示すように、鉛直方向にかけられた磁場と垂直になるようにコイルの面を水平に固定する。
磁束密度 $\vec{B}$ の鉛直上向きの成分 $B_z$ [T] が下のグラフ(1)あるいは(2)のように時刻 $t$ [s] とともに変化するとき、抵抗の両端に取り付けられた電圧計が示す電圧 $V_1$ [V] の時間変化をグラフに描け。ただし、電圧の値をグラフの縦軸の目盛りに記入しなくてよいが、 $\underline{\text{相対的な大きさが分かるように}}$ 図示せよ。
問2. つぎに、時間変化しない一様な磁束密度 $\vec{B}$ [T] の磁場の中でコイルを回転させよう。図2に示すように、コイル上の点bとcの中点、aとdの中点の両方を通る軸のまわりに、一定の角速度 $\omega$ [rad/s] でコイルを回転させる。この実験について、千春さんと浩介さんの2人は以下のように議論している。空欄(ア)から(ク)に入る適切な語句や記号、数式を答えよ。
千春さん「時刻0(ゼロ)では、コイルの面と磁場の向きがちょうど垂直だったよね。時間が少し経った時刻 $t$ [s] での様子が図2に描いてあるね。」浩介さん「コイルは反時計回りに角度 $\omega t$ だけ回転しているから、コイルを貫く磁束は時刻0(ゼロ)のときに比べて減少しているね。起電力はどうなるかな? 電流のつくる磁場が、コイルを貫く磁束の時間変化を $\boxed{\text{ア}}$ 向きに起電力が生じるよね。」千春さん「これは $\boxed{\text{イ}}$ の法則だね。
電流の向きは、図中の矢印記号(あ)の向きなのか、それとも(い)の向きなのかな? えーと、 $\boxed{\text{ウ}}$ の向きだね。」浩介さん「そうだね。じゃあ、この電流は磁場の中を流れるんだよね。ということは、 $\boxed{\text{エ}}$ と呼ばれている力がコイルを流れる電流にはたらくよね。コイルのab間の部分にはたらく力を求めてみよう。」千春さん「電流を $I$ [A]、磁束密度の大きさを $B=|\vec{B}|$ と表すと、この力の大きさは $\boxed{\text{オ}}$ になるね。コイルの $\boxed{\text{カ}}$ 間にはたらく力も同じ大きさだよね。これらの力がかかるとコイルはどうなるの?」浩介さん「コイルの回転が妨げられるのはわかるかな? 一定の角速度でコイルを回転させるには、この妨げる力と同じ大きさで、反対向きの外力をかけるといいよね。この外力の仕事率 $P$ [W] を求めよう。」千春さん「仕事率は単位時間あたりの仕事だったかな。」浩介さん「その通り。まず、コイルのab間については、仕事率は速度と力の内積だから、コイルのab間の部分の速さを $v$ [m/s]、そこにかける力の大きさを $F$ [N] とすると、 $Fv\sin\omega t$ が仕事率になるよね。 $\boxed{\text{カ}}$ 間も同じだね。」千春さん「2つを合計した全体の仕事率 $P$ [W] は、 $F$ を $I$ を用いて表して、 $P=\boxed{\text{キ}}$ になったよ。」浩介さん「これと抵抗 $R$ で単位時間(毎秒)あたりに発生する熱量 $P_R$ [W] が等しくなるんだ。エネルギー保存則だね。この関係 $P=P_R$ を使うと、電流 $I$ の時間変化が求められるよ。」千春さん「 $P_R$ は $I$ を用いて、 $P_R=\boxed{\text{ク}}$ と表せるから、時刻 $t$ のときの電流は $I=\dfrac{BLD\omega}{R}\sin\omega t$ になるね。」
問3. 前問2で用いたコイルと抵抗からなる閉回路と同じものをもう1つ準備する。2つのコイルを組み合わせて、一体化したコイル対をつくろう。図3に示すように、2つのコイルの回転軸をそろえて、片方のコイル面ともう一方のコイル面とがなす角度を $\theta$ [rad]( $0\leqq\theta\leqq\pi$ にとる)で固定する。コイルの回転軸は、前問と同じとする。また、2つのコイルが互いに電気的に接触しないように一体化する。
この一体化したコイル対を、時間変化のない一様な磁場の中で、回転軸のまわりに一定の角速度 $\omega$ [rad/s] で回転させる。このとき、コイル対全体の仕事率が時刻によらず一定になるような $\theta$ を求めよ。解答欄には $\underline{\theta\ \text{の値}}$ と $\underline{\text{そのときの仕事率が時刻によらず一定になること}}$ を示せ。
解答の方針
【問1の方針】
コイルは動かず、変わるのは磁束密度だけ。面積 $LD$ は一定なので、磁束 $\varPhi=B_zLD$ の変化の速さは $B_z$–$t$ グラフの傾き×面積で決まる。起電力は向きと大きさを別々に決める。大きさはグラフの傾きで決まり、向き( $V_1$ の符号)は図1の配線で決まる。コイルのすき間の左の導線は抵抗の左端を通って電圧計の+端子へ、右の導線は抵抗の右端を通って−端子へつながっている(下の図)。上向きの磁束が増えるときに誘導電流が抵抗をどちら向きに流れるかを見れば、符号が決まる。


(2) は、サインの形のグラフの傾きを考える。単振動で、位置がサインの形なら速度はコサインの形になるのと同じで、傾きは $B_z$ が0を横切る所で最も大きく、山と谷で0になる。
- $\varPhi=B_zLD$ とし、ファラデーの電磁誘導の法則から、起電力の大きさを面積×グラフの傾きとする。
- 図1の配線をたどり、上向きの磁束が増えるときの抵抗の電流の向きから、 $V_1=-LD\dfrac{\Delta B_z}{\Delta t}$ と符号を決める。
- (1) は区間ごとの傾きを読み、 $V_1$ を区間ごとの横線で書く。
- (2) は $B_z=\sin\dfrac{\pi t}{2}$ と読み、 $t$ と $t+\Delta t$ の差から傾きを求めて、 $V_1$ をマイナスのコサインの形で書く。山の高さは (1) の $LD$ と比べる。
【問2・問3の方針】
問2は、コイルが回ると、磁場に垂直な面に映したコイルの面積が変わり、磁束が変わる。電流の向きはレンツの法則で決まるが、(あ)(い) を選ぶには、立体の図2を上から見た図に書き直す(下の図)。回転軸は bc と ad の中点を通るので、ab と cd が軸に平行で長さ $D$ 、bc と da が長さ $L$ 。


力は電流が流れる辺すべてに書く。磁場が鉛直で ab・cd は水平なので、ab と cd の力は水平。仕事率は「力×力の向きの速度の成分」なので、回転軸の方向から見た図で ab の速度と力の向きを比べる(下の図)。電池もコンデンサーも無く、コイルは一定の角速度で回るので、外力の仕事はすべて抵抗のジュール熱になる。これが会話文の $P=P_R$ 。


問3は、2つのコイルの電流が $\sin\omega t$ と $\sin(\omega t+\theta)$ で、時刻がずれるだけ。それぞれの仕事率は $\sin^2$ の形なので、片方の山ともう片方の谷がちょうど重なれば、和が一定になる。 $\sin^2\omega t+\cos^2\omega t=1$ の形になる角を探せばよい。
- 上向きの磁束が減るので、上向きを補う向き(上から見て反時計回り)に電流が流れるとして (ア)〜(ウ) を答える。
- ab に $F=IBl$ を書き(長さは $D$)、cd にも同じ大きさの力を書く((エ)〜(カ))。
- 軸から ab までの距離 $\dfrac L2$ から $v=\dfrac{L\omega}{2}$ とし、 $P=2Fv\sin\omega t$ に $F=IBD$ を入れる((キ))。
- $P_R=RI^2$ とし((ク))、 $P=P_R$ から電流の式を確かめる。
- もう一方のコイルの電流を $\dfrac{BLD\omega}{R}\sin(\omega t+\theta)$ とし、2つの仕事率の和を求める(問3)。
- 半角の公式で和を $1-\cos\theta\cos(2\omega t+\theta)$ の形にし、時刻によらない $\theta$ と、そのときの仕事率を求める(問3)。
解答




解答をテキストで読む
問1 (1)
コイルは動かないので、面積は $LD$ のまま。磁束は $\varPhi=B_zLD$ で、時間で変わるのは $B_z$ だけ。ファラデーの電磁誘導の法則より、起電力の大きさは
$$\left|\frac{\Delta\varPhi}{\Delta t}\right|=LD\left|\frac{\Delta B_z}{\Delta t}\right|$$
で、面積× $B_z$–$t$ グラフの傾き。
向き:図1の配線をたどると、コイルのすき間の左の導線は抵抗の左端を通って電圧計の+端子へ、右の導線は抵抗の右端を通って−端子へつながっている(着眼点の図)。上向きの磁束が増えるときは、それを打ち消す下向きの磁束をつくる向き、つまり上から見て時計回りに誘導電流が流れる。左の導線からコイルを時計回りにたどると右の導線に出るので、電流は右の導線から抵抗に入り、抵抗を右から左へ流れる。抵抗では電流の向きに電位が下がるので、右端(−端子の側)が高電位で $V_1<0$ 。よって
$$V_1=-LD\frac{\Delta B_z}{\Delta t}$$
(1) のグラフの傾き(単位は T/s)は、0〜1 s で $1$ 、1〜2 s で $0$ 、2〜3 s で $-2$ 、3〜4 s で $1$ 、4 s 以降で $0$ 。よって $V_1$ は区間ごとに $-LD$ 、 $0$ 、 $2LD$ 、 $-LD$ 、 $0$ の横線になる。大きさの比は $1:0:2:1$ (下の図。上の $B_z$ のグラフと時刻の目盛りをそろえた)。
答 上の図の下(0〜1 s で $-LD$ 、1〜2 s で $0$ 、2〜3 s で $2LD$ 、3〜4 s で $-LD$ 、4 s 以降 $0$ の横線)(5点)
(縦軸の値は書かなくてよいが、「相対的な大きさ」が分かるように、2〜3 s の高さを0〜1 s の深さの2倍にする)
問1 (2)
グラフは最大値1 T・周期4 s のサインの形なので、 $B_z=\sin\dfrac{\pi t}{2}$ 。時間で変わる $t$ を $t+\Delta t$ にして差をとり、加法定理と、 $\Delta t$ が小さいときの $\cos\dfrac{\pi\Delta t}{2}\fallingdotseq1$ 、 $\sin\dfrac{\pi\Delta t}{2}\fallingdotseq\dfrac{\pi\Delta t}{2}$ を使うと
$$\Delta B_z=\sin\frac{\pi(t+\Delta t)}{2}-\sin\frac{\pi t}{2}\fallingdotseq\frac{\pi}{2}\Delta t\cos\frac{\pi t}{2}$$
(1) と同じ式に入れて
$$V_1=-LD\frac{\Delta B_z}{\Delta t}=-\frac{\pi}{2}LD\cos\frac{\pi t}{2}$$
$t=0,\ 4$ で最小 $-\dfrac{\pi}{2}LD$ 、 $t=1,\ 3$ で $0$ 、 $t=2$ で最大 $\dfrac{\pi}{2}LD$ 。 $\dfrac{\pi}{2}\fallingdotseq1.57$ なので、山の高さは (1) の $LD$ より高く、 $2LD$ より低い(下の図)。
答 上の図の下(マイナスのコサインの形。 $t=0,\ 4$ で $-\dfrac{\pi}{2}LD$ 、 $t=1,\ 3$ で $0$ 、 $t=2$ で $\dfrac{\pi}{2}LD$ )(5点)
( $B_z$ の山と谷( $t=1,\ 3$ )で傾きが0なので $V_1=0$ 。 $B_z$ が0を横切る所で傾きの大きさが最大)
問2
(ア)(イ):コイルを貫く磁束が変わると、その変化を妨げる(打ち消す)向きに誘導起電力が生じる。これがレンツの法則。
答(ア) 妨げる(打ち消す)(2点)
答(イ) レンツ(2点)
(ウ):図2を上から見た図に書き直す(着眼点の図)。ab と cd が回転軸に平行で、a・b が右側、d・a が手前なので、上から見ると a(右手前)→ b(右奥)→ c(左奥)→ d(左手前)は反時計回り。時刻0ではコイルの面が水平で、上向きの磁束 $BLD$ が貫いていた。回ると上向きの磁束が減るので、それを補う上向きの磁束をつくる向き、つまり上から見て反時計回りに電流が流れる。ab では a→b の向き。
答(ウ) (あ)(3点)
(エ):磁場の中を流れる電流は、磁場から力を受ける。
答(エ) ローレンツ力(2点)
(電流をつくる荷電粒子1つ1つが受けるローレンツ力の合力。教科書によっては「電流が磁場から受ける力」とだけ呼ぶ)
(オ):ab は長さ $D$ で回転軸に平行。磁場は鉛直で、コイルが傾いても ab は水平のままなので、磁場と常に垂直。 $F=IBl$ より
答(オ) $IBD$(3点)
向きはフレミングの左手の法則で水平、回転軸から外向き(下の図)。
(カ):cd も長さ $D$ で磁場に垂直。電流は c→d で ab と逆向きなので、同じ大きさの力が反対側(軸から外向き)にはたらく。bc・da の力は回転軸の方向を向くので、回転を妨げない。
答(カ) cd(2点)
(キ):回転軸から ab までの距離は $\dfrac L2$ なので、ab の速さは $v=\dfrac L2\omega$ 。回転軸の方向から見ると(下の図)、ab の速度は傾いたコイルの面に垂直で、その水平成分は $v\sin\omega t$ 。力は水平なので、仕事率は「力×力の向きの速度の成分」で $Fv\sin\omega t$ 。一定の角速度で回すので、外力 $F$ は回転を妨げる力 $IBD$ とつり合い、同じ大きさ。ab と cd の2つ分で
$$P=2\cdot IBD\cdot\frac{L\omega}{2}\sin\omega t$$
答(キ) $IBDL\omega\sin\omega t$(4点)
( $v$ を残した $2IBDv\sin\omega t$ も同じ量)
(ク):抵抗で単位時間に発生するジュール熱は
答(ク) $RI^2$(2点)
(確かめ: $P=P_R$ より $IBDL\omega\sin\omega t=RI^2$ で、 $I=\dfrac{BLD\omega}{R}\sin\omega t$ 。問題文の式と一致する。ファラデーの電磁誘導の法則でも確かめられる。磁場に垂直な面に映した面積は $L\cos\omega t\times D$ なので、 $\varPhi=BLD\cos\omega t$ 。時間で変わる $t$ を $t+\Delta t$ にして、問1 (2) と同じ加法定理と近似を使うと $\Delta\varPhi\fallingdotseq-BLD\omega\Delta t\sin\omega t$ 。起電力の大きさは $BLD\omega\sin\omega t$ で、電流は $\dfrac{BLD\omega}{R}\sin\omega t$ 。エネルギー保存の一般形 $W_外+W_電=\Delta U+H+\Delta E$ で、電池もコンデンサーも無く、回る速さも変わらないので $W_外=H$ 。外力の仕事率=ジュール熱の発生する割合、という会話文の関係と同じ)
問3
2つのコイルは電気的に接触せず、コイルの電流がつくる磁束も無視するので、それぞれの回路は問2と同じ。もう一方のコイルは角 $\theta$ だけずれて同じ角速度で回るので、電流は $\dfrac{BLD\omega}{R}\sin(\omega t+\theta)$ (ずれの向きによっては $\omega t-\theta$ 。どちらでも以下は同じ)。1つのコイルの仕事率は問2より $RI^2$ なので、 $P_0=\dfrac{(BLD\omega)^2}{R}$ とおくと、コイル対全体の仕事率は
$$P=P_0\left\{\sin^2\omega t+\sin^2(\omega t+\theta)\right\}$$
半角の公式 $\sin^2x=\dfrac{1-\cos2x}{2}$ と和積の公式で
$$\sin^2\omega t+\sin^2(\omega t+\theta)=1-\frac{\cos2\omega t+\cos(2\omega t+2\theta)}{2}=1-\cos\theta\cos(2\omega t+\theta)$$
これが時刻 $t$ によらないのは $\cos\theta=0$ のときだけ。 $0\leqq\theta\leqq\pi$ より
答( $\theta$ ) $\theta=\dfrac{\pi}{2}$(5点)
このとき $\sin\left(\omega t+\dfrac{\pi}{2}\right)=\cos\omega t$ なので
$$P=\frac{(BLD\omega)^2}{R}\left(\sin^2\omega t+\cos^2\omega t\right)=\frac{(BLD\omega)^2}{R}$$
で、時刻 $t$ を含まない。一方の仕事率が最大のときにもう一方は0で、山と谷がちょうど補い合う(下の図)。
答(一定になること) $P=\dfrac{(BLD\omega)^2}{R}\left(\sin^2\omega t+\cos^2\omega t\right)=\dfrac{(BLD\omega)^2}{R}$ で、時刻によらず一定(5点)
別解
問3 (2つの時刻の値を比べて) 時刻によらず一定なら、 $\omega t=0$ と $\omega t=\dfrac{\pi}{2}$ の値が等しい。 $\omega t=0$ で $P=P_0\sin^2\theta$ 、 $\omega t=\dfrac{\pi}{2}$ で $P=P_0\left\{1+\sin^2\left(\dfrac{\pi}{2}+\theta\right)\right\}=P_0(1+\cos^2\theta)$ 。 $\sin^2\theta=1+\cos^2\theta$ より $1-\cos^2\theta=1+\cos^2\theta$ で $\cos\theta=0$ 、 $\theta=\dfrac{\pi}{2}$ 。逆に $\theta=\dfrac{\pi}{2}$ なら、本解のとおり $P=P_0$ で一定。半角の公式を使わずに $\theta$ が1つに決まる。
出題意図
問1 磁束密度の時間変化から誘導起電力を求め、回路の配線から電圧計の符号まで決めて、相対的な大きさが分かるグラフに表すことができるか
問2 磁場の中で回るコイルについて、電流の向きを決め、電流が受ける力と外力の仕事率から、エネルギー保存で電流を求める流れを捉えることができるか
問3 2つのコイルの仕事率の和が時刻によらなくなる条件を、三角関数で導けるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 40点 | 30点 |
| 目標時間 | 20分 | 25分 |
磁場の中で回るコイルは交流発電機そのもので、電磁誘導の典型問題。
電磁誘導の決まった流れは「磁束を時刻の式で表す→ファラデーの電磁誘導の法則で起電力(向きと大きさは別々に)→電流→全部の辺に力→外力の仕事=ジュール熱」で、この大問はその流れを会話文でなぞっているだけ。
差がつくのは物理の難しさではなく、配線や立体の図を自分で書き直し、コイルがどう回ってどちらに電流が流れるかをイメージできるかどうか。
差がつく所・失点しやすい所
- 問1 (1):図1の配線をたどって、上向きの磁束が増えると $V_1$ が負になることを導けるか。ここで符号を誤ると、(1)(2) のグラフが両方とも上下逆になる。
- 問1 (2):サインの傾きがコサインの形になり、山の高さが $LD$ の $\dfrac{\pi}{2}$ 倍( $LD$ と $2LD$ の間)になるという発想に行き着けるか。
- 問2 (ウ)(キ):立体の図を上から見た図・回転軸の方向から見た図に書き直し、電流の向きと「力の向きの速度の成分 $v\sin\omega t$ 」を読み取れるか。
コラム 二相交流と三相交流
- 本問の問2・問3 は、発電機のしくみそのもの。1つのコイルを回すだけだと、仕事率は $P_0\sin^2\omega t$ で、1回転の間に2回0になる。仕事率は「回す力のモーメント×角速度」なので、角速度が一定なら、回す側には重くなったり軽くなったりする力が必要になる。
- 問3 のように2つのコイルを90°ずらして組むと、片方の山ともう片方の谷が補い合い、合計の仕事率は一定になる(二相交流)。実際の発電所から送り出される電気には、3つのコイルを120°ずつずらした三相交流が使われている。3つの仕事率 $P_0\sin^2\omega t$ 、 $P_0\sin^2\left(\omega t+\dfrac{2\pi}{3}\right)$ 、 $P_0\sin^2\left(\omega t+\dfrac{4\pi}{3}\right)$ を足すと、問3 と同じ半角の公式で $\cos$ の項が打ち消し合い、合計は $\dfrac32P_0$ で一定になる(下の図)。3つの回路の負荷がそろっていれば、三相交流の電力は時刻によらず一定になる。これは大学の電気回路の講義でも扱われる性質。


九大の物理は、こうした身近な装置を題材にすることがある。問3 の計算が「なぜ発電所は三相交流なのか」の答えの一部になっている、と知っておくと、物理を身近な現象に紐づけて覚えられる。
2019年九州大学物理
第3問 解答・解説
第3問は熱力学の問題です。
テーマは「測定値から気体定数を見積もり、上が真空のシリンダーで定圧(加熱)→断熱(糸で引く)→等温(熱を奪う)のサイクルを作り、各過程の仕事と熱、p-V 図の概略(断熱線と等温線のどちらが上か)、熱効率を答える」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。
問1. 次の文中の $\boxed{\text{a}}$ に当てはまる式および $\boxed{\text{b}}$ に当てはまる数値と単位を答えよ。
圧力 $p=2.7\times10^5\ \mathrm{Pa}$、温度 $T=430\ \mathrm{K}$ の下で物質量 $n=1.0\ \mathrm{mol}$ の気体の体積を測定したところ、 $V=1.3\times10^{-2}\ \mathrm{m^3}$ であった。この気体に対して近似的に理想気体の状態方程式が適用できると考え、測定結果から気体定数の値を見積もろう。ここで定義した記号を用いて気体定数を求める式を表すと $\boxed{\text{a}}$ であり、気体定数の計算結果を有効数字2桁で表すと $\boxed{\text{b}}$ となる。この値は気体定数の正しい値とはやや異なる。
問2. 図1のように、なめらかに上下に動くピストンをもつ断面積 $S$ のシリンダー内に $1\ \mathrm{mol}$ の単原子分子理想気体が閉じ込められている。シリンダーの外側は真空である。ピストンは質量の無視できる糸につながれており、手で引き上げることができる。気体定数を $R$ とし、この気体の定積モル比熱は $\dfrac32R$ である。
最初、糸がたるんだ状態でピストンは静止しており、糸の張力はゼロ、気体の圧力は $p_{\mathrm{A}}$、体積は $V_{\mathrm{A}}$ であった。この状態を状態Aとする。
(1) ピストンの質量を求めよ。ただし、重力加速度の大きさを $g$ とする。
次に、ヒーターにより気体を熱したところ、ピストンが上昇し体積が $V_{\mathrm{B}}$ となった。この状態を状態Bとする。この間、糸はたるんだままで、また、気体から外部への熱の流出はないとする。
(2) 状態A→状態Bの変化の間に気体がする仕事 $W_{\mathrm{AB}}$ を求めよ。
(3) 状態A→状態Bの変化の間の温度上昇を求めよ。
(4) ヒーターから気体に与えられる熱 $Q_{\mathrm{AB}}$ を求めよ。
気体が状態Bになった時点でヒーターから気体への熱供給を止めた。その後、糸を用いてピストンを引き上げ、気体の体積を $V_{\mathrm{C}}$ にした。この時の気体の温度は状態Aの温度と同じになった。この状態を状態Cとする。ただし、ピストンを引き上げている間、気体と外部の間の熱の移動はないとする。
(5) 状態Cの圧力を求めよ。
(6) 状態B→状態Cの変化の間に、気体がする仕事 $W_{\mathrm{BC}}$ を求めよ。
次に糸の張力をゆっくりとゼロまで弱めながら、気体の体積を減少させた。この間、気体から熱を奪い、温度を一定に保つようにしたところ、気体は状態Aに戻った。状態C→状態Aの変化の間に気体から奪われる熱を $Q_{\mathrm{CA}}\,(Q_{\mathrm{CA}}>0)$ とする。また、状態C→状態Aの変化の間に気体がされる仕事を $W_{\mathrm{CA}}\,(W_{\mathrm{CA}}>0)$ とする。
(7) $W_{\mathrm{CA}}$ と $Q_{\mathrm{CA}}$ の間に成り立つ関係式を書け。
次に、状態A→状態B→状態C→状態Aというサイクルを考える。
(8) 解答紙の $p$-$V$ 図上に、このサイクルの概略図を表せ。状態A、状態B、状態Cの位置を黒丸で記し、どの点がどの状態かはっきり示すこと。ただし、 $V_{\mathrm{B}}$ および $V_{\mathrm{C}}$ の概略値をそれぞれ $1.32\,V_{\mathrm{A}}$、 $2.00\,V_{\mathrm{A}}$ とすること。また、状態A→状態B、状態B→状態C、状態C→状態Aそれぞれの変化を表す線を、直線の場合は実線で、曲線の場合は破線で描け。曲線の場合は正確な形を描く必要はないが、上に凸の形であるか、下に凸の形であるかをはっきりと示すこと。
(9) 次の文章の $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{エ}}$ を数式で、 $\boxed{\text{オ}}$ を適当な言葉で埋めよ。
このサイクルの熱効率 $e$ を、 $Q_{\mathrm{AB}}$、 $Q_{\mathrm{CA}}$ を用いて表すと、 $e=\dfrac{\boxed{\text{ア}}}{\boxed{\text{イ}}}$ である。始点の状態Aから終点の状態Aまでのサイクル全体を通しての気体の内部エネルギー変化は $\boxed{\text{ウ}}$ であるので、 $\boxed{\text{ア}}$ と同じ量を $W_{\mathrm{AB}}$、 $W_{\mathrm{BC}}$、 $W_{\mathrm{CA}}$ を用いて表すと $\boxed{\text{エ}}$ となる。また、 $e$ の値は必ず1より $\boxed{\text{オ}}$。
解答の方針
【問1の方針】
$p$、 $V$、 $n$、 $T$ が全部測定されているので、状態方程式 $pV=nRT$ の残りの1文字 $R$ が決まる。測定値が2桁なので、答えも2桁にそろえる。
- $pV=nRT$ を $R$ について解く(a)。
- 数値を入れて有効数字2桁にし、単位 $\mathrm{J/(mol\cdot K)}$ を付ける(b)。
問2 (1)〜(7)。
熱力学は「何変化か」を装置の根拠から決めて、その変化の特徴を先に式に入れる(下の状況図)。
- A→B:糸はたるんだまま。ピストンにはたらく力は重力と気体が押す力だけで、上は真空なので外から押す力がない。力が変わらないので、気体の圧力は $p_{\mathrm{A}}$ のまま=定圧。
- B→C:熱の出入りがない=断熱。ふつうは断熱の計算にはポアソンの式を使うが、ここではC の温度が A と同じと与えられている。だから温度差は A→B の温度上昇と同じで、仕事は $W=-\Delta U$ から温度差だけで決まる。
- C→A:温度を一定に保つ=等温。 $\Delta U=0$ なので、熱と仕事が同じ大きさになる。ただし問題は「奪われる熱」「される仕事」で聞いているので、符号に注意する。


- 状態Aのピストンの力のつり合いで質量を求める((1))。
- A→B は定圧なので $W_{\mathrm{AB}}=p_{\mathrm{A}}(V_{\mathrm{B}}-V_{\mathrm{A}})$((2))。
- 定圧では $W=nR\Delta T$ なので、温度上昇は $\dfrac{W_{\mathrm{AB}}}{R}$((3))。
- 単原子分子の定圧なので $Q:\Delta U:W=5:3:2$、 $Q_{\mathrm{AB}}=\dfrac52W_{\mathrm{AB}}$((4))。
- C は A と同じ温度なので $pV$ が同じ。 $p_{\mathrm{C}}V_{\mathrm{C}}=p_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}$((5))。
- B→C は断熱なので $W_{\mathrm{BC}}=-\Delta U_{\mathrm{BC}}=\dfrac32R(T_{\mathrm{B}}-T_{\mathrm{A}})$ に (3) を入れる((6))。
- C→A は等温なので $\Delta U=0$。第一法則 $Q_{in}=\Delta U+W$ に、吸収した熱 $-Q_{\mathrm{CA}}$ ・した仕事 $-W_{\mathrm{CA}}$ を入れる((7))。
問2 (8)。
見ることは3つ。① A→B は水平な直線(定圧)、B→C と C→A はどちらも下に凸の曲線。② 断熱線は等温線より急。③ C→A の等温線は、A と C を通る温度 $T_{\mathrm{A}}$ の等温線。B は A より右で同じ圧力なので、温度 $T_{\mathrm{A}}$ の等温線より上にある( $T_{\mathrm{B}}>T_{\mathrm{A}}$)。B から出た断熱線は、B を通る等温線より急に下がって、C で温度 $T_{\mathrm{A}}$ の等温線に追いつく。だから B と C の間では、断熱線が等温線より上を通る(下の図)。


- (5) に $V_{\mathrm{C}}=2.00V_{\mathrm{A}}$ を入れて $p_{\mathrm{C}}=0.5p_{\mathrm{A}}$。A $(V_{\mathrm{A}},\ p_{\mathrm{A}})$、B $(1.32V_{\mathrm{A}},\ p_{\mathrm{A}})$、C $(2.0V_{\mathrm{A}},\ 0.5p_{\mathrm{A}})$ に黒丸と記号を書く。
- A→B を実線の水平線で結ぶ。
- B→C(断熱)と C→A(等温)を下に凸の破線で結ぶ。C→A が B→C より下を通るように書く。
問2 (9)。
熱を吸収するのは A→B だけ(B→C は断熱で熱の出入りがなく、C→A は熱を奪われる)。熱効率は「吸収した熱量のうち、仕事に変わった割合」なので、分母は $Q_{\mathrm{AB}}$ だけ。1サイクルでもとの状態に戻るので $\Delta U=0$、第一法則から「正味で吸収した熱=正味の仕事」(下の図)。


- 1サイクルの第一法則 $Q_{\mathrm{AB}}-Q_{\mathrm{CA}}=0+W$ から、正味の仕事 $W$ を熱で表す。
- $e=\dfrac{W}{Q_{\mathrm{AB}}}$ に入れる(ア・イ)。 $\Delta U=0$(ウ)。
- 正味の仕事を各過程の「した仕事」の和で表す(エ)。
- $Q_{\mathrm{CA}}>0$ なので $e<1$(オ)。
解答




解答をテキストで読む
問1
状態方程式 $pV=nRT$ を $R$ について解いて
$$R=\frac{pV}{nT}$$
答(a) $\dfrac{pV}{nT}$(2点)
数値を入れると
$$R=\frac{2.7\times10^5\times1.3\times10^{-2}}{1.0\times430}=8.16\cdots$$
測定値は2桁なので、有効数字2桁にそろえる。
答(b) $8.2\ \mathrm{J/(mol\cdot K)}$(3点)
問2 (1)
ピストンの質量を $m$ とおく。状態Aでは糸の張力は0で、上は真空なので外から押す力もない。ピストンにはたらく力は重力 $mg$ と気体が押す力 $p_{\mathrm{A}}S$ だけで(下の図)、つり合いより
$$p_{\mathrm{A}}S=mg\qquad\therefore\ m=\frac{p_{\mathrm{A}}S}{g}$$
答 $\dfrac{p_{\mathrm{A}}S}{g}$(3点)
問2 (2)
A→B の間、糸はたるんだままなので、ピストンにはたらく力は (1) と同じ。つり合いが保たれるので、気体の圧力は $p_{\mathrm{A}}$ のまま=定圧変化(下の状況図)。
定圧変化の仕事は $W=p\Delta V$ なので
答 $W_{\mathrm{AB}}=p_{\mathrm{A}}(V_{\mathrm{B}}-V_{\mathrm{A}})$(3点)
問2 (3)
1 mol の状態方程式 $\textcircled{p_{\mathrm{A}}}V=\textcircled{R}T$ で圧力と $R$ が一定なので、 $p_{\mathrm{A}}\Delta V=R\Delta T$(定圧の仕事は $W=nR\Delta T$ とも書ける)。よって
$$\Delta T=\frac{p_{\mathrm{A}}(V_{\mathrm{B}}-V_{\mathrm{A}})}{R}$$
答 $\dfrac{p_{\mathrm{A}}(V_{\mathrm{B}}-V_{\mathrm{A}})}{R}$(3点)
問2 (4)
単原子分子理想気体の定圧変化なので、第一法則 $Q_{in}=\Delta U+W$ の各項は $Q:\Delta U:W=5:3:2$。仕事がすでに求まっているので、熱はその $\dfrac52$ 倍。
$$Q_{\mathrm{AB}}=\frac52W_{\mathrm{AB}}$$
答 $Q_{\mathrm{AB}}=\dfrac52p_{\mathrm{A}}(V_{\mathrm{B}}-V_{\mathrm{A}})$(3点)
(確かめ: $\Delta U=\dfrac32R\Delta T=\dfrac32p_{\mathrm{A}}(V_{\mathrm{B}}-V_{\mathrm{A}})$ と $W_{\mathrm{AB}}$ の和でも同じ)
問2 (5)
C の温度は A と同じ。1 mol の状態方程式 $pV=\textcircled{R}T$ で $R$ も $T$ も同じなので、 $pV$ が同じ。
$$p_{\mathrm{C}}V_{\mathrm{C}}=p_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}$$
答 $\dfrac{V_{\mathrm{A}}}{V_{\mathrm{C}}}p_{\mathrm{A}}$(3点)
問2 (6)
B→C は断熱なので $Q=0$。第一法則 $0=\Delta U_{\mathrm{BC}}+W_{\mathrm{BC}}$ より $W_{\mathrm{BC}}=-\Delta U_{\mathrm{BC}}$。温度は $T_{\mathrm{B}}$ から $T_{\mathrm{C}}=T_{\mathrm{A}}$ に下がるので、「後−前」で
$$W_{\mathrm{BC}}=-\frac32R(T_{\mathrm{A}}-T_{\mathrm{B}})=\frac32R(T_{\mathrm{B}}-T_{\mathrm{A}})$$
$T_{\mathrm{B}}-T_{\mathrm{A}}$ は (3) の温度上昇なので
答 $W_{\mathrm{BC}}=\dfrac32p_{\mathrm{A}}(V_{\mathrm{B}}-V_{\mathrm{A}})$(4点)
(正の値。断熱膨張で気体が外に仕事をし、温度が下がることと合う)
問2 (7)
C→A は等温なので $\Delta U=0$。第一法則 $Q_{in}=\Delta U+W$ は「吸収した熱」「した仕事」で立てる。問題の $Q_{\mathrm{CA}}$ は奪われる熱、 $W_{\mathrm{CA}}$ はされる仕事なので、吸収した熱は $-Q_{\mathrm{CA}}$、した仕事は $-W_{\mathrm{CA}}$。
$$-Q_{\mathrm{CA}}=0+(-W_{\mathrm{CA}})$$
答 $W_{\mathrm{CA}}=Q_{\mathrm{CA}}$(3点)
(等温で圧縮されるとき、された仕事の分だけ熱を外に放出するので、温度が変わらない)
問2 (8)
(5) に $V_{\mathrm{C}}=2.00V_{\mathrm{A}}$ を入れると $p_{\mathrm{C}}=0.5p_{\mathrm{A}}$。A $(V_{\mathrm{A}},\ p_{\mathrm{A}})$、B $(1.32V_{\mathrm{A}},\ p_{\mathrm{A}})$、C $(2.0V_{\mathrm{A}},\ 0.5p_{\mathrm{A}})$ に黒丸を書く。
・A→B:定圧なので水平な直線(実線)
・B→C:断熱線。ポアソンの式 $pV^{\frac53}=$ 一定 より体積が増えると圧力が下がる、下に凸の曲線(破線)
・C→A:温度 $T_{\mathrm{A}}$ の等温線。 $pV=$ 一定 の下に凸の曲線(破線)
どちらが上かは、断熱線が等温線より急であることで決まる。B は温度 $T_{\mathrm{A}}$ の等温線より上( $T_{\mathrm{B}}>T_{\mathrm{A}}$)にあり、そこから出た断熱線が C で等温線に交わるので、B と C の間では断熱線が上、等温線が下(例えば $V=1.5V_{\mathrm{A}}$ では、断熱線が約 $0.81p_{\mathrm{A}}$、等温線が約 $0.67p_{\mathrm{A}}$)。サイクルは時計回りになる。
答 下の図(A→B は実線の水平線、B→C・C→A は下に凸の破線で、C→A が B→C より下を通る)(5点)
( $V_{\mathrm{C}}=2.00V_{\mathrm{A}}$ は、B から断熱で温度が $T_{\mathrm{A}}$ に戻る体積 $\left(\dfrac{T_{\mathrm{B}}}{T_{\mathrm{A}}}\right)^{\frac32}V_{\mathrm{B}}=1.32^{\frac52}V_{\mathrm{A}}\fallingdotseq2.00V_{\mathrm{A}}$ と合う)
問2 (9)
熱の出入りを区間ごとに表で整理する( $Q$ は吸収した熱量、 $W$ は気体がした仕事)。
| 区間 | 変化 | $Q$ | $\Delta U$ | $W$ |
|---|---|---|---|---|
| A→B | 定圧(膨張) | $Q_{\mathrm{AB}}$(吸収) | $\dfrac32R(T_{\mathrm{B}}-T_{\mathrm{A}})$ | $W_{\mathrm{AB}}$ |
| B→C | 断熱(膨張) | 0 | $-\dfrac32R(T_{\mathrm{B}}-T_{\mathrm{A}})$ | $W_{\mathrm{BC}}$ |
| C→A | 等温(圧縮) | $-Q_{\mathrm{CA}}$(放出) | 0 | $-W_{\mathrm{CA}}$ |
| 1サイクル | $Q_{\mathrm{AB}}-Q_{\mathrm{CA}}$ | 0 | $W_{\mathrm{AB}}+W_{\mathrm{BC}}-W_{\mathrm{CA}}$ |
吸収するのは A→B だけなので、熱効率の分母は $Q_{\mathrm{AB}}$。1サイクルでは $\Delta U=0$ なので、第一法則より正味の仕事は $Q_{\mathrm{AB}}-Q_{\mathrm{CA}}$。
$$e=\frac{Q_{\mathrm{AB}}-Q_{\mathrm{CA}}}{Q_{\mathrm{AB}}}$$
答(ア) $Q_{\mathrm{AB}}-Q_{\mathrm{CA}}$(2点)
答(イ) $Q_{\mathrm{AB}}$(2点)
1サイクルでもとの状態Aに戻るので、温度ももとに戻り
答(ウ) $0$(1点)
アは正味の仕事。「した仕事」を足し合わせる(C→A はされた仕事 $W_{\mathrm{CA}}$ なので、した仕事は $-W_{\mathrm{CA}}$)。
答(エ) $W_{\mathrm{AB}}+W_{\mathrm{BC}}-W_{\mathrm{CA}}$(2点)
$Q_{\mathrm{CA}}>0$ なので、分子のアは分母のイより小さい。
答(オ) 小さい(1点)
(参考:等温の仕事 $W=nRT\log_e\dfrac{V_2}{V_1}$ を結果だけ使うと $W_{\mathrm{CA}}=Q_{\mathrm{CA}}=p_{\mathrm{A}}V_{\mathrm{A}}\log_e2$。 $V_{\mathrm{B}}=1.32V_{\mathrm{A}}$、 $V_{\mathrm{C}}=2.00V_{\mathrm{A}}$ を入れると $e=\dfrac{0.80-\log_e2}{0.80}\fallingdotseq0.13$。問題では聞かれていない)
出題意図
問1 理想気体の状態方程式を気体定数について解き、測定値から有効数字2桁で値を求めることができるか
問2 (1)〜(7) 装置の様子から各過程が何変化かを決め、状態方程式と熱力学第一法則で仕事・温度・熱を求めることができるか
問2 (8) 断熱線と等温線の形と位置関係を理解し、サイクルの p-V 図を自分で再現できるか
問2 (9) 熱効率の定義と、1サイクルで内部エネルギーがもとに戻ることから、熱と仕事の関係を式にできるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 35点 | 35点 |
| 目標時間 | 20分 | 25分 |
状態方程式と熱力学第一法則、それに各変化の特徴を押さえていれば全部取れる、熱サイクルの基本問題。
熱力学は「何変化か」を装置から決め、0 になる項を先に消す、という決まった流れで解く。
差がつくとしたら (8) の p-V 図だけで、断熱線は等温線より急という知識から、どちらの曲線が上かを自分で再現できるかが問われている。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2 (8):差がつくとしたらここだけ。断熱線が等温線より急であることから、B→C の断熱線が C→A の等温線より上を通る p-V 図を再現できるか。
コラム 気体定数の正しい値と、見積もりがずれた理由
問1 は「この値は気体定数の正しい値とはやや異なる」で終わっている。正しい値はいくつで、なぜずれたのか。
- 正しい値:気体定数は $R=8.314462618\cdots\ \mathrm{J/(mol\cdot K)}$。じつはこの値は、2019年5月20日から誤差のない値(定義値)になっている。この日に国際単位系(SI)が改められ、アボガドロ定数 $N_{\mathrm{A}}=6.02214076\times10^{23}\ \mathrm{/mol}$ とボルツマン定数 $k=1.380649\times10^{-23}\ \mathrm{J/K}$ が決まった値として定められた。気体定数は $R=N_{\mathrm{A}}k$ なので、これも決まった値になる。この問題が出た2019年2月は、改定の直前にあたる。
- 見積もりがずれた理由① 測定値が2桁しかない:問題の体積 $1.3\times10^{-2}\ \mathrm{m^3}$ は2桁の値で、 $1.25\times10^{-2}$ 〜 $1.35\times10^{-2}$ の幅を持つ。この幅の中で体積を動かすと、見積もりは約 $7.8$ 〜 $8.5$ の間を動き、正しい値 $8.31$ もこの中に入る(下の図)。理想気体なら体積は $\dfrac{RT}{p}\fallingdotseq1.32\times10^{-2}\ \mathrm{m^3}$ で、2桁に丸めるとちょうど $1.3\times10^{-2}$ になる。この問題の数値では、ずれの大部分は2桁に丸めたことで説明できる(計算は竜文会)。
- 見積もりがずれた理由② 実在の気体は理想気体ではない:理想気体は「分子の大きさが無視でき、分子どうしが力をおよぼし合わない」と考えた気体。実在の気体は、圧力が高いほど(分子の大きさが効く)・温度が低いほど(分子どうしの引力が効く)理想気体からずれる。問題文が「近似的に」状態方程式が使えると断っているのはこのため。


計算の答えに「正しい値とずれた」と出てきたら、測定値の桁の粗さと、理想気体という仮定の2つを疑う。物理の式は、どんな仮定の上に立っているかまで押さえておこう。
2019年九州大学・物理の
講評とまとめ
3問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | やや難 | 35点 | 30点 |
| 第2問 | 標準 | 40点 | 30点 |
| 第3問 | やや簡単 | 35点 | 35点 |
| 全体 | 標準 | 105点 | 90点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で90点)にはなりません。
標準的な年で、難しいのは第1問だけでした。
第1問は自転車のブレーキで、問われていることはシンプルですが、設定の初見性が高い問題です。
ブレーキをかけると前のめりになり後輪が浮きやすくなる、という運動を想像できるかが決め手で、小問が多く、後半は浮く条件とすべらない条件を比べる所で差がつきます。
第2問は回転コイルによる交流の発生、第3問は定圧・断熱・等温を組み合わせたサイクルで、どちらも決まった流れで解けます。
量の多い大問に時間を取られないよう、解きやすい第3問・第2問から確実に点を積みましょう。
解く流れ
第3問 → 第2問 → 第1問。
2019年九州大学・物理に
関するよくある質問
2019年の九州大学・物理について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2019年の九州大学・物理は難しかった?
-
標準的な年でした。
第1問はやや難、第2問は標準、第3問はやや簡単です。
難しいのは第1問だけで、設定の初見性が高い問題でした。 - 2019年の九州大学・物理は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で90点です(125点満点)。
- 2019年の九州大学・物理はどこで差がつく?
-
難しいのは第1問だけで、第2問・第3問は決まった流れで解ける標準的なセットです。そのうえで、差がつくとしたら次の3つです。
- 第1問 (3)(4):ブレーキをかけると前のめりになる運動を想像し、摩擦力と前輪の垂直抗力から力のモーメントのつり合いを立てられたか。
- 第1問 (10)(11):後輪が浮く限界とすべる限界を比べ、どちらが先に効くかを判断できたか。
- 第3問 問2 (8):断熱線は等温線より急だと分かり、p-V 図でどちらの曲線が上かを再現できたか。
- 2019年の九州大学・物理は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:力学
- 第2問:電磁気
- 第3問:熱力学


