【解説・配点付き】2022年九州大学化学の解答・解説
2022年の九州大学・化学の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2022年九州大学化学
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は理論化学(物質の構成粒子)・無機化学の問題です。
テーマは『同位体と半減期』『電解精錬の計算』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章(1)と(2)を読み、問1〜問6に答えよ。
(1) 原子番号が同じでも、質量数が異なる原子が存在する。これらの原子を互いに $\boxed{\text{ア}}$ であるという。水素原子の $\boxed{\text{ア}}$ には、質量数が1、2、3のものが存在し、それぞれ $\ce{^1H}$、 $\ce{^2H}$、 $\ce{^3H}$ と表す。 $\ce{^3H}$ は2個の $\boxed{\text{イ}}$ を含む放射性 $\boxed{\text{ア}}$ であり、その原子核は放射線を出して、 $\boxed{\text{ウ}}$ を2個、 $\boxed{\text{イ}}$ を1個含む $\boxed{\text{エ}}$ 原子の原子核に変わる。 $\ce{^3H}$ が出す放射線は高感度に測定することができ、単位体積当たりの $\ce{^3H}$ の物質量を見積もることができる。 $\ce{^3H}$ の半減期を12年とすると、48年後には $\ce{^3H}$ の原子数が元の $\boxed{\text{X}}$ 分の1となる。
水素原子には $\ce{^1H}$、 $\ce{^2H}$、 $\ce{^3H}$ が存在するため、これらの水素原子を含む水分子には異なるもの、すなわち2個の $\ce{^1H}$ が1個の酸素原子 $\ce{^{16}O}$ と結合した水分子 A や、2個の $\ce{^3H}$ が1個の $\ce{^{16}O}$ と結合した水分子 B などが存在する。水分子 A からなる水に水分子 B からなる水を少量混合すると、水分子 A や水分子 B とは異なる水分子 C が生成する。また、水分子 A からなる水の沸点は、水分子 B からなる水の沸点に比べてわずかに低い。水分子 A からなる水に水分子 B からなる水を少量混合した後、この混合水の量が半分になるまで蒸留を行った。そのとき生成した蒸気を冷却してできた混合水(25℃)中の $\ce{^3H}$ の物質量は、同じ体積の元の混合水(25℃)と比べて $\boxed{\text{オ}}$ 。
問1. 文章中の $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{オ}}$ にあてはまる最も適切な語句を、次の(A)〜(L)の中から一つずつ選び記号で答えよ。
(A) 同素体 (B) 同位体 (C) 同族体
(D) 電子 (E) 陽子 (F) 中性子
(G) 水素 (H) ヘリウム (I) リチウム
(J) 多くなった (K) 少なくなった (L) 変わらなかった
問2. 文章中の $\boxed{\text{X}}$ にあてはまる適切な数値を整数で答えよ。また、水分子 C の構造式を以下の例にならって答えよ。
構造式の記入例
$\ce{^1H-^{16}O-^1H}$
問3. 蒸留操作では、対象とする液体を沸騰させるため、加熱する必要がある。25℃の水分子 A からなる水18 g を加熱し、すべてを100℃の水蒸気にするためには、何 kJ の熱量が必要か、有効数字2桁で答えよ。ただし、水分子 A からなる水の蒸発熱を41 kJ/mol、比熱を4.2 J/(g·K) とする。
(2) 黄銅鉱などから得られる粗銅は、電気分解を利用して高純度の銅 $\ce{Cu}$ に精錬される。不純物としてニッケル $\ce{Ni}$、銀 $\ce{Ag}$、金 $\ce{Au}$ のみを含み組成が均一である粗銅板を用いて精錬を行った。粗銅板に含まれる $\ce{Cu}$ と $\ce{Ag}$ の質量比は500:1、 $\ce{Ni}$ と $\ce{Au}$ の質量比は100:1であった。粗銅板および純銅板を電極として用い、2.00 A の電流を流し続けて硫酸銅(Ⅱ) $\ce{CuSO4}$ の硫酸酸性水溶液の電気分解を行ったところ、粗銅板の一部が溶解(a)して純銅板に銅が析出(b)した。このときに生じた沈殿物を分析したところ、 $\ce{Ag}$ が $2.54\times10^{-3}$ g、 $\ce{Au}$ が $5.87\times10^{-4}$ g 含まれていた。
問4. 下線部a)の粗銅板から溶出した $\ce{Ni}$ の質量は何 g か、有効数字3桁で答えよ。
問5. 下線部b)の純銅板に析出した $\ce{Cu}$ の質量は何 g か、有効数字3桁で答えよ。
問6. 電気分解に要した時間は何秒か、有効数字3桁で答えよ。ただし、ファラデー定数は、 $9.65\times10^4$ C/mol とする。
解答の方針
【問1(ア〜エ)の方針】
同位体は、陽子の数(原子番号)が同じで中性子の数が違う原子。β崩壊では原子核の中の中性子1個が陽子に変わり、質量数はそのままで原子番号が1増える(下の図)。


- (ア) 原子番号が同じで質量数が違う原子の名前を答える。
- (イ)(ウ)(エ) $\ce{^3H}$ の陽子・中性子の数を数え、β崩壊で中性子1個が陽子に変わったあとの粒子の数から、できる原子を決める。
【問1(オ)の方針】
重い水分子ほど沸点が高い。蒸留では、沸点の低い軽い水分子の方が蒸気になりやすい(下の図)。


- 本文の沸点の違いから、水分子Aと水分子Bのどちらが蒸気になりやすいかを決める。
- 蒸気を冷やしてできた水に含まれる $\ce{^3H}$ が、元の混合水より多いか少ないかを答える。
【問2の方針】
半減期は、原子の数が半分になるまでの時間。48年は半減期12年の4回分(下の図)。水分子Cは、Aの水とBの水の間で水素原子が入れかわってできる水分子。


- 48年が半減期の何回分かを求め、残る割合を $\left(\dfrac12\right)^{\text{回数}}$ で求める。
- 水分子Cの水素原子の組み合わせを決め、記入例にならって質量数を左上に書く。
【問3の方針】
状態変化の熱量は、加熱曲線を書いて区間に分ける。温度が上がる区間は比熱×質量×温度差(単位は J)、状態が変わる区間は蒸発エンタルピー×物質量(単位は kJ)なので、単位をそろえてから足す(下の図)。


- 25℃の水を100℃まで温める熱量を、比熱×質量×温度差で求めて kJ に直す。
- 100℃の水をすべて水蒸気にする熱量を、蒸発エンタルピー×物質量で求める。
- 2つを足して、有効数字2桁にする。
【問4の方針】
陽極では、銅よりイオン化傾向の大きい金属は溶け出し、小さい金属は陽極泥になる。組成が均一なので、陽極泥の量から溶けた部分の中身が決まる(下の図)。


- イオン化傾向から、 $\ce{Ni}$ ・ $\ce{Cu}$ は溶け出し、 $\ce{Ag}$ ・ $\ce{Au}$ は陽極泥になると決める。
- 陽極泥の $\ce{Au}$ の質量に、 $\ce{Ni}$ と $\ce{Au}$ の質量比100:1をかけて、溶け出した $\ce{Ni}$ の質量を求める。
【問5の方針】
陽極では銅だけでなくニッケルも電子を放出する。陰極に析出する銅は、陽極で放出された電子の合計で決まる(下の図)。


- 陽極泥の $\ce{Ag}$ の質量に、 $\ce{Cu}$ と $\ce{Ag}$ の質量比500:1をかけて、溶け出した $\ce{Cu}$ の質量を求め、物質量に直す。
- 溶け出した $\ce{Cu}$ と $\ce{Ni}$ の物質量から、陽極で放出された電子の物質量を求める。
- 陰極の反応式の係数から、析出した $\ce{Cu}$ の物質量と質量を求める。
【問6の方針】
流れた電子の物質量は問5 で求まっている。電子の物質量=電流×時間÷ファラデー定数の式を、時間について解くだけ。
- 問5 の電子の物質量を $e^-\,(\mathrm{mol})=\dfrac{I\times t}{F}$ に入れ、 $t$ を求める。
解答




解答をテキストで読む
問1
原子番号(陽子の数)が同じで、中性子の数が違うために質量数が違う原子どうしを、互いに同位体という。 $\ce{^3H}$ は陽子1個・中性子2個(質量数3)。
β崩壊では、原子核の中の中性子1個が陽子に変わり、電子(β線)が飛び出す。陽子2個・中性子1個になるので、質量数は3のまま原子番号が2になり、ヘリウム( $\ce{^3He}$ )の原子核に変わる(下の図)。
(オ) 水分子Bは水分子Aより重く、水分子Bからなる水の沸点はわずかに高い。混合水を蒸留すると、沸点の低い水分子Aの方が蒸気になりやすいので、蒸気には水分子Aが多く、水分子B・Cは元の混合水より少なくなる(下の図)。蒸気を冷やしてできた水の $\ce{^3H}$ の物質量は、同じ体積の元の混合水より少ない。
答(ア) (B) 同位体(2点)
答(イ) (F) 中性子(2点)
答(ウ) (E) 陽子(2点)
答(エ) (H) ヘリウム(2点)
答(オ) (K) 少なくなった(2点)
問2
半減期12年ごとに $\ce{^3H}$ の原子数は半分になる。48年は $\dfrac{48}{12}=4$ 回分なので(下の図)
$$\left(\dfrac12\right)^4=\dfrac{1}{16}\quad\text{(48年後に残る割合)}$$
答 $\mathbf{X}=16$(2点)
水分子Aの水( $\ce{^1H}$ が2個)に水分子Bの水( $\ce{^3H}$ が2個)を混ぜると、水分子の間で水素原子が入れかわり、 $\ce{^1H}$ と $\ce{^3H}$ を1個ずつ含む水分子Cができる。記入例にならって、質量数を元素記号の左上に書く。
答(水分子C) $\ce{^1H-^{16}O-^3H}$(3点)
問3
加熱曲線を書いて、①温度が上がる区間と②状態が変わる区間に分ける(下の図)。問題文の「蒸発熱」は、今の言葉では蒸発エンタルピー( $\Delta H=+41$ kJ/mol)。
水分子Aからなる水の分子量は $1.00\times2+16.0=18.0$ なので、18 g は1.00 mol。
① 25℃から100℃まで温める(比熱×質量×温度差、単位は J)
$$4.2\times18\times(100-25)=5670\ \mathrm{J}=5.67\ \mathrm{kJ}$$
② 100℃のまますべて水蒸気にする(蒸発エンタルピー×物質量、単位は kJ)
$$41\times1.00=41\ \mathrm{kJ}$$
単位を kJ にそろえて足すと
$$5.67+41=46.67\fallingdotseq47\ \mathrm{kJ}$$
液体の水が水蒸気になる変化は吸熱なので、変化全体のエンタルピー変化は $\Delta H=+47$ kJ。
答 47 kJ(ΔH=+47 kJ)(3点)
問4
陽極の粗銅では、銅と、銅よりイオン化傾向の大きい金属が酸化されて溶け出す。イオン化傾向は $\ce{Ni}>\ce{Cu}>\ce{Ag}>\ce{Au}$ なので、ニッケルは溶け出して $\ce{Ni^2+}$ のまま液に残り、銀・金は溶けずに落ちて陽極泥になる(下の図)。
$$\ce{Ni -> Ni^2+ + 2e-}\qquad\ce{Cu -> Cu^2+ + 2e-}$$
粗銅板の組成は均一なので、溶けた部分にも $\ce{Ni}$ と $\ce{Au}$ が100:1の質量比で含まれている。沈殿物(陽極泥)の $\ce{Au}$ $5.87\times10^{-4}$ g は、溶けた部分に含まれていた $\ce{Au}$ そのもの。よって溶け出した $\ce{Ni}$ は
$$100\times5.87\times10^{-4}=5.87\times10^{-2}\ \mathrm{g}\quad\text{(溶け出した Ni)}$$
答 $5.87\times10^{-2}$ g(2点)
問5
問4 と同じように、陽極泥の $\ce{Ag}$ $2.54\times10^{-3}$ g と、 $\ce{Cu}$ と $\ce{Ag}$ の質量比500:1から、溶け出した $\ce{Cu}$ は
$$500\times2.54\times10^{-3}=1.27\ \mathrm{g}\qquad\dfrac{1.27}{63.5}=0.0200\ \mathrm{mol}\quad\text{(溶け出した Cu)}$$
溶け出した $\ce{Ni}$ は
$$\dfrac{5.87\times10^{-2}}{58.7}=1.00\times10^{-3}\ \mathrm{mol}\quad\text{(溶け出した Ni)}$$
どちらも1 mol が溶けると電子2 mol を放出するので、陽極で放出された電子の物質量は
$$2\times(0.0200+0.00100)=0.0420\ \mathrm{mol}\quad\text{(流れた電子の物質量)}$$
低い電圧で電気分解しているので、陰極で還元されるのは $\ce{Cu^2+}$ だけ。 $\ce{Ni^2+}$ はイオンのまま液に残る。
$$\ce{Cu^2+ + 2e- -> Cu}$$
電子2 mol で $\ce{Cu}$ 1 mol が析出するので、析出した $\ce{Cu}$ は
$$0.0420\times\dfrac12=0.0210\ \mathrm{mol}\qquad0.0210\times63.5=1.3335\fallingdotseq1.33\ \mathrm{g}$$
陽極から溶け出した $\ce{Cu^2+}$ は0.0200 mol だけなので、陰極で使う0.0210 mol には0.00100 mol 足りない。足りない分は電解液の硫酸銅(Ⅱ)の $\ce{Cu^2+}$ が使われ、電解液の $\ce{Cu^2+}$ は0.00100 mol 減って、代わりに $\ce{Ni^2+}$ が0.00100 mol 増える。
答 1.33 g(3点)
問6
流れた電子の物質量は電流×時間÷ファラデー定数。
$$e^-\,(\mathrm{mol})=\dfrac{I\times t}{F}$$
問5 の0.0420 mol を入れて
$$0.0420=\dfrac{2.00\times t}{9.65\times10^4}$$
$$\begin{aligned}t&=\dfrac{0.0420\times9.65\times10^4}{2.00}\\&=2026.5\fallingdotseq2.03\times10^3\ \text{秒}\end{aligned}$$
答 $2.03\times10^3$ 秒(2点)
出題意図
問1・問2 同位体とβ崩壊での陽子・中性子の数の変化、半減期、同位体を含む水分子の種類と沸点の違いを理解できているか
問3 加熱曲線を思い浮かべ、温度が上がる区間と状態が変わる区間に分けて熱量を足せるか
問4 粗銅の不純物のゆくえをイオン化傾向で判断し、「組成が均一」から陽極泥の質量を溶けた部分の中身に結びつけられるか
問5・問6 陽極で溶けた銅とニッケルの両方が電子を放出し、その電子で陰極に銅が析出することを、電子の物質量でつなげられるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 12分 | 15分 |
前半の同位体・半減期・状態変化の熱量は基本の知識と計算で、全員が取ってくる所。
差がつくのは後半の電解精錬で、ここが2022年の合否を分けた所の1つ。
陽極で溶けた銅とニッケルが放出した電子の合計で陰極の銅が決まる、と電子の物質量でつなげられれば難しくない。
電気分解の量計算は、状況図を書いて誰が電子を放出し誰が受け取るかを決め、まず電子の物質量を求めること。
差がつく所・失点しやすい所
- 問4〜問6(電解精錬):この年の合否を分けた所の1つ。電解精錬が分からないと3つがまとめて解けない。
- 問5:陽極では $\ce{Cu}$ だけでなく $\ce{Ni}$ も電子を放出し、その電子でも陰極に $\ce{Cu}$ が析出する、という発想に行き着けるか。溶けた $\ce{Cu}$ と同じ1.27 g と答えると、そのまま問6 も $1.93\times10^3$ 秒になって5点を落とす。
- 問4:「組成が均一」から、陽極泥の $\ce{Au}$ の100倍が溶けた $\ce{Ni}$ だと読めるか。電解精錬の量計算は重要問題集に無い型で、陽極泥の質量から入る形に慣れていない受験生が多い。
2022年九州大学化学
第2問 解答・解説
第2問は理論化学(反応の速さと化学平衡)の問題です。
テーマは『ルシャトリエの原理』『圧平衡定数の計算』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。
気体物質である A、B、C の混合気体を容積一定の密閉容器に入れると、式①に示す化学反応が可逆的に起こり、やがて平衡状態に達する。なお、気体は理想気体として扱うものとする。
$\mathbf{A}\text{(気)}\ +\ \mathbf{B}\text{(気)}\ \ce{<=>}\ \mathbf{C}\text{(気)}$ … ①
異なる全圧 $P_1$、 $P_2$、 $P_3$〔Pa〕について、平衡状態における気体 C の体積百分率と温度の関係は図のようになった。
問1. $P_1$ と $P_3$ の大小関係を、不等号を用いて答えよ。
問2. 式①の右向きの反応(正反応)は、発熱反応あるいは吸熱反応のどちらであるか答えよ。
問3. 式①の反応の圧平衡定数 $K_{\mathrm{p}}$〔Pa⁻¹〕は、温度を上げると大きくなるか、あるいは小さくなるかを答えよ。
問4. 気体 A と B を密閉容器に入れて、温度を $T$〔K〕に保ったところ、平衡状態になった。このとき、全圧が $3.0\times10^5$ Pa であり、気体 A、B、C の物質量はすべて同じであった。圧平衡定数 $K_{\mathrm{p}}$〔Pa⁻¹〕を有効数字2桁で答えよ。
問5. 4.0 mol の気体 A と2.0 mol の気体 B を密閉容器に入れて、温度を $T$〔K〕に保ったところ、平衡状態になった。このとき、気体 C のモル分率は0.20であった。問4で求めた圧平衡定数の値を用いて、全圧〔Pa〕を有効数字2桁で答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
ルシャトリエの原理は、濃度と温度の2つに注目すれば迷わない。全圧が違う3本の曲線を比べるので、温度をそろえて縦に見れば、違いは全圧による濃度の差だけになる(下の図)。


- 全圧を上げると、状態方程式 $P=\dfrac nV RT$ より濃度が上がり、平衡は気体の分子数が減る右( C ができる向き)へ寄る。
- 同じ温度で3本の曲線を縦に比べ、 C の体積百分率が大きい順を読む。
- C が多いほど平衡が右に寄っている=全圧が高いと逆算して、 $P_1$ と $P_3$ の大小を決める。
【問2・問3の方針】
今度は全圧を固定して1本の曲線だけを見れば、変わっているのは温度だけ。圧平衡定数は温度だけで決まるので、同じ曲線の上で増減を考える(下の図)。


- (問2) 1本の曲線で温度を上げると C が減る=平衡は左へ寄る。温度を上げると吸熱の向きへ寄るので、左向きが吸熱、右向き(正反応)は発熱。
- (問3) $K_{\mathrm p}$ の定義の式を、全圧 $p$ と各物質の物質量・全物質量 $n$ で書き直す。
- 全圧が同じまま温度を上げると平衡は左へ寄り、 C の割合が減って A・B の割合が増えるので、 $K_{\mathrm p}$ の増減を決める。
【問4の方針】
分圧は全圧×モル分率。物質量がすべて同じなら、モル分率も分圧もすべて同じになる(下の図)。


- 全圧 $3.0\times10^5$ Pa を3等分して、各分圧を $1.0\times10^5$ Pa とする。
- $K_{\mathrm p}=\dfrac{p_{\mathrm C}}{p_{\mathrm A}\,p_{\mathrm B}}$ に代入する。
【問5の方針】
どれだけ反応したか分からないので、 $x$ mol 反応したとして状態遷移図を書く。合計の物質量まで書けば、 C のモル分率から $x$ が決まる(下の図)。


- 反応前・変化量・平衡の物質量と合計 $6.0-x$ を書く。
- C のモル分率 $\dfrac{x}{6.0-x}=0.20$ から $x$ を求め、各物質のモル分率を求める。
- 全圧を $p$ として、 $K_{\mathrm p}$ を全圧とモル分率で表し、問4の値 $1.0\times10^{-5}\ \mathrm{Pa^{-1}}$ と等しいとおいて $p$ を求める。
解答


解答をテキストで読む
問1
ルシャトリエの原理で、全圧の変化を濃度の変化に直して考える。状態方程式 $PV=nRT$ を $P=\dfrac nV RT$ と変形すると、温度が同じなら、全圧を上げることは濃度 $\dfrac nV$ を上げることになる。濃度が上がると、平衡は気体の分子数が減る向きへ寄る。式①は左辺が2分子、右辺が1分子なので右へ寄り、 C の割合が大きくなる。
グラフを同じ温度で縦に比べると、 C の体積百分率は $P_1$ の曲線がいちばん大きく、 $P_3$ の曲線がいちばん小さい(下の図)。
$P_1$ の方が平衡が右に寄っているので、逆算すると $P_1$ の方が全圧が高い。
答 $P_1>P_3$(4点)
問2
全圧が同じ1本の曲線で見ると、温度を上げるほど C の体積百分率が小さくなっている。つまり、温度を上げると平衡は左へ寄る(下の図)。
温度を上げると、平衡は吸熱の向きへ寄る。左向きが吸熱なので、右向き(正反応)は発熱反応(反応エンタルピー $\Delta H<0$ )。
答 発熱反応(4点)
問3
圧平衡定数の定義の式から始め、分圧を全圧 $p$ とモル分率で書き直す。全物質量を $n$ 、各物質の物質量を $n_{\mathrm A}$ ・ $n_{\mathrm B}$ ・ $n_{\mathrm C}$ とすると
$$\begin{aligned}K_{\mathrm p}&=\dfrac{p_{\mathrm C}}{p_{\mathrm A}\,p_{\mathrm B}}=\dfrac{\dfrac{n_{\mathrm C}}{n}\,p}{\dfrac{n_{\mathrm A}}{n}\,p\cdot\dfrac{n_{\mathrm B}}{n}\,p}\\&=\boxed{\dfrac{n_{\mathrm C}}{n_{\mathrm A}\,n_{\mathrm B}}}\cdot\dfrac{n}{p}\end{aligned}$$
分圧はモル分率で決まるので、 $K_{\mathrm p}$ は各物質の物質量の割合で決まる。平衡定数は温度だけで決まる値なので、全圧が同じ1本の曲線の上で温度を上げたときを考える。問2のとおり、温度を上げると平衡は左へ寄り、 C は減って A と B は増える。 C のモル分率 $\dfrac{n_{\mathrm C}}{n}$ は小さく、 A と B のモル分率は大きくなるので、同じ全圧 $p$ のまま $K_{\mathrm p}$ は小さくなる。
平衡が左に寄る温度の変化では平衡定数は小さくなり、右に寄る変化では大きくなる。
答 小さくなる(5点)
問4
分圧は全圧×モル分率。 A・B・C の物質量がすべて同じなので、モル分率はどれも $\dfrac13$ 、分圧もすべて同じになる(下の図)。
$$\begin{aligned}p_{\mathrm A}=p_{\mathrm B}=p_{\mathrm C}&=3.0\times10^5\times\dfrac13\\&=1.0\times10^5\ \mathrm{Pa}\end{aligned}$$
$$\begin{aligned}K_{\mathrm p}&=\dfrac{p_{\mathrm C}}{p_{\mathrm A}\,p_{\mathrm B}}\\&=\dfrac{1.0\times10^5}{1.0\times10^5\times1.0\times10^5}\\&=1.0\times10^{-5}\ \mathrm{Pa^{-1}}\end{aligned}$$
答 $1.0\times10^{-5}\ \mathrm{Pa^{-1}}$(6点)
問5
どれだけ反応したか分からないので、 A が $x$ mol 反応したとして状態遷移図を書く。係数はすべて1なので、 B も $x$ mol 減り、 C が $x$ mol できる。合計の物質量も書いておく(下の図)。
C のモル分率が0.20なので
$$\dfrac{x}{6.0-x}=0.20\qquad\therefore\ x=1.0\ \mathrm{mol}$$
平衡の物質量は A 3.0 mol、 B 1.0 mol、 C 1.0 mol(合計5.0 mol)で、モル分率は A 0.60、 B 0.20、 C 0.20。
温度は問4と同じ $T$ なので、 $K_{\mathrm p}$ も問4と同じ値。全圧を $p$ とし、分圧を全圧×モル分率で書くと
$$\begin{aligned}K_{\mathrm p}&=\dfrac{0.20\,p}{0.60\,p\times0.20\,p}\\&=\dfrac{1}{0.60\,p}=1.0\times10^{-5}\end{aligned}$$
$$\begin{aligned}p&=\dfrac{1}{0.60\times1.0\times10^{-5}}\\&=1.67\times10^5\ \mathrm{Pa}\end{aligned}$$
答 $1.7\times10^5$ Pa(6点)
別解
問1 ( $K_{\mathrm p}$ を全圧で書き直して比べる) 問3の式を、モル分率 $x_{\mathrm A}$ ・ $x_{\mathrm B}$ ・ $x_{\mathrm C}$ で書くと
$$\begin{aligned}K_{\mathrm p}&=\dfrac{x_{\mathrm C}\,p}{x_{\mathrm A}\,p\cdot x_{\mathrm B}\,p}\\&=\dfrac{x_{\mathrm C}}{x_{\mathrm A}\,x_{\mathrm B}}\cdot\dfrac1p\end{aligned}$$
同じ温度なら $K_{\mathrm p}$ は同じなので、 $\dfrac{x_{\mathrm C}}{x_{\mathrm A}\,x_{\mathrm B}}$ は全圧 $p$ に比例する。同じ温度で C の体積百分率( $x_{\mathrm C}$ )が大きい曲線ほど、この比も大きく、全圧が高い。よって $P_1>P_3$ 。
出題意図
問1・問2 グラフを「同じ温度で縦に」「1本の曲線で横に」読み、ルシャトリエの原理から逆算して全圧の大小と発熱・吸熱を決めることができるか
問3 平衡定数は温度だけで決まり、平衡が左に寄る温度の変化では小さくなることを説明できるか
問4・問5 状態遷移図とモル分率から、圧平衡定数を全圧で表して計算できるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 10分 | 12分 |
重要問題集にそのまま載っている問題で、2022年の5題の中でも特に易しい大問。
グラフは、同じ温度で縦に比べるか、1本の曲線で横に見るかを決めれば、あとはルシャトリエの原理を濃度と温度で追うだけ。
圧平衡定数は「定義どおり」「全圧とモル分率」「濃度平衡定数と $RT$ 」の3つの求め方を押さえておけば、どの形で聞かれても解ける。
どの学部も短い時間で満点を取り切りたい。
差がつく所・失点しやすい所
- 問5:差がつくとしたらここ。 $x$ mol 反応したとして状態遷移図を書き、合計の物質量 $6.0-x$ からモル分率を立て、圧平衡定数を全圧とモル分率で書く、という流れに行き着けるか。重要問題集の典型問題そのものなので、九大受験生ならほぼ全員が取ってくると考えたい。
2022年九州大学化学
第3問 解答・解説
第3問は無機化学・理論化学の問題です。
テーマは『塩素の発生』『リン酸の電離平衡』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章(1)と(2)を読み、問1〜問5に答えよ。
(1) 次亜塩素酸ナトリウム $\ce{NaClO}$ (a)を主成分とする洗浄剤は塩素系洗浄剤であり、漂白剤や殺菌剤として使われている。塩素系洗浄剤とは別に、塩酸を含む塩酸系(または酸系)洗浄剤も使われている。これらの塩素系と塩酸系の洗浄剤を混合すると、塩素が発生する。また、水道水の殺菌などに用いられる高度さらし粉(主成分は $\ce{Ca(ClO)2*2H2O}$ )も、塩酸を加えると塩素が発生する(b)。
問1. 下線部a)の化学式 $\ce{NaClO}$ における $\ce{Cl}$ の酸化数を答えよ。
問2. 下線部b)について、下に示した化学反応式における係数 $a$、 $b$、 $c$、および生成物 X の化学式を答えよ。
$$\begin{aligned}&\ce{Ca(ClO)2*2H2O}\ +\ a\,\ce{HCl}\\&\ \ce{->}\ \mathbf{X}\ +\ b\,\ce{H2O}\ +\ c\,\ce{Cl2 ^}\end{aligned}$$
問3. 塩素系および塩酸系の洗浄剤を、それぞれ表に示す次亜塩素酸ナトリウム水溶液と塩酸であるとする。これらを混合して発生する塩素の体積は、温度300 K、圧力 $1.0\times10^5$ Pa で何 L か、有効数字2桁で答えよ。ただし、発生する塩素はすべて気体になるものとし、気体定数 $R$ は $8.3\times10^3$ Pa·L/(mol·K) とする。また、どちらかの成分( $\ce{NaClO}$ または $\ce{HCl}$ )がなくなるまで、塩素が発生する反応のみが進行するものとし、未反応の成分は分解しないものとする。
表.洗浄剤に対応する水溶液
| 洗浄剤 | 水溶液 | 質量パーセント濃度〔%〕 | 水溶液の質量〔g〕 |
|---|---|---|---|
| 塩素系洗浄剤 | 次亜塩素酸ナトリウム水溶液 | 7.45 | 100 |
| 塩酸系洗浄剤 | 塩酸 | 10.0 | 100 |
(2) リン酸 $\ce{H3PO4}$ を水に溶かすと、式①〜③に示す3段階の電離平衡が成り立つ。
$\ce{H3PO4 <=> H+ + H2PO4-}$ … ①
$\ce{H2PO4- <=> H+ + HPO4^2-}$ … ②
$\ce{HPO4^2- <=> H+ + PO4^3-}$ … ③
リン酸水溶液の pH が4〜10の場合、 $\ce{H2PO4-}$ と $\ce{HPO4^2-}$ が主に存在し、 $\ce{H3PO4}$ と $\ce{PO4^3-}$ の割合は無視できるほど小さいため、ここでは式②の電離平衡のみを考えるものとする。また、式②の電離定数を $6.3\times10^{-8}$ mol/L(25℃)とし、水の電離平衡は無視できるものとする。必要な場合は、以下の数値を計算に用いよ。
$\log_{10}\sqrt{6.3}=0.40$ $\log_{10}\sqrt{63}=0.90$
$\log_{10}6.3=0.80$ $\log_{10}63=1.8$
問4. 0.10 mol のリン酸二水素ナトリウム $\ce{NaH2PO4}$ を水に溶解して1.0 L の水溶液(25℃)にしたときの pH を小数第1位まで答えよ。
問5. 0.10 mol/L の $\ce{NaH2PO4}$ 水溶液1.0 L に、ある体積の0.10 mol/L の水酸化ナトリウム $\ce{NaOH}$ 水溶液を加えた。このとき得られた水溶液中の $\ce{H2PO4-}$ と $\ce{HPO4^2-}$ の濃度が等しくなった。この水溶液(25℃)の pH を小数第1位まで答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
塩素は、塩化物イオンの −1 から過塩素酸イオンの +7 まで、いろいろな酸化数をとる。次亜塩素酸イオンは、そのはしごの +1 の段にある(下の図)。


- $\ce{NaClO}$ を $\ce{Na+}$ と $\ce{ClO-}$ に分け、ナトリウムを +1、酸素を −2 とする。
- 塩素の酸化数を $x$ とおき、化合物全体の電荷が0であることから $x$ を求める。
【問2の方針】
次亜塩素酸イオン(+1)と塩化物イオン(−1)が酸性の中で出会うと、間の 0 の塩素に集まる。高度さらし粉は $\ce{ClO-}$ を2個もつので、この反応が2回起こる(下の図)。


- 中心の反応 $\ce{ClO- + Cl- + 2H+ -> Cl2 + H2O}$ を書く。
- 高度さらし粉の $\ce{ClO-}$ は2個なので、中心の反応を2倍し、 $\ce{Cl-}$ と $\ce{H+}$ を塩酸で補う。
- 残った $\ce{Ca^2+}$ と $\ce{Cl-}$ から X を決め、結晶水も含めて水の係数を決める。
- 両辺の原子の数がつりあっているかを確かめる。
【問3の方針】
2つの物質が反応する量の問題は、まず両方を物質量に直し、係数の比と比べて少ない方がなくなると決める。発生する塩素の量は、なくなった方の物質量で決まる(下の図)。


- 次亜塩素酸ナトリウムと塩酸の反応式を書く。
- 水溶液の質量と質量パーセント濃度から、溶質の質量を求め、物質量に直す。
- 係数の比から、次亜塩素酸ナトリウムを使い切るのに要る塩化水素の物質量を求め、どちらがなくなるかを決める。
- なくなる方の物質量から塩素の物質量を求め、状態方程式で体積に直す。
【問4の方針】
まず、どのタイプの問題かを決める。問題の指示で式②だけを考えるので、 $\ce{H2PO4-}$ を1つの弱酸とみる「弱酸の電離」の問題になる(下の図)。


- $\ce{NaH2PO4}$ が完全に電離し、 $\ce{H2PO4-}$ の濃度が0.10 mol/L になることを確かめる。
- 式②の弱酸として、 $[\ce{H+}]=\sqrt{CK}$ で水素イオン濃度を求める。
- 電離度 $\alpha=\dfrac{[\ce{H+}]}{C}$ を求め、近似が成り立つことを確かめる。
- 与えられた対数の値を使って pH を求める。
【問5の方針】
$\ce{H2PO4-}$ と $\ce{HPO4^2-}$ が両方ある溶液は緩衝液で、pH は2つの比で決まる。電離定数の式を $[\ce{H+}]$ について解くと、比が1:1のとき $[\ce{H+}]$ は電離定数そのものになる(下の図)。


- 式②の電離定数の式を書き、 $[\ce{H+}]=K\times\dfrac{[\ce{H2PO4-}]}{[\ce{HPO4^2-}]}$ の形に直す。
- 2つの濃度が等しいので、比を1として $[\ce{H+}]$ を求める。
- 与えられた対数の値を使って pH を求める。
解答




解答をテキストで読む
問1
$\ce{NaClO}$ は $\ce{Na+}$ と次亜塩素酸イオン $\ce{ClO-}$ からできている。ナトリウムは +1、酸素は −2、化合物全体の電荷は0なので、塩素の酸化数を $x$ とおくと
$$(+1)+x+(-2)=0\qquad\therefore\ x=+1$$
塩素のオキソ酸は、次亜塩素酸 $\ce{HClO}$(+1)・亜塩素酸 $\ce{HClO2}$(+3)・塩素酸 $\ce{HClO3}$(+5)・過塩素酸 $\ce{HClO4}$(+7)で、酸素原子が1つ増えるごとに塩素の酸化数は2ずつ上がる。塩素酸を基準に、酸素が1つ多いものに「過」、1つ少ないものに「亜」、2つ少ないものに「次亜」を付ける。酸の強さは、塩素の酸化数が大きいほど強く、 $\ce{HClO4}>\ce{HClO3}>\ce{HClO2}>\ce{HClO}$ 。
塩素系の洗浄剤の $\ce{ClO-}$(+1)と、塩酸系の洗浄剤の $\ce{Cl-}$(−1)が出会うと、間の 0 の塩素 $\ce{Cl2}$ に集まる。これが問2・問3 の反応。
答 +1(3点)
問2
酸性の中で、次亜塩素酸イオンは電子を受け取って塩素に、塩化物イオンは電子を渡して塩素になる。
$$\ce{2ClO- + 4H+ + 2e- -> Cl2 + 2H2O}\qquad\ce{2Cl- -> Cl2 + 2e-}$$
2本を足して2で割ると、中心の反応になる(+1 と −1 が間の 0 に集まる)。
$$\ce{ClO- + Cl- + 2H+ -> Cl2 + H2O}$$
高度さらし粉 $\ce{Ca(ClO)2*2H2O}$ は $\ce{ClO-}$ を2個もつので、中心の反応を2倍する。要る $\ce{Cl-}$ 2個と $\ce{H+}$ 4個は塩化水素 $\ce{4HCl}$ から来る。 $\ce{4HCl}$ の $\ce{Cl-}$ 4個のうち2個は塩素になり、残りの2個は $\ce{Ca^2+}$ と組んで $\ce{CaCl2}$ になる(X)。水は、反応でできる2個と結晶水の2個で4個。
$$\ce{Ca(ClO)2*2H2O + 4HCl -> CaCl2 + 4H2O + 2Cl2}$$
両辺の原子の数を確かめると、Ca は1と1、O は $2+2=4$ と4、H は $4+4=8$ と $4\times2=8$ 、Cl は $2+4=6$ と $2+2\times2=6$ で、つりあっている。
同じ考え方で、ほかの2つも書ける。次亜塩素酸ナトリウムは $\ce{ClO-}$ が1個なので $\ce{NaClO + 2HCl -> NaCl + H2O + Cl2}$ (問3 の反応)。さらし粉 $\ce{CaCl(ClO)*H2O}$ は $\ce{ClO-}$ が1個で、 $\ce{Cl-}$ をもとから含むので塩化水素は2個でよく、 $\ce{CaCl(ClO)*H2O + 2HCl -> CaCl2 + 2H2O + Cl2}$ 。どれも全体は酸化還元反応だが、弱い酸の次亜塩素酸ができることが引き金なので、酸化マンガン(Ⅳ)と濃塩酸の製法とちがって加熱しなくても塩素が出る。
答 $a=4$(1点)
答 $b=4$(1点)
答 $c=2$(1点)
答 $\mathbf{X}=\ce{CaCl2}$(塩化カルシウム)(2点)
問3
反応式は、問2 の中心の反応に $\ce{Na+}$ と $\ce{Cl-}$ を足したもの。
$$\ce{NaClO + 2HCl -> NaCl + H2O + Cl2}$$
まず、それぞれの溶質を物質量に直す。 $\ce{NaClO}$ の式量は $23.0+35.5+16.0=74.5$ 、 $\ce{HCl}$ の分子量は $1.00+35.5=36.5$ なので
$$\dfrac{100\times\dfrac{7.45}{100}}{74.5}=0.100\ \mathrm{mol}\quad\text{(次亜塩素酸ナトリウムの物質量)}$$
$$\dfrac{100\times\dfrac{10.0}{100}}{36.5}\fallingdotseq0.274\ \mathrm{mol}\quad\text{(塩化水素の物質量)}$$
係数の比は物質量の比なので、次亜塩素酸ナトリウム0.100 mol を使い切るには、塩化水素が $0.100\times2=0.200$ mol あればよい。塩化水素は0.274 mol あって足りるので、少ない方の次亜塩素酸ナトリウムがなくなり、塩化水素が0.074 mol 残る(下の図)。
発生する塩素は次亜塩素酸ナトリウムと同じ0.100 mol。体積は状態方程式 $PV=nRT$ で求める。
$$\begin{aligned}V&=\dfrac{nRT}{P}=\dfrac{0.100\times8.3\times10^3\times300}{1.0\times10^5}\\&=2.49\ \mathrm{L}\ \ \text{(発生する塩素の体積)}\end{aligned}$$
答 2.5 L(6点)
問4
タイプを特定すると、これは弱酸の電離の問題。リン酸二水素ナトリウムは塩なので、水に溶けると完全に電離する。
$$\ce{NaH2PO4 -> Na+ + H2PO4-}$$
$\ce{H2PO4-}$ の濃度は $C=0.10$ mol/L 。問題の指示で式②だけを考えるので、 $\ce{H2PO4-}$ を電離定数 $K=6.3\times10^{-8}$ mol/L の弱酸とみる(下の図)。
弱酸の電離なので、水素イオン濃度は $\sqrt{CK}$ で求める。
$$\begin{aligned}[\ce{H+}]&=\sqrt{CK}=\sqrt{0.10\times6.3\times10^{-8}}\\&=\sqrt{63\times10^{-10}}=\sqrt{63}\times10^{-5}\ \mathrm{mol/L}\end{aligned}$$
近似を確かめる。 $\sqrt{63}\fallingdotseq7.9$ なので
$$\begin{aligned}\alpha&=\dfrac{[\ce{H+}]}{C}=\dfrac{7.9\times10^{-5}}{0.10}\\&=7.9\times10^{-4}\ll1\end{aligned}$$
で、近似は成り立つ。よって
$$\begin{aligned}\mathrm{pH}&=-\log_{10}(\sqrt{63}\times10^{-5})\\&=5-\log_{10}\sqrt{63}=5-0.90=4.1\end{aligned}$$
$6.3\times10^{-9}$ を $63\times10^{-10}$ と直すのは、指数を偶数にして、根号をはずしたときに $10^{-5}$ が残るようにするため。与えられた対数の値に $\log_{10}\sqrt{63}$ があるのも、この計算のため。
pH 4.1 では、下の図のとおり、リン酸は式②の範囲でほとんどすべて $\ce{H2PO4-}$ のまま。
実際の $\ce{NaH2PO4}$ 水溶液では、 $\ce{H2PO4-}$ が $\ce{H+}$ を受け取って $\ce{H3PO4}$ に戻る式①の逆向きの反応も起こる( $\ce{H2PO4-}$ は酸にも塩基にもなる)。そのため実際の pH は4.5前後になる。この問題は「式②の電離平衡のみを考える」と決めているので、指示どおり4.1と答える。
答 4.1(5点)
問5
$\ce{H2PO4-}$ と $\ce{HPO4^2-}$ が両方ある緩衝液。式②の電離定数の式を $[\ce{H+}]$ について解くと
$$K=\dfrac{[\ce{H+}][\ce{HPO4^2-}]}{[\ce{H2PO4-}]}\qquad\therefore\ [\ce{H+}]=K\times\dfrac{[\ce{H2PO4-}]}{[\ce{HPO4^2-}]}$$
2つの濃度は等しいので比は1で、水素イオン濃度は電離定数と等しい。
$$[\ce{H+}]=K=6.3\times10^{-8}\ \mathrm{mol/L}$$
$$\begin{aligned}\mathrm{pH}&=-\log_{10}(6.3\times10^{-8})\\&=8-\log_{10}6.3=8-0.80=7.2\end{aligned}$$
pH は2つの比だけで決まるので、加えた水酸化ナトリウムの濃度や体積は使わなくてよい(ちなみに、 $\ce{H2PO4- + OH- -> HPO4^2- + H2O}$ で半分の0.050 mol を中和したときなので、加えたのは0.50 L )。
答 7.2(6点)
別解
問2 (原子の数だけで決める)中心の反応を考えずに、両辺の原子の数をそろえる。X は Ca を含むので $\ce{CaCl2}$ とおくと、O について $2+2=b$ より $b=4$ 、H について $4+a=2b$ より $a=4$ 、Cl について $2+a=2+2c$ より $c=2$ 。本解と同じ。反応の中身を知らなくても係数は決まるが、X を決めるには塩化カルシウムができることを知っている必要がある。
問4 ( $C$ と $\alpha$ の表から導く)式②で、 $\ce{H2PO4-}$ のうち $\alpha$ の割合が電離すると、反応前 $C$ ・0・0、反応後 $C(1-\alpha)$ ・ $C\alpha$ ・ $C\alpha$ 。電離定数の式に入れて $K=\dfrac{C\alpha^2}{1-\alpha}$ 。 $1-\alpha\fallingdotseq1$ と近似すると $\alpha=\sqrt{\dfrac KC}$ 、 $[\ce{H+}]=C\alpha=\sqrt{CK}$ で、本解と同じ式になり pH 4.1。
問5 (濃度に直して入れる)加えた水酸化ナトリウムは0.050 mol(0.50 L)なので、混合後の体積は1.5 L。 $\ce{H2PO4-}$ も $\ce{HPO4^2-}$ も $\dfrac{0.050}{1.5}$ mol/L で等しく、電離定数の式に入れると $[\ce{H+}]=K$ で、本解と同じ7.2。同じ溶液の中の比なので、濃度に直さなくても結果は変わらない。
出題意図
問1 塩素のオキソ酸のイオンの中で、次亜塩素酸イオンの塩素の酸化数を求められるか
問2 次亜塩素酸イオンと塩化物イオンから塩素ができる反応をもとに、高度さらし粉と塩酸の反応式の係数を決められるか
問3 次亜塩素酸ナトリウムと塩化水素の物質量を比べて、どちらがなくなるかを決め、発生する塩素の体積を求められるか
問4 「式②だけを考える」という指示から、リン酸二水素ナトリウム水溶液を弱酸 $\ce{H2PO4-}$ の電離として扱い、pH を求められるか
問5 $\ce{H2PO4-}$ と $\ce{HPO4^2-}$ の濃度が等しい緩衝液では、水素イオン濃度が電離定数と等しくなることに気づけるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
塩素の漂白剤とリン酸の緩衝液を題材にした、知識と典型計算でできた大問。
無機は $\ce{ClO-}$(+1)と $\ce{Cl-}$(−1)が間の $\ce{Cl2}$ に集まる反応を1本押さえておけば、次亜塩素酸ナトリウムもさらし粉も高度さらし粉も同じ式で書ける。
2022年の合否を分けた所のもう1つが、後半のリン酸。
まず「弱酸の電離か、加水分解か、緩衝液か」を特定すれば、問4 は弱酸の電離、問5 は緩衝液と決まる。
重要問題集の電離平衡を白紙から再現できるまで仕上げておこう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問4:この年の合否を分けた所の1つ((2) のリン酸の電離平衡)。「式②のみを考える」という指示から、リン酸二水素ナトリウム水溶液を弱酸 $\ce{H2PO4-}$ の電離とみて $\sqrt{CK}$ に持ち込めるか。塩の水溶液なので加水分解や両性の扱いで迷うと方針が立たない。ここで差がつく(5点)。
- 問3:両方の物質量を求めてから、係数の比で少ない方を決められるか。塩化水素を基準にすると答えが変わる。
- 問5:比が1:1なら $[\ce{H+}]=K$ と気づき、水酸化ナトリウムの数値を使わずに済ませられるか。濃度・体積から計算しはじめると時間を使う。
コラム まぜるな危険 ― 塩素系の洗浄剤に酸を加えると何が起きるか
問題のリード文にあるとおり、塩素系の洗浄剤と酸性の洗浄剤を混ぜると塩素が発生する。家庭用の製品に「まぜるな 危険」と大きく書かれているのは、この反応のため。問2・問3 の反応式が、そのまま表示の理由になっている。


- 塩素系の洗浄剤はわざと塩基性にしてある:台所用の塩素系漂白剤の成分表示を見ると、次亜塩素酸ナトリウムのほかに水酸化ナトリウムが入っていて、液性は「アルカリ性」と書かれている。塩基性では、塩素は次亜塩素酸イオン $\ce{ClO-}$ の形で水に溶けたまま安定している。
- 酸を加えると塩素の形が変わる:pH が7.5くらいより酸性側になると、次亜塩素酸イオンは $\ce{H+}$ を受け取って次亜塩素酸 $\ce{HClO}$ になる。さらに強い酸性で塩化物イオンがあると、 $\ce{ClO- + Cl- + 2H+ -> Cl2 + H2O}$ の向きに進み、水に溶けきれない塩素が気体として出てくる。問5 で見た「pH で酸と酸のイオンの割合が決まる」のと同じ考え方で、塩素の形も pH で決まっている。
- 事故は実際に起きている:1987年には、浴室の掃除中に塩素系の洗浄剤と酸性タイプの洗浄剤を一緒に使い、発生した塩素が原因とみられる死亡事故が起きている。いまは家庭用品品質表示法の決まりで、塩素系の製品には「まぜるな 危険」「塩素系」の表示が義務づけられている。酸性タイプの製品の酸は、塩酸のほかにスルファミン酸やクエン酸などもある。
無機の反応式は、身近な製品の注意書きとセットで覚えると忘れにくい。「酸を加えると弱い酸が追い出される」「+1 と −1 が出会うと 0 に集まる」という2つの見方で、塩素が出る理由は説明しきれる。
2022年九州大学化学
第4問 解答・解説
第4問は有機化学の問題です。
テーマは『クメン法』『エステルの構造決定』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章(1)〜(6)を読み、問1〜問5に答えよ。なお、反応はすべて完全に進行し、副反応は起こらないものとする。構造式を答える際には記入例にならって答えよ。ただし、鏡像異性体は区別しないものとする。シス-トランス異性体の構造式を答える際には、置換基の配置の違いが分かるように答えよ。
構造式の記入例
(1) 化合物 A は、炭素原子、水素原子、酸素原子からなる有機化合物であり、分子量は288である。化合物 A 28.8 mg を完全燃焼させると、二酸化炭素74.8 mg、水18.0 mg が生成した。
(2) 化合物 A に対して、水酸化ナトリウム水溶液を用いて加水分解した後、十分に酸性にすると、3種類の化合物 B、C、D が得られた。
(3) 化合物 B、C、D に塩化鉄(Ⅲ)水溶液を加えたところ、C のみが紫色に呈色した。
(4) 化合物 B は環状化合物ではなく、不斉炭素原子をもつアルコールであった。化合物 B(0.1 mol)に対して、触媒作用を弱めたパラジウム触媒を用いて水素(0.1 mol)を付加させると、シス体である化合物 E のみが得られた。化合物 E(0.1 mol)に対して、さらにニッケル触媒を用いて水素(0.1 mol)を付加させると、化合物 F が得られた。
(5) アセチレンを赤熱した鉄管に通すと3分子が重合して化合物 G が得られた。化合物 G と分子式 $\ce{C3H6}$ の不飽和炭化水素をリン酸系触媒の存在下で反応させると化合物 H が得られた。化合物 H を酸素によって酸化したのち、希硫酸で分解すると化合物 C と分子式 $\ce{C3H6O}$ の化合物 I が得られた。
(6) シクロヘキセンを酸性の過マンガン酸カリウム水溶液で酸化すると化合物 D が得られた。化合物 D は、ナイロン66の原料として用いられる。
問1. 化合物 A の分子式を答えよ。
問2. 化合物 C、D、G、H、I の名称を答えよ。
問3. 化合物 A、E の構造式を答えよ。
問4. 化合物 F の構造異性体の中で、ヒドロキシ基を有するものは化合物 F を含めて何種類あるか答えよ。ただし、立体異性体は区別しないものとする。
問5. 化合物 B、C、D について、酸性の強いものから弱いものの順に記号(B、C、D)を使って答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
二酸化炭素の中の C と水の中の H がそのまま A の C と H。残りの質量が O。
- 二酸化炭素と水の質量から、C と H の質量を求め、O の質量は全体から引いて求める。
- 物質量の比から組成式を求める。
- 分子量288から分子式を求める。
【問2の方針】
(5) はベンゼンからフェノールとアセトンを同時につくるクメン法の流れそのもの、(6) は「ナイロン66 の原料」でアジピン酸と決まる。塩化鉄(Ⅲ)で紫色になる C がフェノールであることとも合う(下の図)。




- (5) の流れを、アセチレン→ベンゼン G→クメン H→フェノール C とアセトン I とたどる。
- (6) のシクロヘキセンの酸化で D をアジピン酸とする。
- (3) で C だけが呈色することと合うことを確かめ、名称を答える。
【問3の方針】
A はアジピン酸の2つのカルボキシ基にフェノールと B がエステル結合した形なので、分子式の引き算で B の分子式が決まる。水素1分子でシス体ができるのは、三重結合が鎖の内側にあるときだけ(下の図)。




- A+ $\ce{2H2O}$ =C+D+B から、B の分子式を求める。
- B の不飽和度から、三重結合1つと決める。水素1分子でシス体ができるので、三重結合は鎖の内側にある。
- 内側の三重結合をもつアルコールのうち、不斉炭素をもつものを B とする。
- アジピン酸の2つのカルボキシ基をフェノールと B のヒドロキシ基でエステルにして A を書く。
- B の三重結合に水素を1分子付けたシス形を E として書く。
【問4の方針】
F は E にさらに水素を付けた飽和のアルコールで、分子式は $\ce{C5H12O}$。ヒドロキシ基をもつものは、炭素5個の骨格(3通り)のどの炭素に OH を付けるかで数える(下の図)。


- F の分子式 $\ce{C5H12O}$ を確かめる。
- 炭素5個の骨格を、直鎖・枝分かれ1つ・枝分かれ2つの3通り書く。
- それぞれの骨格で、同じ形にならない OH の位置を数えて足す。
【問5の方針】
B はアルコール、C はフェノール、D はカルボン酸。炭酸と比べると、カルボン酸は炭酸より強く、フェノールは炭酸より弱い。アルコールはほとんど電離しない(下の図)。


- B・C・D の官能基を確かめる。
- カルボン酸>炭酸>フェノール>アルコールの順に当てはめる。
解答




解答をテキストで読む
問1
・C の質量: $74.8\times\dfrac{12.0}{44.0}=20.4$ mg
・H の質量: $18.0\times\dfrac{2.00}{18.0}=2.00$ mg
・O の質量: $28.8-20.4-2.00=6.40$ mg
$$\begin{aligned}\mathrm{C}:\mathrm{H}:\mathrm{O}&=\dfrac{20.4}{12.0}:\dfrac{2.00}{1.00}:\dfrac{6.40}{16.0}\\&=1.70:2.00:0.400=17:20:4\end{aligned}$$
組成式は $\ce{C17H20O4}$(式量288)。分子量も288なので、分子式は組成式と同じ。
答 $\ce{C17H20O4}$(3点)
問2
(5) はクメン法。アセチレン3分子を赤熱した鉄管に通すとベンゼン G ができる。G と分子式 $\ce{C3H6}$ のプロペンをリン酸系触媒で反応させるとクメン H(ベンゼン環にイソプロピル基が付いたもの)。H を酸素で酸化するとクメンヒドロペルオキシドになり、希硫酸で分解するとフェノール C とアセトン I( $\ce{C3H6O}$ )ができる(下の図)。C は (3) で塩化鉄(Ⅲ)水溶液により紫色になり、フェノール類であることと合う。
(6) は、シクロヘキセンを酸性の過マンガン酸カリウムで酸化すると、環の二重結合が切れて両側の炭素がカルボキシ基になり、アジピン酸 $\ce{HOOC-(CH2)4-COOH}$ ができる。アジピン酸はヘキサメチレンジアミンと縮合重合してナイロン66 になる(下の図)。
答 $\mathbf{C}=$ フェノール(2点)
答 $\mathbf{D}=$ アジピン酸(2点)
答 $\mathbf{G}=$ ベンゼン(2点)
答 $\mathbf{H}=$ クメン(2点)
答 $\mathbf{I}=$ アセトン(2点)
問3
A を水酸化ナトリウム水溶液で加水分解したあと酸性にすると、B・C・D の3つになる。D のアジピン酸はカルボキシ基を2つもつので、A は D の2つのカルボキシ基が C(フェノール)と B(アルコール)とそれぞれエステル結合をつくった形。エステル結合2つの加水分解には水が2分子入るので、分子式の引き算で B が決まる(下の図)。
B の分子式は $\ce{C5H8O}$。不飽和度は $\dfrac{2\times5+2-8}{2}=2$。B は環をもたないアルコールなので、不飽和度2は炭素どうしの結合に入っている。B は水素1分子でシス体 E になり、さらに水素1分子で飽和の F になるので、三重結合を1つもつ。
触媒作用を弱めたパラジウムを使うと、三重結合に水素が1分子だけ付いて二重結合で止まり、2つの H が同じ側から付くのでシス形ができる。シス・トランスの区別ができるのは、二重結合のどちらの炭素にも違う基が付くときだけ。三重結合が鎖の端( $\ce{HC#C-}$ )にあると、水素が付いて $\ce{CH2=CH-}$ になり、シス・トランスの区別ができない。よって三重結合は鎖の内側にある。
三重結合が鎖の内側にある $\ce{C5H8O}$ のアルコールは3つ。このうち不斉炭素をもつのは $\ce{CH3-C#C-CH(OH)-CH3}$(3-ペンチン-2-オール)だけなので、これが B(下の図)。
A は、アジピン酸の一方のカルボキシ基がフェノールと、もう一方が B とエステルをつくったもの(下の図、赤い破線が加水分解で切れるエステル結合)。分子式 $\ce{C17H20O4}$ とも合う。
答 $\mathbf{A}$:構造式は上の図(4点)
B の三重結合に水素を1分子付けると、2つの H が同じ側に付いたシス形の E(シス-3-ペンテン-2-オール)になる。E にニッケル触媒で水素をもう1分子付けると、二重結合も単結合になって F(2-ペンタノール)になる(下の図)。
答 $\mathbf{E}=$ シス形の $\ce{CH3-CH=CH-CH(OH)-CH3}$(構造式は上の図)(3点)
問4
F は $\ce{CH3-CH2-CH2-CH(OH)-CH3}$(2-ペンタノール)で、分子式は $\ce{C5H12O}$。ヒドロキシ基をもつ構造異性体は、炭素5個の骨格(直鎖・枝分かれ1つ・枝分かれ2つ)のどの炭素に OH を付けるかで決まる。骨格の左右が対称なので、同じ形になる位置は1つと数える(下の図)。
・直鎖(3通り):①1-ペンタノール・②2-ペンタノール(F)・③3-ペンタノール
・枝分かれ1つ(4通り):④2-メチル-1-ブタノール・⑤2-メチル-2-ブタノール・⑥3-メチル-2-ブタノール・⑦3-メチル-1-ブタノール
・枝分かれ2つ(1通り):⑧2,2-ジメチル-1-プロパノール
合わせて $3+4+1=8$ 種類。
答 8(3点)
問5
D はカルボン酸、C はフェノール、B はアルコール。カルボン酸は炭酸水素ナトリウムと反応して二酸化炭素を発生させるので炭酸より強い。フェノールは炭酸水素ナトリウムとは反応しないので炭酸より弱い。アルコールは水溶液中でほとんど電離せず、水酸化ナトリウムとも反応しないので、フェノールよりさらに弱い(下の図)。
答 D>C>B(2点)
出題意図
問1 燃焼で生じた二酸化炭素と水の質量から、分子式を求められるか
問2 クメン法とシクロヘキセンの酸化の流れから、加水分解で生じた化合物を決められるか
問3 分子式の引き算で残りの化合物の分子式を求め、シス体ができることと不斉炭素から構造を1つに決められるか
問4 炭素数5のアルコールを、炭素骨格ごとに漏れなく数えられるか
問5 カルボン酸・フェノール・アルコールの酸の強さを比べられるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
クメン法・アジピン酸・元素分析の知識で半分が埋まる、九大の有機としてオーソドックスな構造決定。
差がつくのは B の決め方で、分子式を引き算で求め、「シス体ができる=三重結合が鎖の内側」と言い切れれば一気に解ける。
異性体の数え上げは、骨格ごとに番号を振る手順を決めておけば落とさない。
どの学部も20点は取りたい大問。
差がつく所・失点しやすい所
- 問3:分子式の引き算で B= $\ce{C5H8O}$ を求め、「シス体ができる」から三重結合が鎖の内側にある、という発想に行き着けるか。ここを越えないと A・E が書けず、問4 の F もあいまいになる(7点)。
- 問4:$\ce{C5H12O}$ のアルコールを、炭素骨格ごとに OH の位置を数える手順で漏れなく8種類数えられるか。
2022年九州大学化学
第5問 解答・解説
第5問は高分子化合物(アミノ酸・タンパク質)の問題です。
テーマは『ペプチドの配列決定』『等電点と電気泳動』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。構造式を答える際には記入例にならって答えよ。
構造式の記入例
図に示すペプチド A は、8個のアミノ酸が縮合しており、表に示す6種類の $\alpha$-アミノ酸から構成されている。このペプチド A の N 末端からのアミノ酸配列の順序を決定するために実験1〜実験8を行った。なお、N 末端、C 末端とはペプチド鎖の末端であり、図に示すように、それぞれペプチド結合を形成していない遊離のアミノ基とカルボキシ基をさす。①〜⑦は、N 末端からのペプチド結合の位置を示す。
実験1:ペプチド A の N 末端のアミノ酸を分析するとアミノ酸 B であることがわかった。
実験2:アミノ酸 B をメタノール中で少量の濃硫酸を加えて加熱したところ、分子量が28大きい化合物 C を生じた。
実験3:芳香族アミノ酸のカルボキシ基側のペプチド結合を特異的に切断する酵素を用いてペプチド A を加水分解すると、3種類のペプチド D、E、F が生成した。
実験4:ペプチド D、E、F を分析すると、ペプチド D と F はトリペプチド、ペプチド E はジペプチドであることがわかった。
実験5:ペプチド E の組成式は $\ce{C10H20N2O3}$ であり、ペプチド E を完全に加水分解すると、1種類のアミノ酸 G のみが検出された。
実験6:ペプチド D を完全に加水分解すると、アミノ酸 B が含まれていた。
実験7:ペプチド D を完全に加水分解して得られたアミノ酸の混合水溶液に対して、pH 6.0の緩衝液に浸したろ紙を使って電気泳動を行った。その結果、アミノ酸 H が陰極側に移動した。
実験8:ペプチド F を部分的に加水分解すると2種類のジペプチドが得られ、いずれにも不斉炭素原子を持たないアミノ酸が含まれていた。
問1. 実験2で生じた化合物 C の構造式を答えよ。
問2. 実験5で生じたアミノ酸 G の名称を答えよ。
問3. ペプチド D を構成する3個のアミノ酸の名称をすべて答えよ。
問4. 図に示すペプチド結合①〜⑦のうち、実験3で切断されるペプチド結合の番号をすべて答えよ。
問5. ペプチド A を構成するアミノ酸の配列順序を答えよ。ただし、N 末端を左側にして右側の C 末端に向かう順番に並べ、表に示したアミノ酸の名称の頭文字を使って答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
メチルエステル化では、 $-\ce{COOH}$ の H が $\ce{CH3}$ に置きかわるので、1か所あたり分子量が14増える。28増えたならエステル化は2か所(下の図)。


- メチルエステル化1か所で分子量が14増えることから、+28 はエステル化2か所と読む。
- 表の6種類のうち、カルボキシ基を2つもつのはアスパラギン酸なので、B はアスパラギン酸。
- 2つのカルボキシ基をどちらも $-\ce{COOCH3}$ にした構造式を、記入例の形で書く。
【問2の方針】
ジペプチドはアミノ酸2分子から水1分子が取れたもの。組成式に水を1分子足して2で割れば、もとのアミノ酸の分子式に戻る。
- E( $\ce{C10H20N2O3}$ )に $\ce{H2O}$ を足して $\ce{C10H22N2O4}$ とし、2で割って G の分子式 $\ce{C5H11NO2}$ を求める。
- 表の側鎖から、分子式が $\ce{C5H11NO2}$ になるアミノ酸を選ぶ。
【問3〜問5の方針】
酵素はフェニルアラニンのカルボキシ基側で切るので、切れてできた断片はフェニルアラニンで終わる。そうでない断片は C 末端を含む(下の図)。


- 実験5 から E はバリン2個のジペプチド。フェニルアラニンで終わらないので、E は C 末端の7・8番目。
- 実験6 から D は N 末端のアスパラギン酸を含むので1〜3番目、残りの F が4〜6番目。D と F はどちらもフェニルアラニンで終わるので、3番目と6番目がフェニルアラニン。切れるのはそのカルボキシ基側の結合③・⑥(問4)。
- 残りのアミノ酸はリシン・システイン・グリシン。実験7 で pH 6.0 のとき陰極へ動くのは等電点が6.0 より大きいリシンなので、D の2番目はリシン(問3)。
- F はシステイン・グリシン・フェニルアラニン。実験8 で2つのジペプチドのどちらにもグリシンが入るので、グリシンが真ん中の5番目、システインが4番目(問5)。
解答


解答をテキストで読む
問1
カルボキシ基をメタノールと濃硫酸で加熱すると、エステル化が起こる。
$$\ce{R-COOH + CH3OH -> R-COOCH3 + H2O}$$
$-\ce{COOH}$ の H が $\ce{CH3}$ に置きかわるので、1か所あたり分子量は $\ce{CH2}$ の分の14増える(下の図)。
B の分子量が28増えたので、エステル化されたカルボキシ基は $\dfrac{28}{14}=2$ か所。表の6種類のうち、主鎖のほかに側鎖にもカルボキシ基をもつのはアスパラギン酸だけなので、B はアスパラギン酸(分子量133)。2つのカルボキシ基がどちらもメチルエステルになったものが C(分子量161)。
答 $\ce{CH3OCO-CH2-CH(NH2)-COOCH3}$(構造式は上の図)(5点)
問2
E はジペプチドなので、アミノ酸2分子から水1分子が取れたもの。水を1分子足すと
$$\ce{C10H20N2O3 + H2O -> C10H22N2O4}$$
1種類のアミノ酸 G だけが検出されたので、G は同じアミノ酸2分子で、分子式は $\ce{C10H22N2O4}$ の半分の $\ce{C5H11NO2}$。側鎖が $\ce{C3H7}$ になるのは $-\ce{CH(CH3)2}$ のバリン(分子量117)。E はバリンが2個つながったジペプチド(分子量 $117\times2-18=216$ )。
答 バリン(4点)
問3
実験3 の酵素は、フェニルアラニンのカルボキシ基側のペプチド結合を切る。切れてできた断片の右端(C 末端の側)は、ペプチド A の C 末端を含む断片を除いて、すべてフェニルアラニンになる。
・E(バリン・バリン)はフェニルアラニンで終わらないので、ペプチド A の C 末端を含む断片で、7・8番目
・D は N 末端のアスパラギン酸(実験1・実験6)を含むので1〜3番目。残りの F が4〜6番目
・D も F もフェニルアラニンで終わるので、3番目と6番目がフェニルアラニン
8個のうち、ここまでで決まったのはアスパラギン酸・フェニルアラニン2個・バリン2個。残りはリシン・システイン・グリシンで、このうち1つが D の2番目、2つが F の4・5番目に入る。
実験7 では、D を加水分解したアスパラギン酸・フェニルアラニン・2番目のアミノ酸を pH 6.0 で電気泳動している。pH が等電点より小さいアミノ酸は陽イオンが多く、陰極へ動く(下の図)。
等電点が6.0 より大きいのは塩基性アミノ酸のリシン(9.7)だけ。アスパラギン酸(2.8)とフェニルアラニン(5.5)は陽極へ動くので、陰極へ動いた H はリシンで、D の2番目はリシン。D はアスパラギン酸-リシン-フェニルアラニン。
(順不同)
答 アスパラギン酸(2点)
答 リシン(2点)
答 フェニルアラニン(2点)
問4
フェニルアラニンは3番目と6番目にあり、そのカルボキシ基側のペプチド結合は、N 末端から数えて③と⑥(下の図)。
答 ③、⑥(4点)
問5
F は4〜6番目で、システイン・グリシン・フェニルアラニンからなり、6番目がフェニルアラニン。F を部分的に加水分解すると、4・5番目と5・6番目の2種類のジペプチドができる。どちらにも不斉炭素原子をもたないアミノ酸(グリシン)が含まれるので、グリシンは2つに共通する5番目。残るシステインが4番目。
N 末端から、アスパラギン酸-リシン-フェニルアラニン-システイン-グリシン-フェニルアラニン-バリン-バリン。
答 アリフシグフババ(6点)
出題意図
問1 分子量の増え方(+28)から、エステル化された場所の数を読み取り、N 末端のアミノ酸を決めることができるか
問2 ジペプチドの組成式に水1分子を足して、もとのアミノ酸の分子式に戻すことができるか
問3・問4 酵素がどこで切るかという条件から、切れた3つの断片がペプチド A のどこに当たるかを決めることができるか
問5 電気泳動と部分加水分解の結果を、等電点と不斉炭素原子の有無に結びつけて、残りのアミノ酸の位置を決めることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
配列決定の典型問題で、使う知識は高分子の基本(エステル化での分子量の増え方・等電点と電気泳動・グリシンだけ不斉炭素原子がない)だけ。
山場は、酵素の切る位置から断片の並びを決める所。
配列決定は「条件を1つずつ、8個のマスに書きこむ」と決めて解けば、パズルのように見えても必ず1通りに決まる。
条件の読み方まで白紙から再現できるように練習しておこう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問3〜問5:「切れた断片はフェニルアラニンで終わる」から、E が C 末端の断片だという発想に行き着けるか。これが決まれば D・F の位置とフェニルアラニンの位置が一度に決まり、リシン・グリシンを埋めるだけになる。逆にここで止まると、問3〜問5 の16点がまとめて落ちる。配列決定の典型問題だが、条件を1つずつ8個のマスに書きこむ練習をしていない受験生が多く、大きく差がつく。
- 問1:+28 を「メチルエステル化1か所で+14、それが2か所」と捉えられるか。カルボキシ基1つ分の変化を+14 と出せないと、B がアスパラギン酸だと決まらない。
2022年九州大学・化学の
講評とまとめ
5問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 標準 | 20点 | 20点 |
| 第2問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 第3問 | 標準 | 20点 | 20点 |
| 第4問 | やや簡単 | 20点 | 20点 |
| 第5問 | 標準 | 20点 | 20点 |
| 全体 | 標準 | 105点 | 85点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で85点)にはなりません。
全体的に難易度は標準的な年。
第2問・第4問を中心に、かなり解きやすいセットでした。
旧課程の年ですが、熱化学方程式の計算は出ていません。
この年の合否を分けたのは、第1問の後半の銅の電解精錬と、第3問の後半のリン酸の電離平衡の2か所でした。
電解精錬は、陽極で溶けた銅とニッケルが放出した電子の合計で陰極の銅が決まると、電子の物質量でつなげられたかが決め手です。
リン酸は「式②のみを考える」という指示から、弱酸の電離と緩衝液を見抜けたかで差がつきました。
どちらも分からないと、後ろの小問がまとめて落ちます。
第2問は重要問題集の典型問題そのもので、どの学部も満点を取りたい大問です。
第4問はクメン法とアジピン酸の知識で半分が埋まる、オーソドックスな構造決定です。
第5問はペプチドの配列決定で、条件を1つずつ8個のマスに書きこめば必ず1通りに決まります。
九大の化学は大問5題を75分で解くので、1つの大問に15分以上かけないことが大事です。
解く流れ
第1問 → 第2問 → 第3問 → 第4問 → 第5問。
2022年九州大学・化学に
関するよくある質問
2022年の九州大学・化学について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2022年の九州大学・化学は難しかった?
-
全体的に難易度は標準的な年でした。
第1問・第3問・第5問は標準、第2問・第4問はやや簡単です。
第2問は重要問題集の典型問題そのもの、第4問はオーソドックスな構造決定で、かなり解きやすい年でした。 - 2022年の九州大学・化学は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で85点です(125点満点)。
- 2022年の九州大学・化学はどこで差がつく?
-
この年の合否を分けたのは第1問の電解精錬と第3問のリン酸の電離平衡で、差がついたのは次の3つでした。
- 第1問 問4〜問6:陽極で溶けた銅とニッケルが放出した電子の合計で陰極の銅が決まる、と電子の物質量でつなげられたか。
- 第3問 問4・問5:「式②のみを考える」という指示から、問4 を弱酸の電離、問5 を緩衝液と見抜けたか。
- 第5問 問3〜問5:「切れた断片はフェニルアラニンで終わる」から、E を C 末端の断片と決められたか。
- 2022年の九州大学・化学は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:理論化学(物質の構成粒子)・無機化学
- 第2問:理論化学(反応の速さと化学平衡)
- 第3問:無機化学・理論化学
- 第4問:有機化学
- 第5問:高分子化合物(アミノ酸・タンパク質)




