【解説・配点付き】2018年九州大学物理の解答・解説
2018年の九州大学・物理の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2018年九州大学物理
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は力学の問題です。
テーマは「なめらかな床の上の台に付けた振り子。台が動かないときの最下点の速度と張力、台を一定の加速度で動かしたときのつり合いの角(見かけの重力)と加速をやめた後の振り子、台が自由に動くときの水平方向の運動量保存と物体系の力学的エネルギー保存、最下点の張力(台から見た円運動)、撃力で台を動かしたときの糸が水平になる瞬間の速度と、糸が水平の高さに届く初速度の条件」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。
図1のように水平で滑らかな床の上に質量 $M$ の台がある。この台には長さ $l$ の糸の先に質量 $m$ の小球が付いた振り子が取り付けられており、台の重心と振り子は床に垂直な同一平面内を運動する。台は図の左右の方向に摩擦なしに動くものとし、運動方向は右向きを正とする。なお、振り子の糸はたるまず、台と小球以外の質量は無視できるものとし、空気抵抗は考えない。また、重力加速度の大きさを $g$ とする。
(1) まず、台が動かない場合を考える。糸が鉛直方向から左に角度 $\theta$ 傾いたところで、小球を静止させてから静かに放した。小球が最初に最下点に到達したときの小球の速度、および、糸の張力の大きさを $m$、 $M$、 $l$、 $g$、 $\theta$ の中から必要なものを用いて表せ。
以下では、台が自由に動ける場合を考える。
(2) 小球を最下点に静止させた状態から、ゆっくり台を右向きに加速し一定の加速度 $a$ を保った。その後瞬時に加速をやめて、そのまま台を等速運動させると、台上で小球は振り子運動をした。台に静止した観測者から見たとき、この運動中の小球の速度の最大値を $m$、 $M$、 $l$、 $g$、 $a$ の中から必要なものを用いて表せ。
以下では、床に静止した観測者から見るものとして答えよ。
(3) 静止した台の上で、糸が鉛直方向から左に角度 $\theta=60^\circ$ 傾いたところで、小球を静止させてから静かに放すと、小球も台も動き始めた。小球が最初に最下点に達したときの小球の速度と台の速度、および、糸の張力の大きさを $m$、 $M$、 $l$、 $g$ の中から必要なものを用いて表せ。
次に、静止した台の上で小球を最下点で静止させた後、撃力により台に水平右方向の初速度 $V_0$ を瞬時に与えると、最下点から運動を始めた小球は、糸が水平になる高さを通過した。糸が水平になったとき、小球の速度は水平方向と鉛直方向の両方の成分を持ちうる。
(4) 水平方向の運動量を考慮することによって、糸が水平になったときの台の速度を $m$、 $M$、 $l$、 $g$、 $V_0$ の中から必要なものを用いて表せ。
(5) 同じく糸が水平になったときの小球の速度の大きさを $m$、 $M$、 $l$、 $g$、 $V_0$ の中から必要なものを用いて表せ。
(6) 糸が水平になる高さに小球が達するために、台に与えるべき初速度 $V_0$ の最小値を $m$、 $M$、 $l$、 $g$ の中から必要なものを用いて表せ。
解答の方針
【(1)(2)の方針】
(1) は台が動かないので、ふつうの振り子。鉛直面内の円運動は「力学的エネルギー保存」と「中心方向の運動方程式」の2本で解ける。張力は常に速度と垂直で仕事をしないので、力学的エネルギーが保存する。
(2) は「ゆっくり」加速することに注目する。ゆっくり加速すれば小球は振れず、台に乗って見ると静止したまま傾いていく。加速度 $a$ を保っている間、台に乗って見ると小球には左向きの慣性力 $ma$ がはたらき、糸は重力と慣性力の合力(見かけの重力)の向きに傾いてつり合う。瞬時に加速をやめると慣性力は消え、台は等速になるので、台から見ると「その角から静かに放した振り子」と同じ運動になる(下の図)。台の質量 $M$ は関係しない。


- 最下点を位置エネルギーの基準にとり、放した位置と最下点で力学的エネルギー保存を立てて速さを求める。左から放したので、最下点では右向き(速度は正)((1))。
- 最下点で、糸の付け根(円の中心)に向かう向きを正として円運動の運動方程式を立て、張力を求める((1))。
- 加速度 $a$ の間、台に乗った人から見た重力・張力・慣性力のつり合いから、糸の鉛直からの傾き $\alpha$ を $\tan\alpha=\dfrac ag$ で表し、 $\cos\alpha$ を求める((2))。
- 加速をやめた後は、台から見て角 $\alpha$ から静かに放した振り子なので、(1) の速さの $\theta$ を $\alpha$ に置きかえる((2))。
【(3)の方針】
まず運動を想像する。小球が左から右へ振り下ろされるとき、糸は台の付け根を左へ引く。だから台は小球と逆向き(左)に動く。床はなめらかで、水平方向にはたらく力は糸の張力(小球と台の間の内力)だけなので、水平方向の運動量は保存する。張力は小球と台に同じ大きさで逆向きの仕事をするので仕事の和は0、台と小球をまとめた力学的エネルギーも保存する。動く台の上の物体の典型問題。
張力の決め手は、最下点では糸が鉛直になること。台が糸から受ける力が鉛直だけになるので、その瞬間の台の水平の加速度は0。だから台から見ても慣性力はなく、台から見た小球は、糸の付け根を中心とする速さ $v-V$ の円運動をしている(下の図)。床から見た小球は円運動をしていないので、床から見た速さ $v$ で円運動の式を立ててはいけない。


- 最下点での小球の速度を $v$ 、台の速度を $V$ (右向き正)と置き、図から $v>0$ 、 $V<0$ と決める。
- 水平方向の運動量保存と、物体系の力学的エネルギー保存(最下点を基準)を連立して、 $v$ と $V$ を求める。
- 台から見た小球の速度 $v-V$ (相手引く自分)を求め、台から見た円運動の運動方程式(中心向き正)で張力を求める。
【(4)〜(6)の方針】
撃力の直後、台だけが右へ $V_0$ で動き出し、小球はまだ止まっている。台は小球を置いていこうとするので、台から見ると小球は左へ振れ上がる。
決め手は、糸が水平のとき、小球と台の水平の速度がそろうこと。台から見ると、小球は糸の付け根を中心とする円運動をしているので、台に対する小球の速度は常に糸に垂直。糸が水平なら、台に対する速度は鉛直向きで、水平成分は0。つまり床から見た小球の水平の速度は台と同じ(下の図)。これで、水平方向の運動量保存の未知数が1つになる。


(5) は、小球の速度を「水平:台と同じ」と「鉛直」に分けて、物体系の力学的エネルギー保存を立てる。(6) の「糸が水平になる高さに達する」は、その高さで鉛直の速さが存在すること、つまり鉛直の速さの2乗が0以上と読みかえる。ギリギリのときは鉛直の速さが0で、小球と台の速度が完全にそろう(下の図)。これは、動く台の曲面を上る物体が「最高点で台と速度がそろう」のと同じ型。


- 糸が水平のときの台の速度を $V$ 、小球の鉛直の速さを $u$ と置く。小球の水平の速度は台と同じ $V$ 。
- 撃力の直後(台は $V_0$ 、小球は静止)と糸が水平のときで、水平方向の運動量保存を立てて $V$ を求める((4))。
- 同じ2つの瞬間で物体系の力学的エネルギー保存(最下点を基準)を立てて $u^2$ を求め、小球の速さ $\sqrt{V^2+u^2}$ を求める((5))。
- $u^2\geqq0$ を $V_0$ について解き、最小値を求める((6))。
解答




解答をテキストで読む
(1)
台は動かないので、小球はふつうの振り子。張力は常に速度と垂直で仕事をしないので、力学的エネルギーが保存する。最下点を位置エネルギーの基準にとると、放した位置の高さは $l(1-\cos\theta)$ (下の図)。
最下点での小球の速度を $v_1$ (右向き正)とすると
$$0+mgl(1-\cos\theta)=\frac12m{v_1}^2+0$$
左から放したので、最下点では右向き( $v_1>0$ )。
答 速度 $\sqrt{2gl(1-\cos\theta)}$(3点)
最下点で小球は糸の付け根を中心とする円運動をしている。中心向き(上向き)を正として運動方程式を立てると、張力の大きさを $T_1$ として
$$m\frac{{v_1}^2}{l}=T_1-mg\qquad\therefore\ T_1=mg+2mg(1-\cos\theta)$$
答 張力の大きさ $mg(3-2\cos\theta)$(3点)
(2)
台が加速度 $a$ で右へ動く間、台に乗った人から見る。小球には重力 $mg$ ・張力 $T$ ・慣性力 $ma$ (台の加速度と逆向き=左向き)がはたらく。ゆっくり加速したので、台から見て小球は振れずに静止しており、3力がつり合う(下の図の左)。重力と慣性力の合力(見かけの重力)は大きさ $m\sqrt{a^2+g^2}$ で、糸はその向きに、鉛直から左へ角 $\alpha$ だけ傾く。
$$\tan\alpha=\frac ag\qquad\therefore\ \cos\alpha=\frac{g}{\sqrt{a^2+g^2}}$$
瞬時に加速をやめると、慣性力は消える。台は等速なので、台に乗った人から見ても慣性力のないふつうの振り子になり、小球は「角 $\alpha$ から静かに放した振り子」と同じ運動をする(上の図の右)。速さが最大になるのは最下点で、(1) の速さの $\theta$ を $\alpha$ に置きかえて
$$\sqrt{2gl(1-\cos\alpha)}$$
答 $\sqrt{2gl\left(1-\dfrac{g}{\sqrt{a^2+g^2}}\right)}$(6点)
(3)
水平方向にはたらく力は糸の張力の水平成分だけで、これは小球と台の間の内力。外力(重力・床の垂直抗力)は鉛直なので、水平方向の運動量は保存する。また、張力は小球と台に同じ大きさで逆向きの仕事をするので仕事の和は0、床の垂直抗力は台の動きと垂直なので仕事をしない。よって、台と小球をまとめた力学的エネルギーが保存する。
最下点での小球の速度を $v$ 、台の速度を $V$ (右向き正)とする。小球は右へ振り下ろされ、台は糸に左へ引かれるので $v>0$ 、 $V<0$ (下の図の左)。はじめは全体が静止していて、小球は最下点より $l(1-\cos60^\circ)=\dfrac l2$ だけ高い。
$$mv+MV=0$$
$$\frac12mv^2+\frac12MV^2=mg\cdot\frac l2$$
1本目から $V=-\dfrac mMv$ 。2本目に入れて
$$\frac12mv^2\left(1+\frac mM\right)=\frac12mgl\qquad\therefore\ v^2=\frac{Mgl}{M+m}$$
$v>0$ 、 $V=-\dfrac mMv$ より
答 小球の速度 $\sqrt{\dfrac{Mgl}{M+m}}$(4点)
答 台の速度 $-m\sqrt{\dfrac{gl}{M(M+m)}}$(4点)
( $-\dfrac mM\sqrt{\dfrac{Mgl}{M+m}}$ と同じ。負なので左向き)
張力:最下点では糸が鉛直なので、台が糸から受ける力は鉛直だけで、台の水平の加速度は0。だから台に乗って見ても慣性力はなく、台から見た小球は糸の付け根を中心とする円運動をしている(上の図の右)。台から見た小球の速度は、相手引く自分で
$$v-V=v+\frac mMv=\frac{M+m}{M}v$$
台から見た円運動の運動方程式(中心向き=上向きを正)は、張力の大きさを $T$ として
$$m\frac{(v-V)^2}{l}=T-mg$$
$(v-V)^2=\dfrac{(M+m)^2}{M^2}\cdot\dfrac{Mgl}{M+m}=\dfrac{(M+m)gl}{M}$ を入れて
$$T=mg+\frac{m(M+m)g}{M}$$
答 張力の大きさ $\dfrac{m(2M+m)g}{M}$(5点)
( $mg\left(2+\dfrac mM\right)$ と同じ。台がとても重い( $M$ が大きい)と $2mg$ に近づき、(1) で $\theta=60^\circ$ とした値に一致する)
(4)
撃力の直後、台の速度は $V_0$ で、小球はまだ静止している(下の図の左)。台から見ると、小球は糸の付け根を中心とする円運動をしているので、台に対する小球の速度は糸に垂直。糸が水平のとき、台に対する速度は鉛直向きで、水平成分は0(下の図の中)。よって、床から見た小球の水平の速度は台の速度と同じ(下の図の右)。この速度を $V$ とする。
撃力の後、水平方向にはたらく力は糸の張力(内力)だけなので、水平方向の運動量が保存する。撃力の直後と糸が水平のときで
$$MV_0+m\cdot0=MV+mV$$
答 $\dfrac{M}{M+m}V_0$(5点)
(5)
糸が水平のときの小球の鉛直の速さを $u$ とする。小球の速度は、水平が $V$ 、鉛直が $u$ 。(3) と同じ理由で、物体系の力学的エネルギーが保存する。最下点を基準にとると、撃力の直後の力学的エネルギーは台の運動エネルギーだけ(小球は静止)で、糸が水平のとき小球は最下点より $l$ だけ高い。
$$\frac12M{V_0}^2$$
$$=\frac12MV^2+\frac12m(V^2+u^2)+mgl$$
(4) の $V$ を入れて $u^2$ を求めると
$$mu^2=M{V_0}^2-(M+m)V^2-2mgl=M{V_0}^2-\frac{M^2{V_0}^2}{M+m}-2mgl=\frac{Mm{V_0}^2}{M+m}-2mgl$$
$$\therefore\ u^2=\frac{M{V_0}^2}{M+m}-2gl$$
小球の速さの2乗は $V^2+u^2$ なので
$$V^2+u^2=\frac{M^2{V_0}^2}{(M+m)^2}+\frac{M{V_0}^2}{M+m}-2gl=\frac{M(2M+m)}{(M+m)^2}{V_0}^2-2gl$$
答 $\sqrt{\dfrac{M(2M+m)}{(M+m)^2}{V_0}^2-2gl}$(5点)
(6)
糸が水平になる高さに達する=その高さで鉛直の速さ $u$ が存在する、つまり $u^2\geqq0$ (届く条件なので等号あり)。(5) の $u^2$ より
$$\frac{M{V_0}^2}{M+m}-2gl\geqq0\qquad\therefore\ V_0\geqq\sqrt{\frac{2(M+m)gl}{M}}$$
答 $\sqrt{\dfrac{2(M+m)gl}{M}}$(5点)
ギリギリのときは $u=0$ で、小球と台は同じ速度 $V$ で動く(下の図)。
別解
(6) (最高点で速度がそろう型で) ギリギリ届くとき、糸が水平になった瞬間に鉛直の速さは0になり、小球と台の速度は完全にそろう(上の図)。動く台の曲面を上る物体の最高点と同じ。水平方向の運動量保存 $MV_0=(M+m)V$ と、物体系の力学的エネルギー保存 $\dfrac12M{V_0}^2=\dfrac12(M+m)V^2+mgl$ から $V$ を消すと $\dfrac{Mm}{2(M+m)}{V_0}^2=mgl$ で、同じ答えになる。(5) を経由しないので、(5) で詰まっても (6) は解ける。本解は、(5) の $u^2$ をそのまま使える $u^2\geqq0$ にした。
出題意図
(1) 振り子の力学的エネルギー保存と、最下点の円運動の運動方程式から、速度と張力を求めることができるか
(2) 加速する台に乗って慣性力を入れ、小球が見かけの重力の向きに傾いて静止すること、加速をやめるとその角から放した振り子になることを捉えることができるか
(3) 台が自由に動くとき、水平方向の運動量保存と物体系の力学的エネルギー保存を立て、最下点の張力を台から見た円運動で求めることができるか
(4)(5)(6) 糸が水平のとき小球と台の水平の速度がそろうことに気づき、運動量保存とエネルギー保存から速度と、糸が水平の高さに届く条件を求めることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 35点 | 30点 |
| 目標時間 | 25分 | 25分 |
決め手は、台の上に乗って見ると小球は円運動をしている、と分かるかどうか。
ただし台が加速している間は、台から見ると慣性力を考えなければならず、そこが難しい。
ヒントはあるが (4) 以降は難しめ。
動く台の上の物体は「水平方向の運動量保存+物体系の力学的エネルギー保存→最高点では速度がそろう」が決まった流れで、運動が想像できれば難しくない標準問題。
差がつく所・失点しやすい所
- (4):運動を想像できるか。台から見ると小球は円運動をしていて、糸が水平のとき小球と台の水平の速度がそろう、という発想に行き着けるか。ここに気づかないと (4)(5) が解けない。
- (3) の張力:最下点では台の加速度が0になり、台から見た小球は速さ $v-V$ の円運動をしている、という発想に行き着けるか。床から見た速さ $v$ で $m\dfrac{v^2}{l}$ とすると誤る。
コラム 動く台と振り子の型
この大問は、なめらかな床の上で台が動く問題の型がそろっている。九大の力学で何度も使う見方なので、ここでまとめておく。


- 何が保存するか:水平方向にはたらく力が小球と台の間の力(張力・垂直抗力)だけなら、水平方向の運動量が保存する。その力は2物体に同じ大きさで逆向きの仕事をするので仕事の和は0、2物体をまとめた力学的エネルギーも保存する。鉛直方向には床の垂直抗力と重力(外力)があるので、運動量は保存しない。
- 台から見ると何が見えるか:台から見ると、振り子の小球は糸の付け根を中心とする円運動、曲面の上の物体は曲面に沿った運動。だから台に対する速度は糸に垂直(曲面に沿う向き)。糸が水平になると台に対する速度の水平成分が0になり、小球と台の水平の速度がそろう。曲面を上る物体の最高点では台に対する速度そのものが0になり、速度が完全にそろう。
- 台の加速度が0の瞬間:糸が鉛直(曲面の最下点)の瞬間は、台が受ける水平の力が0なので、台の加速度も0。その瞬間だけは台から見ても慣性力がなく、台から見た円運動の運動方程式がそのまま使える。
- 台を外から動かすとき:台の加速度が決まっているときは運動量は保存しない。台に乗って慣性力を入れ、重力とまとめて見かけの重力として扱う((2))。
どこから見るかを決めて、何が保存するかを最初に言う。この順で考えれば、動く台の問題はどれも同じ流れに乗せられる。
2018年九州大学物理
第2問 解答・解説
第2問は電磁気の問題です。
テーマは「場所で向きの変わる磁場( $B_y=-cy$ 、 $B_z=cz$ )の中を水平のまま落ちる正方形ループ。問1は自由電子が受けるローレンツ力から電位差・消費電力を求め、位置エネルギーの減少=ジュール熱で一定の落下の速さを求める。問2は同じ落下を磁束の変化から見て、電流・各辺の力・運動方程式を求め、終端速度が問1と一致することを確かめる」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。
磁場中を落下する導体ループの運動について考える。図1(a) のように、鉛直方向上向きを $z$ 軸の正の向きにとり、正方形KLMNの4辺で構成された導体ループ(各辺の長さ $2l$)を水平に固定する。ここで、導体ループの中心は $z$ 軸上にあり、正方形の各辺は $x$ 軸または $y$ 軸に平行である。また、図1(b) のように、点 $(x,\ y,\ z)$ における磁場の磁束密度 $\vec{B}$ の $x$ 成分は0であり、 $y$ 成分および $z$ 成分はそれぞれ $B_y=-cy$、 $B_z=cz$ ( $c$ は正の定数)と表される。その後、静かに導体ループの固定を外すと、導体ループは水平を保ったまま $z$ 軸に沿って落下する。ここで、重力加速度の大きさを $g$、導体ループの質量を $m$ とする。導体ループは真空中にあり、変形も回転もしないものとする。導体ループの自己インダクタンスと導体の太さは無視できるものとする。正方形の2辺LM、NKを構成する導体はともに電気抵抗 $R$ をもち、残りの2辺KL、MNを構成する導体の電気抵抗は無視できるものとする。
以下の問1と問2では、導体ループの中心の位置を $(0,\ 0,\ z)$ とし、 $z\geqq0$ にある導体ループの運動について異なる観点から考えることにする。
問1. 導体ループの固定を外してからしばらくすると、落下の速さが $v_0$ で一定となった。
まず、図2のように、 $x$ 軸に平行な辺KL、MNを構成する2つの導体がともに孤立したものとして考える。
(1) 2つの導体の位置における磁束密度 $\vec{B}$ の $y$ 成分の大きさ $|B_y|$ は等しい。同様に、2つの導体の位置における $\vec{B}$ の $z$ 成分の大きさ $|B_z|$ も等しい。 $|B_y|$、 $|B_z|$ を $c$、 $l$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
(2) 2つの導体の内部にある自由電子(電荷 $-e$)が受ける $x$ 方向のローレンツ力の大きさ $F$ は等しくなる。 $F$ を $c$、 $e$、 $l$、 $v_0$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
(3) ローレンツ力による電子の移動により、それぞれの導体の一端が負に帯電し、他端は正に帯電するため、導体に沿った方向に電場が生じる。この電場から受ける力とローレンツ力がつり合ったときに電子の移動は止まる。このとき、KL間とMN間には同じ大きさの電位差が生じている。電位差の大きさ $V$ を $c$、 $e$、 $l$、 $v_0$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
次に、図3のように、 $y$ 軸に平行な正方形の残りの2辺LM、NKを構成する導体もあわせて考える。
(4) 電位差 $V$ に基づいて、導体ループに電流が流れる。このとき、導体ループで消費される電力 $P$ を $c$、 $e$、 $l$、 $R$、 $v_0$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
(5) 一定の速さ $v_0$ での落下に伴う単位時間あたりの位置エネルギーの変化の大きさ $\Delta U$ を $c$、 $e$、 $g$、 $l$、 $m$、 $v_0$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
(6) エネルギーの変換を考えることにより、落下の速さ $v_0$ を $c$、 $e$、 $g$、 $l$、 $m$、 $R$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
問2. 導体ループの固定を外した後の落下について、別の観点からもう一度考える。
(1) 導体ループを貫く磁束を $\Phi$ とする。導体ループが微小距離 $\Delta h\,(>0)$ だけ落下する間の磁束 $\Phi$ の変化 $\Delta\Phi$ を $c$、 $\Delta h$、 $l$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
(2) 微小距離 $\Delta h$ の落下に要する時間を $\Delta t$ とするとき、導体ループに流れる電流の大きさ $I$ を $c$、 $\Delta h$、 $l$、 $R$、 $\Delta t$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
(3) 導体ループに流れる電流 $I$ は、磁場から力を受ける。導体ループの各辺が受ける力の成分を描いた図として適したものを、図4の(a)〜(d)から一つ選び記号で答えよ。
(4) 導体ループの運動の鉛直方向の加速度を $a$ とするとき、導体ループの運動方程式を $a$、 $c$、 $g$、 $I$、 $l$、 $m$、 $z$ の中から必要なものを用いて表せ。
この運動方程式から終端速度を求めると、問1で求めた落下の速さ $v_0$ が得られる。
解答の方針
【問1の方針】
ローレンツ力から誘導起電力を導く「電子1個」の問題。導体 KL・MN の中の自由電子は導体と一緒に下へ動くので、磁場からローレンツ力を受ける。磁場の2つの成分のうち、 $B_z$ は速度と平行なので力を生まない。力を生むのは水平の成分 $B_y$ だけで、その力は導体に沿った $x$ 方向を向く(下の図)。


電子が一方の端に寄ると、導体の中に電場ができ、電子は逆向きの力も受ける。2つの力がつり合ったところで電子の移動が止まり、そのときの両端の電位差が誘導起電力。つまり導体 KL・MN はそれぞれ起電力 $V$ の電池になる。
(4) で LM・NK をつなぐと、この2つの電池と2つの抵抗の回路になる。決め手は、2つの電池がループを同じ向きに回すか、逆向きに回すか。電子が寄る端(負の端)を図で決めれば分かる。
(5)(6) は一定の速さで落ちているので、運動エネルギーは変わらない。外力も電池も無い(誘導起電力は電池の仕事に入れない)ので、減った位置エネルギーはすべてジュール熱になる。
- 導体 KL( $y=l$ )・MN( $y=-l$ )の位置を $B_y=-cy$、 $B_z=cz$ に入れて大きさを求める((1))。
- 電子の速度は下向き $v_0$ 。 $B_y$ との組でローレンツ力 $ev_0|B_y|$ を求める((2))。
- 電子が寄った端が負になり、導体の中に電場 $E$ ができる。 $eE=F$ から $E$ を求め、一様な電場なので長さ $2l$ をかけて $V$ を求める((3))。
- KL・MN を起電力 $V$ の電池に置きかえ、正極の向きから2つの電池が同じ向きに回すことを確かめる。1周でキルヒホッフの法則を立てて電流を求め、2つの抵抗の $RI^2$ を足す((4))。
- 1秒で $v_0$ 落ちるので、位置エネルギーの減少は1秒あたり $mgv_0$ ((5))。
- 一定の速さなので、1秒あたりの「位置エネルギーの減少=ジュール熱」とおいて $v_0$ を求める((6))。
【問2の方針】
同じ現象を、今度はループを貫く磁束の変化から見る。 $B_z=cz$ は $x$、 $y$ によらないので、ループの面の中では一様。だから磁束は「 $B_z$ ×面積」で求まる。 $B_y$ はループの面に平行なので面を貫かず、磁束には入らない。落ちると $z$ が小さくなり、 $B_z$ が弱くなるので、磁束が減る(下の図)。


誘導起電力は向きと大きさを別々に決める。大きさはファラデーの電磁誘導の法則で、向きはレンツの法則(減る上向きの磁束を補う向き)で決める。
(3) は4辺すべてに力を書く。磁場が場所で向きを変えるので、磁場を $B_y$ と $B_z$ に分けて、成分ごとにフレミングの左手の法則を使う。 $x$ 軸に平行な辺と $y$ 軸に平行な辺で、電流と $B_y$ の向きの関係が違うことが決め手。
(4) は加速しながら落ちるので、つり合いではなく運動方程式。問題の最後の一文のとおり、加速度を0にすれば問1の $v_0$ と一致するはずで、これが2つの見方の答え合わせになる。
- 磁束を $\varPhi=(2l)^2\cdot cz$ と表し、時間で変わる $z$ だけを $\Delta$ にして、高さが $\Delta h$ 下がったときの変化を求める((1))。
- ファラデーの電磁誘導の法則で起電力の大きさを求め、抵抗 $2R$ で割って電流を求める((2))。
- レンツの法則で電流の向きを決め、4辺それぞれで $B_y$ との組・ $B_z$ との組の力の向きを決めて、図4から選ぶ((3))。
- 上向きの力を足し合わせ、鉛直上向きを正として運動方程式を立てる((4))。
解答




解答をテキストで読む
問1 (1)
辺 KL は $y=l$ 、辺 MN は $y=-l$ の位置にある(図1(a)・図2)。 $B_y=-cy$ に入れると、KL では $B_y=-cl$ ( $y$ の負の向き)、MN では $B_y=cl$ ( $y$ の正の向き)。どちらもループの内向きで、大きさは等しい。 $B_z=cz$ は $y$ によらない。
答( $|B_y|$ ) $cl$(2点)
答( $|B_z|$ ) $cz$(2点)
問1 (2)
導体の中の自由電子に注目する。電子は導体と一緒に、下向きに速さ $v_0$ で動いている。 $B_z$ は速度と平行なので、ローレンツ力をつくらない。速度と垂直な $B_y$ との組で、大きさ $ev_0|B_y|$ のローレンツ力が、 $v_0$ と $B_y$ の両方に垂直な $x$ 方向にはたらく(着眼点の図)。
$$F=ev_0\cdot cl$$
答 $F=ecv_0l$(4点)
(向きは、KL の電子が K の向き( $x$ の正の向き)、MN の電子が M の向き( $x$ の負の向き)。負の電荷なので、正の電荷とは逆向き)
問1 (3)
電子が寄った K・M の側が負、反対の L・N の側が正に帯電し、導体の中に電場 $E$ ができる。電子は電場から、ローレンツ力と逆向きに $eE$ の力を受ける。移動が止まるのは2つの力がつり合ったとき(下の図)。
$$eE=ecv_0l\qquad\therefore\ E=cv_0l$$
導体の中の電場は一様なので、長さ $2l$ の両端の電位差は「電場×距離」。
$$V=E\cdot2l=cv_0l\cdot2l$$
答 $V=2cv_0l^2$(4点)
( $v_0$ と、 $B_y$ の大きさ $cl$ と、長さ $2l$ の積。導体棒の誘導起電力 $vBl$ と同じ形で、その導き方そのもの)
問1 (4)
導体 KL・MN を、それぞれ起電力 $V$ の電池に置きかえる。正極は電子が寄らなかった側なので、KL は L が正極、MN は N が正極。K→L→M→N→K の向きにたどると、KL でも MN でも負極から正極へ通る。つまり2つの電池はループを同じ向きに回す(下の図)。電流をこの向きに $I$ とおき、1周でキルヒホッフの法則を立てる。
$$V+V-RI-RI=0\qquad\therefore\ I=\frac VR=\frac{2cv_0l^2}{R}$$
電流は LM・NK の2つの抵抗で熱になる(KL・MN の抵抗は0)。消費電力は $RI^2$ の和で
$$P=RI^2\times2=2R\left(\frac{2cv_0l^2}{R}\right)^2$$
答 $P=\dfrac{8c^2l^4{v_0}^2}{R}$(5点)
(2つの電池の供給電力 $2V\cdot I=\dfrac{2V^2}{R}$ でも同じ値になる)
問1 (5)
一定の速さ $v_0$ で落ちるので、1秒で高さが $v_0$ 下がる。単位時間あたりの位置エネルギーの減少は
$$\Delta U=mg\times v_0$$
答 $\Delta U=mgv_0$(3点)
問1 (6)
エネルギー保存の一般形で考える。外力もコンデンサーも無く、誘導起電力は電池の仕事に入れないので、ジュール熱と力学的エネルギーの変化の和が0。一定の速さなので運動エネルギーは変わらない。よって、1秒あたりで「位置エネルギーの減少=ジュール熱」。
$$mgv_0=\frac{8c^2l^4{v_0}^2}{R}$$
$v_0\neq0$ なので両辺を $v_0$ で割って
答 $v_0=\dfrac{mgR}{8c^2l^4}$(5点)
( $z$ によらない。 $B_y$ の大きさ $cl$ は高さによらないので、どの高さでも同じ速さで落ちる)
問2 (1)
$B_z=cz$ は $x$、 $y$ によらないので、ループの面の中では一様。 $B_y$ は面に平行で面を貫かない。よって、ループを貫く磁束は
$$\varPhi=(2l)^2\cdot cz=4cl^2z$$
時間で変わるのは $z$ だけ。微小距離 $\Delta h$ 落ちると $z$ は $z-\Delta h$ になるので
$$\Delta\varPhi=4cl^2(z-\Delta h)-4cl^2z$$
答 $\Delta\varPhi=-4cl^2\Delta h$(5点)
(落ちると磁束が減るので負。着眼点の図で、落ちた後のループを貫く磁束線が少ない)
問2 (2)
ファラデーの電磁誘導の法則より、誘導起電力の大きさは
$$\left|\frac{\Delta\varPhi}{\Delta t}\right|=4cl^2\cdot\frac{\Delta h}{\Delta t}$$
ループの抵抗は LM と NK の $2R$ なので
$$I=\frac{4cl^2}{2R}\cdot\frac{\Delta h}{\Delta t}$$
答 $I=\dfrac{2cl^2}{R}\cdot\dfrac{\Delta h}{\Delta t}$(4点)
( $\dfrac{\Delta h}{\Delta t}$ を $v_0$ にすると $4cl^2v_0=2cv_0l^2\times2=2V$ 。問1の2つの電池を足した起電力と一致する)
問2 (3)
まず電流の向き。上向きの磁束が減るので、それを補う上向きの磁束をつくる向き。右ねじの法則で、上から見て反時計回り(K→L→M→N の向き)。問1 (4) の電流の向きと同じ。
次に、4辺すべてで、磁場を $B_y$ と $B_z$ に分けて力を求める(下の図)。
・KL・MN( $x$ 軸に平行な辺):電流は $x$ 方向で、 $B_y$ (内向き)と垂直。 $B_y$ との組の力は上向き。 $B_z$ (上向き)との組の力はループの外向き( $y$ 方向)
・LM・NK( $y$ 軸に平行な辺):電流は $y$ 方向で、 $B_y$ と平行なので、 $B_y$ との組の力は0(上下の力は無い)。 $B_z$ との組の力はループの外向き( $x$ 方向)だけ
「 $x$ 軸に平行な2辺は上向き+外向き、残りの2辺は外向きだけ」の形は (a)。
答 (a)(6点)
問2 (4)
力は「重力→場から受ける力」の順に書く(下の図)。重力 $mg$ は下向き。KL・MN が $B_y$ から受ける上向きの力は、それぞれ $I\cdot cl\cdot2l=2cl^2I$ 。水平の力は向かい合う辺どうしで同じ大きさ・逆向きなので打ち消し合う。鉛直上向き( $z$ 軸の正の向き)を正として運動方程式を立てる。
$$ma=2cl^2I\times2-mg$$
答 $ma=4cl^2I-mg$(5点)
(落ちる速さが一定になったとき $a=0$ 。(2) の $\dfrac{\Delta h}{\Delta t}$ を $v_0$ にした $I=\dfrac{2cl^2v_0}{R}$ を入れると $\dfrac{8c^2l^4v_0}{R}=mg$ となり、 $v_0=\dfrac{mgR}{8c^2l^4}$ 。問1 (6) と一致する)
出題意図
問1 (1)〜(3) 動く導体の中の自由電子1個にはたらくローレンツ力と電場の力のつり合いから、誘導起電力(電位差)を導けるか
問1 (4)〜(6) 動く導体を電池に置きかえて回路の消費電力を求め、位置エネルギーの減少とジュール熱のつり合いから一定の速さを求めることができるか
問2 (1)(2) ループを貫く磁束の変化からファラデーの電磁誘導の法則で電流を求めることができるか
問2 (3)(4) 場所で向きの変わる磁場の中で、ループの4辺が受ける力を成分ごとに捉え、運動方程式を立てることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 40点 | 30点 |
| 目標時間 | 25分 | 25分 |
電磁誘導には、ローレンツ力から見る見方と磁束の変化から見る見方の2つがあり、この大問は問1と問2でその2つを並べて、終端速度が一致することを確かめさせている。
ローレンツ力で見ると力を生むのは導体が横切る $B_y$ だけ、磁束で見ると効くのはループを貫く $B_z$ の減り方だけ。
補足説明のとおり磁束線は途切れないので、ループを貫く磁束線が減った分は、ちょうど KL・MN が落ちる間に横切った磁束線の分になり、2つの見方は必ず同じ答えになる。
差がつく所・失点しやすい所
- 問1 (4):2つの電位差 $V$ がループを同じ向きに回す(直列で $2V$ )という発想に行き着けるか。図3には正極・負極が書いていないので、(2) のローレンツ力の向きから自分で決める必要がある。逆向きと読むと電流は0になり、(5)(6) まで崩れる。
- 問2 (3):場所で向きの変わる磁場を $B_y$ と $B_z$ に分け、4辺それぞれで力を求められるか。 $y$ 軸に平行な辺は電流が $B_y$ と平行なので上下の力が無い、まで見抜けるか。
2018年九州大学物理
第3問 解答・解説
第3問は波動の問題です。
テーマは「水平に飛ぶ航空機の音を地上で聞くときの斜め方向のドップラー効果を、2つの波面の間隔(波長)から近似を使って導き、振動数と角度の関係をグラフに書く。後半は温度の違う2つの大気の境界で音が屈折するときの振動数・波長と、全反射で音が届かなくなる条件から音速を求める」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。
問1. 図1に示すように、真西から真東に水平飛行する航空機が連続的に発する音波を、地上の点Oで観測する場合を考える。航空機は、点Oの真上を通過するものとする。航空機が発する音波の振動数を $f$、音波の速さを $c$、航空機の速さを $v$ とし、 $c>v$ とする。航空機と点Oの距離は常に音波の波長より長いものとする。また風の影響、音波の減衰、航空機の大きさは無視できるものとする。
(1) 時刻 $t=0$ のときの航空機の位置を点Aとする。このとき航空機の進む方向と、航空機と点Oを結ぶ方向のなす角度は $\theta$ であった。点Aで発せられた音波の波面 $\mathrm{W_A}$ が、 $t=t_0$ に点Oに届いたとすると、距離 $\mathrm{AO}=\boxed{\text{ア}}$ となる。一方、 $t=0$ から音波の1周期分の時間が経過したときの航空機の位置を点Bとする。点BからAOに下ろした垂線の足を点 $\mathrm{B’}$ とすると、距離 $\mathrm{AB’}=\boxed{\text{イ}}$ となる。点Bで発せられた音波の波面 $\mathrm{W_B}$ が $t=t_0$ でAOと交わる点を点Dとすると、距離 $\mathrm{BD}=\boxed{\text{ウ}}$ となる。ここで、 $t=t_0$ において点Oから見た波面 $\mathrm{W_A}$ と $\mathrm{W_B}$ の間隔が点Oにおいて観測される音波の波長とみなせる。距離 $\mathrm{AO}\gg\mathrm{AB’}$ の場合は、音波の波長は距離DOと考えてよく、また、このとき距離 $\mathrm{BD}\fallingdotseq\mathrm{B’D}$ が成り立つことから距離DOは $\boxed{\text{エ}}$ となる。よって、点Oで観測される音波の振動数は $\boxed{\text{オ}}$ となる。
上の $\boxed{\text{ア}}$ から $\boxed{\text{オ}}$ の空欄にあてはまる数式を、 $c$、 $f$、 $t_0$、 $v$、 $\theta$ の中から必要なものを用いて表せ。
(2) 航空機が発する音波の振動数を $f=100\ \mathrm{Hz}$ とする。また $c=340\ \mathrm{m/s}$、 $v=170\ \mathrm{m/s}$ とする。(1)の $\boxed{\text{オ}}$ で与えられる振動数と $\theta$ の関係の概形を、解答用紙の図に線で示せ。 $\theta=0^\circ$、 $90^\circ$、 $180^\circ$ については振動数を計算し、図中に点で示せ。
問2. 音波の速さは大気の温度によって変化し、また大気の温度は高度とともに低くなることがある。このような大気中を伝わる音波を考えたい。簡単のために、図2に示すように、温度の異なる2つの大気Ⅰ、Ⅱが、ある高度で接しているとする。大気Ⅰ中を真西から真東に水平飛行する航空機が連続的に発する音波を、地上の点Oで観測する場合を考える。航空機は、点Oの真上を通過するものとする。航空機が発する音波は、大気Ⅰ、Ⅱの境界面に角度 $\phi_1$ で入射する。音波の一部は境界面で反射し、残りは角度 $\phi_2$ で屈折して点Oに届く。航空機が発する音波の振動数を $f$ とする。大気Ⅰ、Ⅱ中の音波の速さをそれぞれ $c_1$、 $c_2$、航空機の速さを $v$ とし、 $c_1>v$、 $c_2>v$ とする。音波は平面波として進むと考えてよい。また問1と同様に、風の影響、音波の減衰、航空機の大きさは無視できるものとする。さらに、音波の速さは、温度のみに影響を受けるものとし、それ以外の効果は考えなくてよい。
(1) $\phi_1$ と $\phi_2$ の間に成り立つ等式を、 $\phi_1$、 $\phi_2$、 $c_1$、 $c_2$、 $f$、 $v$ の中から必要なものを用いて表せ。
(2) 点Oに届いた音波の波長と振動数を、 $c_1$、 $c_2$、 $f$、 $v$、 $\phi_1$ の中から必要なものを用いて表せ。
(3) 大気Ⅰと大気Ⅱの温度差が小さいときには、航空機が点Oの真上を通過して東の遠方に飛び去るまで、点Oに音波が届いていた。しかし大気Ⅱの温度が大気Ⅰよりも十分高い日には、 $\phi_1=60^\circ$ を過ぎて以降、点Oに音波が届かなかった。このとき大気Ⅱ中の音波の速さを測定すると $c_2=380\ \mathrm{m/s}$ であった。大気Ⅰ中の音波の速さ $c_1$ を有効数字2桁で求めよ。
解答の方針
問1 (1)。
ドップラー効果の導出で見るのは「波長」と「波の個数」の2つだけ。点Aで出た波面 $\mathrm{W_A}$ と、1周期あとに点Bで出た波面 $\mathrm{W_B}$ の間には、波がちょうど1個入っている。だから時刻 $t_0$ に点Oの手前に並んでいる2つの波面の間隔 DO が、点Oで聞く音の波長になる(下の図)。点Oは止まっているので、聞く振動数は「音速÷波長」で決まる。
DO は AO の一部なので、AO を「A から B′」「B′ から D」「D から O」の3つに分けて考える。B′D は直接は分からないが、航空機が1周期に進む距離は AO に比べてとても小さく、三角形 $\mathrm{BB’D}$ は細長い直角三角形になる。問題文の近似 $\mathrm{BD}\fallingdotseq\mathrm{B’D}$ は、この1か所で使う。
また、音の速さは音源の速さに関係しないので、波面は音を出した点を中心に速さ $c$ で広がる。θ は音を出したときの位置で決まる角。


- 点Aで出た音は時間 $t_0$ で点Oに届くので、AO=音の速さ×時間(ア)。
- 1周期 $\dfrac1f$ の間に航空機が進む距離 AB を求め、その AO 方向の成分を AB′ とする(イ)。
- 点Bで音を出すのは時刻 $\dfrac1f$ なので、波面 $\mathrm{W_B}$ は $t_0-\dfrac1f$ の間に広がる。その半径が BD(ウ)。
- $\mathrm{DO}=\mathrm{AO}-(\mathrm{AB’}+\mathrm{B’D})$ に近似 $\mathrm{B’D}\fallingdotseq\mathrm{BD}$ を入れ、ア〜ウを代入して DO を求める(エ)。
- DO が点Oで聞く波長なので、振動数=音速÷波長 で求める(オ)。
問1 (2)。
斜め方向のドップラー効果で振動数を変えるのは、航空機の速度の点Oに向かう成分 $v\cos\theta$ だけ。θ が小さい(遠くから近づいてくる)ほど近づく成分が大きく、振動数は高い。点Oの真上( $\theta=90^\circ$)では向かう成分が0で振動数は $f$ と同じ。通り過ぎると遠ざかる成分になり、振動数は低くなる(下の図)。だから θ と振動数のグラフは、0°・90°・180° の3点を押さえてから形を決める。


- オに $f$・ $c$・ $v$ の値を入れて、振動数を θ の式にする。
- $\theta=0^\circ$・ $90^\circ$・ $180^\circ$ の振動数を求め、点で書く。
- θ を 0° から 180° まで大きくしたときの $\cos\theta$ の変わり方から、振動数がずっと減ること、両端で横ばいになることを確かめて曲線を書く。
【問2の方針】
大事なのは2つ。1つ目は、境界で音が屈折しても振動数は変わらないこと。境界の点は止まっていて、1秒間に届く波の数と、そこから大気Ⅱへ出ていく波の数は同じ。変わるのは速さと波長。屈折の法則は「屈折率×(sin・波長・速さ)が一定」の1本で持っておけばよく、音では屈折率の代わりに速さを使って「 $\dfrac{\sin\phi}{\text{音の速さ}}$ が一定」と書ける。
2つ目は、図2の航空機が点Oの東にいる(真上をすでに通り過ぎて、遠ざかっている)こと。航空機の進む向き(東)と、航空機から点Oの側へ進む音の向きのなす角は $90^\circ+\phi_1$ なので、問1の θ をこの角に置きかえればよい(下の図)。


(3) は、航空機が東へ遠ざかるほど入射角 $\phi_1$ が大きくなり、それにつれて屈折角 $\phi_2$ も大きくなることに注目する。屈折角が 90° に達した所から先は全反射になり、音は大気Ⅱへ入れない。
- 屈折の法則を音の速さで書く((1))。
- 境界で音が屈折する点を $\mathrm{O’}$ とする。 $\mathrm{O’}$ で聞く振動数を、問1のオで $c\to c_1$、 $\theta\to90^\circ+\phi_1$ として求める。
- 境界でも点Oでも振動数は変わらないので、点Oで聞く振動数は2で求めたもの。波長は大気Ⅱの音の速さ $c_2$ を振動数で割る((2))。
- $\phi_1=60^\circ$ が臨界角( $\phi_2=90^\circ$)として (1) の式に入れ、 $c_1$ を求める((3))。
解答




解答をテキストで読む
問1 (1)
音の速さは音源(航空機)の速さに関係しないので、点Aで出た波面 $\mathrm{W_A}$ は点Aを中心に速さ $c$ で広がる。時刻 $t_0$ に点Oに届くので
答(ア) $ct_0$(3点)
1周期は $\dfrac1f$ なので、その間に航空機は $\mathrm{AB}=v\times\dfrac1f=\dfrac vf$ 進む。 $\mathrm{B’}$ は B から AO に下ろした垂線の足なので、 $\mathrm{AB’}$ は AB の AO 方向の成分になり
$$\mathrm{AB’}=\mathrm{AB}\cos\theta=\frac{v\cos\theta}{f}$$
答(イ) $\dfrac{v\cos\theta}{f}$(3点)
点Bで音を出すのは時刻 $\dfrac1f$。そこから $t=t_0$ までの $t_0-\dfrac1f$ の間に、波面 $\mathrm{W_B}$ は点Bを中心に速さ $c$ で広がるので
答(ウ) $c\left(t_0-\dfrac1f\right)$(3点)
$\mathrm{W_A}$ と $\mathrm{W_B}$ は1周期ずれて出た波面なので、その間には波がちょうど1個入っている。よって間隔 DO が点Oで聞く音の波長。AO を3つに分けると(下の図)
$$\mathrm{DO}=\mathrm{AO}-(\mathrm{AB’}+\mathrm{B’D})$$
三角形 $\mathrm{BB’D}$ は $\mathrm{B’}$ が直角の直角三角形で、 $\mathrm{BB’}$ は航空機が1周期に進む距離ほどの小さな長さ、BD は AO に近い長い長さ。細長い直角三角形なので、斜辺 BD と $\mathrm{B’D}$ はほぼ等しい( $\mathrm{BD}\fallingdotseq\mathrm{B’D}$)。よって
$$\mathrm{DO}\fallingdotseq ct_0-\left\{\frac{v\cos\theta}{f}+c\left(t_0-\frac1f\right)\right\}=\frac{c-v\cos\theta}{f}$$
答(エ) $\dfrac{c-v\cos\theta}{f}$(5点)
( $t_0$ が消えるので、航空機と点Oの距離によらない。航空機が止まっていれば( $v=0$ )波長は $\dfrac cf$ で、点Oに近づく成分 $v\cos\theta$ のぶんだけ波長が縮む)
点Oは止まっているので、1秒間に長さ $c$ の範囲の波と出会う。振動数=音速÷波長 より
$$\frac{c}{\ \dfrac{c-v\cos\theta}{f}\ }=\frac{c}{c-v\cos\theta}f$$
答(オ) $\dfrac{c}{c-v\cos\theta}f$(4点)
(音源が速さ $v\cos\theta$ で近づくときのドップラー効果の公式と同じ形。速度の、点Oに向かう成分だけが振動数を変える)
問1 (2)
オに $f=100$ Hz、 $c=340$ m/s、 $v=170$ m/s を入れて、点Oで聞く振動数を $f’$ とすると
$$f’=\frac{340}{340-170\cos\theta}\times100=\frac{200}{2-\cos\theta}\ \mathrm{[Hz]}$$
3点の値は
$$\theta=0^\circ:\ f’=\frac{200}{2-1}=200,\qquad \theta=90^\circ:\ f’=\frac{200}{2-0}=100,\qquad \theta=180^\circ:\ f’=\frac{200}{2+1}=\frac{200}{3}\fallingdotseq67$$
(単位は Hz)。形は次のように決まる。
・θ を 0° から 180° まで大きくすると、 $\cos\theta$ は 1 から $-1$ まで減り続けるので、分母 $2-\cos\theta$ は増え続け、 $f’$ はずっと減る
・0° と 180° の近くでは $\cos\theta$ がほとんど変わらないので、グラフは横ばいで始まり、横ばいで終わる
・90° で $f$ と同じ 100 Hz になるのは、真上で音を出すとき、航空機は点Oに近づきも遠ざかりもしないから(下の図の真ん中)
左右対称な形にはならない。200 Hz と 67 Hz のちょうど中間の 133 Hz になるのは $\theta=60^\circ$( $\cos60^\circ=\dfrac12$ で $\dfrac{200}{1.5}\fallingdotseq133$)で、90° では 100 Hz まで下がっている。0°〜90° で 100 Hz 下がり、90°〜180° では約 33 Hz しか下がらない。
解答欄は、縦軸が振動数 0〜250 Hz(50 Hz ごとに横線)、横軸が θ(0°・90°・180° の目盛りで、90° に縦線)の方眼。3点はこの方眼の上に置く。
答 下の図( $\theta=0^\circ$ で 200 Hz、 $90^\circ$ で 100 Hz、 $180^\circ$ で約 67 Hz の3点を通り、0° から 180° までずっと減る曲線。両端で横ばい)(7点)
問2 (1)
屈折の法則は「屈折率×sin(角)が一定」で、屈折率は波の速さに反比例する。よって音では、屈折率の代わりに音の速さで割った形「 $\dfrac{\sin\phi}{\text{音の速さ}}$ が一定」になり
$$\frac{\sin\phi_1}{c_1}=\frac{\sin\phi_2}{c_2}$$
答 $\dfrac{\sin\phi_1}{\sin\phi_2}=\dfrac{c_1}{c_2}$(5点)
(振動数 $f$ も航空機の速さ $v$ も入らない。屈折する角を決めるのは、2つの大気の音の速さだけ)
問2 (2)
図2では、航空機は点Oの東にいる(点Oの真上をすでに通り過ぎている)。航空機から出て点Oの側へ進む音は、鉛直下向きから西へ $\phi_1$ 傾いた向きに進むので、航空機の進む向き(東)とのなす角は $90^\circ+\phi_1$(下の図)。航空機は、音の進む向きと逆向きの成分 $v\sin\phi_1$ で遠ざかっている。
境界で音が屈折する点を $\mathrm{O’}$ とする。 $\mathrm{O’}$ は止まっていて、 $\mathrm{O’}$ までは大気Ⅰの中を平面波として進むので、 $\mathrm{O’}$ で聞く振動数は問1のオで $c\to c_1$、 $\theta\to90^\circ+\phi_1$ としたもの。これを $f_{\mathrm{O}}$ とすると
$$f_{\mathrm{O}}=\frac{c_1}{c_1-v\cos(90^\circ+\phi_1)}f=\frac{c_1}{c_1+v\sin\phi_1}f$$
( $\cos(90^\circ+\phi_1)=-\sin\phi_1$。遠ざかるので分母が大きくなり、 $f$ より低い)
境界の点 $\mathrm{O’}$ では、1秒間に届く波の数と大気Ⅱへ出ていく波の数が同じなので、振動数は変わらない。点Oも止まっているので、点Oで聞く振動数は $f_{\mathrm{O}}$ のまま。
答(振動数) $\dfrac{c_1}{c_1+v\sin\phi_1}f$(3点)
大気Ⅱの中では音の速さが $c_2$ になる。波長=速さ÷振動数 より
$$\frac{c_2}{f_{\mathrm{O}}}=\frac{c_2(c_1+v\sin\phi_1)}{c_1f}$$
答(波長) $\dfrac{c_2(c_1+v\sin\phi_1)}{c_1f}$(2点)
(大気Ⅰの中の波長は $\dfrac{c_1+v\sin\phi_1}{f}$ で、大気Ⅱでは $\dfrac{c_2}{c_1}$ 倍になる。速さと波長が同じ割合で変わり、振動数は変わらない)
問2 (3)
航空機が東へ遠ざかるほど、点Oへ向かう音の入射角 $\phi_1$ は大きくなり、(1) より屈折角 $\phi_2$ も大きくなる。大気Ⅱの温度が高いと $c_2>c_1$ なので $\phi_2>\phi_1$ となり、 $\phi_1$ が 90° になる前に $\phi_2$ が 90° に達する。このときの $\phi_1$ が臨界角で、それより $\phi_1$ が大きいと音は境界で全反射し、大気Ⅱに入らないので地上に届かない(下の図)。
$\phi_1=60^\circ$ を過ぎて届かなくなったので、 $\phi_1=60^\circ$ が臨界角で、このとき $\phi_2=90^\circ$。(1) に入れて
$$\frac{\sin60^\circ}{\sin90^\circ}=\frac{c_1}{c_2}\qquad\therefore\ c_1=c_2\sin60^\circ=380\times\frac{\sqrt3}{2}\fallingdotseq329$$
有効数字2桁で
答 $3.3\times10^2$ m/s(5点)
(温度差が小さいときは $c_1$ と $c_2$ がほぼ等しく、臨界角が 90° に近い。航空機がかなり遠くへ行くまで $\phi_1$ が臨界角に達しないので、音が届き続ける。問題文の前半の観測と合う)
別解
問1 オ (時間軸で導く) 点Aで音を出した時刻を $t=0$ とすると、その音が点Oに届く時刻は $\dfrac{\mathrm{AO}}{c}$。1周期あと( $t=\dfrac1f$)に点Bで出した音が届く時刻は $\dfrac1f+\dfrac{\mathrm{BO}}{c}$。この2つの時刻の差の間に波が1個届くので、差が点Oで聞く音の周期 $T’$ になる。
BO は三角形 ABO の余弦定理で
$$\mathrm{BO}=\sqrt{\mathrm{AO}^2+\left(\frac vf\right)^2-2\,\mathrm{AO}\cdot\frac vf\cos\theta}$$
$\mathrm{AO}\gg\dfrac vf$ なので2次の小さい項 $\left(\dfrac vf\right)^2$ を消し、「1+小さい量」の形を作って1次近似 $(1+x)^{\frac12}\fallingdotseq1+\dfrac x2$ を使うと
$$\mathrm{BO}\fallingdotseq\mathrm{AO}\left(1-\frac{2v\cos\theta}{f\cdot\mathrm{AO}}\right)^{\frac12}\fallingdotseq\mathrm{AO}-\frac{v\cos\theta}{f}$$
よって
$$T’=\frac1f+\frac{\mathrm{BO}}{c}-\frac{\mathrm{AO}}{c}\fallingdotseq\frac1f-\frac{v\cos\theta}{cf}=\frac{c-v\cos\theta}{cf}$$
逆数をとって $\dfrac{c}{c-v\cos\theta}f$ となり、オと同じ。聞く周期に音速 $c$ をかけた $cT’=\dfrac{c-v\cos\theta}{f}$ がエの波長になる。授業で教えている名問の森の上空を通る飛行機の問題は、この時間軸と余弦定理と1次近似で導く形。本問はエで波面の間隔を問う誘導なので、本解は誘導どおりにした。
出題意図
問1 (1) ア〜オ 1周期ずれて出た2つの波面の間隔が波長であることを捉え、近似を使って斜め方向のドップラー効果の式を導くことができるか
問1 (2) 振動数の式に数値を入れ、角度による振動数の変化をグラフで捉えることができるか
問2 (1) 音の屈折の法則を、音の速さを使って書くことができるか
問2 (2) 図から航空機が遠ざかっていることを読みとり、問1の結果と「屈折で振動数は変わらず波長が変わる」ことを組み合わせることができるか
問2 (3) 音が届かなくなった理由を全反射と捉え、臨界角の条件から音速を求めることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 35点 | 30点 |
| 目標時間 | 25分 | 25分 |
上空を通る飛行機の斜めのドップラー効果は、名問の森の典型問題そのままの標準問題。
斜めのドップラー効果は「速度の、観測者に向かう成分をとる → 一直線の式に入れる → θ と振動数のグラフを 0°・90°・180° で押さえる」という決まった流れで解ける。
差がつくのは、波面の間隔を近似で求めるエと、図から航空機が遠ざかっていると読む問2 (2)。
差がつく所・失点しやすい所
- 問1 エ:DO を AO からの引き算で求め、近似 $\mathrm{BD}\fallingdotseq\mathrm{B’D}$ をその1か所で使うという発想に行き着けるか。ここを越えないとオ・(2) が続かない(オの公式を知っていれば、エは「音速÷振動数」から逆に書ける)。
- 問2 (2):図2の航空機が点Oの東にいて遠ざかっていること、角が $90^\circ+\phi_1$ になることを読みとれるか。分母を $c_1-v\sin\phi_1$ と逆にしやすい。
- 問1 (2):左右対称な形や直線で書かず、0°〜90° で大きく下がり、両端で横ばいになる形まで書けるか。
コラム 夜に遠くの音がよく聞こえるわけ
夜、昼間は聞こえなかった遠くの電車や道路の音が聞こえることがある。これは、この大問の問2でやった「音の屈折」が空気の中で起きているから。


- 音の速さは気温で決まる:空気中の音の速さは、気温を $t$〔℃〕として、およそ $331.5+0.6t$〔m/s〕。暖かい空気ほど音は速い。だから、高さによって気温が違うと、音の速さも高さによって変わる。
- 音は遅い側へ曲がる:問2 (1) の屈折の法則「 $\dfrac{\sin\phi}{\text{音の速さ}}$ が一定」のとおり、音は速い層に入ると境界から離れる向き(水平に近づく向き)に曲がる。実際の空気では気温が高さとともに少しずつ変わるので、音は少しずつ曲がり続け、道すじは曲線になる。
- 昼:日光で地面が温められ、地面の近くがいちばん暖かく、上へ行くほど冷たい。上ほど音が遅いので、地面の近くで出た音は上へ曲がり、地面から離れていく。音が届きにくい「音の影」ができることもある。問2 の大気(下の大気Ⅱの方が暖かい)はちょうどこの向きで、上空から来た音は地上に届きにくくなる。(3) で航空機の音が途中から届かなくなったのは、この極端な場合。
- 夜:地面が冷え、上空に暖かい空気が残る(接地逆転層)。上ほど音が速いので、音は下へ曲がって地面に戻り、ふだんより遠くの地面まで届く。逆転層は夜から朝にかけてできやすく、強い逆転層があると音が 10〜15 デシベル大きく聞こえたという調査もある。
- 飛行場でも:環境省の低周波音の測定マニュアルは、上空の方が暖かい条件で音が伝わりやすく、朝晩や夜間に大きな音が観測されることが多いこと、飛行場の周辺では季節や時間帯によって航空機の逆噴射の音が聞こえたり聞こえなかったりすることを、測定の注意点として挙げている。
九大の物理は、こうした身近な現象を題材にすることがある。屈折の法則を光だけのものと思わず、音でも同じ形で使えるようにしておきたい。
(確かめた資料:農林水産省「音波の屈折」(騒音の環境影響評価の資料)、環境省「低周波音の測定方法に関するマニュアル」5.3.1、米国ペンシルベニア州立大学の音響の解説ページ(音の屈折)、米国国立公園局の記事(気象と遠くの音の聞こえ方の調査)、NBCニュースの記事(2011年、米国音響学会での発表の紹介))
2018年九州大学・物理の
講評とまとめ
3問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 標準 | 35点 | 30点 |
| 第2問 | 標準 | 40点 | 30点 |
| 第3問 | 標準 | 35点 | 30点 |
| 全体 | 標準 | 105点 | 85点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で85点)にはなりません。
全体が標準の年で、九州大学の物理のオーソドックスなレベルです。
過去問演習として最適なセットなので、優先して解きたい年です。
第1問は、台の上に乗って見ると小球は円運動をしていますが、台が加速している間は慣性力を考えなければならない点が難しく、ヒントはあるものの (4) 以降は難しめです。
第2問はローレンツ力と磁束の変化の2つの見方で終端速度を出す標準問題、第3問は斜めのドップラー効果の公式の簡単な証明なので、問1は全部取りたいところです。
屈折の入る後半はやりにくいものの、ここも取りたい部分です。
各大問25分ずつで、ここまで取れれば十分という一つの指標にしてください。
解く流れ
第1問 → 第3問 → 第2問。
2018年九州大学・物理に
関するよくある質問
2018年の九州大学・物理について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2018年の九州大学・物理は難しかった?
-
標準的な年でした。
第1問から第3問まで3題とも標準で、九州大学の物理のオーソドックスなレベルです。
第1問は (4) 以降がやや難しめです。 - 2018年の九州大学・物理は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で85点です(125点満点)。
- 2018年の九州大学・物理はどこで差がつく?
-
3題とも標準のセットで、過去問演習として最適な年です。そのうえで、差がつくとしたら次の3つです。
- 第1問 (3)(4)(5):最下点では台の加速度が0になることから、台から見た速さで張力を出せたか。糸が水平のとき水平の速度がそろうと気づけたか。
- 第2問 問2 (3):場所で向きの変わる磁場を成分に分け、4辺それぞれの力を求められたか。
- 第3問 エ・問2 (2):近似を使って波面の間隔を求められたか。図から航空機が遠ざかっていると読みとり、角を正しく決められたか。
- 2018年の九州大学・物理は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:力学
- 第2問:電磁気
- 第3問:波動


