【解説・配点付き】2016年九州大学化学の解答・解説
2016年の九州大学・化学の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2016年九州大学化学
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は理論化学(化学結合と結晶)の問題です。
テーマは『水の結合と水素結合』『水の状態図』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問6に答えよ。
水分子では、酸素原子と水素原子それぞれのもつ不対電子が対をなすことにより $\boxed{\text{ア}}$ 結合を生じている。水の沸点は、他の16族元素の水素化合物である $\ce{H2S}$、 $\ce{H2Se}$、 $\ce{H2Te}$ の沸点よりも非常に高い(a)。この理由は、水分子中の $\ce{O-H}$ 結合の $\boxed{\text{イ}}$ が特に大きく、隣り合う水分子間で、水素原子をなかだちとした $\boxed{\text{ウ}}$ 的な引力による水素結合を生じているためである。また、フッ化水素の沸点に比べても水の沸点の方が高い(b)。
塩化水素を水に溶解すると電離し、水素イオンを生じる。この水素イオンに水分子が非共有電子対を提供して生じる $\boxed{\text{ア}}$ 結合の一種を $\boxed{\text{エ}}$ 結合という。この結合を形成することで生じるオキソニウムイオンの結合角∠HOHは、水分子のそれよりも大きくなる(c)。
水(液体)では、個々の水分子は互いに引き合いながら運動しているが、氷(固体)になると、各原子間の結合距離や結合角が定まる。氷(固体)は、水分子の酸素原子が $\boxed{\text{オ}}$ 形の各頂点に位置し、その中心に水分子の酸素原子が一つ配置された結晶構造を持つ。この結晶構造において、一つの水分子の酸素原子は、 $\boxed{\text{X}}$ 個の水素原子と結合しているが、そのうち $\boxed{\text{Y}}$ 個は $\boxed{\text{ア}}$ 結合で、 $\boxed{\text{Z}}$ 個は水素結合によるものである。
図1は水の状態図を簡略に表したものである(d)。D点より圧力を上げると、水(液体)の $\boxed{\text{カ}}$ は上がるが、氷(固体)の $\boxed{\text{キ}}$ は下がる。D—A線の負の傾きは、圧力が上がると氷(固体)の水素結合が切れて体積が $\boxed{\text{ク}}$ するとともに密度が $\boxed{\text{ケ}}$ し、水(液体)になることを示している。
問1. 文中の $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{ケ}}$ にあてはまる最も適切な語句を、以下の語群から一つ選択して答えよ。また $\boxed{\text{X}}$ 〜 $\boxed{\text{Z}}$ には、適切な数値を答えよ。
語群
分子、イオン、イオン化、共有、非共有、金属、極性、融点、沸点、臨界点、溶解度、水素、酸素、ハロゲン、配位、静電気、電荷、電子親和力、直線、折れ線、四角錐、正四面体、正六面体、増加、減少、膨張、結合エネルギー
問2. 下線部(a)について、 $\ce{H2S}$、 $\ce{H2Se}$、 $\ce{H2Te}$ を沸点の高い方から順に記せ。
問3. 下線部(b)の理由について、以下の(1)〜(5)から最も適切なものを一つ選び番号で答えよ。
(1) 酸素原子の電気陰性度は、フッ素原子の電気陰性度より小さいため。
(2) 水の分子量は、フッ化水素の分子量より小さいため。
(3) 水1分子あたりの水素結合の数は、フッ化水素1分子あたりの水素結合の数より多いため。
(4) 水分子間の水素結合一つあたりの結合エネルギーは、フッ化水素分子間の水素結合一つあたりの結合エネルギーよりも大きいため。
(5) 水の $\ce{O-H}$ 結合の結合エネルギーは、フッ化水素の $\ce{F-H}$ 結合の結合エネルギーより小さいため。
問4. オキソニウムイオンの電子式を記入例にならって答えよ。
記入例:塩化物イオン ただし、・は電子を表す。
問5. 下線部(c)の理由について、以下の(1)〜(5)から最も適切なものを一つ選び番号で答えよ。
(1) オキソニウムイオンは、電荷を持つため。
(2) オキソニウムイオンは、三角錐形の構造を持つため。
(3) オキソニウムイオン中の水素原子どうしの反発が弱くなるため。
(4) オキソニウムイオンを形成することで、隣接する水分子との水素結合が、より強くなるため。
(5) オキソニウムイオンを形成することで、水分子に存在した非共有電子対どうしの反発がなくなるため。
問6. 下線部(d)について、D点、D—A線、D—B線、D—C線の名称をそれぞれ答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
空欄は、水の結合→水素結合→配位結合→氷の結晶→状態図の順に並ぶ。X〜Z は1つの O のまわりの H を、自分の H ととなりの分子の H に分けて数える(下の図)。


- ア〜エは、不対電子どうしでつくる共有結合、電気陰性度の差による結合の極性、δ+ の H と δ− の O の静電気的な引力、非共有電子対を提供する配位結合の順に、語群から選ぶ。
- オ・X〜Z は、氷では1つの O のまわりに4つの O が正四面体の頂点に並び、その間を H が1つずつつないでいることから決める。
- カ・キは、D より高い圧力の横線と、蒸気圧曲線 D—B・融解曲線 D—A の交点の温度を、D の温度と比べて決める。
- ク・ケは、D—A 線が左に傾いている(圧力を上げると氷が水になる)ことから、氷→水の体積と密度の変化を決める。
【問2の方針】
水素結合をつくらない分子どうしは、分子量が大きいほどファンデルワールス力が大きく、沸点が高い。
- $\ce{H2S}$・ $\ce{H2Se}$・ $\ce{H2Te}$ は水素結合をつくらないので、分子量で比べる。
- 分子量の大きい順に並べる。
【問3の方針】
$\ce{H2O}$ と $\ce{HF}$ は、どちらも水素結合で沸点が分子量のわりに高い。その2つの差は、水素結合1本の強さではなく、1分子あたりの水素結合の数で決まる(下の図)。


- 1分子あたりの水素結合の数を数える( $\ce{H2O}$ は2本、 $\ce{HF}$ は1本)。
- 選択肢を1つずつ判定し、この理由に当たるものを選ぶ。
【問4の方針】
電子式は「電子の総数は変わらない」「各原子は希ガスの電子配置」の2つのルールで書く。オキソニウムイオンは、水分子の非共有電子対の1組を $\ce{H+}$ が受け取る配位結合でできる(下の図)。


- 水分子の電子式を書く。
- O の非共有電子対の1組を $\ce{H+}$ と共有させ、O のまわりの H を3つにする。
- 電子の総数が8個(O の6個+H の3個−1個)であることを確かめ、全体を[ ]で囲んで右上に+を付ける。
【問5の方針】
分子の形は、O のまわりの電子対がたがいに反発して遠ざかることで決まり、非共有電子対の反発が強い。その非共有電子対が、水の2組からオキソニウムイオンの1組に減る(下の図)。


- $\ce{H2O}$ と $\ce{H3O+}$ の O のまわりの電子対を、共有電子対と非共有電子対に分けて数える。
- 非共有電子対の数の変化と結合角の関係から、選択肢を1つずつ判定する。
【問6の方針】
状態図の名前は、3本の曲線が集まる点と、それぞれの曲線がどの2つの状態の境目かで決まる(下の図)。


- 3本の曲線が集まる D 点を名づける。
- D—A・D—B・D—C の各線を、両側の状態(固体と液体・液体と気体・固体と気体)から名づける。
解答




解答をテキストで読む
問1
ア:O と H がそれぞれの不対電子を出し合って共有電子対をつくる結合は、共有結合。
答(ア) 共有(1点)
イ:電気陰性度は O の方が H よりはるかに大きい(F > O > N ≒ Cl > C ≒ S > H)。O−H の共有電子対は O の側に大きく偏り、O が δ−、H が δ+ になる。この電荷の偏りが結合の極性。
答(イ) 極性(1点)
ウ:δ+ の H が、となりの水分子の δ− の O(の非共有電子対)と引き合う。水素結合は、この静電気的な引力による分子間の結合。
答(ウ) 静電気(1点)
エ:$\ce{H+}$ は電子をもたないので、水分子の O が非共有電子対の1組を一方的に提供して $\ce{H+}$ と共有する(下の図)。このように片方の原子だけが電子対を提供する共有結合が配位結合。できたあとの3本の O−H は区別できない。
答(エ) 配位(1点)
オ・X〜Z:氷では、1つの O のまわりに4つの O が正四面体の頂点に並び、中心の O と頂点の O の間に H が1つずつ入る。中心の O から見ると、まわりの4つの H のうち2つは自分の H(共有結合)、残りの2つはとなりの分子の H で、O の非共有電子対2組に向かって水素結合している(下の図)。氷は、この正四面体の向きにしか結合しないので、すき間の多い構造になる。
答(オ) 正四面体(1点)
答(X) 4(1点)
答(Y) 2(1点)
答(Z) 2(1点)
カ・キ:D より高い圧力で横線を引く(下の図)。液体と気体の境目の蒸気圧曲線 D—B は右上がりなので、交点の温度(沸点)は D の温度より高い。固体と液体の境目の融解曲線 D—A は左に傾いているので、交点の温度(融点)は D の温度より低い。
答(カ) 沸点(1点)
答(キ) 融点(1点)
ク・ケ:D の温度より少し低い温度で氷に圧力をかけると、融解曲線 D—A をこえて液体の領域に入る(下の図)。氷はすき間の多い構造なので、融けて水素結合の一部が切れると、構造がくずれて水分子がすき間に入り込み、体積が減る。質量は変わらないので、密度は増える。圧力を上げると、体積の小さい水の方へ移るということ。
答(ク) 減少(1点)
答(ケ) 増加(1点)
問2
3つとも水素結合をつくらない(S・Se・Te は電気陰性度が小さく、H との結合の極性が小さい)。分子量は $\ce{H2S}$ が約34、 $\ce{H2Se}$ が約81、 $\ce{H2Te}$ が約130 で、周期表の下の元素ほど大きい。分子量が大きいほどファンデルワールス力が大きく、沸点が高い(問3 の図の16族の第3〜5周期)。
答 $\ce{H2Te}$ > $\ce{H2Se}$ > $\ce{H2S}$(2点)
問3
水素化合物の沸点は、周期表の下の分子ほど分子量が大きく、ファンデルワールス力で高くなる。その中で $\ce{H2O}$・ $\ce{HF}$ だけが分子量のわりに高いのは、分子の間に水素結合がはたらくから(下の図)。
$\ce{H2O}$ と $\ce{HF}$ の差は、1分子あたりの水素結合の数で決まる。 $\ce{H2O}$ は H 2つと非共有電子対2組で4本の水素結合をつくるが、1本を2つの分子で分け合うので、1分子あたり2本。 $\ce{HF}$ は H を1つしかもたないので、1分子が関わる水素結合は2本で、1分子あたり1本。
・(1) 誤り。O の電気陰性度が F より小さいのは正しいが、それは F−H の方が極性が大きく、水素結合1本が $\ce{HF}$ の方が強い理由になる。水の沸点が高い理由にはならない
・(2) 誤り。分子量は $\ce{H2O}$ が18、 $\ce{HF}$ が20 で水の方が小さいが、分子量が小さいことは沸点を下げる向きにはたらく
・(3) 正しい。1分子あたりの水素結合の数は $\ce{H2O}$ が2本、 $\ce{HF}$ が1本
・(4) 誤り。水素結合1本の強さは、電気陰性度の大きい F をもつ $\ce{HF}$ の方が大きい
・(5) 誤り。沸騰で切れるのは分子の間の水素結合で、分子の中の O−H・F−H の結合は切れないので、沸点とは関係しない
答 (3)(2点)
問4
電子の総数を変えずに、各原子のまわりが希ガスの電子配置になるように書く。水分子の O は、H との共有電子対2組と非共有電子対2組をもつ。そのうち非共有電子対の1組を $\ce{H+}$ と共有すると、O のまわりは共有電子対3組と非共有電子対1組になる(問1 エの図)。電子の総数は O の6個と H の3個から1個を引いた8個で、O のまわりは8個(Ne と同じ)、各 H のまわりは2個(He と同じ)。もとの原子より電子が1個少ないので、全体を[ ]で囲んで右上に+を付ける(下の図)。
答 上の図の電子式(3点)
問5
$\ce{H2O}$ の O のまわりの電子対は4組(共有電子対2組と非共有電子対2組)。4組はたがいに反発し、正四面体の頂点の方向に遠ざかる。ただし非共有電子対は共有電子対より反発が強く、2組の非共有電子対が H−O−H の角を押し縮めるので、水の結合角は約104.5°と、正四面体の角(約109.5°)より小さい。
$\ce{H3O+}$ では非共有電子対の1組が $\ce{H+}$ との共有電子対に変わり、非共有電子対は1組だけになる。非共有電子対どうしの反発がなくなるので、H−O−H の角は水より開く(下の図)。
・(1) 誤り。電荷はイオン全体の性質で、O のまわりの電子対どうしの反発とは関係しない
・(2) 誤り。三角錐形は形の説明で、角が大きくなる理由ではない
・(3) 誤り。H 原子どうしの反発が弱くなるなら、角はむしろ閉じる向きになる
・(4) 誤り。水素結合は分子の間の引力で、分子の中の角を決めるものではない
・(5) 正しい
答 (5)(2点)
問6
D 点は3本の曲線が集まる点で、固体・液体・気体の3つが共存する三重点。D—A 線は固体と液体の境目の融解曲線、D—B 線は液体と気体の境目の蒸気圧曲線、D—C 線は固体と気体の境目の昇華圧曲線(下の図)。B 点は蒸気圧曲線が途切れる臨界点で、これより温度と圧力が高いと液体と気体の区別がつかなくなる。
答(D点) 三重点(1点)
答(D—A線) 融解曲線(1点)
答(D—B線) 蒸気圧曲線(1点)
答(D—C線) 昇華圧曲線(昇華曲線ともいう)(1点)
出題意図
問1 水分子の中の共有結合・分子の間の水素結合・ $\ce{H+}$ との配位結合、氷の結晶の形、状態図の曲線の傾きを、文の流れにそって語群から正しく選べるか
問2・問3 水素化合物の沸点を、分子量(ファンデルワールス力)と1分子あたりの水素結合の数で説明できるか
問4・問5 配位結合でできるオキソニウムイオンの電子式を書き、電子対どうしの反発から結合角の変化を説明できるか
問6 水の状態図の点と曲線の名前を答えられるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 10分 | 10分 |
水の化学結合と状態図の知識だけで満点が取れる大問で、どの学部も満点を取りたい。
重要問題集の化学結合と水の状態図を白紙に再現できるまで仕上げていれば、すべて知っている内容。
水素化合物の沸点のグラフは「分子量でファンデルワールス力」「水素結合の有無」「水素結合の数」の順で言い切れるようにしておこう。
知識で埋められる所は時間をかけずに書き、浮いた時間を計算の重い大問に回すこと。
差がつく所・失点しやすい所
- 問5:差がつくとしたら、結合角が開く理由を「非共有電子対どうしの反発がなくなる」と判断できるか。電子対の反発で分子の形を決める考え方を、角の大きさにまで広げられるかが決め手。
2016年九州大学化学
第2問 解答・解説
第2問は理論化学(反応の速さと化学平衡)の問題です。
テーマは『反応速度と平衡』『中間生成物の速度式』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問7に答えよ。
以下の式①〜式④に示す化学反応は、いずれも、それ以上分解して表せない素反応を表している。反応はいずれも均一な溶液中で行い、反応中の温度は変わらないものとする。また、反応の進行に伴う反応溶液の体積変化は無いものとする。反応物や生成物の濃度はモル濃度(体積モル濃度)であり、例えば物質Aについては $[\mathrm{A}]$ と表す。また、反応速度は濃度の変化で定義する。
[反応1]
式①で示す物質Aと物質Bの間で進行する反応を考える。 $k_1$ は速度定数である。
$\mathrm{A}+\mathrm{B}\xrightarrow{\ k_1\ }\mathrm{P}$ ・・・①
反応速度を測定するために、一定の時間間隔で生成物Pの濃度を測定した。反応はAとBを混合すると同時に開始した。反応開始時( $t=0$ )のAとBの初濃度は、それぞれ $[\mathrm{A}]_0$ および $[\mathrm{B}]_0$ であった。反応開始時にPは存在しておらず、反応開始後の時間 $t=t_1$ の濃度は $[\mathrm{P}]_{t_1}$ であった。この反応溶液の体積は $V$ である。
問1. 反応開始から遠くない時間内において、反応開始時から $t=t_1$ までの間の平均の反応速度は、反応開始時の瞬間の速度である反応の初速度 $v_0$ と等しかった。 $v_0$ を生成物の濃度 $[\mathrm{P}]_{t_1}$ を用いて式で答えよ。
問2. 反応時間 $t_1$ における反応溶液中のAの物質量を反応の初速度 $v_0$ を用いて式で答えよ。
[反応2]
物質Cと物質Dから物質Eへの正反応と共に、EからCとDへの逆反応が進行する式②に示す反応を考える。 $k_2$ と $k_{-2}$ は、それぞれ正反応および逆反応の速度定数である。反応開始時のCとDの初濃度は、それぞれ $[\mathrm{C}]_0$ および $[\mathrm{D}]_0$ であり、反応開始時にEは存在しなかった。CとDを混合して反応が進行した後、見かけ上反応が止まった状態(平衡状態)に達した。平衡状態におけるEの濃度は $[\mathrm{E}]_\mathrm{e}$ であった。
$\mathrm{C}+\mathrm{D}\ \underset{k_{-2}}{\overset{k_2}{\rightleftarrows}}\ \mathrm{E}$ ・・・②
問3. 正反応および逆反応の反応速度を、それぞれ $v_+$ および $v_-$ とする。式②の反応が平衡状態にある時、 $v_+$ と $v_-$ はどのような関係にあるか、式で答えよ。
問4. $v_+$ は $v_+=k_2[\mathrm{C}]_\mathrm{t}[\mathrm{D}]_\mathrm{t}$、 $v_-$ は $v_-=k_{-2}[\mathrm{E}]_\mathrm{t}$ と表される。ここで $[\mathrm{C}]_\mathrm{t}$、 $[\mathrm{D}]_\mathrm{t}$ および $[\mathrm{E}]_\mathrm{t}$ は、時間 $t$ における、それぞれの物質の濃度である。 $k_2$ と $k_{-2}$ の比 $k_2/k_{-2}$ を、 $[\mathrm{E}]_\mathrm{e}$ およびCとDの初濃度を用いて答えよ。
[反応3]
物質Xと物質Yが反応し、XとYが結合した中間生成物Zを経由して生成物Qが生成する式③および式④で示す反応を考える。反応溶液中でZの濃度は、これらの二つの反応の進行に伴って変化する。 $k_3$、 $k_{-3}$、および $k_4$ はそれぞれの反応過程の速度定数である。
$\mathrm{X}+\mathrm{Y}\ \underset{k_{-3}}{\overset{k_3}{\rightleftarrows}}\ \mathrm{Z}$ ・・・③
$\mathrm{Z}\xrightarrow{\ k_4\ }\mathrm{Q}$ ・・・④
XとYを混合して反応を開始させた。XとYの初濃度は、それぞれ $[\mathrm{X}]_0$ および $[\mathrm{Y}]_0$ であり、 $[\mathrm{Y}]_0$ は $[\mathrm{X}]_0$ に比べて非常に大きい。また、反応開始時にZおよびQは存在しなかった。式④の反応は式③の反応に比べ進行がずっと遅い。反応開始から遠くない時間内において、Qがゆっくり生成し始め、その後、Qが生成する速度が一定となり、この状態が一定時間保たれた(a)。
問5. 反応が進行して、反応溶液はX、Y、ZおよびQの混合溶液になった。反応溶液中のZの時間 $t$ における濃度 $[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ を、 $[\mathrm{X}]_0$、 $[\mathrm{X}]_\mathrm{t}$、および $[\mathrm{Q}]_\mathrm{t}$ を用いて表せ。 $[\mathrm{X}]_\mathrm{t}$ および $[\mathrm{Q}]_\mathrm{t}$ は、XおよびQの時間 $t$ における濃度である。
問6. Zの濃度が変化する速度は、Zが生成する反応速度 $v_{\mathrm{Z}(\text{生成})}$ とZが消滅する反応速度 $v_{\mathrm{Z}(\text{消滅})}$ によって決定される。 $v_{\mathrm{Z}(\text{生成})}$ は、 $v_{\mathrm{Z}(\text{生成})}=k_3[\mathrm{X}]_\mathrm{t}[\mathrm{Y}]_\mathrm{t}$ と表される。 $[\mathrm{Y}]_\mathrm{t}$ は、Yの時間 $t$ における濃度である。 $v_{\mathrm{Z}(\text{消滅})}$ を表す反応速度式を、 $[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ を用いて答えよ。
問7. 下線部(a)の状態にある時、Zが生成する反応速度とZが消滅する反応速度はつり合っている。この状態での濃度の比 $\dfrac{[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}}{[\mathrm{X}]_\mathrm{t}[\mathrm{Y}]_\mathrm{t}}$ を、速度定数を用いて近似せずに表せ。
解答の方針
【問1の方針】
反応速度は、問題文が決めた物質の濃度の変化で考える。ここでは P の濃度で測っていて、反応開始時に P は無い(下の図)。


- 平均の反応速度を、P の濃度の変化を時間で割った形で書き、それが初速度 $v_0$ に等しいことから $v_0$ を表す。
【問2の方針】
係数が1:1なので、P が増えた分だけ A が減る。問2 は濃度でなく物質量を聞いている。
- 時間 $t_1$ までに P の濃度は $v_0t_1$ だけ増えたので、A の濃度も同じだけ減る。 $t_1$ での A の濃度を表す。
- 濃度に体積 $V$ をかけて A の物質量にする。
【問3の方針】
平衡は反応が止まっているのではなく、正反応と逆反応の速さが等しい状態である。
- 平衡の定義から、 $v_+$ と $v_-$ の関係を書く。
【問4の方針】
平衡では $v_+=v_-$ 。平衡での濃度は、状態遷移図を書いて E の濃度でそろえる(下の図)。


- C・D・E の状態遷移図を濃度で書き、平衡での C と D の濃度を $[\mathrm{E}]_\mathrm{e}$ で表す。
- $v_+=v_-$ に速度定数×濃度の式と平衡の濃度を入れ、 $\dfrac{k_2}{k_{-2}}$ の形に整理する。
【問5の方針】
最初にあった X は、反応していない X のままか、Z の中か、Q の中のどれかにある(下の図)。Z も Q も X を1つずつ含むので、濃度の和が最初の X の濃度に等しい。


- $[\mathrm{X}]_0=[\mathrm{X}]_\mathrm{t}+[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}+[\mathrm{Q}]_\mathrm{t}$ を書く。
- $[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ について解く。
【問6の方針】
Z に入る道は式③の正反応だけだが、Z から出る道は式③の逆反応と式④の2本ある(下の図)。


- 素反応の速度式は反応式の係数どおりに書けるので、Z が減る2つの反応の速さを、 $k_{-3}[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ と $k_4[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ と書く。
- 2つの和を消滅の速さとしてまとめる。
【問7の方針】
Q のできる速さが一定なら Z の濃度も一定で、Z に入る速さと出る速さの合計がつり合っている(下の図)。


- 生成の速さ=消滅の速さの式を書き、 $\dfrac{[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}}{[\mathrm{X}]_\mathrm{t}[\mathrm{Y}]_\mathrm{t}}$ について解く。 $k_4$ は小さくても落とさない。
解答


解答をテキストで読む
問1
問題文は、反応速度を濃度の変化で定義している。ここでは生成物 P の濃度を測っているので、P の濃度の増加を時間で割ったものが平均の反応速度になる。反応開始時に P は無い( $[\mathrm{P}]_0=0$ )ので、0から $t_1$ までの平均の速度は
$$\bar v=\dfrac{\Delta[\mathrm{P}]}{\Delta t}=\dfrac{[\mathrm{P}]_{t_1}-0}{t_1-0}=\dfrac{[\mathrm{P}]_{t_1}}{t_1}$$
反応のはじめの短い時間では、 $[\mathrm{P}]$ はほぼ直線で増え、平均の速度が初速度に等しい(下の図)。
答 $v_0=\dfrac{[\mathrm{P}]_{t_1}}{t_1}$(3点)
問2
式①の係数は $\mathrm{A}:\mathrm{P}=1:1$ なので、P が増えた分だけ A が減る。問1 より、時間 $t_1$ までに P の濃度は $v_0t_1$ だけ増えたので、A の濃度も $v_0t_1$ だけ減る(上の図の「減った分」と「増えた分」)。
$$[\mathrm{A}]_{t_1}=[\mathrm{A}]_0-v_0t_1$$
問われているのは物質量なので、体積 $V$ をかける。
答 $([\mathrm{A}]_0-v_0t_1)V$(4点)
問3
平衡は、反応が止まった状態ではない。正反応と逆反応が同じ速さで起こり続けているので、見かけ上止まって見える。
答 $v_+=v_-$(3点)
問4
反応の進行で体積は変わらないので、濃度のまま状態遷移図を書ける。E が $[\mathrm{E}]_\mathrm{e}$ 生じたので、係数比 $\mathrm{C}:\mathrm{D}:\mathrm{E}=1:1:1$ から、C と D は $[\mathrm{E}]_\mathrm{e}$ ずつ減る(下の図)。
平衡では $v_+=v_-$ なので、速度定数×濃度の式に平衡の濃度を入れると
$$k_2\left([\mathrm{C}]_0-[\mathrm{E}]_\mathrm{e}\right)\left([\mathrm{D}]_0-[\mathrm{E}]_\mathrm{e}\right)=k_{-2}[\mathrm{E}]_\mathrm{e}$$
両辺を $k_{-2}\left([\mathrm{C}]_0-[\mathrm{E}]_\mathrm{e}\right)\left([\mathrm{D}]_0-[\mathrm{E}]_\mathrm{e}\right)$ で割って、速度定数の比の形にする。
答 $\dfrac{k_2}{k_{-2}}=\dfrac{[\mathrm{E}]_\mathrm{e}}{\left([\mathrm{C}]_0-[\mathrm{E}]_\mathrm{e}\right)\left([\mathrm{D}]_0-[\mathrm{E}]_\mathrm{e}\right)}$(5点)
問5
Z は X と Y が結合したもの、Q は Z からできるので、Z と Q は1つずつ X を含んでいる。最初にあった X は、反応していない X のままか、Z の中か、Q の中のどれかにある(下の図)。体積は変わらないので、濃度で
$$[\mathrm{X}]_0=[\mathrm{X}]_\mathrm{t}+[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}+[\mathrm{Q}]_\mathrm{t}$$
答 $[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}=[\mathrm{X}]_0-[\mathrm{X}]_\mathrm{t}-[\mathrm{Q}]_\mathrm{t}$(5点)
問6
Z が消える反応は、式③の逆反応( $\mathrm{Z}\to\mathrm{X}+\mathrm{Y}$ )と式④( $\mathrm{Z}\to\mathrm{Q}$ )の2つある(下の図)。
どちらも素反応なので、速度式は反応式の係数どおりに書ける。どちらも Z 1つから始まる反応なので、それぞれの速さは
$$k_{-3}[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}\quad\text{(式③の逆反応の速さ)}$$
$$k_4[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}\quad\text{(式④の速さ)}$$
Z の消滅の速さは、この2つの和になる。
$$v_{\mathrm{Z}(\text{消滅})}=k_{-3}[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}+k_4[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$$
答 $v_{\mathrm{Z}(\text{消滅})}=(k_{-3}+k_4)[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$(3点)
問7
下線部(a)では Q が生成する速さ $k_4[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ が一定なので、 $[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ が一定とみなせる(下の図)。Z の濃度が一定なのは、Z が生成する速さと消滅する速さがつり合っているときである。
$$k_3[\mathrm{X}]_\mathrm{t}[\mathrm{Y}]_\mathrm{t}=(k_{-3}+k_4)[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$$
両辺を $(k_{-3}+k_4)[\mathrm{X}]_\mathrm{t}[\mathrm{Y}]_\mathrm{t}$ で割る。式④は式③よりずっと遅いが、「近似せずに」と指定されているので $k_4$ は残す。
答 $\dfrac{[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}}{[\mathrm{X}]_\mathrm{t}[\mathrm{Y}]_\mathrm{t}}=\dfrac{k_3}{k_{-3}+k_4}$(2点)
別解
問4 (平衡定数と速度定数の関係を覚えている場合) 平衡定数は速度定数の比で $K=\dfrac{k_2}{k_{-2}}$ と書ける(重要問題集で扱う有名な関係)。そこで、平衡定数の式 $K=\dfrac{[\mathrm{E}]}{[\mathrm{C}][\mathrm{D}]}$ に、状態遷移図の平衡の濃度をそのまま入れればよい。ただし、この関係は $v_+=v_-$ から導いたものなので、問3・問4 の流れのように導けるようにしておく。
出題意図
問1・問2 反応速度を濃度の変化で定義し、係数比から P の増加と A の減少を結びつけて、A の物質量を表すことができるか
問3・問4 平衡では正反応と逆反応の速さが等しいことから、状態遷移図を使って速度定数の比を表すことができるか
問5〜問7 中間生成物 Z の生成と消滅を反応ごとに整理し、生成と消滅がつり合う状態の濃度の比を、近似せずに表すことができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 12分 | 15分 |
反応速度は「濃度の変化で定義」「平衡は正反応と逆反応の速さが等しい」「素反応は係数どおりに速度式を書く」の3つで全部解ける大問で、計算は1つもない。
酵素反応の速さを表すミカエリス・メンテンの式の導入部分にあたるが、中身はそこまで難しくない。
差がつくのは問6 で、中間生成物は「入る道と出る道を全部数え、生成=消滅」と言い切れれば迷わない。
重要問題集の反応速度と平衡定数の問題を、定義から白紙で再現できるまで仕上げておこう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問6・問7:Z が消える道は式④だけでなく、式③の逆反応もある、という発想に行き着けるか。中間生成物の生成と消滅を扱う問題は練習量が少なく、 $k_4[\mathrm{Z}]_\mathrm{t}$ だけを書く受験生が多い。問6 を誤ると問7 も $\dfrac{k_3}{k_4}$ となってまとめて落ち、5点を失う。
- 問5:最初の X が「X のまま・Z の中・Q の中」に分かれる、という発想に行き着けるか。素反応や中間生成物という言葉に慣れていないと、何を保存すればよいか分からず、方針が立たない受験生が多い。
2016年九州大学化学
第3問 解答・解説
第3問は理論化学(物質量と化学反応式)・無機化学の問題です。
テーマは『生成エンタルピーの計算』『溶鉱炉の量的計算』。
問題


問題文をテキストで読む
※ 旧課程の問題なので、生成熱・反応熱の表記をエンタルピーに直して載せています。
次の文章を読み、問1〜問2に答えよ。ここで $\ce{Fe2O3}$(固体)、 $\ce{CO2}$(気体)の生成エンタルピーは、それぞれ $-824$ kJ/mol、 $-394$ kJ/mol とする。
(1) 溶鉱炉では、酸化鉄 $\ce{Fe2O3}$ を還元して鉄の単体を製造しており、酸化鉄は主に一酸化炭素や炭素により還元されている。それぞれの反応を式①、式②に示す。式①で必要とする一酸化炭素は、式②および式③の反応により得られる。溶鉱炉では、還元反応や融解に必要な熱は、式③に示す炭素の燃焼反応で放出される熱に大きく依存している。
$\ce{Fe2O3}(\text{固体})+3\,\ce{CO}(\text{気体})$
$\qquad\ce{->}\ 2\,\ce{Fe}(\text{固体})+3\,\ce{CO2}(\text{気体})$ ・・・①
$\ce{Fe2O3}(\text{固体})+3\,\ce{C}(\text{黒鉛})$
$\qquad\ce{->}\ 2\,\ce{Fe}(\text{固体})+3\,\ce{CO}(\text{気体})$ ・・・②
$\ce{C}(\text{黒鉛})+\dfrac{1}{2}\,\ce{O2}(\text{気体})$
$\qquad\ce{->}\ \ce{CO}(\text{気体})$ ・・・③
問1. 式①の反応により1 mol の $\ce{Fe2O3}$(固体)を還元する反応は発熱反応であり、その反応エンタルピーを $-25$ kJ とする。式②の反応により1 mol の $\ce{Fe2O3}$(固体)を還元するときの反応エンタルピー、および式③の反応により1 mol の $\ce{C}$(黒鉛)を酸化するときの反応エンタルピーはそれぞれいくらか、符号を含めて答えよ。
(2) 式①、式②および式③の反応を利用して鉄の単体を得る溶鉱炉を模した図2に示す反応器がある。この反応器に酸化鉄 $\ce{Fe2O3}$ を毎分10 mol、空気を毎分100 mol 供給するとともに、炭素をある一定速度で供給した。反応器内では、供給された酸化鉄、炭素および空気中の酸素のみが反応し、いずれも全量が消費された。反応器から排出される物質は鉄の単体および一酸化炭素、二酸化炭素、窒素の三成分からなる混合ガスのみであり、それらの排出速度は一定であった。また、反応器から排出される一酸化炭素と二酸化炭素の物質量の比は2:1で一定であった。空気は酸素と窒素のみからなる混合気体とし、それらの物質量の比は21:79であり、窒素は反応していなかった。
問2. 次の文章中の $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{キ}}$ に入る適切な数値を、小数点以下を四捨五入して整数で答えよ。
図2の反応器での反応において、得られる鉄の単体の物質量は毎分 $\boxed{\text{ア}}$ mol であり、供給される空気中の酸素分子の物質量は毎分 $\boxed{\text{イ}}$ mol である。空気中の酸素分子がかかわる反応は式③の反応のみであるため、この反応器において式③の反応で消費される炭素の物質量は毎分 $\boxed{\text{ウ}}$ mol であることがわかる。また、反応器に供給される空気および酸化鉄に含まれる酸素原子数の和と、排出される一酸化炭素および二酸化炭素に含まれる酸素原子数の和は等しいことから、反応器から排出される二酸化炭素の物質量は毎分 $\boxed{\text{エ}}$ mol であることがわかる。一方、反応器から排出される炭素原子数の総和は供給される炭素原子数と一致するため、反応器へ供給される炭素の物質量は毎分 $\boxed{\text{オ}}$ mol となる。供給された炭素のうち、式③の反応で消費されなかった炭素は式②の反応で消費される。このことから、式②の反応により還元される酸化鉄の物質量は毎分 $\boxed{\text{カ}}$ mol であり、それ以外の酸化鉄が式①の反応により還元されることがわかる。また、この反応器で鉄の単体100 g を得るために消費される炭素の質量は $\boxed{\text{キ}}$ g である。
解答の方針
【問1の方針】
式③は単体から $\ce{CO}$ 1 mol ができる式なので、 $\ce{CO}$ の生成エンタルピーそのもの。まず式①から $\ce{CO}$ の値を求め、その値で式②も同じ形のエンタルピー図で求める(下の図)。


- 生成エンタルピーの式ではない式①をベースとなる式にし、一番上に単体を置いて、 $\ce{Fe2O3 + 3CO}$ と $\ce{2Fe + 3CO2}$ を生成エンタルピーで繋ぐ( $\ce{CO}$ の生成エンタルピーを $x$ とおく)。
- 単体から $\ce{2Fe + 3CO2}$ へ行く2通りの矢印の和が等しいことから $x$ を求める。これが式③の反応エンタルピー。
- 式②をベースとなる式にし、一番上に単体を置いて、 $\ce{Fe2O3 + 3C}$ と $\ce{2Fe + 3CO}$ を生成エンタルピーで繋いで、式②の反応エンタルピーを求める。
【問2の方針】
3つの反応が同時に進んでも、反応式ごとに毎分何 mol 反応したかを置けば、係数の比で増減を追うだけ。 $\ce{O2}$ は式③だけで使われ、 $\ce{CO}$ は式②・式③でできて式①で使われる(下の図)。


- $\ce{Fe2O3}$ 1 mol から $\ce{Fe}$ 2 mol ができることから、鉄の物質量を求める(ア)。
- 空気の物質量に酸素の割合 $\dfrac{21}{100}$ をかけて、 $\ce{O2}$ の物質量を求める(イ)。
- $\ce{O2}$ は式③でしか使われないので、式③の係数の比から、式③で消費される $\ce{C}$ を求める(ウ)。
- 式①・式②で還元される $\ce{Fe2O3}$ を毎分 $x$ mol・ $y$ mol とおき、 $x+y=10$ とする。係数の比で各反応の増減を書き、出ていく $\ce{CO}$ と $\ce{CO2}$ を $x$ ・ $y$ で表す。
- $\ce{CO}$:$\ce{CO2}$=2:1 の式と $x+y=10$ を連立して $x$ ・ $y$ を求め、出ていく $\ce{CO2}$ を求める(エ)。
- 供給される $\ce{C}$ は、式②と式③で消費される $\ce{C}$ の和として求める(オ)。式②で還元される $\ce{Fe2O3}$ は $y$ (カ)。
- 毎分できる $\ce{Fe}$ と消費する $\ce{C}$ の物質量の比を使い、鉄100 g を物質量に直して、消費される $\ce{C}$ の質量を求める(キ)。
解答




解答をテキストで読む
問1
式②の計算に $\ce{CO}$ の値を使うので、問いの順とは逆に、式③を先に求めてから式②を求める。
式③は、単体の黒鉛と酸素から $\ce{CO}$ 1 mol ができる式なので、 $\ce{CO}$ の生成エンタルピーの式そのもの。そこで、先に $\ce{CO}$ の生成エンタルピーを $x$ kJ/mol とおいて求める。
ベースとなる式は、生成エンタルピーの式ではない式①にする。生成エンタルピーが与えられているので、一番上は単体の $\ce{2Fe + 3C + 3O2}$。
・単体 → $\ce{Fe2O3 + 3CO}$ : $\ce{Fe2O3}$ 1 mol と $\ce{CO}$ 3 mol ができるので $-824+3x$
・$\ce{Fe2O3 + 3CO}$ → $\ce{2Fe + 3CO2}$ :式①なので $-25$
・単体 → $\ce{2Fe + 3CO2}$ : $\ce{CO2}$ 3 mol ができるので $-394\times3$
単体から $\ce{2Fe + 3CO2}$ へ行く2通りの矢印の和は等しい(下の図)。
$$(-824+3x)+(-25)=-394\times3\qquad\therefore\ x=-111$$
$\ce{CO}$ の生成エンタルピーは $-111$ kJ/mol で、よく知られた値と一致する。式③の反応エンタルピーはこの値そのもので $\Delta H=-111$ kJ(発熱)。
答(式③) $\Delta H=-111$ kJ(3点)
次に式②。式②も生成エンタルピーの式ではないので、ベースとなる式にする。一番上は単体の $\ce{2Fe + 3C + 3/2O2}$。
・単体 → $\ce{Fe2O3 + 3C}$ : $\ce{Fe2O3}$ 1 mol ができ、黒鉛3 mol は単体のままなので $-824$
・単体 → $\ce{2Fe + 3CO}$ : $\ce{CO}$ 3 mol ができ、鉄2 mol は単体のままなので $-111\times3$
単体から $\ce{2Fe + 3CO}$ へ行く2通りの矢印の和は等しい(下の図)。
$$-824+\Delta H=-111\times3\qquad\therefore\ \Delta H=-333+824=+491\ \mathrm{kJ}$$
正なので、反応後の $\ce{2Fe + 3CO}$ は反応前の $\ce{Fe2O3 + 3C}$ より上にあり、式②は吸熱反応。
答(式②) $\Delta H=+491$ kJ(3点)
問2
反応器に入るもの・出るものと、中で進む3つの反応を整理する(下の図)。数値はすべて毎分の物質量。
式①でも式②でも、 $\ce{Fe2O3}$ 1 mol から $\ce{Fe}$ 2 mol ができる。供給した $\ce{Fe2O3}$ 10 mol は全量が還元されるので、できる鉄は
$$10\times2=20\ \mathrm{mol}$$
答(ア) 20(2点)
空気の $\ce{O2}$ と $\ce{N2}$ の物質量の比は21:79なので、空気100 mol のうち $\ce{O2}$ は
$$100\times\dfrac{21}{21+79}=21\ \mathrm{mol}$$
答(イ) 21(2点)
$\ce{O2}$ は式③でしか使われない。式③は $\ce{C}$ 1 mol と $\ce{O2}$ $\dfrac12$ mol が反応するので、消費される $\ce{C}$ は $\ce{O2}$ の2倍。
$$21\times2=42\ \mathrm{mol}$$
答(ウ) 42(3点)
式①・式②で還元される $\ce{Fe2O3}$ を、それぞれ毎分 $x$ mol・ $y$ mol とおく。 $\ce{Fe2O3}$ は全量が還元されるので
$$x+y=10$$
式③では $\ce{C}$ が42 mol 反応する。係数の比で、それぞれの反応での各物質の増減を書く(下の図)。
$\ce{CO}$ は式②・式③でできて、式①で使われるので、出ていく $\ce{CO}$ は $3y+42-3x$ mol。 $\ce{CO2}$ は式①でだけできるので、出ていく $\ce{CO2}$ は $3x$ mol。これが2:1なので
$$3y+42-3x=2\times3x$$
$y=10-x$ を代入すると
$$3(10-x)+42-3x=6x\qquad\therefore\ x=6,\ y=4$$
出ていく $\ce{CO2}$ は $3x=18$ mol。
答(エ) 18(4点)
$\ce{C}$ は式②と式③で消費され、供給した $\ce{C}$ は全量が消費される。式②で消費される $\ce{C}$ は $3y=12$ mol なので、供給される $\ce{C}$ は
$$12+42=54\ \mathrm{mol}$$
答(オ) 54(3点)
式②で還元される $\ce{Fe2O3}$ は $y=4$ mol(残りの6 mol が式①で還元される)。ここまでの出入りをまとめると下の図になる。
答(カ) 4(2点)
この反応器では、毎分 $\ce{Fe}$ 20 mol ができる間に $\ce{C}$ を54 mol 消費する。鉄100 g を $\ce{Fe}$ 1 mol あたりの55.8 g で割ると鉄の物質量、これに「 $\ce{Fe}$ 20 mol あたり $\ce{C}$ 54 mol」の比をかけると消費される $\ce{C}$ の物質量、さらに $\ce{C}$ 1 mol あたりの12.0 g をかけると質量になる。
$$\dfrac{100}{55.8}\times\dfrac{54}{20}\times12.0=58.06\ \mathrm{g}$$
小数点以下を四捨五入する。
答(キ) 58(3点)
別解
問1
公式「反応エンタルピー=(生成物の生成エンタルピーの和)−(反応物の生成エンタルピーの和)」を使う(単体の生成エンタルピーは0)。式①に当てはめると
$$-25=(-394\times3)-(-824+3x)\qquad\therefore\ x=-111$$
式②に当てはめると
$$\Delta H=(-111\times3)-(-824)=+491\ \mathrm{kJ}$$
公式は上のエンタルピー図から導けるものなので、図で解けるようになってから使う。
問2(エ〜カ)
問題文の誘導どおり、原子の数の保存で求める。出ていく $\ce{CO2}$ を毎分 $n$ mol とすると、 $\ce{CO}$ は $2n$ mol。
O 原子は、入る側が空気の $\ce{O2}$ と $\ce{Fe2O3}$ 、出る側が $\ce{CO}$ と $\ce{CO2}$ (鉄と窒素は O を含まない)。
$$21\times2+10\times3=2n\times1+n\times2\qquad\therefore\ 72=4n,\ n=18$$
C 原子は、出ていく $\ce{CO}$ 36 mol と $\ce{CO2}$ 18 mol に全部入っているので、供給される $\ce{C}$ は $36+18=54$ mol。そのうち式③で42 mol 使われるので、式②で消費される $\ce{C}$ は $54-42=12$ mol。式②は $\ce{Fe2O3}$ 1 mol に $\ce{C}$ 3 mol が反応するので、 $\ce{Fe2O3}$ は $12\div3=4$ mol。
( $\ce{Fe2O3}$ の O の30 mol を足し忘れると $n=10.5$ になり、エ〜キがすべてずれる)
出題意図
問1 エンタルピー図で単体から繋いで、一酸化炭素の生成エンタルピーと式②の反応エンタルピーを順に求めることができるか
問2 3つの反応が同時に進む反応器で、反応式ごとの量の関係(または酸素原子・炭素原子の数の保存)から、出入りする物質の量を求めることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 25点 | 20点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
2016年の化学の合否を分けた大問。
問1 は重要問題集にそのまま載っている問題で、エンタルピー図を書けば迷うところはない。
差がつくのは問2 の後半だが、3つの反応が同時に進む反応器でも、反応式ごとに反応した量を置いて係数で追えば、ふだんの量的計算と同じだ。
式を立てるだけだが計算量は重めなので、15分を使い切るつもりで解き、原子の数の保存でも確かめて満点を取り切ろう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2 エ〜カ:3つの反応が同時に進む反応器を、反応式ごとの量(または O 原子・C 原子の数)で式にする、という発想に行き着けるか。エを誤るとオ・カ・キまでまとめて落ち、12点を失う。O 原子で数えるときに $\ce{Fe2O3}$ の O(30 mol)を足し忘れる受験生が多い。
- 問1:式③が $\ce{CO}$ の生成エンタルピーの式だと気づけるか。重要問題集をやり込んでいれば、エンタルピー図2枚ですぐ解ける。
コラム 溶鉱炉(高炉)の中では何が起きているか
この大問の式①〜③は、実際の溶鉱炉(高炉)の中で起きている反応を簡単にしたものである。高炉は、上から鉄鉱石とコークス(ほぼ炭素)を交互に層にして入れ、下の羽口(はぐち)から熱風を吹き込む装置で、場所によって起きる反応が違う(下の図)。


- 羽口の前:コークスが燃えて熱と一酸化炭素をつくる(式③にあたる):熱風でコークスが燃えて $\ce{CO2}$ になり、その $\ce{CO2}$ が赤く熱したコークスと反応して $\ce{CO}$ になる($\ce{C + CO2 -> 2CO}$)。2つを合わせると式③と同じになる。羽口の前は2000℃をこえ、問1 で見たとおり式③は発熱なので、炉の中の熱をまかなう。
- 上部:一酸化炭素で還元する(式①にあたる):上がってきた $\ce{CO}$ が、下りてくる鉄鉱石から酸素を奪う。 $\ce{Fe2O3}$ → $\ce{Fe3O4}$ → $\ce{FeO}$ → $\ce{Fe}$ と段階的に進み、間接還元とよばれる。
- 中〜下部:炭素で直接還元する(式②にあたる):溶けかけた鉄の酸化物は、コークスの炭素に触れて直接還元される($\ce{FeO + C -> Fe + CO}$)。問1 で見たとおり炭素で還元する反応は大きな吸熱で、その熱を式③の燃焼がまかなっている。問題文の「還元反応や融解に必要な熱は、式③の燃焼に大きく依存している」はこのことである。
- 底にたまる鉄と、上から出るガス:炉の底にたまる鉄は銑鉄(せんてつ)とよばれ、炭素を4〜5%含んでいる。次の製鋼の工程で炭素を減らして、粘り強い鋼にする。上から出るガスには $\ce{CO}$ が残っていて、問2 で出ていくガスに $\ce{CO}$ と $\ce{CO2}$ が2:1で含まれていたのと同じ状況である。
燃焼の発熱で還元の吸熱を支えるという熱化学の見方と、原子の出入りを数える量的関係の見方の両方が、1つの装置の中にそろっている。
2016年九州大学化学
第4問 解答・解説
第4問は有機化学の問題です。
テーマは『構造決定』『環状アルコールの異性体』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問7に答えよ。構造式を記入するときは、記入例にならって答えよ。
構造式の記入例
化合物 A、 B、 C は炭素原子、水素原子のみからなる化合物である。これらは同じ分子式をもつ構造異性体であり、その分子量は82.0である。化合物 A 61.5 mg を完全燃焼させると二酸化炭素198 mg、水67.5 mg が得られた。
化合物 A の構造式には $\ce{-CH3}$ が一つだけ存在する。化合物 A に硫酸水溶液を加えても反応はおこらなかったが、さらに硫酸水銀(Ⅱ)を触媒として加えると分子量100の化合物 D が主生成物として得られた。化合物 D にヨウ素と水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応させると黄色沈殿が生成した(a)。
化合物 B には B を含めて三つの幾何異性体が存在しうる(b)。化合物 B に十分な量の臭素を反応させると化合物 E が生成した。
化合物 C にニッケルを触媒として十分な量の水素を反応させると分子量が84.0である化合物 F が生成した。化合物 C に硫酸水溶液を加えて水を付加させると化合物 G が生成した。化合物 G に金属ナトリウムを反応させると水素が発生した(c)。一方、化合物 G に硫酸酸性の二クロム酸カリウム水溶液を加えて加熱したが酸化されなかった。
問1. 化合物 A の分子式を答えよ。
問2. 下線部(a)の反応の名称を答えよ。
問3. 化合物 D の構造式を答えよ。また、官能基の種類によって分類される化合物 D の一般名を答えよ。
問4. 化合物 B 61.5 mg を完全に反応させるために必要な臭素の質量[mg]を答えよ。小数点以下は四捨五入すること。
問5. 下線部(b)についてトランス形のみからなる幾何異性体の構造式を答えよ。
問6. 下線部(c)の反応を化合物 G の代わりにメタノールに対して行った場合の化学反応式を答えよ。
問7. 化合物 G の構造式には $\ce{-CH3}$ が一つだけ存在する。化合物 G として考えられるすべての構造異性体の数を答えよ。ただし、立体異性体が存在しうる場合は区別しなくてよい。また、化合物 G として考えられる構造式を一つ答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
燃焼で生じた二酸化炭素の C と水の H は、すべて A から来る。C と H の合計が A の質量と等しければ炭化水素。不飽和度は2で、A・B・C はその使い方が違う(下の図)。


- 二酸化炭素と水の質量から C と H の質量を求め、合計が A の質量と等しいことを確かめる。
- C と H の物質量の比から組成式を求め、分子量82.0から分子式を決める。
- 不飽和度を求め、A・B・C が三重結合・二重結合・環のどれに使っているかの見通しを立てる。
【問2の方針】
ヨウ素と水酸化ナトリウム水溶液で黄色の沈殿ができるのは、 $\ce{CH3-CO-{}}$(または $\ce{CH3-CH(OH)-{}}$)の形をもつ化合物。沈殿はヨードホルム $\ce{CHI3}$。
- 黄色の沈殿がヨードホルムであることから、反応の名称を答える。
【問3の方針】
硫酸だけでは水が付かず、硫酸水銀(Ⅱ)を加えると水が付くのは三重結合。 $\ce{-CH3}$ が1つだけなら枝分かれがなく、三重結合は鎖の端にある。水が付くと、OH の付いた C=C を経てケトンになる(下の図)。


- A が三重結合をもつこと、D の分子量100が A に水が1分子付いた $\ce{C6H12O}$ であることを確かめる。
- $\ce{-CH3}$ が1つだけなので、炭素6個の直鎖の端に三重結合がある1-ヘキシンと決める。
- 三重結合に水を付け、OH の付いた C=C をカルボニル化合物に直して、ヨードホルム反応を示す $\ce{CH3-CO-{}}$ をもつ D を書く。
- カルボニル基の両側に炭素が付いた化合物なので、一般名はケトン。
【問4の方針】
B は二重結合を2つもつ(問5)。臭素は二重結合1つに1分子付加するので、B 1分子に臭素は2分子(下の図)。


- 幾何異性体が3つあることから、B は二重結合を2つもつと決める(問5)。
- B の物質量を求める。
- 臭素の物質量は B の2倍。臭素の1 molあたりの質量をかけて質量を求め、小数点以下を四捨五入する。
【問5の方針】
シス・トランスのある二重結合が1つなら、幾何異性体は2つ。3つになるのは、シス・トランスのある二重結合が2つあり、左右対称で「シス・トランス」と「トランス・シス」が同じものになるとき(下の図)。


- 幾何異性体が3つなので、シス・トランスのある二重結合を2つもち、左右対称な形を探す。
- 2つの二重結合のどの炭素にも違う2つの基が付く $\ce{C6H10}$ は、2,4-ヘキサジエンだけと決める。
- 3つの幾何異性体のうち、2つの二重結合がどちらもトランス形のものを書く。
【問6の方針】
ナトリウムと反応して水素が出るのは、OH をもつ化合物。OH の H がナトリウムに置きかわり、2分子から水素が1分子出る。
- メタノールの OH の H を Na に置きかえ、ナトリウムメトキシドと水素を書く。
- H の数をそろえて係数を決める。
【問7の方針】
C は水素1分子で飽和するので、不飽和度の残り1は環。G は環をもつアルコールで、酸化されないので第三級。 $\ce{-CH3}$ が1つだけという条件から、環の大きさごとに1つずつ決まる(下の図)。


- 水素の付加で分子量が82.0から84.0になることから、C の二重結合は1つで、環が1つあると決める。
- G は C に水が1分子付いた $\ce{C6H12O}$。ナトリウムで水素が出るのでアルコール、二クロム酸カリウムで酸化されないので第三級アルコール。
- OH の付いた炭素が環の外にあると $\ce{-CH3}$ が2つ以上になるので、OH の付いた炭素は環の中にあり、環の外に直鎖のアルキル基が1つ付くと決める。
- 環の大きさを五員環・四員環・三員環と変え、残りの炭素をアルキル基にして数える。六員環は第二級になるので外す。
解答




解答をテキストで読む
問1
燃焼で生じた二酸化炭素の C と水の H は、すべて A から来る。
・C の質量: $198\times\dfrac{12.0}{44.0}=54.0$ mg
・H の質量: $67.5\times\dfrac{2.00}{18.0}=7.50$ mg
合計は $54.0+7.50=61.5$ mg で、A の質量と一致する(A は C と H だけでできている)。物質量の比は
$$\mathrm{C}:\mathrm{H}=\dfrac{54.0}{12.0}:\dfrac{7.50}{1.00}$$
$$=4.50:7.50=3:5$$
組成式は $\ce{C3H5}$(式量41.0)。分子量82.0はその2倍なので、分子式は $\ce{C6H10}$。
答 $\ce{C6H10}$(2点)
$\ce{C6H10}$ の不飽和度は $\dfrac{2\times6+2-10}{2}=2$。A・B・C は同じ分子式で、この2の使い方が違う(下の図。くわしくは問3〜問7)。
問2
ヨウ素と水酸化ナトリウム水溶液を加えて反応させると、 $\ce{CH3-CO-{}}$ の形をもつ化合物から黄色のヨードホルム $\ce{CHI3}$ が沈殿する。この反応をヨードホルム反応という。
答 ヨードホルム反応(2点)
問3
A は硫酸水溶液だけでは水が付かず、硫酸水銀(Ⅱ)を触媒として加えると水が付いた。二重結合なら硫酸水溶液だけで水が付く(C はそうなっている)ので、A は三重結合をもつ。不飽和度2を三重結合1つで使い切るので、環や二重結合はない。
D の分子量100は、 $\ce{C6H10}$(82.0)に水(18.0)が1分子付いた $\ce{C6H12O}$(100.0)と一致する。
A の $\ce{-CH3}$ は1つだけ。鎖に枝分かれがあると鎖の端が3つ以上になり、 $\ce{-CH3}$ が2つ以上になる。三重結合が鎖の内側にあると、両端がどちらも $\ce{-CH3}$ になる(2-ヘキシン・3-ヘキシン)。よって A は、直鎖の端に三重結合がある1-ヘキシン $\ce{HC#C-CH2-CH2-CH2-CH3}$。
硫酸水銀(Ⅱ)を触媒として三重結合に水を付けると、まず二重結合の炭素に OH が付いた化合物ができ、すぐにカルボニル化合物に変わる(アセチレンからビニルアルコールを経てアセトアルデヒドができるのと同じ)。OH が内側の炭素に付くと $\ce{CH3-CO-{}}$ をもつケトン、端の炭素に付くとアルデヒドになる。D はヨードホルム反応を示すので、 $\ce{CH3-CO-{}}$ をもつ2-ヘキサノン(下の図)。
カルボニル基の両側に炭素が付いた化合物の一般名はケトン。
答(構造式) $\mathbf{D}=\ce{CH3-CO-CH2-CH2-CH2-CH3}$(2-ヘキサノン。構造式は上の図)(3点)
答(一般名) ケトン(2点)
問4
B は幾何異性体をもつので二重結合をもち、問5 で見るように二重結合を2つもつ2,4-ヘキサジエン。臭素は二重結合1つに $\ce{Br2}$ が1分子付加するので、B 1分子に $\ce{Br2}$ は2分子付加して E($\ce{C6H10Br4}$)になる(下の図)。
B(1 molあたり82.0 g)の物質量は、mg を1 molあたりの g で割って
$$\dfrac{61.5}{82.0}=0.750\ \mathrm{mmol}$$
係数の比=モルの比なので、 $\ce{Br2}$ の物質量は B の2倍の1.50 mmol。 $\ce{Br2}$ は1 molあたり $79.9\times2=159.8$ g なので
$$1.50\times159.8=239.7\ \mathrm{mg}$$
小数点以下を四捨五入して240 mg。
答 240(3点)
問5
幾何異性体(シス-トランス異性体)は、二重結合のどちらの炭素にも違う2つの基が付くときにできる。そのような二重結合が1つなら幾何異性体は2つ。B を含めて3つあるので、シス・トランスのある二重結合が2つあり(組み合わせは $2\times2=4$ 通り)、そのうち2つが同じものになる左右対称な形。
2つの二重結合のどの炭素にも違う2つの基が付くには、端の $\ce{=CH2}$(同じ H が2つ付く)があってはいけないので、2つの二重結合はどちらも鎖の内側にあり、両側に炭素が1つずつ必要。炭素6個でこれを満たすのは $\ce{CH3-CH=CH-CH=CH-CH3}$(2,4-ヘキサジエン)だけ。左右対称なので「シス・トランス」と「トランス・シス」は同じ化合物になり、幾何異性体はトランス・トランス、シス・トランス、シス・シスの3つ(下の図)。
「トランス形のみからなる」のは、2つの二重結合がどちらもトランス形のもの。
答 トランス・トランスの $\ce{CH3-CH=CH-CH=CH-CH3}$(構造式は上の図)(5点)
問6
メタノールの OH の H がナトリウムに置きかわり、ナトリウムメトキシドができて水素が発生する。水素 $\ce{H2}$ は、メタノール2分子から1分子できる。
答 $\ce{2CH3OH + 2Na -> 2CH3ONa + H2}$(3点)
問7
C に水素を付けると、分子量が82.0から84.0になる。増えた2.0は水素 $\ce{H2}$ 1分子分なので、C の二重結合は1つ。不飽和度2の残りの1は環で、F はシクロアルカン $\ce{C6H12}$。
G は C の二重結合に水が1分子付いた $\ce{C6H12O}$(環を1つもつ)。
・金属ナトリウムで水素が発生する → OH をもつアルコール
・二クロム酸カリウムで酸化されない → OH の付いた炭素に H がない第三級アルコール(OH の付いた炭素は炭素3つと結合する)
OH の付いた炭素が環の外にあると、環とつながる結合は1本だけなので、残りの2本はどちらも枝になり、それぞれの端が $\ce{-CH3}$ になる($\ce{-CH3}$ が2つ以上)。よって OH の付いた炭素は環の中にあり、環の2つの炭素と、環の外の1つの炭素と結合する。環の外の基の端がただ1つの $\ce{-CH3}$ で、環にもその基にもほかの枝はない。
環の大きさを変えて、残りの炭素を直鎖のアルキル基にすると、次の3つ(下の図)。
・五員環+メチル基:1-メチルシクロペンタノール
・四員環+エチル基:1-エチルシクロブタノール
・三員環+プロピル基:1-プロピルシクロプロパノール
六員環だと環の外に炭素が残らず、OH の付いた炭素に H が1つ残る第二級アルコール(シクロヘキサノール)になって酸化されるので外れる。3つとも、OH の付いた炭素から環をどちら回りにたどっても同じ形なので不斉炭素はなく、立体異性体を考えなくても3種類。
答(構造異性体の数) 3(3点)
(1-エチルシクロブタノール・1-プロピルシクロプロパノールを答えてもよい)
答(構造式の1つ) 1-メチルシクロペンタノール(構造式は上の図)(2点)
別解
問4
E($\ce{C6H10Br4}$)は1 molあたり $82.0+159.8\times2=401.6$ g。B と E の物質量は同じなので、付加した臭素の質量は E と B の質量の差。
$$61.5\times\dfrac{401.6}{82.0}-61.5=301.2-61.5=239.7\ \mathrm{mg}$$
小数点以下を四捨五入して240 mg。
出題意図
問1 燃焼で生じた二酸化炭素と水の質量から、炭化水素の分子式を決められるか
問2・問3 アルキンへの水の付加でできるケトンと、ヨードホルム反応を示す形を判断できるか
問4・問5 幾何異性体の数から二重結合の数と位置を決め、付加する臭素の量を求められるか
問6 アルコールとナトリウムの反応を、メタノールの化学反応式で書けるか
問7 酸化されないことと $\ce{-CH3}$ の数の条件から、環状のアルコールの構造異性体を漏れなく数えられるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 15点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
元素分析で分子式を決め、不飽和度2を三重結合・二重結合2つ・環と二重結合に振り分ける、九大の有機としてオーソドックスな構造決定だ。
問1〜問4・問6 は教科書の反応だけで答えが決まり、ここを落とすと合格は厳しい。
差がつくのは問7 の数え上げで、「酸化されない=第三級」と「$\ce{-CH3}$ は1つ」を合わせれば、環の大きさを変えるだけで漏れなく数えられる。
異性体は骨格を順に書き出して数える練習を積んでおこう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問7:G を「環をもつ第三級アルコールで $\ce{-CH3}$ は1つ」と言いかえ、環の大きさを五員環から三員環まで変えて数える、という発想に行き着けるか。五員環の1つだけで止めたり、第二級のシクロヘキサノールを入れたりしやすい(5点)。
- 問5:「幾何異性体が3つ」から、シス・トランスのある二重結合が2つで左右対称な2,4-ヘキサジエンと決められるか。幾何異性体が2つしかない1,3-ヘキサジエンなどを書きやすい。
2016年九州大学化学
第5問 解答・解説
第5問は高分子化合物(アミノ酸・タンパク質)の問題です。
テーマは『アミノ酸の検出反応』『ジスルフィド結合』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。
(1) $\alpha$-アミノ酸は一般式1で表され、共通した官能基として $\ce{-COOH}$ で表される $\boxed{\text{ア}}$ 基、 $\ce{-NH2}$ で表されるアミノ基を持ち、側鎖Rのみが異なっている。これらの $\alpha$-アミノ酸は、あるpHの水溶液中では一般式2のイオンとして存在する。このように一つの分子中に正・負の電荷を合わせ持つイオンを $\boxed{\text{イ}}$ イオンという。 $\alpha$-アミノ酸の $\boxed{\text{ア}}$ 基と別の $\alpha$-アミノ酸のアミノ基が $\boxed{\text{ウ}}$ 縮合して結合した化合物をペプチドいう。特に多数の $\alpha$-アミノ酸が $\boxed{\text{ウ}}$ 縮合して鎖状に結合した化合物をポリペプチドといい、その中で特有の機能を持つものをタンパク質と呼んでいる。タンパク質中の $\alpha$-アミノ酸の配列順序を $\boxed{\text{エ}}$ 構造、ポリペプチド鎖において比較的狭い範囲でくり返される、らせん状の $\boxed{\text{オ}}$ や波形状の $\beta$-シートなどの高次構造を $\boxed{\text{カ}}$ 構造という。加水分解すると $\alpha$-アミノ酸のみを生じるタンパク質を $\boxed{\text{キ}}$ タンパク質といい、 $\alpha$-アミノ酸の他に糖類や脂質などを生じるタンパク質を $\boxed{\text{ク}}$ タンパク質という。
問1. $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{ク}}$ にあてはまる適切な語句を答えよ。
(2) トリペプチド X は表1に示す、いずれかの $\alpha$-アミノ酸から構成されている。トリペプチド X について実験を行い、以下の結果①〜④を得た。
【補足説明(試験当日の紙)】トリペプチド X は直鎖状であるものとする。
結果① 濃い水酸化ナトリウム水溶液を加えて加熱した後、酢酸鉛(Ⅱ)水溶液を加えると黒色沈殿が生じた。
結果② 濃硝酸を加えて加熱すると黄色になった。
結果③ 加水分解すると、側鎖に不斉炭素原子を持つ $\alpha$-アミノ酸が生じた。
結果④ 臭素酸ナトリウム存在下で反応させると、主な生成物として化合物 Y が生じた。
表1 $\alpha$-アミノ酸の名称と分子量
| $\alpha$-アミノ酸の名称 | 分子量 | $\alpha$-アミノ酸の名称 | 分子量 |
|---|---|---|---|
| グリシン | 75 | システイン | 121 |
| アラニン | 89 | チロシン | 181 |
| セリン | 105 | グルタミン | 146 |
| バリン | 117 | グルタミン酸 | 147 |
| イソロイシン | 131 | リシン | 146 |
問2. 結果①、②、③からトリペプチド X を構成している三つの $\alpha$-アミノ酸がわかる。それぞれの結果に対応する $\alpha$-アミノ酸の名称を表1から選んで答えよ。
問3. トリペプチド X を構成している $\alpha$-アミノ酸の中で、最も分子量の小さい $\alpha$-アミノ酸の構造を一般式1にならって答えよ。
問4. 結果②で起こった反応の名称を答えよ。
問5. 表1の分子量を使って、結果④で得られた化合物 Y の分子量を計算し、整数で答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
文章は、官能基→アミノ酸のつながり方→タンパク質の構造→分類の順に、教科書の流れどおりに並ぶ。空欄の前後の言葉(「らせん状の」「配列順序」など)が決め手になる。
- ア・イ $\ce{-COOH}$ の名前と、正・負の電荷を合わせもつイオンの名前を書く。
- ウ アミノ基とカルボキシ基から水が取れてつながる縮合の名前を書く。
- エ〜カ 配列順序は一次構造、らせん状の $\alpha$-ヘリックスや $\beta$-シートは二次構造と答える。
- キ・ク 加水分解でアミノ酸だけを生じるか、糖類・脂質なども生じるかで、単純タンパク質と複合タンパク質に分ける。
【問2の方針】
検出反応は「何を検出するか」で覚えておけば、表1の10個から1つずつに絞れる。結果③ は「側鎖に」不斉炭素とあるので、 $\alpha$ 位の炭素ではなく、側鎖 R の中の炭素を見る(下の図)。


- 結果① 硫黄の検出反応( $\ce{PbS}$ の黒色沈殿)なので、表1で硫黄を含むシステインを選ぶ。
- 結果② キサントプロテイン反応(ベンゼン環のニトロ化)なので、表1でベンゼン環をもつチロシンを選ぶ。
- 結果③ 表1の側鎖を1つずつ見て、側鎖の中に4つの異なる原子・原子団が結合した炭素をもつイソロイシンを選ぶ。
【問3の方針】
比べるのは表1の全体ではなく、問2 で決めた X の3つのアミノ酸。一般式1の R だけを入れかえて書く。
- 3つの分子量(121・181・131)を比べて最小のシステインを選び、一般式1の R を $\ce{-CH2-SH}$ にして書く。
【問4の方針】
濃硝酸で黄色になるのは、ベンゼン環がニトロ化される反応。
- 結果② の反応の名前を書く。
【問5の方針】
臭素酸ナトリウムは酸化剤。X の中でいちばん酸化されやすいのはシステインの $\ce{-SH}$ で、2分子の X の $\ce{-SH}$ どうしから H が取れてジスルフィド結合 $-\ce{S-S}-$ でつながる(下の図)。


- X は直鎖のトリペプチドなので、3つのアミノ酸の分子量の和から、ペプチド結合2つ分の水2分子を引いて X の分子量を求める。
- Y は X 2分子がジスルフィド結合でつながったものなので、X 2分子分から H 2個分を引く。
解答


解答をテキストで読む
問1
$\alpha$-アミノ酸は、同じ炭素原子にカルボキシ基 $\ce{-COOH}$ とアミノ基 $\ce{-NH2}$ が結合した化合物。水溶液中や結晶の中では、 $\ce{-COOH}$ の $\ce{H+}$ が $\ce{-NH2}$ に移って、一般式2の $\ce{H3N+-CH(R)-COO-}$ になる。1つの分子に正と負の電荷を合わせもつので双性イオンという。
答(ア) カルボキシ(1点)
答(イ) 双性(1点)
一方のアミノ酸の $\ce{-COOH}$ の OH と、もう一方の $\ce{-NH2}$ の H が水として取れてできる結合がペプチド結合。水が取れる縮合なので脱水縮合という。
答(ウ) 脱水(1点)
タンパク質の構造は次のように分ける。
・一次構造:アミノ酸の配列順序
・二次構造:ペプチド結合の $\ce{N-H}$ と $\ce{C=O}$ の間の水素結合でできる、らせん状の $\alpha$-ヘリックスや波形の $\beta$-シート
・三次構造:側鎖どうしの相互作用(ジスルフィド結合・イオン結合など)でできる、ポリペプチド全体の立体構造
答(エ) 一次(1点)
答(オ) $\alpha$-ヘリックス(1点)
答(カ) 二次(1点)
加水分解するとアミノ酸だけを生じるのが単純タンパク質、アミノ酸のほかに糖類・脂質・色素・リン酸などを生じるのが複合タンパク質。
答(キ) 単純(1点)
答(ク) 複合(1点)
問2
表1の10個の側鎖を、結果①〜③ の条件で見ていく(下の図)。
・結果①:濃い水酸化ナトリウム水溶液と加熱すると、硫黄が $\ce{S^2-}$ になり、酢酸鉛(Ⅱ)の $\ce{Pb^2+}$ と結びついて黒色の $\ce{PbS}$ が沈殿する(硫黄の検出反応)。表1で硫黄を含むのは、側鎖が $\ce{-CH2-SH}$ のシステインだけ
・結果②:濃硝酸と加熱して黄色になるのは、ベンゼン環がニトロ化されるキサントプロテイン反応。表1でベンゼン環をもつのは、側鎖が $\ce{-CH2-C6H4-OH}$ のチロシンだけ
・結果③:グリシン以外の $\alpha$-アミノ酸は、 $\alpha$ 位の炭素が不斉炭素。問題が聞いているのは側鎖の中の不斉炭素で、表1ではイソロイシンの側鎖 $\ce{-CH(CH3)-CH2-CH3}$ の $\beta$ 位の炭素だけが、H・ $\ce{CH3}$・ $\ce{C2H5}$・ $\alpha$ 位の炭素の4つの異なる原子・原子団と結合している。バリンの側鎖 $\ce{-CH(CH3)2}$ は $\ce{CH3}$ が2つなので不斉炭素ではない
答(結果①) システイン(2点)
答(結果②) チロシン(2点)
答(結果③) イソロイシン(2点)
問3
X を構成する3つのアミノ酸の分子量は、システイン121・イソロイシン131・チロシン181。最も小さいのはシステイン。一般式1の R を、システインの側鎖 $\ce{-CH2-SH}$ にして書く(下の図)。
答 システイン $\ce{H2N-CH(CH2-SH)-COOH}$(上の図)(3点)
問4
濃硝酸を加えて加熱すると、ベンゼン環がニトロ化されて黄色になる。さらにアンモニア水を加えて塩基性にすると橙黄色になる。ベンゼン環をもつアミノ酸(チロシン・フェニルアラニン)やそれを含むタンパク質で起こる。
アミノ酸・タンパク質の検出反応は、次の組で押さえておく。
・ニンヒドリン反応:アミノ基を検出(紫色)
・ビウレット反応:ペプチド結合2つ以上(トリペプチド以上)を検出(赤紫色)
・キサントプロテイン反応:ベンゼン環を検出(黄色→橙黄色)
・硫黄の検出反応:硫黄を含むアミノ酸を検出( $\ce{PbS}$ の黒色沈殿)
答 キサントプロテイン反応(3点)
問5
X は直鎖のトリペプチドなので、3つのアミノ酸がペプチド結合2つでつながり、水が2分子取れている。
$$121+181+131-18\times2=397$$
臭素酸ナトリウムは酸化剤。システインの $\ce{-SH}$ は酸化されると、2つの $\ce{-SH}$ から H が取れてジスルフィド結合 $-\ce{S-S}-$ をつくる。
$$\ce{2R-SH -> R-S-S-R + 2H+ + 2e-}$$
X 1分子にシステインは1つなので、X 2分子が1か所のジスルフィド結合でつながったものが Y(下の図)。Y の分子量は、X 2分子分から H 2個分を引いて
$$397\times2-1.00\times2=792$$
答 792(5点)
出題意図
問1 アミノ酸とタンパク質の基本の用語(官能基・双性イオン・ペプチド結合・タンパク質の構造と分類)を正確に言えるか
問2〜問4 検出反応と「側鎖に不斉炭素」という条件から、表1のアミノ酸を1つずつ特定できるか
問5 臭素酸ナトリウムを酸化剤と読み、システインどうしのジスルフィド結合で2分子がつながると捉えて分子量を求められるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 10分 | 12分 |
問1〜問4 は教科書の知識だけで解ける、確実に取りたい20点。
検出反応は「何を検出するか」、不斉炭素は「どの炭素の話か」まで言えるようにしておけば、結果③ のように条件を1語ずらされても迷わない。
問5 の臭素酸ナトリウムはパーマにも使われる酸化剤で、システインの $\ce{-SH}$ を見たら酸化でジスルフィド結合、と結びつけておくこと。
差がつく所・失点しやすい所
- 問5:臭素酸ナトリウムを酸化剤と読み、システインの $\ce{-SH}$ どうしがジスルフィド結合で X 2分子をつなぐ、という発想に行き着けるか。臭素酸ナトリウムは教科書にほとんど出てこないので、「臭素」からチロシンのベンゼン環に Br が入ると考えると 555 になる。X の分子量(水2分子を引く)と H 2個を引く所の両方で1つずつ誤りやすく、この5点で大きく差がつく。
- 問2 結果③:「側鎖に」不斉炭素を、側鎖 R の中の炭素の話と読めるか。 $\alpha$ 位の不斉炭素と取り違えると、システイン・チロシンを含むほとんどすべてが当てはまって答えが決まらない。
コラム パーマがかかるしくみ ― ジスルフィド結合を切ってつなぎ直す
問5 で X 2分子をつないだジスルフィド結合は、髪の毛のパーマのしくみそのもの。結果④ の臭素酸ナトリウムは、実際にパーマの2剤に使われている酸化剤。


- 髪の形を決めているもの:髪の毛は、ケラチンというタンパク質でできている。ケラチンはシステインを多く含み、となり合うポリペプチド鎖のシステインどうしがジスルフィド結合 $-\ce{S-S}-$ で橋かけされている。この結合が多いので、髪は水でぬらしても元の形に戻る。
- 1剤(還元剤)で切る:1剤にはチオグリコール酸などの還元剤が入っていて、ジスルフィド結合を還元して2つの $\ce{-SH}$ に切る。橋かけがはずれるので、ロッドに巻いた形に合わせて鎖がずれる。
- 2剤(酸化剤)で結び直す:ロッドに巻いたまま2剤を付ける。2剤の臭素酸ナトリウムや過酸化水素が $\ce{-SH}$ を酸化し、ずれた新しい位置で $-\ce{S-S}-$ をつくり直す。巻いた形のまま橋かけが固定されるので、ロッドをはずしてもウェーブが残る。
還元で切り、酸化でつなぐ反応は、問5 の $\ce{2R-SH -> R-S-S-R + 2H+ + 2e-}$ とその逆向きの反応。九大の高分子は、このように身近なものに使われている反応を、教科書の知識(タンパク質の三次構造をつくるジスルフィド結合)から問うてくることがある。反応を「何に使われているか」と結びつけて覚えておくと、初めて見る試薬の名前でも落ち着いて解ける。
2016年九州大学・化学の
講評とまとめ
5問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 第2問 | 標準 | 20点 | 20点 |
| 第3問 | 標準 | 25点 | 20点 |
| 第4問 | 標準 | 20点 | 15点 |
| 第5問 | やや簡単 | 20点 | 20点 |
| 全体 | やや簡単 | 110点 | 90点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で110点、その他の学部で90点)にはなりません。
全体的に難易度はやや簡単な年。
「やや難」の大問は無く、第1問・第5問がやや簡単、第2問・第3問・第4問が標準でした。
第1問は水の結合と状態図の知識だけ、第3問の問1 は重要問題集そのもの、第2問は数値計算が1つも無く、基本が固まっていれば高い点が取れます。
合否を分けたのは第3問の溶鉱炉で、3つの反応が同時に進む反応器でも、反応式ごとに反応した量を置いて係数で追えば、ふだんの量的計算と同じです。
第4問は構造決定の定番、第5問は検出反応の知識で、問5 の臭素酸ナトリウムだけ知識の差が出ます。
1つの大問に15分以上かけないことが大事です。
解く流れ
第1問 → 第2問 → 第3問 → 第4問 → 第5問。
2016年九州大学・化学に
関するよくある質問
2016年の九州大学・化学について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2016年の九州大学・化学は難しかった?
-
全体的に難易度はやや簡単な年でした。
第1問・第5問はやや簡単、第2問・第3問・第4問は標準です。 - 2016年の九州大学・化学は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で110点、その他の学部で90点です(125点満点)。
- 2016年の九州大学・化学はどこで差がつく?
-
この年の合否を分けたのは第3問で、差がついたのは次の3つでした。
- 第3問 問2 エ〜カ:3つの反応が同時に進む反応器を、反応式ごとの量(または O・C 原子の数)で式にできたか。
- 第2問 問6・問7:中間生成物 Z が消える道は式④だけでなく式③の逆反応もあると気づき、近似せずに濃度の比を表せたか。
- 第4問 問7:環をもつ第三級アルコールを、環の大きさを変えて漏れなく数えられたか。
- 2016年の九州大学・化学は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:理論化学(化学結合と結晶)
- 第2問:理論化学(反応の速さと化学平衡)
- 第3問:理論化学(物質量と化学反応式)・無機化学
- 第4問:有機化学
- 第5問:高分子化合物(アミノ酸・タンパク質)




