【解説・配点付き】2018年九州大学化学の解答・解説
2018年の九州大学・化学の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2018年九州大学化学
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は理論化学(酸化・還元と電池・電気分解)・無機化学の問題です。
テーマは『水と過酸化水素』『酸化還元滴定』。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問1〜問6に答えよ。
問1. $\ce{H2O}$ に関する次の文章から誤っているものをすべて選び、(A)〜(E)の記号で答えよ。
(A) $\ce{H2O}$ の沸点が $\ce{HF}$ の沸点よりも高い理由は $\ce{O-H}$ 結合の方が $\ce{F-H}$ 結合よりも極性が大きいためである。
(B) $\ce{H2O}$ は酸としても塩基としても働く。
(C) $\ce{H2O}$ の分子は折れ線型の構造である。
(D) $\ce{H2O}$ は融解や沸騰はするが、昇華することはない。
(E) $\ce{H2}$ と $\ce{O2}$ を常温・常圧で混合するだけでは $\ce{H2O}$ が生成しない理由はこの反応が吸熱反応だからである。
問2. 同じ元素の同位体どうしは質量が異なるが、その化学的性質はほぼ同じである。例えば、水素の主な同位体には $\ce{^1H}$ と $\ce{^2H}$ があり、酸素の主な同位体には $\ce{^{16}O}$ と $\ce{^{18}O}$ がある。同体積の $\ce{^1H2^{18}O}$ と $\ce{^2H2^{16}O}$ を混合し、密閉容器に入れて液体状態で25℃を24時間保った。
(1) この混合液中には何種類の水分子が存在するかを答えよ。同位体の種類にもとづいて水分子を分類すること。
(2) この混合液中に存在する水分子のなかで、2番目に分子量が大きいものに含まれる中性子の総数を答えよ。
問3. 過酸化水素の電子式を記入例にならって記せ。
記入例:アンモニア ただし、・は電子を表す。
問4. 過酸化水素は水中で以下のように電離する。濃度2.20 mol/L の過酸化水素水中の $\ce{H3O+}$ の濃度を有効数字2桁で求めよ。導出の過程も書け。なお、過酸化水素の電離定数は $2.20\times10^{-12}$ mol/L とする。
$\ce{H2O2 + H2O <=> HO2- + H3O+}$
問5. 濃度2.20 mol/L の過酸化水素水5.00 mL を希硫酸の添加により酸性にして、濃度 $8.00\times10^{-2}$ mol/L の過マンガン酸カリウム水溶液を加える反応において、過酸化水素がすべて消費されるために必要な過マンガン酸カリウム水溶液の体積(mL)を有効数字2桁で求めよ。導出の過程も書け。
問6. 硫酸酸性水溶液中における過酸化水素とヨウ化カリウムとの反応の化学反応式を示せ。
解答の方針
【問1の方針】
「すべて」選ぶ正誤は、文の後半の「理由」まで正しいかを1つずつ確かめる。(A) は水素化合物の沸点のグラフ(下の図)の「 $\ce{H2O}$ が一番高い理由」、(D) は状態図、(E) は活性化エネルギーの山で判定する。


- (A) は、 $\ce{H2O}$ と $\ce{HF}$ の沸点の差が水素結合の数で決まることから、理由が正しいかを判定する。
- (B) はブレンステッドの定義( $\ce{H+}$ を与えるか受け取るか)で、(C) は電子式から分子の形を決めて判定する。
- (D) は水の状態図で、三重点より低い圧力で氷がどう変わるかを見て判定する。
- (E) は、水の生成が発熱か吸熱かと、常温で進まない原因が活性化エネルギーであることから判定する。
- 誤っているものをすべて答える。
【問2の方針】
「全部で何種類か」は場合の数で数える。24時間のうちに H が分子の間で入れかわるので、水素の組み合わせ3通り×酸素2通り(下の図)。2番目に重い分子は分子量を並べて決める。


- (1) は、水素の組( $\ce{^1H}$ を2個・1個・0個使う3通り)と酸素( $\ce{^{16}O}$・ $\ce{^{18}O}$ の2通り)をかけ合わせて、種類の数を求める。
- 6種類の分子量を質量数の和で求めて並べ、2番目に大きい分子を決める。
- (2) は、その分子の中性子の数を「質量数−陽子の数」で原子ごとに求めて足す。
【問3の方針】
電子式は覚えるのではなく、「電子の総数は変わらない」「各原子は希ガスの電子配置」の2つのルールから作る。過酸化水素は O どうしが結合している。
- 結合前の価電子を数え、総数が14個であることを確かめる。
- H−O−O−H のつながりで、各 H のまわりが2個、各 O のまわりが8個になるように、共有電子対と非共有電子対を置く。
- 記入例の点の打ち方にそろえて書く。
【問4の方針】
過酸化水素は弱酸と同じように一部だけ電離する。濃度 $c$ と電離度 $\alpha$ で電離の前後を書き(下の図)、 $1-\alpha\fallingdotseq1$ と近似したら、最後に $\alpha$ で近似を確かめる。


- 電離前と平衡の濃度を $c$ と $\alpha$ で書く。水は電離定数の式に入れない。
- 電離定数の式に入れ、 $1-\alpha\fallingdotseq1$ と近似して $\alpha$ を求め、 $[\ce{H3O+}]=c\alpha=\sqrt{cK}$ を求める。
- $\alpha$ を計算し、1よりはるかに小さいことを確かめて、有効数字2桁で答える。
【問5の方針】
酸化還元滴定の量的関係は「酸化剤の受け取る $\ce{e-}$ =還元剤の与える $\ce{e-}$」の1本で決まる。過酸化水素はふつう酸化剤だが、相手が過マンガン酸カリウムのときだけ還元剤になる(下の図)。


- 状況図を書き、酸化剤が $\ce{KMnO4}$ 、還元剤が $\ce{H2O2}$ であることを確かめる。
- 半反応式を書き、 $\ce{MnO4-}$ は1個で電子を5個受け取り、 $\ce{H2O2}$ は1個で電子を2個与えると読む。
- 過マンガン酸カリウム水溶液の体積を $V$ mL とおいて電子の式を立て、 $V$ を求める。
【問6の方針】
今度の相手のヨウ化カリウムは還元剤なので、過酸化水素は本来の酸化剤として働く(下の図)。化学反応式は半反応式2本から作り、省いたイオンは何由来かを考えて補う。


- $\ce{H2O2}$(酸化剤)と $\ce{I-}$(還元剤)の半反応式を書く。
- 電子の数をそろえて足し、イオン反応式にする。
- $\ce{H+}$ は硫酸由来、 $\ce{I-}$ はヨウ化カリウム由来なので、両辺に $\ce{2K+}$ と $\ce{SO4^2-}$ を足して化学反応式にする。
解答




解答をテキストで読む
問1
(A) 誤り。 $\ce{H2O}$・ $\ce{HF}$・ $\ce{NH3}$ の沸点が分子量のわりに高いのは、分子間に水素結合がはたらくから。その中で $\ce{H2O}$ が一番高いのは、1分子あたりの水素結合の数が $\ce{H2O}$ は2本、 $\ce{HF}$ と $\ce{NH3}$ は1本で、 $\ce{H2O}$ の方が多いからである(下の図)。結合の極性は、電気陰性度の大きい F と結合した F−H の方が O−H より大きく、水素結合1本の強さも $\ce{HF}$ の方が強い。理由が逆になっている。
(B) 正しい。 $\ce{NH3}$ に対しては $\ce{H+}$ を与えて酸( $\ce{H2O + NH3 <=> NH4+ + OH-}$ )、 $\ce{HCl}$ に対しては $\ce{H+}$ を受け取って塩基( $\ce{HCl + H2O -> H3O+ + Cl-}$ )として働く。
(C) 正しい。O のまわりには共有電子対2組と非共有電子対2組の計4組があり、互いに遠ざかるので、折れ線形になる。
(D) 誤り。大気圧では氷は融解してから沸騰するが、三重点(約 $6.1\times10^2$ Pa)より低い圧力では、氷は液体を通らずに直接気体になる(下の図)。冬の霜が溶けずに消えることや、食品の凍結乾燥がこの昇華である。
(E) 誤り。水の生成は発熱反応(液体の水の生成エンタルピーは $-286$ kJ/mol)。常温・常圧で混ぜるだけで水ができないのは、活性化エネルギーが大きく、その山を越えられる分子がほとんどないから(下の図)。点火したり白金を触媒に使ったりすると、一気に反応が進む。
答 (A)・(D)・(E)(4点)
問2 (1)
全部で何種類かを聞かれているので、場合の数で数える。 $\ce{^1H2^{18}O}$ と $\ce{^2H2^{16}O}$ を混ぜて24時間保つと、水分子どうしで $\ce{H+}$ がやりとりされ( $\ce{2H2O <=> H3O+ + OH-}$ とその逆)、H は分子の間で入れかわる。そのため $\ce{^1H}$ と $\ce{^2H}$ を1個ずつもつ分子もできる。
水素の組は「 $\ce{^1H}$ を何個使うか」で決まり、2個・1個・0個の3通り( $\ce{^1H^2H}$ と $\ce{^2H^1H}$ は同じ分子)。酸素は $\ce{^{16}O}$ と $\ce{^{18}O}$ の2通りで、どちらも液の中にある(下の図)。
$$3\times2=6$$
答 6種類(2点)
問2 (2)
分子量は質量数の和で比べる。最も大きいのは $\ce{^2H2^{18}O}$ の $2+2+18=22$ 、2番目は $\ce{^1H^2H^{18}O}$ の $1+2+18=21$ 。20 は $\ce{^2H2^{16}O}$ と $\ce{^1H2^{18}O}$ の2つが重なるが、2番目の21は1つに決まる。
中性子の数は「質量数−陽子の数」。 $\ce{^1H}$ は $1-1=0$ 、 $\ce{^2H}$ は $2-1=1$ 、 $\ce{^{18}O}$ は $18-8=10$ なので
$$0+1+10=11$$
答 11個(2点)
問3
電子式は、電子の総数を変えずに、各原子のまわりが希ガスの電子配置になるように書く。価電子は H が1個、O が6個なので、総数は $1\times2+6\times2=14$ 個。H−O−O−H とつなぐと、共有電子対が3組(6個)。残りの8個を非共有電子対として2つの O に2組ずつ置くと、各 H のまわりは2個(He と同じ)、各 O のまわりは8個(Ne と同じ)になる(下の図)。
O どうしが共有電子対1組で結合しているのが、水とのちがい。O の酸化数は −1 で、これが問5・問6 で過酸化水素が酸化剤にも還元剤にもなる理由になる。
答 上の図の電子式(3点)
問4
過酸化水素は弱酸と同じように、ごく一部だけ電離する。濃度を $c=2.20$ mol/L、電離度を $\alpha$ として、電離前と平衡の濃度を書く(下の図)。水は量がほぼ変わらないので、電離定数の式には入れない。
$$K=\dfrac{[\ce{HO2-}][\ce{H3O+}]}{[\ce{H2O2}]}=\dfrac{c\alpha\times c\alpha}{c(1-\alpha)}=\dfrac{c\alpha^2}{1-\alpha}$$
$\alpha$ は1よりはるかに小さいと考えて $1-\alpha\fallingdotseq1$ と近似すると、 $K=c\alpha^2$ より
$$\alpha=\sqrt{\dfrac{K}{c}},\qquad[\ce{H3O+}]=c\alpha=\sqrt{cK}$$
数値を入れると
$$[\ce{H3O+}]=\sqrt{2.20\times2.20\times10^{-12}}=2.20\times10^{-6}\ \mathrm{mol/L}$$
近似を使ったので、 $\alpha$ を計算して確かめる。
$$\alpha=\dfrac{[\ce{H3O+}]}{c}=\dfrac{2.20\times10^{-6}}{2.20}=1.0\times10^{-6}\ll1$$
$\alpha$ は1よりはるかに小さいので、近似は成り立つ。
答 $2.2\times10^{-6}$ mol/L(4点)
問5
状況図を書くと、ビーカーの中が硫酸酸性の過酸化水素水、加えていくのが過マンガン酸カリウム水溶液(下の図)。過酸化水素はふつう酸化剤だが、強い酸化剤の過マンガン酸カリウムが相手のときだけ還元剤として働き、酸素を発生する。
酸化剤の $\ce{MnO4-}$ は硫酸酸性で $\ce{Mn^2+}$ まで還元され(酸化数 +7 → +2)、1個で電子を5個受け取る。還元剤の $\ce{H2O2}$ は $\ce{O2}$ になり(O の酸化数 −1 → 0 が2個)、1個で電子を2個与える。
$$\ce{MnO4- + 8H+ + 5e- -> Mn^2+ + 4H2O}$$
$$\ce{H2O2 -> O2 + 2H+ + 2e-}$$
過マンガン酸カリウム水溶液を $V$ mL 加えたとき、過酸化水素がちょうどすべて消費されたとする。酸化剤の受け取る $\ce{e-}$ =還元剤の与える $\ce{e-}$ より
$$8.00\times10^{-2}\times\dfrac{V}{1000}\times5=2.20\times\dfrac{5.00}{1000}\times2$$
$$V=55.0$$
答 55 mL(5点)
問6
今度の相手のヨウ化カリウムの $\ce{I-}$ は還元剤なので、過酸化水素は本来の酸化剤として働き、水になる(O の酸化数 −1 → −2。下の図)。
$$\ce{H2O2 + 2H+ + 2e- -> 2H2O}$$
$$\ce{2I- -> I2 + 2e-}$$
電子の数はどちらも2個でそろっているので、そのまま足して電子を消すと、イオン反応式
$$\ce{H2O2 + 2H+ + 2I- -> I2 + 2H2O}$$
$\ce{H+}$ は硫酸由来、 $\ce{I-}$ はヨウ化カリウム由来なので、両辺に $\ce{2K+}$ と $\ce{SO4^2-}$ を足すと、右辺に $\ce{K2SO4}$ ができる。
答 $\ce{H2O2 + 2KI + H2SO4 -> I2 + 2H2O + K2SO4}$(5点)
別解
問4 (答えだけを求めるとき)弱酸の電離とみて、いきなり $[\ce{H3O+}]=\sqrt{cK}=\sqrt{2.20\times2.20\times10^{-12}}=2.20\times10^{-6}$ mol/L と求め、すぐに $\alpha=\dfrac{2.20\times10^{-6}}{2.20}=1.0\times10^{-6}\ll1$ で近似を確かめる。授業の速いやり方で、導出を書かなくてよい問題ならこれで十分。本解と同じ $2.2\times10^{-6}$ mol/L。
問5 (化学反応式の係数を使う)2つの半反応式の電子をそろえて足すと $\ce{2MnO4- + 5H2O2 + 6H+ -> 2Mn^2+ + 5O2 + 8H2O}$ 。 $\ce{MnO4-}$ と $\ce{H2O2}$ は $2:5$ で反応するので、 $8.00\times10^{-2}\times\dfrac{V}{1000}=2.20\times\dfrac{5.00}{1000}\times\dfrac25$ より $V=55.0$ で本解と同じ55 mL。ただし係数を書き間違えると答えがずれるので、ふだんは本解の電子の式で解く。
出題意図
問1 水素結合・酸と塩基・分子の形・状態図・活性化エネルギーの基本を、文の「理由」の部分まで正しく判定できるか
問2 同位体を含む分子の種類を場合の数で数え、質量数と原子番号から中性子の数を求められるか
問3 電子の総数と希ガスの電子配置の2つのルールから、過酸化水素の電子式を書けるか
問4 弱酸の電離を $c$ と $\alpha$ で表し、近似を使って $\ce{H3O+}$ の濃度を求め、近似が成り立つことまで確かめられるか
問5 過酸化水素が過マンガン酸カリウムに対して還元剤として働くことを押さえ、やりとりする電子の数から滴定の量を求められるか
問6 過酸化水素が酸化剤として働く反応で、半反応式から化学反応式を組み立てられるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 10分 | 12分 |
重要問題集に問2・問5・問6 がそのまま載っている大問で、どの学部も満点を取りたい。
重要問題集を白紙に再現できるまで仕上げていれば、同位体の数え方も酸化還元滴定もすぐに書ける。
過酸化水素は「ふつうは酸化剤、相手が過マンガン酸カリウムのときだけ還元剤」と言い切れるようにしておこう。
知識で埋められる所は計算せずに書き、浮いた時間を重い大問に回すこと。
差がつく所・失点しやすい所
- 問1:(A) の「理由」の誤りに気づけるか。 $\ce{H2O}$ が $\ce{HF}$ より沸点が高いのは水素結合の数で、結合の極性はむしろ F−H の方が大きい。「すべて」選ぶ形なので、(D)(E) も含めて3つそろえたい。
- 問4:差がつくとしたら、導出の過程として $c$ と $\alpha$ から $\sqrt{cK}$ を導き、 $\alpha$ で近似を確かめる1行まで書けるか。答えの数値だけでなく、過程の書き方で差がつく。
2018年九州大学化学
第2問 解答・解説
第2問は理論化学(反応の速さと化学平衡)の問題です。
テーマは『圧平衡定数』『平衡の移動と分圧』。
問題


問題文をテキストで読む
※ 旧課程の問題なので、生成熱・反応熱の表記をエンタルピーに直して載せています。
次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。
固体の黒鉛( $\ce{C}$ )に気体の二酸化炭素( $\ce{CO2}$ )を727℃で接触させ、気体の一酸化炭素( $\ce{CO}$ )に変化させる次の反応を考える。
$\ce{C + CO2 <=> 2CO}$
以下の各問に答えよ。なお、気体定数 $R$ を $8.31\times10^3$ Pa·L/(mol·K) として計算せよ。問2、問3は有効数字2桁で答えよ。
問1. $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の生成エンタルピーがそれぞれ $-394$ kJ/mol、 $-111$ kJ/mol のとき、上の反応式の反応エンタルピーを求めよ。
問2. 温度727℃で容積10 L の容器内に黒鉛を2.0 g、気体の $\ce{CO2}$ を $1.0\times10^5$ Pa 導入し、導入と同時に容器を密閉した。容器内の圧力の時間変化を測定したところ、30分経過後、系全体の圧力が $1.2\times10^5$ Pa となった。30分経過後の $\ce{CO2}$ の分圧を求めよ。また30分間の平均反応速度を mol/min の単位で求めよ。この間、温度は一定であるとする。
問3. 問2の反応状態をさらに継続し、各成分の分圧が変化しなくなるまでその状態を維持した。温度727℃で、圧平衡定数 $K_p$ が $4.0\times10^5$ Pa であるとすると、平衡時の $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の各分圧はそれぞれ何 Pa か。また平衡時の黒鉛は何グラムか。なお、 $\sqrt{2}=1.41$、 $\sqrt{3}=1.73$、 $\sqrt{5}=2.24$ とする。
問4. 問3の平衡状態に達したあと、密封状態で温度727℃に保ち、平衡を保持しながらゆっくりと容器体積を10 L から少し小さくした。このとき容器内で起こる変化で正しいものを、下の選択肢(a)〜(g)の中からひとつ記号で選べ。
選択肢
(a) 容器内の $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の分圧に変化はない。
(b) $\ce{CO2}$ の分圧が増加し、 $\ce{CO}$ の分圧が減少した。結果、 $\ce{CO}/\ce{CO2}$ の分圧比は減少した。
(c) $\ce{CO2}$ の分圧が減少し、 $\ce{CO}$ の分圧が増加した。結果、 $\ce{CO}/\ce{CO2}$ の分圧比は増加した。
(d) $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の分圧がともに増加し、 $\ce{CO}/\ce{CO2}$ の分圧比は増加した。
(e) $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の分圧がともに増加し、 $\ce{CO}/\ce{CO2}$ の分圧比は減少した。
(f) $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の分圧がともに減少し、 $\ce{CO}/\ce{CO2}$ の分圧比は増加した。
(g) $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の分圧がともに減少し、 $\ce{CO}/\ce{CO2}$ の分圧比は減少した。
問5. 問4の状態から問3の平衡状態に戻し、密封状態をそのまま保ち、727℃から平衡を保持しながらゆっくりと温度を上昇させた。そのとき容器内の各ガスの分圧、全圧、圧平衡定数 $K_p$ に生じる変化についての記述である。 $\boxed{\text{ア}}$ から $\boxed{\text{カ}}$ に入る語句として、最も適切なものを下の各選択肢の中から選んで記入せよ。
黒鉛 $\ce{C}$ に気体の $\ce{CO2}$ が反応し、 $\ce{CO}$ が生じる反応は、 $\boxed{\text{ア}}$ である。もとの727℃から温度を30℃上昇させると、問1で求めた反応エンタルピーから判断して、圧平衡定数は、 $\boxed{\text{イ}}$ 。容器内の $\ce{CO}/\ce{CO2}$ の分圧比は、 $\boxed{\text{ウ}}$ 。各分圧に着目すると、 $\ce{CO2}$ 分圧は $\boxed{\text{エ}}$ 、 $\ce{CO}$ 分圧は $\boxed{\text{オ}}$ 。その結果、 $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の分圧を加えた全圧は $\boxed{\text{カ}}$ 。
選択肢
$\boxed{\text{ア}}$ :吸熱反応、発熱反応
$\boxed{\text{イ}}$ :変化しない、およそ2倍になる、およそ1/2倍になる
$\boxed{\text{ウ}}$ :変化しない、増加する、減少する
$\boxed{\text{エ}}$ :変化せず、増加し、減少し
$\boxed{\text{オ}}$ :変化しない、増加する、減少する
$\boxed{\text{カ}}$ :変化しない、増加する、減少する
解答の方針
【問1の方針】
与えられているのは生成エンタルピーなので、一番上に単体を置いたエンタルピー図で繋ぐ。 $\ce{CO}$ は2 mol 分になることに注意する(下の図)。


- ベースとなる式 $\ce{C + CO2 -> 2CO}$ の反応エンタルピーを $\Delta H$ とおき、反応前 $\ce{C + CO2}$ から反応後 $\ce{2CO}$ への矢印にする。
- 一番上に単体 $\ce{2C + O2}$ を置き、 $\ce{C + CO2}$ と $\ce{2CO}$ をそれぞれ生成エンタルピーで繋ぐ( $\ce{CO}$ は2 mol 分)。
- 単体から $\ce{2CO}$ へ行く2通りの矢印の和が等しいことから $\Delta H$ を求める。
【問2の方針】
体積も温度も一定なので、分圧は物質量に比例し、分圧のまま状態遷移図を書ける。黒鉛は固体なので分圧には数えない。全圧が増えた分が、反応した量そのものになる(下の図)。


- 反応した $\ce{CO2}$ の分圧を $x\times10^5$ Pa とおき、反応前・変化量・30分後の分圧と合計を書く。
- 30分後の合計が全圧 $1.2\times10^5$ Pa に等しいことから $x$ を求め、 $\ce{CO2}$ の分圧を求める。
- 反応した $\ce{CO2}$ の分圧を状態方程式で物質量に直す(727℃=1000 K)。
- 反応した物質量を30分で割り、平均反応速度を求める。
【問3の方針】
温度が同じなので、どの状態から始めても同じ平衡になる。30分後の状態を左に寄せると最初の状態に戻るので、最初から $y$ 反応したとおけばよい。黒鉛は固体なので圧平衡定数にも入れない(下の図)。


- 30分後の分圧を左に寄せて反応前( $\ce{CO2}$ $1.0\times10^5$ Pa、 $\ce{CO}$ 0)とし、 $y\times10^5$ Pa 反応したとして平衡の分圧を書く。
- 黒鉛を除いた $K_p=\dfrac{p_{\ce{CO}}^{\,2}}{p_{\ce{CO2}}}$ に代入して $y$ の2次方程式にし、分圧がすべて正になる解を選ぶ。
- 平衡の $\ce{CO2}$ と $\ce{CO}$ の分圧を求める。
- 反応した黒鉛は反応した $\ce{CO2}$ と同じ物質量なので、反応した $\ce{CO2}$ の分圧を状態方程式で物質量に直し、2.0 g から引く。
【問4の方針】
体積を変えたときの変化は2段で起こる。まず状態方程式どおりに分圧が一気に上がり、そのあとルシャトリエの原理による平衡の移動が徐々に起こる。最後は温度が同じなので $K_p$ も同じ(下の図)。


- 圧縮した瞬間は、物質量が同じまま体積が小さくなるので、 $\ce{CO2}$ も $\ce{CO}$ も分圧が同じ倍率で上がる。
- 濃度が上がったので、平衡は気体の分子数が減る向き(左)へ徐々に移動し、 $\ce{CO}$ が減って $\ce{CO2}$ が増える。
- $\ce{CO2}$ の分圧は1段目でも2段目でも上がるので、元より大きい。温度が同じで $K_p$ は一定なので、 $\ce{CO}$ の分圧も元より大きいと決まる。
- 分圧比 $\dfrac{p_{\ce{CO}}}{p_{\ce{CO2}}}=\dfrac{K_p}{p_{\ce{CO}}}$ から、比の増減を決めて選ぶ。
【問5の方針】
温度を上げると平衡は吸熱の向きへ寄り、 $K_p$ も変わる。分圧の増減は、状態方程式の分と平衡の移動の分の2段で考え、どちらが大きいかを比べる(下の図)。


- 問1の $\Delta H>0$ から反応の種類を決める(ア)。
- 温度を上げると平衡は吸熱の向き(右)へ寄るので、 $K_p$ は大きくなる。選択肢から選ぶ(イ)。
- 平衡が右へ寄ると $\ce{CO}$ が増えて $\ce{CO2}$ が減るので、分圧比の増減を決める(ウ)。
- 温めた瞬間に分圧が上がるのは、1000 K から1030 K への温度の上昇の分(3%)だけ。 $K_p$ がおよそ2倍になる平衡の移動の方が大きいことを確かめ、 $\ce{CO2}$・ $\ce{CO}$ の分圧と全圧の増減を決める(エ〜カ)。
解答




解答をテキストで読む
問1
求めたいのは $\ce{C + CO2 -> 2CO}$ の反応エンタルピーなので、これをベースとなる式とし、反応前 $\ce{C + CO2}$ から反応後 $\ce{2CO}$ への矢印を $\Delta H$ とおく。生成エンタルピーが与えられているので、一番上は単体の $\ce{2C + O2}$ 。
・単体 → $\ce{C + CO2}$ :黒鉛1 mol は単体のまま、残りの $\ce{C + O2}$ から $\ce{CO2}$ ができるので $-394$ kJ(下向き)
・単体 → $\ce{2CO}$ : $\ce{CO}$ 2 mol ができるので $-111\times2=-222$ kJ(下向き)
単体から $\ce{2CO}$ へ行く2通りの矢印の和は等しい(下の図)。
$$-394+\Delta H=-111\times2\qquad\therefore\ \Delta H=-222+394=+172\ \mathrm{kJ/mol}$$
正なので、反応後の $\ce{2CO}$ は反応前の $\ce{C + CO2}$ より上にあり、この反応は吸熱反応。
答 $\Delta H=+172$ kJ/mol(3点)
問2
体積(10 L)も温度(727℃)も一定なので、 $PV=nRT$ より分圧 $P$ は物質量 $n$ に比例する。そこで、物質量の代わりに分圧でモル計算をする。黒鉛は固体なので、気体の分圧には数えない。
反応した $\ce{CO2}$ の分圧を $x\times10^5$ Pa とおくと、 $\ce{CO}$ は $2x$ 増え、合計は $x$ だけ増える(下の図)。
30分後の合計が全圧 $1.2\times10^5$ Pa なので
$$1.0+x=1.2\qquad\therefore\ x=0.20$$
反応した $\ce{CO2}$ の分圧は $0.20\times10^5=2.0\times10^4$ Pa。30分後の $\ce{CO2}$ の分圧は $(1.0-0.20)\times10^5=8.0\times10^4$ Pa( $\ce{CO}$ は $4.0\times10^4$ Pa)。
答 $8.0\times10^4$ Pa(3点)
反応した $\ce{CO2}$ の分圧 $2.0\times10^4$ Pa を、状態方程式で物質量に直す。727℃は $727+273=1000$ K。
$$n=\dfrac{PV}{RT}=\dfrac{2.0\times10^4\times10}{8.31\times10^3\times1000}=2.41\times10^{-2}\ \mathrm{mol}$$
反応式1回分(黒鉛1 mol と $\ce{CO2}$ 1 mol が反応して $\ce{CO}$ 2 mol ができる)を基準にして、平均反応速度は $\ce{CO2}$ の減少量で表す。
$$\bar v=\dfrac{2.41\times10^{-2}}{30}=8.02\times10^{-4}\ \mathrm{mol/min}$$
答 $8.0\times10^{-4}$ mol/min( $\ce{CO}$ の増加で表すなら $1.6\times10^{-3}$ mol/min)(3点)
問3
温度は727℃のままなので、圧平衡定数は $K_p=4.0\times10^5$ Pa で変わらない。どの状態から始めても同じ平衡になるので、30分後の状態( $\ce{CO2}$ $8.0\times10^4$ Pa、 $\ce{CO}$ $4.0\times10^4$ Pa)を左に寄せる。 $\ce{CO}$ $4.0\times10^4$ Pa を全部 $\ce{CO2}$ に戻すと $\ce{CO2}$ は $2.0\times10^4$ Pa 増え、最初の状態( $\ce{CO2}$ $1.0\times10^5$ Pa、 $\ce{CO}$ 0)になる。ここから $y\times10^5$ Pa 反応したとする(下の図)。
黒鉛は固体なので、圧平衡定数の式には入れない。平衡の分圧を代入して
$$K_p=\dfrac{p_{\ce{CO}}^{\,2}}{p_{\ce{CO2}}}=\dfrac{(2y\times10^5)^2}{(1.0-y)\times10^5}=\dfrac{4y^2}{1.0-y}\times10^5=4.0\times10^5$$
分母を払って整理すると
$$y^2+y-1=0\qquad\therefore\ y=\dfrac{-1+\sqrt5}{2}=\dfrac{-1+2.24}{2}=0.62$$
分圧がすべて正になる( $0<y<1$ )のはこちらの解だけ。よって
$$p_{\ce{CO2}}=(1.0-0.62)\times10^5=3.8\times10^4\ \mathrm{Pa},\qquad p_{\ce{CO}}=2\times0.62\times10^5=1.24\times10^5\ \mathrm{Pa}$$
答 $p_{\ce{CO2}}=3.8\times10^4$ Pa(2点)
答 $p_{\ce{CO}}=1.2\times10^5$ Pa(2点)
反応式から、黒鉛は $\ce{CO2}$ と同じ物質量だけ反応する。最初から反応した $\ce{CO2}$ の分圧 $0.62\times10^5=6.2\times10^4$ Pa を、状態方程式で物質量に直す。
$$n=\dfrac{6.2\times10^4\times10}{8.31\times10^3\times1000}=7.46\times10^{-2}\ \mathrm{mol}$$
反応した黒鉛は $7.46\times10^{-2}\times12.0=0.895$ g なので、平衡時の黒鉛は
$$2.0-0.895=1.105\ \mathrm{g}$$
黒鉛は残っているので、この平衡は実際に成り立つ。
答(黒鉛) 1.1 g(2点)
問4
体積を小さくしたときの変化を2段に分けて考える(下の図)。
① 状態方程式による変化(一気に起こる):温度一定で $P=\dfrac nVRT$ 。物質量はそのままで体積が小さくなるので、 $\ce{CO2}$ も $\ce{CO}$ も分圧が同じ倍率で上がる。
② ルシャトリエの原理による変化(徐々に起こる):気体の濃度が上がったので、平衡は気体の分子数が減る向きへ移動する。左辺の気体は $\ce{CO2}$ の1分子、右辺は $\ce{CO}$ の2分子なので、平衡は左へ移動し、 $\ce{CO}$ が減って $\ce{CO2}$ が増える。
$\ce{CO2}$ の分圧は①でも②でも上がるので、元の平衡より大きい。温度は727℃のままなので $K_p=\dfrac{p_{\ce{CO}}^{\,2}}{p_{\ce{CO2}}}$ は変わらず、 $p_{\ce{CO}}^{\,2}=K_p\,p_{\ce{CO2}}$ も元より大きい。つまり $\ce{CO}$ の分圧も、②で少し下がるが元よりは大きい。
分圧比は
$$\dfrac{p_{\ce{CO}}}{p_{\ce{CO2}}}=\dfrac{p_{\ce{CO}}}{\ \dfrac{p_{\ce{CO}}^{\,2}}{K_p}\ }=\dfrac{K_p}{p_{\ce{CO}}}$$
で、 $K_p$ が一定のまま $p_{\ce{CO}}$ が大きくなるので、分圧比は減少する。
答 (e)(3点)
問5
問1より $\Delta H=+172$ kJ/mol>0 なので、 $\ce{C}$ と $\ce{CO2}$ から $\ce{CO}$ が生じる反応は吸熱反応。
答(ア) 吸熱反応(1点)
温度を上げると、平衡は吸熱の向き、つまり右へ寄る。右へ寄ると $K_p=\dfrac{p_{\ce{CO}}^{\,2}}{p_{\ce{CO2}}}$ の分子が増えて分母が減るので、 $K_p$ は大きくなる。選択肢で大きくなるのは「およそ2倍になる」だけ。
答(イ) およそ2倍になる(1点)
体積を変えずに温めたときの変化を2段に分けて考える(下の図)。
① 状態方程式による変化(一気に起こる):体積一定で $P=\dfrac nVRT$ なので、分圧は絶対温度に比例する。1000 K から1030 K なので、どちらの分圧も $\dfrac{1030}{1000}$ 倍、つまり3%だけ上がる。分圧比は変わらない。
② ルシャトリエの原理による変化(徐々に起こる):平衡が右へ移動し、 $\ce{CO2}$ が減って $\ce{CO}$ が増える。物質量の比 $\dfrac{n_{\ce{CO}}}{n_{\ce{CO2}}}$ が増えるので、同じ容器の中の分圧比も増加する。
答(ウ) 増加する(1点)
$\ce{CO2}$ の分圧は、①で3%上がり、②で下がる。②の方が大きいことを確かめる。もし $\ce{CO2}$ の分圧が元の値より下がらなかったとすると、 $K_p$ がおよそ2倍なので $p_{\ce{CO}}^{\,2}=K_p\,p_{\ce{CO2}}$ も2倍以上になり、 $\ce{CO}$ の分圧は $\sqrt2=1.41$ 倍以上になる。ところが、気体に含まれる O 原子の数( $\ce{CO2}$ は2個、 $\ce{CO}$ は1個)は反応しても変わらないので、 $2p_{\ce{CO2}}+p_{\ce{CO}}$ は温度の分の3%しか増えない。 $\ce{CO2}$ が下がらずに $\ce{CO}$ が4割以上増えると、この量が3%よりずっと大きく増えてしまい、合わない。よって $\ce{CO2}$ の分圧は減少する。
答(エ) 減少し(2点)
$\ce{CO}$ の分圧は、①で上がり、②でも $\ce{CO}$ が増えるので増加する。
答(オ) 増加する(1点)
全圧は、①で温度の分だけ上がり、②で気体の分子数が増える右へ移動するので、さらに上がる。
答(カ) 増加する(1点)
別解
問1 (公式で) 反応エンタルピー=(生成物の生成エンタルピーの和)-(反応物の生成エンタルピーの和)。黒鉛は単体なので0として
$$\Delta H=(-111)\times2-\{0+(-394)\}=+172\ \mathrm{kJ/mol}$$
ただし、引く順を逆にすると $-172$ になるので、エンタルピー図で上下を確かめる。
問3 (30分後の状態をそのまま反応前にする) 30分後からさらに $z\times10^5$ Pa 反応したとすると、 $\ce{CO2}$ $(0.80-z)\times10^5$ Pa、 $\ce{CO}$ $(0.40+2z)\times10^5$ Pa。
$$\dfrac{(0.40+2z)^2}{0.80-z}=4.0$$
を解くと $z=0.42$ で、同じ分圧になる。ただし2次方程式の係数が整わず計算が重いので、最初の状態に寄せてから置く方が楽。
出題意図
問1 生成エンタルピーをエンタルピー図で単体から繋ぎ、反応エンタルピーを求めることができるか
問2 体積と温度が一定なら分圧が物質量に比例することに気づき、固体の黒鉛を除いて分圧のまま状態遷移図を書き、平均反応速度を求めることができるか
問3 圧平衡定数に固体を入れずに分圧で式を立て、平衡の分圧と残った黒鉛の量を求めることができるか
問4・問5 体積や温度を変えたときの各分圧・分圧比・全圧の変化を、平衡の移動の向きだけでなく、状態方程式による変化と圧平衡定数まで合わせて判断できるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや難 | |
| 目標得点 | 20点 | 15点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
2018年の化学の合否を分けた大問。
前半の熱化学・反応速度・圧平衡定数は、「体積と温度が一定なら分圧で状態遷移図を書く」「固体は数えない」という決まった流れで全部取れる。
差がつくのは後半で、平衡の移動の向きを答えるだけでなく、各分圧の増減まで聞かれている。
「まず状態方程式で一気に変わり、そのあとルシャトリエの原理で徐々に変わる」という2段と、$K_p$ が温度だけで決まることを組み合わせれば、量の変化まで迷わずに決められる。
差がつく所・失点しやすい所
- 問4・問5(ウ〜カ)(この大問の合否を分けた所):平衡が移動する向きだけで止まらず、状態方程式による変化と $K_p$ を合わせて、各分圧の増減まで追うという発想に行き着けるか。ルシャトリエの原理だけで考えると、問4 は「左へ移動して $\ce{CO}$ が減る」(b) を、問5 エは温度の分だけ上がる「増加し」を選んでしまう。平衡の移動の向きは決められても、量の変化まで聞かれる問題は練習していない受験生が多く、この部分の8点で大きく差がつく。
- 問3:30分後の状態を左に寄せれば最初の状態に戻ることに気づき、黒鉛を除いた $K_p$ で2次方程式を立てられるか。 $\sqrt5$ がきれいに出れば分圧は求まるが、残った黒鉛を求めるには反応した分圧を物質量に直す必要があり、最後まで取り切れたかで差がつく。
2018年九州大学化学
第3問 解答・解説
第3問は有機化学・理論化学の問題です。
テーマは『油脂とセッケン』『エステル交換の平衡』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問8に答えよ。
(1) 油脂は高級脂肪酸とグリセリンのエステルであり、動物の脂肪分や植物の種子に広く含まれる化合物である。植物を原料とする油脂で、常温で液体のものは、 $\boxed{\text{ア}}$ 脂肪酸を多く含む。油脂に水酸化ナトリウムの水溶液を加えて加熱すると、グリセリンとセッケン(脂肪酸のナトリウム塩)を生じる。この反応はけん化と呼ばれ、セッケンの製造法の1つである。セッケンの水溶液は弱い塩基性を示す(a)。また、ある濃度以上のセッケンを溶かした水溶液中では、分子内の疎水性部分を内側に、親水性部分を外側にして多数の分子が集まった $\boxed{\text{イ}}$ と呼ばれる球状のコロイド粒子が形成される。セッケンは、水中で油を分散することができる性質により洗浄作用を示すが、カルシウムやマグネシウムなどの2価イオンを含む水溶液中では、その洗浄作用が低下する(b)。
問1. 文章中の $\boxed{\text{ア}}$ と $\boxed{\text{イ}}$ に入る適切な語句を示せ。
問2. 下線部(a)の根拠となる化学反応式を示せ。セッケンは、炭化水素基を $\ce{R}$ とする一般式で表せ。
問3. 1分子内の炭素原子の数が12である飽和脂肪酸からなるセッケンとカルシウムイオンとの組み合わせを例に、下線部(b)の根拠となる化学反応式を示せ。
問4. 天然の油脂は、様々な種類の脂肪酸から構成される。油脂1 g をけん化するのに必要な水酸化カリウムの質量(mg)をけん化価として定義すると、異なる種類の油脂の比較のための指標となる。水酸化カリウムの式量を56として、けん化価が336の油脂1の平均分子量を算出し、有効数字2桁で答えよ。
(2) 油脂とメタノールを混合し、適当な触媒を加えて加熱すると、脂肪酸のメチルエステルが得られる。この反応はエステル交換反応(メタノリシス)と呼ばれ、生じる脂肪酸メチルエステルはバイオディーゼル燃料の主成分として利用されている。以下の問いに答えよ。
問5. 1種類の脂肪酸からなる油脂2を用いたエステル交換反応が、次に示す単純化された可逆反応として記述できるものと仮定する。
一定体積の容器に、油脂2を1.0 mol、メタノールを3.0 mol 量り取り、触媒の存在下、反応温度を70℃に保った。一定時間後、反応は平衡に達し、脂肪酸メチルエステルが1.8 mol 生じた。このときの平衡定数を算出し、有効数字2桁で答えよ。なお、反応は均一な液体状態で進行し、反応中の体積変化や蒸発は無視できるものとする。
問6. 問5の条件下において、下記(a)〜(c)の指標を $y$ 軸に、反応時間を $x$ 軸に取る。このとき、平衡に到達する過程でこれらの指標の時間変化を最も適切に表しているものを、下図 A〜F の中から選べ。
(a) 油脂2の正反応の反応速度
(b) 脂肪酸メチルエステルの物質量
(c) 逆反応の反応速度定数
問7. 問5に示すエステル交換反応について、以下の(a)〜(e)の記述から正しいものを全て選択せよ。
(a) より多くのメタノールを添加すると、平衡時により多くの生成物が得られる。
(b) より多くの触媒を添加すると、平衡時により多くの生成物が得られる。
(c) 反応温度を上げると、正方向の反応だけが加速される。
(d) 触媒を添加することで、平衡に到達するまでの時間を短縮できる。
(e) 平衡状態においては、反応は起こっていない。
問8. 油脂2のエステル交換反応は、実際には、油脂のエステル部分が順を追ってメタノールと置換され、脂肪酸メチルエステルとグリセリンが生じる多段階の過程を経て進行する。問5の反応が平衡に到達する過程で生じる1価アルコールおよび2価アルコールの構造異性体の総数を記せ。また、生じる構造異性体のうち、光学異性体となるものの構造式を、表紙の記入例にならって、全て示せ。なお、不斉炭素原子に*印を付記して、他の炭素原子と区別すること。
解答の方針
【問1の方針】
油脂の融点は、脂肪酸の炭素鎖が二重結合で折れ曲がっているかどうかで決まる。セッケンは疎水性の炭化水素基と親水性のカルボン酸イオンの部分をもち、水中で疎水性部分どうしが集まる(下の図)。


- 常温で液体の植物性の油脂は、二重結合をもつ脂肪酸が多いことから答える(ア)。
- 疎水性部分を内側にして集まった球状の粒子の名前を答える(イ)。
【問2の方針】
セッケンは、弱酸の脂肪酸と強塩基の水酸化ナトリウムからできた塩。弱酸のイオンが水と反応して $\ce{OH-}$ をつくる加水分解のタイプと見分ける。
- セッケンを $\ce{RCOONa}$ と表す。
- $\ce{RCOO-}$ が水から $\ce{H+}$ を受け取って $\ce{RCOOH}$ に戻り、 $\ce{OH-}$ が残る反応式を書く。
【問3の方針】
$\ce{Ca^2+}$ は2価なので、セッケンの陰イオン2つと結びつく。この塩は水に溶けずに沈殿し、ミセルをつくるセッケンが減る(問1 の図)。
- 炭素数12の飽和脂肪酸を $\ce{C_nH_{2n+1}COOH}$ で表し、カルボキシ基の C も数に入れてラウリン酸 $\ce{C11H23COOH}$ と決める。
- セッケン $\ce{C11H23COONa}$ 2つと $\ce{Ca^2+}$ から、カルシウム塩の沈殿ができる反応式を書く。
【問4の方針】
油脂1分子にはエステル結合が3つあり、けん化ではエステル結合1つにつき KOH が1つ使われる(下の図)。


- けん化価が mg であることに注意して、油脂1 g をけん化する KOH の物質量を求める。
- 油脂の物質量は KOH の $\dfrac13$ 倍として、油脂1 g の物質量を求める。
- 質量を物質量で割って、平均分子量を求める。
【問5の方針】
どれだけ反応したかは、生じた脂肪酸メチルエステルの量から係数比で逆算できる。状態遷移図で平衡の物質量をそろえ、体積で割って濃度にしてから平衡定数の式に入れる(下の図)。


- 脂肪酸メチルエステル1.8 mol から、係数比で油脂2・メタノールの減少量とグリセリンの生成量を求め、状態遷移図を書く。
- 容器の体積を $V$ とおき、4つの物質の物質量を $V$ で割って濃度にする。
- 係数を指数にした平衡定数の式に入れて $K$ を求める(両辺の係数の和が同じなので $V$ は消える)。
【問6の方針】
反応の速さは「速度定数×濃度」で、速度定数は温度と触媒だけで決まる。平衡は反応が止まった状態ではなく、正反応と逆反応の速さが等しくなった状態(下の図)。


- (a) 正反応の速さは油脂2とメタノールの濃度が減るにつれて小さくなるが、平衡でも0にはならないことから選ぶ。
- (b) 脂肪酸メチルエステルは0から増え、平衡で一定になることから選ぶ。
- (c) 温度が一定なので、速度定数は時間がたっても変わらないことから選ぶ。
【問7の方針】
速度と平衡を2列に分けて判定する。平衡の移動は濃度 $C$ と温度 $T$ だけを見て、触媒は速さだけを変える(下の図)。


- (a) メタノールの濃度を上げたときの平衡の移動の向きを、ルシャトリエの原理で決める。
- (b)・(d) 触媒は速さだけを変え、平衡は変えないことから判定する。
- (c) 温度を上げると正反応も逆反応も速くなることから判定する。
- (e) 平衡では正反応と逆反応の速さが等しいだけで、反応は起こっていることから判定する。
【問8の方針】
途中でできるのは、グリセリンの OH のうち2つか1つがエステルのまま残った物質。残る位置を「端」と「真ん中」で分けて数え、真ん中の炭素の両側が違えば不斉炭素原子(下の図)。


- エステルが2つ残った物質(OH が1つ=1価アルコール)を、外れた位置が端か真ん中かで2通り書く。
- エステルが1つ残った物質(OH が2つ=2価アルコール)を、残った位置が端か真ん中かで2通り書く。
- 合わせて4種類とし、それぞれ真ん中の炭素に付く4つの原子・原子団が全部違うかを調べて、不斉炭素原子に*を付ける。
解答




解答をテキストで読む
問1
油脂の融点は、脂肪酸の炭素鎖に二重結合があると低くなる。二重結合(シス形)のところで炭素鎖が折れ曲がり、分子どうしがすき間なく並べないためである。植物性で常温で液体の油脂(脂肪油)は、二重結合をもつ脂肪酸を多く含む。
答(ア) 不飽和(2点)
セッケンの分子は、炭化水素基 $\ce{R}$ の疎水性部分と、$\ce{COO-}$ の親水性部分をもつ。ある濃度以上になると、疎水性部分を内側に、親水性部分を外側に向けて多数の分子が集まり、球状のコロイド粒子をつくる(下の図)。油はこの粒子の内側に取り込まれて水中に分散する。
答(イ) ミセル(2点)
問2
セッケンは弱酸(脂肪酸)と強塩基(水酸化ナトリウム)からできた塩なので、加水分解のタイプ。水中で $\ce{RCOO-}$ と $\ce{Na+}$ に完全に電離し、弱酸のイオン $\ce{RCOO-}$ が水から $\ce{H+}$ を受け取って $\ce{RCOOH}$ に戻る。残った $\ce{OH-}$ によって水溶液は弱い塩基性を示す。
答 $\ce{RCOONa + H2O <=> RCOOH + NaOH}$(イオン反応式 $\ce{RCOO- + H2O <=> RCOOH + OH-}$ でもよい)(3点)
問3
炭素数12の飽和脂肪酸は $\ce{C_nH_{2n+1}COOH}$ で $n+1=12$ なので $n=11$ 、ラウリン酸 $\ce{C11H23COOH}$ 。そのセッケンは $\ce{C11H23COONa}$ 。
$\ce{Ca^2+}$ は2価なので、 $\ce{C11H23COO-}$ 2つと結びついて、水に溶けないカルシウム塩 $\ce{(C11H23COO)2Ca}$ が沈殿する。ミセルをつくるセッケンが減るので、洗浄作用が低下する(問1 の図の右)。
答 $\ce{2C11H23COONa + Ca^2+ -> (C11H23COO)2Ca + 2Na+}$(イオン反応式 $\ce{2C11H23COO- + Ca^2+ -> (C11H23COO)2Ca}$ でもよい)(3点)
問4
油脂1分子には、グリセリンと脂肪酸の間のエステル結合が3つある。けん化ではエステル結合1つにつき KOH が1つ使われるので、油脂1 mol をけん化するのに KOH は3 mol 必要(下の図)。
けん化価336は、油脂1 g に KOH が336 mg( $336\times10^{-3}$ g)必要という意味なので
$$\dfrac{336\times10^{-3}}{56}=6.0\times10^{-3}\ \mathrm{mol}\quad\text{(油脂1 g をけん化する KOH)}$$
油脂の物質量は、その $\dfrac13$ 倍なので
$$6.0\times10^{-3}\times\dfrac13=2.0\times10^{-3}\ \mathrm{mol}\quad\text{(油脂1 g の物質量)}$$
平均分子量を $M$ とすると、1 g が $2.0\times10^{-3}$ mol にあたるので
$$M=\dfrac{1}{2.0\times10^{-3}}=5.0\times10^2$$
答 $5.0\times10^2$(3点)
問5
脂肪酸メチルエステルが1.8 mol 生じたので、係数比 油脂2 : メタノール : 脂肪酸メチルエステル : グリセリン $=1:3:3:1$ から、油脂2は0.60 mol、メタノールは1.8 mol 減り、グリセリンは0.60 mol 生じる(下の図)。
平衡の物質量は、油脂2が0.40 mol、メタノールが1.2 mol、脂肪酸メチルエステルが1.8 mol、グリセリンが0.60 mol。容器の体積を $V$〔L〕とおいて濃度にし、係数を指数にした平衡定数の式に入れる。
$$K=\dfrac{[\ce{RCOOCH3}]^3[\ce{C3H5(OH)3}]}{[\text{油脂2}][\ce{CH3OH}]^3}=\dfrac{\left(\dfrac{1.8}{V}\right)^3\times\dfrac{0.60}{V}}{\dfrac{0.40}{V}\times\left(\dfrac{1.2}{V}\right)^3}=\dfrac{1.8^3\times0.60}{0.40\times1.2^3}=5.06$$
両辺の係数の和がどちらも4なので、 $V$ は約分で消え、単位も付かない。
答 5.1(3点)
問6
反応の速さは「速度定数×濃度」で表され、速度定数は温度と触媒だけで決まる。平衡は、正反応と逆反応の速さが等しくなった状態で、反応は止まっていない(下の図)。
(a) 正反応の速さは、油脂2とメタノールの濃度が減るにつれて小さくなる。平衡でも正反応は起こり続けているので、0にはならず一定の値になる。0まで下がる C は、反応が一方向に進みきるときの形。
答(a) B(1点)
(b) 脂肪酸メチルエステルは0から増え、はじめは速く、しだいにゆっくり増えて、平衡で1.8 mol に落ち着く。
答(b) E(1点)
(c) 反応温度は70℃に保たれ、触媒の量も変わらないので、逆反応の速度定数は時間がたっても一定。
答(c) D(1点)
問7
速度と平衡を2列に分けて判定する(下の図)。
・(a) メタノールを加えるとメタノールの濃度が上がり、平衡はメタノールを減らす向き、つまり右へ移動する。生成物が増えるので正しい
・(b) 触媒は正反応と逆反応を同じように速くするだけで、平衡は変えない。生成物の量は変わらないので誤り
・(c) 温度を上げると、正反応と逆反応の速度定数がどちらも大きくなり、両方が速くなる。正反応だけではないので誤り
・(d) 触媒を加えると反応が速くなり、同じ平衡に早く達する。正しい
・(e) 平衡は正反応と逆反応の速さが等しくなった状態で、反応は起こり続けている。見かけ上止まって見えるだけなので誤り
答 (a)、(d)(2点)
問8
エステル交換は、油脂2の3つのエステル結合が1つずつメタノールと置きかわって進む。途中でできるのは、グリセリンの OH のうち一部がエステルのまま残った物質で、次の2つのグループに分かれる。
・エステル結合が2つ残り、OH が1つ(1価アルコール):外れた位置が端か真ん中かで2通り
・エステル結合が1つ残り、OH が2つ(2価アルコール):残った位置が端か真ん中かで2通り
グリセリンの両端の炭素は同じなので、右端と左端の入れかえは同じ物質。よって構造異性体は $2+2=4$ 種類(下の図)。グリセリン(3価アルコール)と、反応物のメタノールは数えない。
答(構造異性体の総数) 4(2点)
真ん中の炭素には、H と、 $\ce{OH}$ か $\ce{-OCOR}$ の一方と、両側の $\ce{CH2}$ の基2つが付く。両側の基の一方が $\ce{-CH2-OCOR}$ 、もう一方が $\ce{-CH2-OH}$ のように違うとき、4つが全部違って不斉炭素原子になる。
・端と真ん中にエステルが残った1価アルコール:不斉炭素原子あり
・両端にエステルが残った1価アルコール:両側が同じなので不斉炭素原子なし
・端だけにエステルが残った2価アルコール:不斉炭素原子あり
・真ん中だけにエステルが残った2価アルコール:両側が同じなので不斉炭素原子なし
答(構造式) 上の図の2つ(*は真ん中の炭素)(2点)
出題意図
問1〜問3 油脂とセッケンの基本の知識を、セッケンが弱酸と強塩基の塩であることや、カルシウム塩が水に溶けないことと結びつけて反応式で表せるか
問4 油脂1分子にエステル結合が3つあることから、けん化価を油脂の平均分子量に結びつけられるか
問5 エステル交換の平衡を状態遷移図で追い、濃度にしてから平衡定数を求めることができるか
問6・問7 反応の速さと平衡を分けて考え、触媒・温度・濃度の役割と、平衡でも反応が止まっていないことを説明できるか
問8 エステル交換の途中でできる物質を、グリセリンのどの位置にエステルが残るかで漏れなく数え、不斉炭素原子を見分けられるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 12分 | 15分 |
油脂とセッケンの知識と、典型的な平衡定数の計算だけで解ける大問で、構造決定が苦手でも満点を取りたい。
けん化価は「油脂1 mol に KOH 3 mol」、平衡は「状態遷移図を書き、濃度にしてから式に入れる」、速度と平衡は「分けて考える」と言い切れれば迷う所はない。
差がつくのは問8 の異性体の数え上げで、グリセリンのどの位置にエステルが残るかを書き出せば確実に数えられる。
差がつく所・失点しやすい所
- 問8:途中でできる物質を、グリセリンのどの位置にエステルが残るか(端か真ん中か)で数える、という発想に行き着けるか。両端が同じことを見落として6種類と数えたり、グリセリンを数えたりする受験生が多い。不斉炭素原子は、真ん中の炭素の両側の基が違うかで決まる。
- 問6 (a):正反応の速さは平衡でも0にならない、という発想に行き着けるか。「反応が終わる=速さ0」と考えて C を選ぶ受験生が多い。
2018年九州大学化学
第4問 解答・解説
第4問は有機化学の問題です。
テーマは『フェノールとサリチル酸』『塩化鉄(Ⅲ)の呈色』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問6に答えよ。構造式および化学反応式を記入するときは、表紙および以下の記入例にならって答えよ。
化学反応式の記入例
$\ce{2CH3-CH2-OH -> CH3-CH2-O-CH2-CH3 + H2O}$
化合物 A は、炭化カルシウムに水を加えて発生する気体で、赤熱した鉄に触れさせると化合物 B になる。化合物 A は、十分に酸素を供給しながら完全燃焼させると、化合物 C と水を生成する。また、化合物 A および化合物 B に触媒を用いて十分量の水素を付加させると、それぞれ対応する飽和炭化水素を生成する(a)。
化合物 B とプロペンを原料にして3段階で合成される化合物 D(b)は、無色の固体で殺菌・消毒作用がある。同様に、化合物 B を濃硫酸とともに加熱して得られた化合物のナトリウム塩をアルカリ融解すると化合物 E になり、この水溶液に化合物 C を反応させても化合物 D が生成する。化合物 D に十分量の臭素水を加えると化合物 F の白色沈殿を生じる(c)。この反応は、化合物 D の検出に利用されている。
化合物 E に高温・高圧下で化合物 C を反応させると化合物 G が得られる(d)。また、化合物 G に濃硫酸とメタノールを加えて加熱すると、化合物 H が無色の液体として生成する。一方、化合物 G に希硫酸を作用させて得られる無色の結晶に無水酢酸を作用させると化合物 I が無色の結晶として生成する。
問1. 下線部(a)の化学反応式を化合物 A と化合物 B についてそれぞれ示せ。
問2. 下線部(b)の製法の名称を答えよ。また、この過程の最終段階で生成する副生成物の名称を答えよ。
問3. 下線部(c)の化学反応式を示せ。また、化合物 F の名称を答えよ。
問4. 下線部(d)の化学反応式を示せ。
問5. 化合物 H および化合物 I の構造式をそれぞれ書け。
問6. 化合物 A〜I の中から塩化鉄(Ⅲ)水溶液により青色、赤紫色、紫色に呈色するものをすべて選び、記号(A〜I)で答えよ。ただし、化合物 A〜I を加えたあとの塩化鉄(Ⅲ)水溶液は十分な酸性になっているものとする。
解答の方針
【問1の方針】
炭化カルシウムと水からできる気体はアセチレンしかなく、それを赤熱した鉄に触れさせるとベンゼンになる。A と B が決まれば、ほかの化合物も教科書の流れどおりに決まる(下の図)。


- 炭化カルシウムと水の反応から A をアセチレン、赤熱した鉄での3分子の重合から B をベンゼン、A の完全燃焼から C を二酸化炭素と決める。
- 「十分量の水素」「飽和炭化水素」から、A は三重結合が単結合になるまで、B はベンゼン環がシクロヘキサンになるまで水素が付くとして反応式を書く。
【問2の方針】
ベンゼンとプロペンを原料に3段階でつくる、殺菌・消毒作用のある固体はフェノール。工業的なフェノールの製法なので、製法の名前とアセトンが同時にできることをセットで覚えているかがすべて(下の図)。


- ベンゼン→クメン→クメンヒドロペルオキシド→フェノールの3段階をたどり、D をフェノール、製法をクメン法と決める。
- 最後の分解でフェノールと一緒にできる副生成物を答える。
【問3の方針】
フェノールの OH はベンゼン環を反応しやすくし、OH から見てオルト位2か所とパラ位の H が臭素に置きかわる。付加ではなく置換なので、H の数だけ臭化水素ができる。
- 置きかわる位置(OH から見て 2・4・6 位)を決めて F を書く。
- 臭素3分子が使われ、臭化水素が3分子できるとして係数を合わせる。
【問4の方針】
E はベンゼンスルホン酸ナトリウムのアルカリ融解でできるナトリウムフェノキシド。高温・高圧で二酸化炭素を反応させると、O のとなりの炭素に $\ce{COONa}$ が付く。
- 化合物の流れ(ベンゼン→ベンゼンスルホン酸→その塩→アルカリ融解)から E をナトリウムフェノキシドと決める。
- E と C から、OH のオルト位に $\ce{COONa}$ が付いたサリチル酸ナトリウム G ができる反応式を書く。
【問5の方針】
サリチル酸は COOH と OH の両方をもつ。メタノールと反応するのはカルボキシ基(エステル化)、無水酢酸と反応するのはフェノール性のヒドロキシ基(アセチル化)で、反応する側が逆になる(下の図)。


- G に濃硫酸を加えるとサリチル酸に戻り、メタノールとエステル化してサリチル酸メチル H になる。
- G に希硫酸を作用させてサリチル酸にし、無水酢酸で OH をアセチル化してアセチルサリチル酸 I にする。
- H・I の構造式を記入例の形で書く。
【問6の方針】
塩化鉄(Ⅲ)で呈色するのは、ベンゼン環に OH が直接付いたもの。塩の E と G も、十分な酸性の液の中ではフェノール・サリチル酸に戻るので呈色する、と読むのが注記の意味(下の図)。


- A〜I のうち、ベンゼン環に OH が直接付いているものを選ぶ(D・F・H)。
- 塩の E・G は、酸性の液の中でフェノール性の OH に戻るので加える。
- OH がアセチル化された I と、ベンゼン環をもたない A・C、OH をもたない B は除く。
解答




解答をテキストで読む
問1
炭化カルシウムに水を加えると、アセチレンが発生する( $\ce{CaC2 + 2H2O -> C2H2 + Ca(OH)2}$ )。アセチレン3分子を赤熱した鉄に触れさせると、3分子が重合してベンゼンになる。アセチレンを完全燃焼させると、二酸化炭素と水ができる( $\ce{2C2H2 + 5O2 -> 4CO2 + 2H2O}$ )。よって A はアセチレン、B はベンゼン、C は二酸化炭素。ほかの化合物の流れは下の図のとおり。
「十分量の水素」を付加して「飽和炭化水素」にするので、A は三重結合に水素が2分子付いてエタンになる。エチレンで止めない。
答(化合物 A) $\ce{CH#CH + 2H2 -> CH3-CH3}$(2点)
B はベンゼン環の3つの二重結合に水素が付いて、シクロヘキサンになる(下の図)。
答(化合物 B) $\ce{C6H6 + 3H2 -> C6H12}$(構造式は上の図)(2点)
問2
D は、ベンゼンとプロペンを原料に次の3段階でつくられる(下の図)。
・ベンゼンとプロペンを触媒で反応させ、クメン(イソプロピルベンゼン)にする
・クメンを酸素で酸化し、クメンヒドロペルオキシドにする
・クメンヒドロペルオキシドを希硫酸で分解し、フェノールとアセトンにする
D は無色の固体で殺菌・消毒作用があるフェノール。この製法がクメン法で、最終段階でフェノールと一緒にできる副生成物はアセトン。
答(製法の名称) クメン法(2点)
答(副生成物) アセトン(2点)
問3
フェノールの OH は、ベンゼン環のオルト位とパラ位を反応しやすくする。十分量の臭素水を加えると、OH から見て 2・4・6 位の H が3つとも Br に置きかわり、水に溶けにくい2,4,6-トリブロモフェノールが白色沈殿になる。H が1つ置きかわるごとに臭化水素が1分子できるので、臭素も臭化水素も3分子(下の図)。
答(化学反応式) $\ce{C6H5-OH + 3Br2 -> C6H2Br3-OH + 3HBr}$(構造式は上の図)(3点)
答(F の名称) 2,4,6-トリブロモフェノール(1点)
問4
E は、ベンゼンを濃硫酸とともに加熱してできたベンゼンスルホン酸のナトリウム塩を、アルカリ融解したもの。
$$\ce{C6H5-SO3Na + 2NaOH -> C6H5-ONa + Na2SO3 + H2O}$$
E はナトリウムフェノキシド。フェノールは炭酸より弱い酸なので、E の水溶液に C(二酸化炭素)を通すとフェノール D が遊離する(問題文の「C を反応させても D が生成する」)。
$$\ce{C6H5-ONa + CO2 + H2O -> C6H5-OH + NaHCO3}$$
一方、水溶液ではなく、E に高温・高圧で二酸化炭素を反応させると、O のとなり(オルト位)の炭素に $\ce{COONa}$ が付いてサリチル酸ナトリウム G ができる(下の図)。
答 $\ce{C6H5-ONa + CO2 -> C6H4(OH)-COONa}$(構造式は上の図)(4点)
問5
G に濃硫酸を加えるとサリチル酸に戻り、濃硫酸を触媒としてメタノールとカルボキシ基がエステル化する。できるのは、カルボキシ基が $\ce{COO-CH3}$ になったサリチル酸メチル H(無色の液体)。
$$\ce{C6H4(OH)-COOH + CH3-OH -> C6H4(OH)-COO-CH3 + H2O}$$
一方、G に希硫酸を作用させるとサリチル酸の無色の結晶が得られる。これに無水酢酸を作用させると、フェノール性のヒドロキシ基がアセチル化されて、アセチルサリチル酸 I(無色の結晶)ができる(下の図)。
$$\ce{C6H4(OH)-COOH + (CH3CO)2O -> C6H4(O-CO-CH3)-COOH + CH3-COOH}$$
答(化合物 H) $\ce{C6H4(OH)-COO-CH3}$(サリチル酸メチル。構造式は上の図)(2点)
答(化合物 I) $\ce{C6H4(O-CO-CH3)-COOH}$(アセチルサリチル酸。構造式は上の図)(2点)
問6
塩化鉄(Ⅲ)水溶液で青色・赤紫色・紫色に呈色するのは、ベンゼン環に OH が直接付いたフェノール性のヒドロキシ基をもつ化合物。
・D(フェノール)・F(2,4,6-トリブロモフェノール)・H(サリチル酸メチル)は、そのままフェノール性のヒドロキシ基をもつ
・E(ナトリウムフェノキシド)と G(サリチル酸ナトリウム)は塩だが、加えたあとの液は十分な酸性なので、フェノールとサリチル酸に戻ってフェノール性のヒドロキシ基をもつ
・I(アセチルサリチル酸)は OH がアセチル化されていて、フェノール性のヒドロキシ基がない。A・B・C はそもそも OH をもたない
答 D、E、F、G、H(5点)
出題意図
問1 アセチレンとベンゼンを問題文の製法から決め、十分量の水素を付加したときの反応式を書けるか
問2 ベンゼンとプロペンからフェノールをつくる工業的製法を知っているか
問3 フェノールの検出に使う臭素水との反応を、置換が起こる位置まで書けるか
問4 ナトリウムフェノキシドと二酸化炭素からサリチル酸ナトリウムができる反応を書けるか
問5 サリチル酸のカルボキシ基とヒドロキシ基のどちらが反応するかを見分けて、構造式を書けるか
問6 塩化鉄(Ⅲ)の呈色がフェノール性のヒドロキシ基によることを理解し、液性の条件まで読んで選べるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 10分 | 10分 |
アセチレンからアスピリンまで、芳香族の教科書の流れをそのまま並べた大問だ。
構造決定の推論はなく、反応式と名前を正しく書けるかだけが問われているので、どの学部も満点を取りたい。
差がつくとしたら問6 の注記で、塩の E と G が酸性の液の中でフェノール性の OH に戻ると読めるかどうか。
芳香族の流れは「何に何を加えると何ができるか」を構造式まで白紙に再現できるようにしておこう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問6:塩の E と G も、十分な酸性の液の中ではフェノール性のヒドロキシ基に戻る、という発想に行き着けるか。「すべて選び」なので1つでも抜けると点にならず、注記を読み流して D・F・H だけにする受験生が多い(5点)。
2018年九州大学化学
第5問 解答・解説
第5問は高分子化合物(アミノ酸・タンパク質)の問題です。
テーマは『陽イオン交換樹脂』『アミノ酸の分離』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問6に答えよ。
(1) (A)および(B)の要領で下の構造式に示す樹脂を作成した。(C)および(D)は樹脂の合成反応を、(E)および(F)は樹脂の特性をそれぞれ説明したものである。
(A) $\boxed{\text{ア}}$ と $p$-ジビニルベンゼンを混合して加熱し、樹脂を作成した。
(B) 上記樹脂に $\boxed{\text{イ}}$ を加え、約150℃に保った。樹脂の一部が褐色になったところで取り出し、十分に水洗した。
(C) $\boxed{\text{ア}}$ と $p$-ジビニルベンゼンを重合させる反応は、2種類の単量体が連なる反応であるため $\boxed{\text{ウ}}$ 重合と呼ばれる。
(D) $\boxed{\text{イ}}$ を加える操作により、樹脂中のベンゼン環に $\boxed{\text{エ}}$ 基が導入された。
(E) 硝酸カルシウム水溶液にこの樹脂を加えよく混合し、水溶液の pH を測定したところ、 $\boxed{\text{オ}}$ 性を示した。これは、樹脂中の $\boxed{\text{カ}}$ イオンが $\boxed{\text{キ}}$ イオンと置き換わったためである。
(F) この樹脂は、(E)の機能から $\boxed{\text{ク}}$ イオン交換樹脂と呼ばれる。
(2) (1)で作成したイオン交換樹脂の細粒を下図に示す円筒(カラム)に充填し、下記の化合物(a)〜(k)のうち4種の化合物を含む酸性水溶液(pH 2.5)を加えた。その後、図のように pH を順次上昇させながら緩衝液を円筒上端から流し、円筒下端から流出してくる化合物①〜④を含む溶液を採取した。ただし、加えた化合物は、この操作中にイオンの解離と付加以外の化学反応を起こさないものとする。
(a) アラニン、 (b) エタノール、 (c) グリシン、 (d) グルコース、
(e) グルタミン酸、 (f) システイン、 (g) スクロース、 (h) セリン、
(i) チロシン、 (j) 乳酸、 (k) リシン(リジン)
(i) pH 2.5の緩衝液を流して得られる化合物①は、 $\ce{Cu}$(Ⅱ)イオンを含む呈色液を還元して $\ce{Cu2O}$ の赤色沈殿を生じさせた。
(ii) pH 4.0の緩衝液を流して得られる化合物②は、溶液にニンヒドリンを加えて加熱したところ、赤紫色になった。
(iii) pH 7.0の緩衝液を流して得られる化合物③は、濃硝酸を加えて加熱し冷却後アンモニア水を加えたところ、橙黄色となった。
(iv) pH 11.0の緩衝液を流して得られる化合物④は、化合物②と同じ反応を起こした。
問1. $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{ク}}$ にあてはまる適切な語句または名称を答えよ。
問2. 化合物①〜④を(a)〜(k)からそれぞれ一つずつ選び、記号で答えよ。
問3. (i)の呈色液および(iii)の呈色反応の名前をそれぞれ答えよ。
問4. 化合物(a)〜(k)の中からアミノ酸をすべて選び、記号で答えよ。
問5. 問4で選んだアミノ酸のうち、不斉炭素を持たないものをすべて選び、構造式を答えよ。なお構造式は、表紙にある記入例にならうものとする。
問6. 問4で選んだアミノ酸から、分子量の小さい順に二つを選び、その二つが反応してできるジペプチドの構造式をすべて答えよ。なお光学異性体は考慮しないものとし、構造式は表紙にある記入例にならうものとする。
解答の方針
【問1の方針】
陽イオン交換樹脂は、スチレンと p-ジビニルベンゼンの共重合体にスルホ基を入れたもの。スルホ基の $\ce{H+}$ は水溶液中の陽イオンと入れかわって外に出るので、液は酸性になる(下の図)。


- ア・ウ 樹脂の図の繰り返し単位(ベンゼン環の付いた $-\ce{CH2-CH}-$ )からスチレンと決め、2種類の単量体が連なるので共重合と答える。
- イ・エ 樹脂の図でベンゼン環に付いた $-\ce{SO3H}$ から、濃硫酸によるスルホン化でスルホ基が入ったと決める。
- オ〜ク 樹脂の $-\ce{SO3H}$ の $\ce{H+}$ が $\ce{Ca^2+}$ と入れかわって液に出るので酸性。陽イオンを交換するので陽イオン交換樹脂。
【問2の方針】
樹脂に引きつけられるのは正の電荷をもつものだけ。pH 2.5 ではアミノ酸はすべて陽イオンで吸着され、電荷をもたない分子は素通りする。pH を上げると等電点をこえたものから流れ出る(下の図)。


- ① pH 2.5 で素通りし、Cu(Ⅱ)イオンを還元して $\ce{Cu2O}$ を生じる=電荷をもたない還元性の糖。グルコースを選ぶ。
- ②・④ ニンヒドリン反応を示すのでアミノ酸。等電点の小さいものから流れ出るので、pH 4.0 で出る②は酸性アミノ酸のグルタミン酸、pH 11.0 で出る④は塩基性アミノ酸のリシン。
- ③ pH 7.0 で出る中性アミノ酸のうち、キサントプロテイン反応(ベンゼン環)を示すチロシンを選ぶ。
【問3の方針】
(i) は Cu(Ⅱ) を含み還元性の糖で $\ce{Cu2O}$ が沈殿する呈色液、(iii) は濃硝酸でベンゼン環がニトロ化されて黄色になる呈色反応。
- (i) の呈色液はフェーリング液、(iii) の呈色反応はキサントプロテイン反応と答える。
【問4の方針】
アミノ酸は、1つの分子にアミノ基とカルボキシ基の両方をもつ化合物。乳酸はカルボキシ基をもつが、アミノ基の代わりにヒドロキシ基なので入らない(下の図)。


- (a)〜(k) から、アミノ基とカルボキシ基の両方をもつものを選ぶ。
【問5の方針】
不斉炭素をもたない $\alpha$-アミノ酸は、側鎖が $-\ce{H}$ で中心の炭素に H が2つ付くグリシンだけ。
- 問4 で選んだ7つのうち、中心の炭素に H が2つ付くグリシンを選び、記入例の形で構造式を書く。
【問6の方針】
ペプチド結合には向きがあり、一方のカルボキシ基ともう一方のアミノ基がつながる。グリシンとアラニンでは、どちらのカルボキシ基を使うかで2つの化合物ができる(下の図)。


- 問4 の7つのうち、側鎖のいちばん小さいグリシンと、その次のアラニンを選ぶ。
- グリシンのカルボキシ基とアラニンのアミノ基がつながるものと、その逆のものの2つを、記入例の形で書く。
解答


解答をテキストで読む
問1
(A) 樹脂の図の繰り返し単位は、ベンゼン環の付いた $-\ce{CH2-CH}-$。これはスチレン $\ce{CH2=CH-C6H5}$ が付加重合した形。p-ジビニルベンゼンは $\ce{C=C}$ を2つもつので、2本の鎖を橋かけして立体網目構造をつくる。
(B)・(D) 濃硫酸を加えて加熱すると、ベンゼン環の $-\ce{H}$ が $-\ce{SO3H}$(スルホ基)に置きかわる(スルホン化)。
答(ア) スチレン(1点)
答(イ) 濃硫酸(1点)
(C) 2種類以上の単量体を混ぜて重合させることを共重合という。
答(ウ) 共(1点)
答(エ) スルホ(1点)
(E) 樹脂のスルホ基の $\ce{H+}$ が、水溶液中の $\ce{Ca^2+}$ と入れかわる。樹脂の部分を R と書くと
$$\ce{2R-SO3H + Ca^2+ -> (R-SO3)2Ca + 2H+}$$
液に $\ce{H+}$ が出るので、水溶液は酸性を示す。硝酸イオンは陰イオンなので、この樹脂とは交換されない。
答(オ) 酸(1点)
答(カ) 水素(1点)
答(キ) カルシウム(1点)
(F) 陽イオンどうしを交換するので、陽イオン交換樹脂と呼ばれる。
答(ク) 陽(1点)
問2
pH 2.5 の酸性の水溶液では、アミノ酸はアミノ基が $-\ce{NH3+}$ になり、全体として正の電荷をもつ陽イオンになる。樹脂の $-\ce{SO3-}$ に引きつけられて、すべて吸着される。電荷をもたない分子(糖やエタノール)は吸着されず、そのまま流れ出る。
そのあと pH を上げた緩衝液を流すと、pH が等電点をこえたアミノ酸から陽イオンでなくなり、樹脂から離れて流れ出る。等電点は酸性アミノ酸<中性アミノ酸<塩基性アミノ酸の順なので、流れ出る順もこの順になる。
・①:pH 2.5 で吸着されずに流れ出て、フェーリング液を還元した。電荷をもたず還元性があるのはグルコース。スクロースは還元性の部分どうしが結合に使われているので還元性がなく、エタノール・乳酸もフェーリング液を還元しない
・②:ニンヒドリン反応で赤紫色になったのでアミノ酸。pH 4.0 で流れ出たので、等電点が4.0より小さい酸性アミノ酸のグルタミン酸(等電点 約3.2)
・③:キサントプロテイン反応で橙黄色になったので、ベンゼン環をもつ。pH 7.0 で流れ出る中性アミノ酸のうち、ベンゼン環をもつのはチロシン(等電点 約5.7)
・④:ニンヒドリン反応を示したのでアミノ酸。pH 11.0 で初めて流れ出たので、等電点が7.0より大きい塩基性アミノ酸のリシン(等電点 約9.7)
答(①) (d) グルコース(2点)
答(②) (e) グルタミン酸(2点)
答(③) (i) チロシン(2点)
答(④) (k) リシン(2点)
問3
(i) フェーリング液は、硫酸銅(Ⅱ)水溶液と、酒石酸ナトリウムカリウム・水酸化ナトリウムの水溶液を混ぜた深青色の液。還元性のある糖を加えて加熱すると、 $\ce{Cu^2+}$ が還元されて $\ce{Cu2O}$ の赤色沈殿ができる。
(iii) 濃硝酸を加えて加熱すると、ベンゼン環がニトロ化されて黄色になり、アンモニア水を加えると橙黄色になる。これがキサントプロテイン反応で、ベンゼン環をもつアミノ酸(チロシン・フェニルアラニン)やそれを含むタンパク質で起こる。
アミノ酸・タンパク質の呈色反応は、次の組で押さえておく。
・ニンヒドリン反応:アミノ基を検出(赤紫〜紫色)
・ビウレット反応:ペプチド結合2つ以上(トリペプチド以上)を検出(赤紫色)
・キサントプロテイン反応:ベンゼン環を検出(黄色→橙黄色)
・硫黄の検出:酢酸鉛(Ⅱ)水溶液で $\ce{PbS}$ の黒色沈殿(システイン・メチオニン)
答((i) の呈色液) フェーリング液(1点)
答((iii) の呈色反応) キサントプロテイン反応(1点)
問4
アミノ酸は、アミノ基とカルボキシ基の両方をもつ化合物。(a) アラニン・(c) グリシン・(e) グルタミン酸・(f) システイン・(h) セリン・(i) チロシン・(k) リシンの7つ。(j) 乳酸はカルボキシ基をもつが、アミノ基の代わりにヒドロキシ基をもつヒドロキシ酸で、アミノ酸ではない(下の図)。
答 (a)、(c)、(e)、(f)、(h)、(i)、(k)(3点)
問5
不斉炭素は、4つの違う原子・原子団が結合した炭素原子。 $\alpha$-アミノ酸の中心の炭素には $-\ce{H}$・ $-\ce{NH2}$・ $-\ce{COOH}$ と側鎖が結合する。7つのうち、側鎖が $-\ce{H}$ のグリシンだけは H が2つ付くので、不斉炭素をもたない。ほかの6つは不斉炭素をもつ。
答 (c) グリシン $\ce{H2N-CH2-COOH}$(上の図)(2点)
問6
7つのアミノ酸の分子量は、側鎖が $-\ce{H}$ のグリシンが75、側鎖が $-\ce{CH3}$ のアラニンが89で、ほかは側鎖に O・S・N やベンゼン環を含むので、いちばん小さいセリンでも105。小さい順の2つはグリシンとアラニン。
この2つが1分子ずつ反応してペプチド結合をつくるとき、グリシンのカルボキシ基とアラニンのアミノ基がつながるものと、アラニンのカルボキシ基とグリシンのアミノ基がつながるものの2通りがある。ペプチドは左端にアミノ基、右端にカルボキシ基が残り、並ぶ順が違えば別の化合物になる。光学異性体は考えないので、答えは2つ(下の図)。
答(グリシンのカルボキシ基とアラニンのアミノ基) $\ce{H2N-CH2-CO-NH-CH(CH3)-COOH}$(上の図の上の段)(1点)
答(アラニンのカルボキシ基とグリシンのアミノ基) $\ce{H2N-CH(CH3)-CO-NH-CH2-COOH}$(上の図の下の段)(1点)
出題意図
問1 陽イオン交換樹脂の原料とつくり方、陽イオンを交換して水素イオンが出てくるしくみを説明できるか
問2・問3 電荷の有無と等電点から流れ出る順を決め、呈色反応と結びつけて化合物を特定できるか
問4〜問6 アミノ酸の定義・不斉炭素・ペプチド結合の向きを、構造式まで正確に答えられるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 10分 | 10分 |
計算は1つもなく、陽イオン交換樹脂のつくり方とアミノ酸の基本だけでできた大問。
決め手の問2 も「pH を上げると等電点の小さいアミノ酸から流れ出る」「電荷をもたない糖は素通りする」の2点で決まる。
高分子の大問は暗記の精度がそのまま点になるので、10分で満点を取り切ること。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2:pH を上げると等電点の小さいアミノ酸から流れ出る、という流れに、電荷をもたないグルコースが最初に素通りすることを組み合わせられるか。等電点の値を細かく覚えていなくても、酸性→中性→塩基性の順と呈色反応で4つが決まる。この流れが分からないと、8点がまとめて落ちる。
2018年九州大学・化学の
講評とまとめ
5問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 第2問 | やや難 | 20点 | 15点 |
| 第3問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 第4問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 第5問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 全体 | やや簡単 | 105点 | 85点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で85点)にはなりません。
全体的に難易度はやや簡単な年。
第2問がやや難で、ほかの4題はやや簡単でした。
合否を分けたのは第2問で、前半の熱化学・反応速度・圧平衡定数は典型ですが、問4・問5 で平衡の移動の向きだけでなく、各分圧の増減まで追えるかで差がつきました。
第1問は重要問題集にそのまま載っている小問が3つあり、第4問はアセチレンからアスピリンまでの教科書の流れ、第5問は陽イオン交換樹脂とアミノ酸の知識だけで解けます。
第3問も油脂とセッケンの知識と典型的な平衡定数の計算で満点が取れます。
やや簡単な4題を取り切ったうえで、第2問の後半でどこまで点を積めるかの勝負です。
1つの大問に15分以上かけないことが大事です。
解く流れ
第1問 → 第2問 → 第3問 → 第4問 → 第5問。
2018年九州大学・化学に
関するよくある質問
2018年の九州大学・化学について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2018年の九州大学・化学は難しかった?
-
全体的に難易度はやや簡単な年でした。
第2問がやや難、第1問・第3問・第4問・第5問はやや簡単です。 - 2018年の九州大学・化学は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で85点です(125点満点)。
- 2018年の九州大学・化学はどこで差がつく?
-
この年の合否を分けたのは第2問で、差がついたのは次の3つでした。
- 第2問 問4・問5:体積や温度を変えたときに、平衡の移動の向きだけでなく、状態方程式による変化と圧平衡定数を合わせて各分圧の増減まで追えたか。
- 第3問 問8:エステル交換の途中でできる物質を、グリセリンの端と真ん中のどこにエステルが残るかで漏れなく数えられたか。
- 第4問 問6:塩の E・G も十分な酸性の液の中ではフェノール性のヒドロキシ基に戻り、呈色すると読めたか。
- 2018年の九州大学・化学は何が出題された?
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大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:理論化学(酸化・還元と電池・電気分解)・無機化学
- 第2問:理論化学(反応の速さと化学平衡)
- 第3問:有機化学・理論化学
- 第4問:有機化学
- 第5問:高分子化合物(アミノ酸・タンパク質)




