【解説・配点付き】2008年九州大学化学の解答・解説
2008年の九州大学・化学の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2008年九州大学化学
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は理論化学(化学結合と結晶)の問題です。
テーマは『水素結合』『分子の極性』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問3に答えよ。
水素結合は一般に、共有結合、イオン結合、金属結合などの化学結合に比べてはるかに弱い結合であるが、分子の結晶構造や化学的性質、さらには生体内の諸現象に重要な役割を果たしている。水素結合は、水素原子Hよりも $\boxed{\text{ ア }}$ の大きな原子XとYがH原子を仲立ちとして引き合うことで生じるものであり、X―H····Yの形で示される。ここで、実線(―)は単結合を、点線(····)は水素結合を表す。また、XとYは互いに同じ原子であっても異なる原子であっても良い。
水 $\ce{H2O}$ は16族元素の水素化合物の一つであるが、その融点と沸点は同族の水素化合物で、より大きな分子量をもつ $\ce{H2S}$、$\ce{H2Se}$、$\ce{H2Te}$ の融点と沸点に比べて異常に $\boxed{\text{ イ }}$ 。これは $\ce{H2O}$ 分子の間に水素結合が存在しているためである。すなわち $\ce{H2O}$ 分子では、O原子とH原子の $\boxed{\text{ ア }}$ の違いから、O原子はわずかに $\boxed{\text{ ウ }}$ の電荷を帯び、H原子はわずかに $\boxed{\text{ エ }}$ の電荷を帯びるため、$\ce{H2O}$ 分子間にはO―H····Oの形で表される水素結合が生じている。$\ce{H2O}$ 分子と同じ総電子数を持つ、15族および17族元素の水素化合物の分子間にも水素結合が形成されており(a)、それらの融点と沸点は16族元素の水素化合物の場合と同様の傾向がある。一方、炭素の水素化合物であるメタン $\ce{CH4}$ の分子間には水素結合はない。$\ce{CH4}$ 分子ではC―H結合に電荷の片寄りはあるものの、C原子が $\boxed{\text{ オ }}$ 形の中心に、H原子がその各頂点に位置する構造をとるため、分子全体として電荷の片寄りが打ち消されている。このような分子を $\boxed{\text{ カ }}$ 分子とよぶ。
タンパク質はポリペプチドの一種であり、その複雑な構造の形成には $\boxed{\text{ キ }}$ の間の水素結合が重要な役割をもっている(b)。タンパク質のらせん構造は、らせんの長軸方向に並んだ隣り合う $\boxed{\text{ キ }}$ の間の水素結合により安定化される。一方、タンパク質のシート構造は、ジグザグ状に伸びて隣り合って並んだペプチド鎖の $\boxed{\text{ キ }}$ の間で水素結合が生じることで形成される。6,6-ナイロンは、分子間の $\boxed{\text{ キ }}$ の間に水素結合が存在するため、強い繊維となる。
問1. 文中の $\boxed{\text{ ア }}$ 〜 $\boxed{\text{ キ }}$ に適切な語句を記せ。ただし $\boxed{\text{ キ }}$ には官能基名を入れよ。
問2. 下線部(a)について、各水素化合物の名称を答えよ。また、各水素化合物について、2分子の間で形成される水素結合の形を、下の $\ce{H2O}$ 分子の例にならって示せ。なお、書き方は【図示にあたっての注意】に従うこと。
(例)
問3. 下線部(b)について、2つの $\boxed{\text{ キ }}$ 基の間で形成される水素結合の形を図示せよ。ただし、書き方は問2に示した $\ce{H2O}$ 分子の例にならい、【図示にあたっての注意】に従うこと。
【図示にあたっての注意】
(i) 原子間の結合については必ず次のように示すこと。
単結合:実線(―)
二重結合:二重線(=)
水素結合:点線(····)
(ii) 構造を図示するとき、必要があれば適当な省略形(Rなど)を用いても良い。共有結合または水素結合が、どの原子とどの原子の間に形成されているのかが明確にわかるように図示すること。ただし、共有結合や水素結合の長さや、互いのなす角度については、その正確さをここでは問わない。
解答の方針
【問1の方針】
空欄は、水素結合の条件→ $\ce{H2O}$ の沸点→電荷の偏り→ $\ce{CH4}$ の極性→タンパク質とナイロンの順に並ぶ。極性は「電子式→形→重心」で決まり、 $\ce{CH4}$ は形で偏りが打ち消される(下の図)。


- アは、共有電子対を引きつける強さの名前を答える。
- イは、水素結合があると分子量のわりに沸点が高くなることから決める。
- ウ・エは、電気陰性度の大きい O が共有電子対を引きつけることから、O と H の電荷の符号を決める。
- オ・カは、 $\ce{CH4}$ の C のまわりの電子対4組を最も遠くなるように置いて形を決め、δ+ と δ− の重心が一致するかで極性を決める。
- キは、「官能基名」「タンパク質と6,6-ナイロンに共通」の2つの条件から、−CO−NH− の結合の名前を答える。
【問2の方針】
分子の総電子数は原子番号の和。 $\ce{H2O}$ と同じ10になるのは第2周期の水素化合物で、そのうち水素結合をつくるのは、沸点が異常に高い15族と17族の分子(下の図)。


- 15族・17族の水素化合物のうち、総電子数が10になる分子を決め、名称を答える。
- 2分子を並べ、一方の分子の N(F)と、もう一方の分子の N(F)に共有結合している H を点線で結ぶ。分子の中の N−H(F−H)は実線で、すべての H を書く。
【問3の方針】
アミド結合(−CO−NH−)の中で、δ− をもつのは C=O の O、δ+ をもつのは N に結合した H。2つのアミド結合を向かい合わせて、この O と H を点線で結ぶ(下の図)。


- 2本の鎖のアミド結合を、C=O と N−H が向かい合うように上下に並べ、鎖の残りは R で省略する。
- C=O は二重線、ほかの共有結合は実線で書き、上の鎖の O と下の鎖の H を点線で結ぶ。
解答


解答をテキストで読む
問1
ア:水素結合は、H と結合した原子が共有電子対を強く引きつけ、H が δ+ になることで生じる。共有電子対を引きつける強さは電気陰性度で、希ガスを除いて周期表の右上ほど大きい(F > O > N(≒Cl)> C(≒S)> H)。水素結合の X・Y になるのは、H よりはるかに電気陰性度の大きい F・O・N。
答(ア) 電気陰性度(1点)
イ:水素結合のない分子どうしでは、周期表の下の分子ほど分子量が大きく、ファンデルワールス力が大きいので沸点が高い(下の図の第3〜5周期)。ところが第2周期の $\ce{H2O}$・ $\ce{HF}$・ $\ce{NH3}$ だけは、分子量が最も小さいのに、分子の間に水素結合がはたらくので異常に高い。
答(イ) 高い(1点)
ウ・エ:O は H より電気陰性度がはるかに大きいので、O−H の共有電子対は O の側に偏る。O はわずかに負の電荷(δ−)、H はわずかに正の電荷(δ+)を帯びる。
答(ウ) 負(1点)
答(エ) 正(1点)
オ・カ:電子式→形→重心の順に決める。 $\ce{CH4}$ の C のまわりには共有電子対が4組あり、最も遠くなるように置くと、C が正四面体の中心、4つの H が頂点にくる正四面体形になる。C−H では電気陰性度の大きい C が δ−、H が δ+ だが、4つの H の δ+ の重心は正四面体の中心の C と一致し、δ− の重心とも重なるので、分子全体の極性は打ち消される。折れ線形で重心が一致しない $\ce{H2O}$ と比べると違いがはっきりする(下の図)。
答(オ) 正四面体(1点)
答(カ) 無極性(1点)
キ:タンパク質のらせん構造(α-ヘリックス)やシート構造(β-シート)は、ポリペプチド鎖の −CO−NH− どうしの水素結合でできる。6,6-ナイロンも −CO−NH− で単量体がつながったポリアミドで、分子間の −CO−NH− どうしの水素結合で強い繊維になる。両方に共通する名前で、官能基名として答えるのでアミド結合(問3 の「 キ 基」はアミド基と読む)。
答(キ) アミド結合(−CO−NH−)(1点)
問2
分子の総電子数は原子番号の和。H は1個ずつ電子をもつので、 $\ce{H2O}$ は 8+1×2=10。15族の水素化合物 $\ce{XH3}$ で10になるのは原子番号7の N(7+3=10)、17族の $\ce{XH}$ で10になるのは原子番号9の F(9+1=10)。どちらも第2周期で、N・F は電気陰性度が大きいので水素結合をつくり、沸点が分子量のわりに異常に高い(問1 イの図)。
答(15族) アンモニア $\ce{NH3}$(1点)
答(17族) フッ化水素 $\ce{HF}$(1点)
水素結合は、一方の分子の H と、もう一方の分子の電気陰性度の大きい原子(非共有電子対をもつ N・F)の間にできる。例の $\ce{H2O}$ と同じく、2分子のすべての原子を書き、分子の中の共有結合は実線、分子の間の水素結合は点線で結ぶ。
アンモニアは、左の分子の N と、右の分子の N に共有結合している H を点線で結ぶ( $\ce{N-H}\cdots\ce{N}$ の形)。左の分子の H 3つと、右の分子の残りの H 2つも実線で書く(下の図)。
答(アンモニアの水素結合) 上の図(2点)
フッ化水素は、左の分子の F と、右の分子の F に共有結合している H を点線で結ぶ( $\ce{F-H}\cdots\ce{F}$ の形、下の図)。
答(フッ化水素の水素結合) 上の図(2点)
問3
アミド結合 −CO−NH− では、電気陰性度の大きい O が C=O の共有電子対を引きつけて δ−、N に結合した H が δ+ になる。この O は非共有電子対をもつので、となりの鎖のアミド結合の H と水素結合をつくる( $\ce{C=O}\cdots\ce{H-N}$ の形)。らせん構造では同じ鎖の4つ離れたアミノ酸のアミド結合どうし、シート構造とナイロンでは並んだ鎖のアミド結合どうしで、同じ形の水素結合ができる。
2つのアミド結合を、上の鎖の C=O と下の鎖の N−H が向かい合うように並べ、鎖の残りは R で省略する。C=O は二重線、ほかの共有結合は実線で書き、上の鎖の O と下の鎖の H を点線で結ぶ(下の図)。
答 上の図(5点)
出題意図
問1 水素結合ができる条件と、電気陰性度による電荷の偏り・分子の形による極性の打ち消し合い、タンパク質とナイロンに共通するアミド結合を、文の流れにそって正しく言い当てられるか
問2 総電子数から $\ce{H2O}$ と同じ第2周期の水素化合物を決め、水素結合がどの原子とどの原子の間にできるかを図で正しく示せるか
問3 アミド結合の中で δ− をもつ C=O の O と δ+ をもつ N−H の H が引き合うことを、図で正しく示せるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 18点 | 18点 |
| 目標時間 | 8分 | 10分 |
水素結合の知識だけで満点が取れる大問で、どの学部も満点を取りたい。
沸点のグラフを「ファンデルワールス力」「水素結合の有無」の順で説明でき、極性を「電子式→形→重心」で決められれば、問1・問2 は迷わない。
問3 は、タンパク質の2次構造を「アミド結合の C=O と N−H の水素結合」と言い切れるかどうか。
知識で埋められる大問は時間をかけずに書いて、浮いた時間を計算の重い大問に回そう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問3:差がつくとしたら、アミド結合どうしの水素結合を「C=O の O と N−H の H」と決めて図にできるか。タンパク質の2次構造を水素結合の向きまで理解していないと、どの原子を点線で結ぶかで迷い、C=O の二重線や R の省略も含めて書き切るのに時間を使う。
2008年九州大学化学
第2問 解答・解説
第2問は理論化学(物質の三態・気体の法則)の問題です。
テーマは『水銀柱と気体の圧力』『飽和蒸気圧の計算』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問4に答えよ。
水銀溜めに断面が均一で断面積20 cm²のシリンダーが鉛直に挿入されており、初期にはメタノールと酸素だけが高さ13.6 cmまで入っていた。このときメタノールは完全に気化しており、シリンダー内側の水銀の高さは周りの水銀面より7.6 cm深くなっていた(図1)。
測定はすべて300 Kで行われており、大気圧は $1.0\times10^5$ Paとする。水の飽和蒸気圧は $3.0\times10^3$ Paとし、水銀の蒸気圧は無視できるものとする。水銀は測定中、化学変化はしないものとする。
このシリンダー内のメタノールを完全燃焼させ、そのまま温度が300 Kになってから、気体の体積を計測すると、気体部の高さ12.9 cm、水銀面の高さ7.6 cmとなり、水銀表面には液体の水が観測された(図2)。
ここで、すべての気体は理想気体として扱い、測定はすべて気液平衡で行われたものとする。また、水銀、液体のメタノールおよび水への他成分の溶解はないものとし、液体のメタノールと水の体積およびそれらの重さによる水銀柱の高さへの影響も無視できるものとする。
答えはすべて有効数字2桁で求めよ。
問1. 燃焼前のメタノールの全物質量[mol]を求めよ。
問2. 燃焼後の液体の水の質量[g]を求めよ。
問3. 燃焼後の二酸化炭素の分圧[Pa]を求めよ。
問4. 燃焼後にシリンダーを引き上げ、図3のように気体部をある高さ $x$ [cm]以上にしたとき、生成した水はすべて気体になった。このときの高さ $x$ [cm]を求めよ。
解答の方針
【問1の方針】
水銀柱 76 cm が大気圧にあたる。中の水銀面が外より低ければ気体の圧力は大気圧より大きく、高ければ小さい(下の図)。燃焼後は液体の水があるので、水蒸気は飽和蒸気圧で、ほかの気体と分けて考える。


- 水銀柱 7.6 cm を大気圧との比で Pa に直し、燃焼前(中が低い)と燃焼後(中が高い)の気体の圧力を求める。体積は断面積×高さ。
- 燃焼前は全部の気体(メタノール+酸素)に注目し、状態方程式で物質量の合計を求める。
- 燃焼後は液体の水があるので、水蒸気の分圧は飽和蒸気圧。全圧から引いて、凝縮しない気体(二酸化炭素+余った酸素)の分圧を求め、状態方程式で物質量にする。
- 体積も圧力も変わるので、反応の表は物質量で書く。メタノールを $a$ mol とすると、凝縮しない気体は燃焼で $1.5a$ mol 減るので、2つの物質量の差から $a$ を求める。
【問2の方針】
生じた水が全て気体と仮定した圧力 $P_{\mathrm{if}}$ を飽和蒸気圧と比べ、気体ぶんと液体ぶんに分ける。液体ぶんの圧力をそのまま状態方程式に入れれば、液体の物質量がすぐに求まる(下の図)。


- 生じた水は $2a$ mol。燃焼後の体積・温度で、全て気体と仮定した圧力 $P_{\mathrm{if}}$ を求める。
- $P_{\mathrm{if}}$ から飽和蒸気圧を引いた液体ぶんの圧力を状態方程式に入れて、液体の物質量を求め、質量にする。
【問3の方針】
二酸化炭素と余った酸素は同じ空間にあり、体積と温度が共通なので、分圧は物質量に比例する。
- 問1 で求めた凝縮しない気体の分圧に、二酸化炭素のモル分率をかける。
【問4の方針】
水だけに注目する。水がちょうど全部気体になる瞬間も、水蒸気の圧力は飽和蒸気圧のまま。物質量と温度が同じなので、体積は圧力に反比例し、二酸化炭素・酸素・全圧は関係しない(下の図)。


- 問2 の $P_{\mathrm{if}}$ (燃焼後の体積で水が全て気体と仮定した圧力)を起点にする。
- 水の圧力が飽和蒸気圧まで下がる体積を比で求める。断面積が一定なので、高さも同じ倍率になる。
解答




解答をテキストで読む
問1
燃焼前・燃焼後・引き上げ後の状態を整理する(下の図)。温度はずっと 300 K。
水銀柱 76 cm(760 mmHg)が大気圧 $1.0\times10^{5}$ Pa にあたるので、水銀柱 7.6 cm の圧力は
$$1.0\times10^{5}\times\dfrac{7.6}{76}=1.0\times10^{4}\ \mathrm{Pa}$$
燃焼前は中の水銀面が外より 7.6 cm 低く、燃焼後は高い(下の図)。
燃焼前は、気体の圧力が大気圧と水銀柱 7.6 cm ぶんを合わせた大きさで水銀を押し下げているので
$$P_1=1.0\times10^{5}+1.0\times10^{4}=1.1\times10^{5}\ \mathrm{Pa}=110\ \mathrm{kPa}$$
燃焼後は、気体の圧力と水銀柱 7.6 cm ぶんを合わせて大気圧と釣り合うので
$$P_2=1.0\times10^{5}-1.0\times10^{4}=9.0\times10^{4}\ \mathrm{Pa}=90\ \mathrm{kPa}$$
体積は断面積×高さで、燃焼前 $20\times13.6=272\ \mathrm{cm^3}=0.272\ l$ 、燃焼後 $20\times12.9=258\ \mathrm{cm^3}=0.258\ l$ 。
燃焼前は全部の気体(メタノール+酸素)に注目して状態方程式を立てる。気体定数は表紙の値 $R=8.30\ \mathrm{kPa}\cdot l/(\mathrm{K}\cdot\mathrm{mol})$ なので、圧力は kPa で入れる。
$$n_1=\dfrac{P_1V_1}{RT}=\dfrac{110\times0.272}{8.30\times300}=1.2016\times10^{-2}\ \mathrm{mol}$$
燃焼後は水銀の表面に液体の水があるので、水蒸気の分圧は飽和蒸気圧 3.0 kPa。凝縮しない気体(二酸化炭素と余った酸素)と分けて考えると、その分圧は $90-3.0=87$ kPa なので
$$n_2=\dfrac{87\times0.258}{8.30\times300}=9.0145\times10^{-3}\ \mathrm{mol}$$
燃焼の前後で体積も圧力も変わるので、反応の表は物質量で書く。メタノールを $a$ mol、酸素を $b$ mol とする(下の図)。
燃焼後の凝縮しない気体は二酸化炭素 $a$ mol と酸素 $b-1.5a$ mol で、合計 $(a+b)-1.5a$ mol。燃焼前の合計 $a+b$ から $1.5a$ だけ減っているので
$$1.5a=n_1-n_2=1.2016\times10^{-2}-9.0145\times10^{-3}=3.0015\times10^{-3}$$
$$a=2.001\times10^{-3}\ \mathrm{mol}$$
答 $2.0\times10^{-3}$ mol(6点)
問2
生じた水は $2a=4.002\times10^{-3}$ mol。燃焼後の体積 $0.258\ l$ ・300 K で、水が全て気体と仮定した圧力 $P_{\mathrm{if}}$ は
$$P_{\mathrm{if}}=\dfrac{4.002\times10^{-3}\times8.30\times300}{0.258}=38.63\ \mathrm{kPa}$$
これは飽和蒸気圧 3.0 kPa より大きいので、液体の水がある。気体のまま残るのは飽和蒸気圧のぶんで、液体になったのは残りのぶん(下の図)。
$$38.63-3.0=35.63\ \mathrm{kPa}\quad\text{(液体になったぶん)}$$
この圧力をそのまま状態方程式に入れると、液体の水の物質量は
$$\dfrac{35.63\times0.258}{8.30\times300}=3.691\times10^{-3}\ \mathrm{mol}$$
水のモル質量 18.0 g/mol をかけて
$$3.691\times10^{-3}\times18.0=6.64\times10^{-2}\ \mathrm{g}$$
答 $6.6\times10^{-2}$ g(5点)
問3
二酸化炭素と余った酸素は同じ空間にあり、体積と温度が共通なので、分圧は物質量に比例する。凝縮しない気体の分圧 87 kPa(物質量 $n_2=9.0145\times10^{-3}$ mol)のうち、二酸化炭素は $a=2.001\times10^{-3}$ mol なので
$$P_{\ce{CO2}}=87\times\dfrac{2.001\times10^{-3}}{9.0145\times10^{-3}}=19.31\ \mathrm{kPa}=1.931\times10^{4}\ \mathrm{Pa}$$
答 $1.9\times10^{4}$ Pa(4点)
問4
シリンダーを引き上げると気体部の体積が大きくなり、液体の水が蒸発していく。液体が残っている間は水蒸気の圧力は飽和蒸気圧 3.0 kPa のまま。ちょうど全部気体になった瞬間も圧力は飽和蒸気圧で、そのとき水は $2a$ mol 全部が気体になっている(下の図)。
水だけに注目する。二酸化炭素・酸素も同じ体積に広がっているが、水の圧力と体積の関係には関係しないので、全圧はいらない。
問2 の $P_{\mathrm{if}}$ (燃焼後の体積で水 $2a$ mol が全て気体と仮定した圧力 38.63 kPa)を起点にする。物質量と温度が同じなので、 $PV=nRT$ より体積は圧力に反比例する。圧力が $38.63$ kPa から $3.0$ kPa に下がる体積は $\dfrac{38.63}{3.0}$ 倍。断面積が一定なので、高さも同じ倍率になる。
$$x=12.9\times\dfrac{38.63}{3.0}=166.1\ \mathrm{cm}$$
これより高く引き上げると水の圧力は飽和蒸気圧より下がり、水はすべて気体のまま。
答 $1.7\times10^{2}$ cm(5点)
別解
問1
(燃焼前と燃焼後の状態方程式を2本並べる) 燃焼前は $110\times0.272=(a+b)\times8.30\times300$ 、燃焼後の凝縮しない気体は $87\times0.258=(b-0.5a)\times8.30\times300$ 。燃焼前の式から燃焼後の式を引くと
$$110\times0.272-87\times0.258=1.5a\times8.30\times300\qquad\therefore\ a=2.001\times10^{-3}\ \mathrm{mol}$$
問2
(生じた水から気体のまま残る水を引く) 燃焼後の水蒸気は飽和蒸気圧 3.0 kPa なので、気体の水は
$$\dfrac{3.0\times0.258}{8.30\times300}=3.108\times10^{-4}\ \mathrm{mol}$$
液体の水は $4.002\times10^{-3}-3.108\times10^{-4}=3.691\times10^{-3}$ mol で、質量は $6.64\times10^{-2}$ g。
問3
(二酸化炭素に注目して状態方程式に直接入れる)
$$P_{\ce{CO2}}=\dfrac{2.001\times10^{-3}\times8.30\times300}{0.258}=19.31\ \mathrm{kPa}$$
二酸化炭素は $a$ mol で水 $2a$ mol のちょうど半分なので、問2 の $P_{\mathrm{if}}$ の半分( $38.63\div2$ )としても同じ値になる。
問4
(状態方程式で体積を求める) 水 $2a$ mol が 3.0 kPa・300 K で占める体積は
$$V=\dfrac{4.002\times10^{-3}\times8.30\times300}{3.0}=3.322\ l=3322\ \mathrm{cm^3}$$
断面積 20 cm² で割って $x=166.1$ cm。
出題意図
問1 水銀面の高さの差から気体の圧力を読み、液体の水があるときは水蒸気を飽和蒸気圧として分けたうえで、燃焼前後の物質量の変化からメタノールの量を求められるか
問2・問3 全て気体と仮定した圧力と飽和蒸気圧を比べて液体の量を求め、同じ空間の分圧を物質量の比で求められるか
問4 水がちょうど全部気体になる瞬間も水蒸気の圧力は飽和蒸気圧であることから、水だけに注目して体積を決められるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや難 | |
| 目標得点 | 15点 | 10点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
水銀柱の読み、燃焼の量的関係、液体があれば飽和蒸気圧という、重要問題集の気体の典型問題を1本につないだ大問で、2008年の化学の合否を分けた大問。
状態遷移図を書き、凝縮する水と凝縮しない気体を分けて考えれば前半は解けるが、最後の問4 は難しい。
問1 で止まると後ろがまとめて落ちる。
6題の年で時間に追われても、圧力の読みと水蒸気の引き算を丁寧に確かめてから進めること。
差がつく所・失点しやすい所
- 問1:水銀面の上下から燃焼前後の圧力を読み、燃焼後は水蒸気の飽和蒸気圧を引いて凝縮しない気体だけを状態方程式に入れる、という発想に行き着けるか。体積も圧力も変わるので圧力のままモル計算ができず、物質量の表で「燃焼で $1.5a$ 減る」をつかむ所も決め手。ここで止まると問2〜問4 がまとめて落ち、この大問の20点すべてを失う。
- 問4:水がちょうど全部気体になる瞬間も飽和蒸気圧であることに気づき、水だけに注目して体積を求められるか。全圧や水銀柱の高さから考え始めると、必要のない計算で迷いやすい。答えが 166 cm と大きく不安になるが、図3 のように引き上げた形なので問題はない。
2008年九州大学化学
第3問 解答・解説
第3問は理論化学(電離平衡)・無機化学の問題です。
テーマは『ヘンリーの法則と電離平衡』『排煙脱硫の量的計算』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問4に答えよ。
化石燃料中には硫黄化合物が含まれており、燃焼の際に生成する硫黄酸化物は大気汚染の原因物質の一つとなる。大気中への硫黄酸化物の放出を抑制するために、重油からの硫黄成分の除去ならびに石炭燃焼排煙からの硫黄酸化物の除去が行われる。
重油中に硫黄は有機化合物として存在するので、その結合を切るために、高温高圧にした重油に水素を吹き込み、固体の触媒と接触させる。このようにして重油中の硫黄は硫化水素として除去される。さらに、この硫化水素は二酸化硫黄と反応させて単体硫黄として回収される(a)。これは硫酸の原料として利用される。
排煙からの硫黄酸化物の除去には、粉状の石灰石を水に分散させたものが用いられる。この石灰石と水の混合物を霧のように排煙に吹き付けて二酸化硫黄を吸収させ、さらに酸素と反応させてセッコウ( $\ce{CaSO4*2H2O}$ )として回収する(b)。また、排煙に含まれる三酸化硫黄も、同様にセッコウとして回収される。このようにして得られたセッコウはセメントの原料などに用いられる。
問1. 硫黄酸化物のような酸性大気汚染物質が存在しなくても、大気中には二酸化炭素が存在するため、雨水は酸性となる。そこで、大気中の二酸化炭素が溶けて平衡状態にある雨水の水素イオン濃度よりも高濃度の水素イオンを含む雨を一般に酸性雨と呼ぶ。25 ℃において、この酸性雨の目安となる水素イオン濃度を、次の(1)と(2)の手順に従って求めよ。
ただし、大気中の二酸化炭素濃度は0.038体積%、25 ℃における二酸化炭素の水への溶解度(気体の分圧が $1.0\times10^5$ Paの時の、水1 $l$ に溶ける気体の物質量)は $3.4\times10^{-2}$ mol/$l$ であり、ヘンリーの法則が成り立つものとする。水に溶けた二酸化炭素は一部が水と反応して弱酸として働き、次のような電離平衡が成り立つ。
$\ce{CO2 + H2O <=> H+ + HCO3-}$
その電離定数は $4.3\times10^{-7}$ mol/$l$ である。また、与えられた条件では $\ce{HCO3-}$ の電離は無視できる。
(1) 水に溶けた二酸化炭素の濃度[mol/$l$]を求め、有効数字2桁で答えよ。
(2) 大気中の二酸化炭素が溶けた水の水素イオン濃度[mol/$l$]を求め、有効数字2桁で答えよ。
問2. 下線部(a)の反応を、硫化水素と二酸化硫黄にわけてそれぞれ電子を含む反応式として示せ。また、この反応で酸化剤として作用した化合物は何か。化学式で示せ。
問3. 下線部(b)の反応をまとめて一つの反応式で示せ。
問4. 質量パーセントで2.4 %の硫黄を含む石炭を1分間に1.0 kg消費する燃焼炉がある。この炉から出る排煙中の硫黄酸化物をすべてセッコウとして回収するためには、1分間に何gの石灰石と反応させる必要があるか。有効数字2桁で答えよ。
ただし、すべての化学反応は完全に進むものとする。
解答の方針
【問1の方針】
雨水は大気と接しているので、電離で減った二酸化炭素はすぐに大気から補われる。水中の二酸化炭素の濃度はヘンリーの法則の値のまま一定で、それを電離定数の式に入れればよい(下の図)。


- 大気圧を $1.0\times10^5$ Pa として、二酸化炭素の分圧を体積%から求める。
- 「 $1.0\times10^5$ Pa・水1 $l$ に溶ける物質量」に分圧の倍率をかけて、水に溶けた二酸化炭素の濃度を求める((1))。
- 電離で生じる $\ce{H+}$ と $\ce{HCO3-}$ は同じ数なので $[\ce{H+}]=[\ce{HCO3-}]$ とおき、電離定数の式に (1) の濃度をそのまま入れて $[\ce{H+}]$ を求める((2))。
【問2の方針】
どちらも硫黄の化合物なので、硫黄の酸化ラダーで何が何になるかを決める。二酸化硫黄(+4)と硫化水素(−2)がどちらも単体の硫黄(0)になり、下がる方の二酸化硫黄が酸化剤(下の図)。


- 酸化ラダーより、硫化水素も二酸化硫黄も硫黄になると決め、酸化数の変化を読む。
- それぞれ $\ce{e-}$ で酸化数、 $\ce{H+}$ で電荷、 $\ce{H2O}$ で原子の数をそろえて半反応式を書く。
- 電子を受け取る方(酸化数が下がる方)を酸化剤として答える。
【問3の方針】
1本にまとめる前に、起きていることを段階に分ける。弱酸の遊離で二酸化炭素が出て亜硫酸カルシウム、酸素で酸化されて硫酸カルシウム、水和してセッコウ、の3段の式を足して、途中の物質を消す(下の図)。


- 炭酸カルシウムと二酸化硫黄の反応(弱酸の遊離)を書く。
- 亜硫酸カルシウムが酸素で硫酸カルシウムに酸化される反応を書く。
- 硫酸カルシウムが水和してセッコウになる式を書く。
- 途中の亜硫酸カルシウムと硫酸カルシウムが消えるように係数をそろえて3本を足し、最も簡単な整数の係数にする。
【問4の方針】
石炭中の硫黄原子は、二酸化硫黄・三酸化硫黄を経てすべてセッコウになり、数は変わらない。セッコウ1個に硫黄もカルシウムも1個なので、硫黄と炭酸カルシウムの物質量は等しい(下の図)。


- 1分間に燃える石炭中の硫黄の質量を求め、物質量に直す。
- 硫黄原子1個に炭酸カルシウム1個が要ることから、炭酸カルシウムの物質量を決める。
- 炭酸カルシウムの式量 100.0 をかけて質量にし、有効数字2桁で答える。
解答




解答をテキストで読む
問1
雨水は大気と接していて、大気中の二酸化炭素は溶けたり出ていったりして平衡にある(下の図)。水に溶けた二酸化炭素の一部は電離するが、電離で減った分はすぐに大気から補われるので、水中の二酸化炭素の濃度はヘンリーの法則で決まる値のまま一定に保たれる。
(1) 大気圧を $1.0\times10^5$ Pa(表紙の1 atm)とする。二酸化炭素は0.038体積%なので、分圧は
$$1.0\times10^5\times\dfrac{0.038}{100}=38\ \mathrm{Pa}$$
ヘンリーの法則より、溶ける量は分圧と水の量に比例する。 $1.0\times10^5$ Pa・水1 $l$ に溶ける $3.4\times10^{-2}$ mol を基準にして、分圧の倍率をかける(水は1 $l$ あたりで考えるので倍率は1)。
$$[\ce{CO2}]=3.4\times10^{-2}\times\dfrac{38}{1.0\times10^5}\times1=1.29\times10^{-5}\ \mathrm{mol}/l$$
答 $1.3\times10^{-5}$ mol/$l$(3点)
(2) これは弱酸の電離の問題。 $\ce{HCO3-}$ の電離は無視できるので、電離で生じる $\ce{H+}$ と $\ce{HCO3-}$ は同じ数で、 $[\ce{H+}]=[\ce{HCO3-}]$ 。水の電離も無視すると、電離定数の式は
$$K=\dfrac{[\ce{H+}][\ce{HCO3-}]}{[\ce{CO2}]}=\dfrac{[\ce{H+}]^2}{[\ce{CO2}]}$$
ここに入れる $[\ce{CO2}]$ は平衡のときの濃度で、大気から補われるので (1) の値そのもの。近似を使わずに
$$[\ce{H+}]=\sqrt{K[\ce{CO2}]}=\sqrt{4.3\times10^{-7}\times1.29\times10^{-5}}=2.36\times10^{-6}\ \mathrm{mol}/l$$
形は弱酸の $[\ce{H+}]=\sqrt{CK_\mathrm{a}}$ と同じだが、ここでは $1-\alpha\fallingdotseq1$ の近似をしていない。最初に溶かした量が電離で減っていく閉じた容器の弱酸とは違い、減った分が補われるので、平衡の $[\ce{CO2}]$ がはじめから分かっている。だから $\alpha=\dfrac{[\ce{H+}]}{[\ce{CO2}]}$ が0.18と大きくても、この値のままでよい。
pH は約5.6 で、大気の二酸化炭素だけが溶けた雨水はもともと弱い酸性を示す。これより $\ce{H+}$ が多い雨が酸性雨で、pH 5.6 が酸性雨の目安としてよく使われる数字になっている。
答 $2.4\times10^{-6}$ mol/$l$(4点)
問2
酸化ラダーより、硫黄は +6 の $\ce{SO4^2-}$、+4 の $\ce{SO2}$、0 の $\ce{S}$、−2 の $\ce{H2S}$ と並ぶ。硫化水素は2段上がって、二酸化硫黄は4段下がって、どちらも単体の硫黄になる(下の図)。
硫化水素は S の酸化数が −2 から 0 へ2増えるので $\ce{e-}$ を2個与え、右辺の電荷を $\ce{H+}$ 2個でそろえる。
答(硫化水素) $\ce{H2S -> S + 2H+ + 2e-}$(2点)
二酸化硫黄は S の酸化数が +4 から 0 へ4減るので $\ce{e-}$ を4個受け取り、左辺の電荷を $\ce{H+}$ 4個でそろえ、O の数を $\ce{H2O}$ 2個でそろえる。
答(二酸化硫黄) $\ce{SO2 + 4H+ + 4e- -> S + 2H2O}$(2点)
電子を受け取って酸化数が下がっている二酸化硫黄が酸化剤。硫化水素の式を2倍して $\ce{e-}$ を4個にそろえて足すと、 $\ce{H+}$ も両辺の4個が消えて
$$\ce{2H2S + SO2 -> 3S + 2H2O}$$
となる。水溶液の中で起こると、できた硫黄が細かい粒になって白くにごる。
二酸化硫黄は原則として還元剤で、相手が硫化水素のときだけ酸化剤になる。同じように両方になる過酸化水素は、原則として酸化剤で、相手が過マンガン酸イオンや二クロム酸イオンのときだけ還元剤になる。この2つの「原則と例外」はセットで押さえておく。
答(酸化剤) $\ce{SO2}$(2点)
問3
石灰石と水の混合物に二酸化硫黄を吸収させ、酸素と反応させてセッコウにする流れを、3段に分けて書く(下の図)。
① 二酸化硫黄は水に溶けて亜硫酸になる。亜硫酸は炭酸より強い酸なので、炭酸カルシウムとの間で弱酸の遊離が起こり、炭酸は $\ce{H2O + CO2}$ になって二酸化炭素が出ていく。水は差し引きで消えるので、まとめると
$$\ce{CaCO3 + SO2 -> CaSO3 + CO2}$$
② 亜硫酸カルシウムの S は +4。酸素に酸化されて +6 の硫酸カルシウムになる。S は1個で $\ce{e-}$ を2個与え、 $\ce{O2}$ は1個で4個受け取るので、亜硫酸カルシウムと酸素は $2:1$ 。
$$\ce{2CaSO3 + O2 -> 2CaSO4}$$
③ 水和してセッコウになる。
$$\ce{CaSO4 + 2H2O -> CaSO4*2H2O}$$
② の亜硫酸カルシウムが2個なので、①と③を2倍して3本を足す。両辺の $\ce{CaSO3}$ と $\ce{CaSO4}$ が2個ずつ消えて
$$\ce{2CaCO3 + 2SO2 + O2 + 4H2O -> 2CaSO4*2H2O + 2CO2}$$
答 $\ce{2CaCO3 + 2SO2 + O2 + 4H2O -> 2CaSO4*2H2O + 2CO2}$(4点)
問4
石炭中の硫黄は燃えて二酸化硫黄や三酸化硫黄になり、どちらも炭酸カルシウムと反応してセッコウになる(下の図)。硫黄原子の数はどの段階でも変わらず、セッコウ $\ce{CaSO4*2H2O}$ 1個には S と Ca が1個ずつ入っているので、硫黄原子1個ごとに炭酸カルシウムが1個要る。問3 の反応式でも $\ce{SO2}$ と $\ce{CaCO3}$ の係数はどちらも2で、係数の比=モルの比から同じ $1:1$ になる。三酸化硫黄も $\ce{CaCO3 + SO3 + 2H2O -> CaSO4*2H2O + CO2}$ で $1:1$ 。
1分間に燃える石炭 1.0 kg に含まれる硫黄の質量と物質量は
$$1.0\times10^3\times\dfrac{2.4}{100}=24\ \mathrm{g}\qquad\dfrac{24}{32.0}=0.750\ \mathrm{mol}$$
必要な炭酸カルシウムも 0.750 mol で、式量は $\ce{CaCO3}=40.0+12.0+16.0\times3=100.0$ なので
$$0.750\times100.0=75.0\ \mathrm{g}$$
答 75 g(5点)
別解
問3 (電子の数で酸素の係数を先に決める)二酸化硫黄の S は +4 から +6 へ酸化され、1個で $\ce{e-}$ を2個与える。酸素は1個で $\ce{e-}$ を4個受け取る。酸化剤の受け取る $\ce{e-}$ =還元剤の与える $\ce{e-}$ より、 $\ce{SO2}$ と $\ce{O2}$ は $2:1$ で反応する。 $\ce{SO2}$ 2個にはカルシウムが2個要るので $\ce{CaCO3}$ が2個、炭素の数から $\ce{CO2}$ が2個、できる $\ce{CaSO4*2H2O}$ が2個。最後に H の数から $\ce{H2O}$ を4個と決めると、本解と同じ式になる。段階の式を思いつかなくても書けるが、水の数え忘れが起きやすいので、ふだんは本解のように段階に分けて書く。
出題意図
問1 ヘンリーの法則で雨水に溶けた二酸化炭素の濃度を求め、その濃度が大気との平衡で一定に保たれることから、水素イオン濃度を求められるか
問2 酸化ラダーから硫化水素と二酸化硫黄の半反応式を作り、この組み合わせでは二酸化硫黄が酸化剤になることを答えられるか
問3 石灰石が二酸化硫黄を吸収してセッコウになるまでの何段もの反応を、1本の反応式にまとめられるか
問4 硫黄原子の数が燃焼からセッコウまで変わらないことから、必要な石灰石の量を求められるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 18点 | 15点 |
| 目標時間 | 10分 | 12分 |
ヘンリーの法則・弱酸の電離・酸化還元・量的計算を、硫黄酸化物の除去という1つの題材でまとめた大問。
差がつくのはヘンリーの法則と電離平衡を組み合わせた問1 で、「減った分が大気から補われるかどうか」で式の立て方を決めること。
問3 の反応式は、覚えていなくても弱酸の遊離・酸化・水和の3段に分ければ必ず作れる。
差がつく所・失点しやすい所
- 問3:炭酸カルシウム・二酸化硫黄・酸素・水の4つの物質を、弱酸の遊離・酸化・水和の3段に分けてから足すという発想に行き着けるか。この反応式そのものを覚えている受験生は少なく、いきなり1本で書こうとすると水の係数(セッコウの水和水2個×2で4)や二酸化炭素を落としやすく、この4点で差がつく。
- 問1 (2):水中の二酸化炭素の濃度が大気との平衡で一定に保たれる、という見方に行き着けるか。弱酸の電離として α を確かめると0.18になり、2次方程式を解いてしまうと $2.2\times10^{-6}$ mol/$l$ と答えがずれる。
2008年九州大学化学
第4問 解答・解説
第4問は理論化学(反応の速さと化学平衡)の問題です。
テーマは『運動エネルギー分布』『アレニウスの式の計算』。
問題


問題文をテキストで読む
気体の化学反応速度に関する次の(1)〜(4)の文章を読み、問1〜問7に答えよ。
(1) 運動する気体がもつエネルギーを気体の運動エネルギーといい、その大きさは、気体分子の質量と気体分子の平均速度の2乗の積で表され、それは、絶対温度に比例する。絶対温度を $T$ [K]、気体分子の分子量を $M$、気体分子の平均速度を $v$ とすると、$v$ は、$M$ と $T$ を用いて、
$v\propto\boxed{\text{ ア }}$
と表すことができる(ただし、$\propto$ は比例記号)。この場合、温度606 Kから20 K上昇させたとき、$v$ は $\boxed{\text{ イ }}$ 倍になる。
問1. $\boxed{\text{ ア }}$ にあてはまる文字式を記せ。
問2. $\boxed{\text{ イ }}$ に数値を記せ。ただし、有効数字2桁とする。
(2) 多くの実際の化学反応では、温度が10 K上昇すると、反応速度は2〜4倍になる。運動している気体分子すべてが、化学反応するわけではない。化学反応することができる気体分子は、ある一定以上の運動エネルギーをもっていなければならない。絶対温度 $T_1$ [K]のときの反応する気体分子の運動エネルギー分布図(縦軸に気体分子数の割合、横軸に分子のもつ運動エネルギーをとったもの)は、次ページの図のようになる。図中に示している $E_\mathrm{a}$ はこの反応の活性化エネルギーであり、運動エネルギーが $E_\mathrm{a}$ 以上の分布面積 $S$ は、化学反応することが可能な分子数の割合を示す。
問3. この化学反応において、絶対温度 $T_2$ [K]( $T_1<T_2$ )のときの反応する気体の運動エネルギー分布を上図に書き入れた場合、下記のどのグラフになるか。記号で記せ。
(3) 活性化エネルギー $E_\mathrm{a}$ 以上の運動エネルギーをもつ気体分子が化学反応に関わるが、その分布面積 $S$ は底が $e$ である次の指数関数で表すことができる。
$\dfrac{1}{e^f}$
ここで、$e$ は自然対数の底、$f$ は活性化エネルギー $E_\mathrm{a}$ と絶対温度 $T$ で表される式である。
問4. $f$ はどのような式か。問3で解答した絶対温度 $T_1$ [K]と $T_2$ [K]における運動エネルギー分布図を参考にして、次のものから選び、記号で記せ(ただし、$C$ は比例定数)。
(ア) $C\times(E_\mathrm{a}T)$ (イ) $C\times(E_\mathrm{a}+T)$
(ウ) $C\times\left(\dfrac{T}{E_\mathrm{a}}\right)$ (エ) $C\times\left(\dfrac{E_\mathrm{a}}{T}\right)$
問5. 問4で解答した根拠を35字以内で記せ。
(4) ヨウ化水素の気体を一定容器中にいれ、高温に保つと、
$\ce{2HI -> H2 + I2}$
の分解反応がおこる。この反応の反応速度定数 $k$ [$l$/(mol・s)]と絶対温度 $T$ [K]との関係を調べた。各温度の結果を、横軸に $T$ の逆数( $1/T$ )、縦軸に $e$ を底にする $k$ の対数値( $\log_e k$ )をとったグラフに書き入れると、次の図のように、直線上に並んだ。
問6. この図の直線の傾きを $-\mathrm{A}$ ( $\mathrm{A}>0$ )、縦軸切片を $\mathrm{B}$ ( $\mathrm{B}<0$ )とすると、
$\log_e k=\boxed{\text{ ウ }}$ となる。
$\boxed{\text{ ウ }}$ に文字式を記せ。
問7. 絶対温度606 Kのときのこの反応の反応速度定数を $k_1$、その温度から20 K上昇させたときの反応速度定数を $k_2$ とすると、$k_2$ は $k_1$ に比べて $\boxed{\text{ エ }}$ 倍となる。$\boxed{\text{ エ }}$ に数値を記せ。ただし、$\mathrm{A}=21890$、$\log_{10}e=0.4343$、$\sqrt{2}=1.414$、$\sqrt{3}=1.732$、$\sqrt{5}=2.236$ とする。答えは、小数点第2位を四捨五入して示せ。
解答の方針
【問1の方針】
問題文の「運動エネルギーは質量と平均速度の2乗の積で表され、絶対温度に比例する」をそのまま比例の式にする。質量は分子量に比例する。
- 運動エネルギーを $Mv^2$ に比例するとおき、それが $T$ に比例することから $Mv^2\propto T$ とする。
- $v$ について解き、 $v\propto\sqrt{\dfrac TM}$ とする(ア)。
【問2の方針】
同じ気体なので $M$ は変わらず、速さの比は絶対温度の比の平方根になる。
- $v\propto\sqrt T$ から、606 K と626 K の速さの比を $\sqrt{\dfrac{626}{606}}$ と表す。
- 計算して有効数字2桁にする(イ)。
【問3の方針】
分布の面積は全分子の割合(=1)なので、温度を変えても変わらない。温度を上げると速い分子が増え、山は右へずれて低く広がる(下の図)。


- 温度を上げると、運動エネルギーの大きい分子が増えるので、山の位置が右へずれ、すそが右へ長くなるものを探す。
- 全体の面積が変わらないので、広がった分だけ山が低くなっているものを選ぶ。
【問4の方針】
$S=\dfrac{1}{e^f}$ は $f$ が小さいほど大きい。問3 の図から、温度が高いほど $S$ は大きく、活性化エネルギーが大きいほど $S$ は小さい(下の図)。この2つの向きに合う $f$ を選ぶ。


- $T$ が大きいほど $S$ が大きいので、 $f$ は $T$ が大きいほど小さくなる形でなければならない。
- $E_\mathrm{a}$ が大きいほど $S$ が小さいので、 $f$ は $E_\mathrm{a}$ が大きいほど大きくなる形でなければならない。
- (ア)〜(エ)のうち、両方を満たすものを選ぶ。
【問5の方針】
問4 で使った2つの向き(温度と活性化エネルギーで $S$ がどう変わるか)が、そのまま根拠になる。
- 「温度が高いほど $S$ が大きい」「活性化エネルギーが大きいほど $S$ が小さい」の2点を35字以内にまとめる。
【問6の方針】
横軸 $\dfrac1T$ ・縦軸 $\log_ek$ のグラフが直線なので、傾きと縦軸切片で直線の式を書くだけ。
- 横軸の値 $\dfrac1T$ に傾き $-\mathrm{A}$ をかけ、切片 $\mathrm{B}$ を足す(ウ)。
【問7の方針】
アレニウスの式は、とりあえず対数を取る。2つの温度の式を辺々引けば切片 $\mathrm{B}$ が消え、比の対数は「 $\mathrm{A}$ ×温度の逆数の差」になる(下の図)。最後は自然対数を常用対数に直す。


- 606 K と626 K で問6 の式を立てて辺々引き、 $\log_e\dfrac{k_2}{k_1}$ を $\mathrm{A}$ と温度の逆数の差で表して計算する。
- $\log_{10}x=\log_ex\times\log_{10}e$ で常用対数に直す。
- $\dfrac{k_2}{k_1}=10^{0.50}=\sqrt{10}=\sqrt2\times\sqrt5$ として計算し、小数点第2位を四捨五入する(エ)。
解答


解答をテキストで読む
問1
分子の質量は分子量 $M$ に比例するので、運動エネルギーは $Mv^2$ に比例する。これが絶対温度 $T$ に比例するので
$$Mv^2\propto T\qquad\text{よって}\qquad v\propto\sqrt{\dfrac{T}{M}}$$
答(ア) $\sqrt{\dfrac{T}{M}}$(3点)
問2
同じ気体なので $M$ は変わらない。 $v\propto\sqrt T$ より、606 K から626 K にしたときの速さの比は
$$\dfrac{v_{626}}{v_{606}}=\sqrt{\dfrac{626}{606}}=1.016$$
有効数字2桁では1.0倍。20 K 上げても、分子の平均の速さは1.6 % ほどしか大きくならない。
答(イ) 1.0(3点)
問3
分布の面積は全分子の割合なので、温度によらず同じである。温度を $T_1$ から $T_2$ に上げると運動エネルギーの大きい分子が増えるので、山は右へずれ、すそが右へ長く伸びる。面積が同じまま横に広がるので、山は低くなる(下の図)。
(a)は $T_2$ の山が左にあり逆、(b)は形を変えずに右へずらしただけ、(c)は $T_2$ の山が高く面積が増えている、(e)は面積が増えている。山が右へずれて低く広がっているのは(d)。
答 (d)(3点)
問4
$S=\dfrac{1}{e^f}$ は、 $f$ が大きいほど小さく、 $f$ が小さいほど大きい。
問3 の図から、温度が高いほど $E_\mathrm{a}$ 以上の面積 $S$ は大きい。よって $f$ は $T$ が大きいほど小さくなる。また、同じ温度で活性化エネルギーを大きくすると、その右側の面積 $S$ は小さくなる(下の図)。よって $f$ は $E_\mathrm{a}$ が大きいほど大きくなる。
(ア)(イ)(ウ)はどれも $T$ が大きいほど $f$ が大きくなるので、温度が高いほど $S$ が小さくなってしまう。両方の向きに合うのは $f=C\times\dfrac{E_\mathrm{a}}{T}$ だけである。
答 (エ)(4点)
問5
問4 の判断に使った2つの向きを35字以内で答える。
答 $S$ は温度が高いほど大きく、活性化エネルギーが大きいほど小さいから。(4点)
問6
横軸が $\dfrac1T$ 、縦軸が $\log_ek$ の直線で、傾きが $-\mathrm{A}$ 、縦軸切片が $\mathrm{B}$ なので
$$\log_ek=-\mathrm{A}\times\dfrac1T+\mathrm{B}$$
これは、アレニウスの式 $k=\text{(比例定数)}\times e^{-E_\mathrm{a}/RT}$ の両辺の自然対数を取った形で、傾きの大きさ $\mathrm{A}$ が $\dfrac{E_\mathrm{a}}{R}$ に当たる。
なお、問題文では $\mathrm{B}<0$ とされているが、図の直線を $\dfrac1T=0$ まで延ばすと、縦軸と約 $+24.5$ で交わる(下の図)。問題の図の左端は $\dfrac1T=0$ ではなく約 $0.0014$ の位置なので、図の左端で直線が交わる値(約 $-5.5$ )は切片ではない。答えの式は $\mathrm{B}$ の正負によらず同じである。
答(ウ) $-\dfrac{\mathrm{A}}{T}+\mathrm{B}$(3点)
問7
アレニウスの式は、とりあえず対数を取る。問6 の式を606 K と626 K で立てる。
$$\log_ek_1=-\dfrac{\mathrm{A}}{606}+\mathrm{B},\qquad\log_ek_2=-\dfrac{\mathrm{A}}{626}+\mathrm{B}$$
活性化エネルギーは温度を変えても変わらないので、 $\mathrm{A}$ と $\mathrm{B}$ はどちらの温度でも同じ。辺々引いて $\mathrm{B}$ を消すと(下の図)
$$\log_e\dfrac{k_2}{k_1}=\mathrm{A}\left(\dfrac{1}{606}-\dfrac{1}{626}\right)=\dfrac{21890\times20}{606\times626}=1.154$$
与えられているのは $\log_{10}e$ なので、常用対数に直す。
$$\log_{10}\dfrac{k_2}{k_1}=\log_e\dfrac{k_2}{k_1}\times\log_{10}e=1.154\times0.4343=0.501\fallingdotseq0.50$$
よって
$$\dfrac{k_2}{k_1}=10^{0.50}=\sqrt{10}=\sqrt2\times\sqrt5=1.414\times2.236=3.16$$
小数点第2位を四捨五入して3.2倍。問2 では20 K 上げても分子の速さは1.0倍のままだったのに、速度定数は約3倍になる。温度を上げると反応が速くなるのは、衝突の勢いが増すからではなく、活性化エネルギーをこえる分子の割合が大きく増えるからである。
答(エ) 3.2(5点)
出題意図
問1・問2 「運動エネルギーは絶対温度に比例する」という文を式にして、温度を少し上げても分子の速さはほとんど変わらないことを捉えることができるか
問3 温度を上げると運動エネルギー分布の山が低く右へ広がり、全体の面積は変わらないことが理解できているか
問4・問5 活性化エネルギー以上の面積 $S$ が温度と活性化エネルギーでどう変わるかから、 $S=\dfrac{1}{e^f}$ の $f$ の形を読み取ることができるか
問6・問7 $\log_ek$ と $\dfrac1T$ の直線の式(アレニウスの式)を立て、2つの温度の速度定数の比を自然対数から求めることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 15点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
前半は「運動エネルギーは絶対温度に比例」「分布の面積は変わらない」という基本を式と図にするだけで、ここは必ず解き切りたい。
後半はアレニウスの式で、「とりあえず対数を取る→2つの温度で辺々引く→自然対数に注意」という流れを白紙で再現できれば最後まで取れる。
20 K 上げても分子の速さは1.0倍なのに、速度定数は約3倍になる。
この対比が「温度で反応が速くなるのは、活性化エネルギーをこえる分子が増えるから」の答えそのものだ。
差がつく所・失点しやすい所
- 問7:2つの温度の式を辺々引いて $\mathrm{B}$ を消し、自然対数を常用対数に直して $10^{0.50}=\sqrt{10}$ に行き着けるか。アレニウスの式の計算は練習していない受験生が多く、さらに $\log_{10}e$ で直す一手間と $\sqrt{10}$ への落とし込みがあるので、ここで止まりやすく、この5点で差がつく。
- 問4・問5:$S=\dfrac{1}{e^f}$ を「 $f$ が小さいほど $S$ が大きい」と読み、分布図の温度の向きから $f$ の形を決めるという発想に行き着けるか。指数の式を見ただけで読まずに飛ばすと、問4・問5 の8点がまとめて落ちる。
2008年九州大学化学
第5問 解答・解説
第5問は有機化学の問題です。
テーマは『エステルの構造決定』『フタル酸と無水フタル酸』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。
ベンゼンの不飽和結合は、エチレン(エテン)やプロピレン(プロペン)などの不飽和結合とは異なる反応性を示す。エチレンやプロピレンを臭素水に加えると臭素水の褐色が脱色されるのは、不飽和結合への $\boxed{\text{ ア }}$ 反応が起こるためである。同じ条件では、ベンゼンは臭素水の褐色を脱色しないことから、ベンゼン中の不飽和結合への臭素や水などの $\boxed{\text{ ア }}$ 反応は起こりにくいことがわかる。一方、ベンゼンに濃硫酸を加えて加熱する方法でベンゼンに $\boxed{\text{ イ }}$ 基を導入することができる。このような方法でベンゼンに $\boxed{\text{ イ }}$ 基やニトロ基を導入する反応は $\boxed{\text{ ウ }}$ 反応とよばれ、同じ条件ではアルケン類では起こりにくい。
分子中にベンゼン環を一つもつ化合物Aがある。その成分元素の質量百分率は、炭素が64.9 %、水素が6.3 %、酸素が28.8 %であった。Aを水酸化ナトリウム水溶液に加えて穏やかに加熱すると、Aは徐々に溶けていき均一の水溶液になった。この反応で、2種類の化合物BとCのみがB:C=2:1のモル比で生成した。その水溶液を蒸留して沸点100 ℃以下のBを得た。Bの水溶液にヨウ素のヨウ化カリウム水溶液を加えて温め、これに水酸化ナトリウム水溶液を加えてよく振り混ぜたのち、冷水で冷却すると黄色沈殿Dが生じた。一方、Cの水溶液に強酸を加えて酸性にすると白色沈殿Eが生じた。化合物Eの分子量を測定すると166であった。Eを加熱すると水蒸気が発生して化合物Fが生成した。Fは水と反応してEにもどることがわかった。化合物A〜Fがベンゼン環に直接結合したヒドロキシ基をもたないことは、$\boxed{\text{ エ }}$ 水溶液を加えても特有の紫色を示さないことで確かめられた。
問1. 文中の $\boxed{\text{ ア }}$ 〜 $\boxed{\text{ エ }}$ に適切な語句を記せ。
問2. 化合物Aの組成式を記せ。
問3. 沈殿Dの化学式を記せ。
問4. 化合物Fの構造式を次の例にならって記せ。
(例)
問5. 酸化されて化合物Eを生成する芳香族炭化水素の一つを、上の例にならって構造式で記せ。
解答の方針
【問1の方針】
ベンゼンの環は安定なので、二重結合をこわす付加は起こりにくく、H をほかの原子団に置きかえる置換が起こる。ベンゼン環に直接付いた OH は、塩化鉄(Ⅲ)水溶液の紫色で見分ける。
- 臭素水の褐色が消えるのは不飽和結合への付加反応(ア)と答える。
- 濃硫酸で加熱して導入される基をスルホ基(イ)、スルホ基やニトロ基を導入する反応を置換反応(ウ)と答える。
- ベンゼン環に直接付いた OH があると特有の紫色を示す試薬を塩化鉄(Ⅲ)(エ)と答える。
【問2の方針】
質量百分率をそれぞれの原子量で割れば、原子の数の比になる。
- C・H・O の質量百分率を原子量で割り、いちばん小さい O を1とした比に直す。
- 比を整数にそろえて組成式を書く。
【問3の方針】
ヨウ素と水酸化ナトリウムで黄色の沈殿ができるのはヨードホルム反応で、沈殿は $\ce{CHI3}$ 。B はけん化で出てくるアルコールで、沸点100 ℃以下でヨードホルム反応を示す(下の図)。


- 「ヨウ素」「水酸化ナトリウム」「黄色沈殿」から、B→D をヨードホルム反応と決める。
- D をヨードホルム $\ce{CHI3}$ と答える。
【問4の方針】
加熱で水が取れて、水と反応すると元にもどるのは、2つのカルボキシ基が隣り合うオルトのジカルボン酸と、その酸無水物の関係(下の図)。分子量166はフタル酸 $\ce{C6H4(COOH)2}$ と一致する。


- C は水酸化ナトリウム水溶液の中のナトリウム塩で、強酸を加えると遊離して白色沈殿 E になると読む。
- E の分子量166と「加熱で水が取れ、水で戻る」から、E をフタル酸と決める。
- E の2つのカルボキシ基から水が1分子取れた五員環の無水フタル酸を、F として例にならって書く。
- けん化で B:C=2:1 なので A はフタル酸のジエステルと読み、組成式 $\ce{C6H7O2}$ の2倍の $\ce{C12H14O4}$ からエステルの部分がエチル基2つと確かめる。
【問5の方針】
過マンガン酸カリウムで酸化すると、ベンゼン環に付いた炭素の側鎖は長さによらずカルボキシ基になる。E がフタル酸なので、オルトの位置に炭素の側鎖を2つもつ炭化水素を選べばよい(下の図)。


- フタル酸の2つの $\ce{COOH}$ を、酸化される前の炭素の側鎖にもどす。
- いちばん簡単な側鎖のメチル基2つを選び、o-キシレンを例にならって書く。
解答


解答をテキストで読む
問1
エチレンやプロピレンの二重結合には臭素が付加し、臭素水の褐色が消える。ベンゼンの環は安定なので、同じ条件では臭素も水も付加しない。
答(ア) 付加(1点)
ベンゼンに濃硫酸を加えて加熱すると、H がスルホ基 $\ce{-SO3H}$ に置きかわったベンゼンスルホン酸ができる(スルホン化)。
答(イ) スルホ(スルホン酸)(1点)
スルホ基やニトロ基 $\ce{-NO2}$ の導入は、ベンゼン環の H がほかの原子団に置きかわる反応。
答(ウ) 置換(1点)
ベンゼン環に直接付いた OH をもつフェノール類は、塩化鉄(Ⅲ)水溶液で青紫〜赤紫色を示す。A〜F はどれも呈色しないので、フェノール類ではない。
答(エ) 塩化鉄(Ⅲ)(1点)
問2
原子の数の比は、質量百分率をそれぞれの原子量で割って
$$\mathrm{C}:\mathrm{H}:\mathrm{O}=\dfrac{64.9}{12.0}:\dfrac{6.3}{1.0}:\dfrac{28.8}{16.0}$$
$$=5.41:6.3:1.80=3.0:3.5:1=6:7:2$$
答 $\ce{C6H7O2}$(3点)
問3
A を水酸化ナトリウム水溶液で加熱すると、B と C だけができて均一な水溶液になる。これはエステルのけん化で、蒸留で出てくる沸点100 ℃以下の B はアルコール。
B にヨウ素と水酸化ナトリウムを加えて黄色の沈殿ができるのはヨードホルム反応で、B は $\ce{CH3-CH(OH)-{}}$ の形をもつ(問4 で B はエタノールと決まる)。黄色の沈殿 D はヨードホルム(下の図)。
答 $\ce{CHI3}$(ヨードホルム)(3点)
問4
C は水酸化ナトリウム水溶液の中ではナトリウム塩として溶けていて、強酸を加えると水に溶けにくいカルボン酸が遊離して、白色沈殿 E になる。
E は加熱すると水が取れて F になり、F は水と反応して E にもどる。加熱だけで分子内から水が取れるのは、2つのカルボキシ基がオルトの位置にあるときだけで、メタのイソフタル酸・パラのテレフタル酸では取れない(下の図)。
オルトのジカルボン酸のフタル酸 $\ce{C6H4(COOH)2}$ の分子量は
$$12.0\times8+1.0\times6+16.0\times4=166$$
で、E の分子量166と一致する。よって E はフタル酸で、F は2つのカルボキシ基から水が1分子取れて五員環になった無水フタル酸(下の図)。
A はベンゼン環を1つもち、けん化で B(アルコール)と C(フタル酸の塩)が2:1でできるので、フタル酸の2つのカルボキシ基が両方ともエステルになったジエステル。組成式 $\ce{C6H7O2}$ を2倍すると $\ce{C12H14O4}$ (分子量222)で、フタル酸の部分 $\ce{C6H4(CO-O-{})2}$ ( $\ce{C8H4O4}$ )を除いた残りは $\ce{C4H10}$ 。同じ B が2つなので、エステルの部分はエチル基 $\ce{C2H5}$ が2つで、B はエタノール(沸点78 ℃、ヨードホルム反応を示す)。A はフタル酸ジエチル(下の図)。
答 $\mathbf{F}=$ 無水フタル酸 $\ce{C6H4(CO)2O}$ (構造式は上の図)(5点)
問5
過マンガン酸カリウムで酸化すると、ベンゼン環に付いた炭素の側鎖はカルボキシ基になる。E(フタル酸)をつくるには、オルトの位置に炭素の側鎖を2つもてばよく、いちばん簡単なのはメチル基2つの o-キシレン(下の図)。
「一つ」答えればよいので、o-エチルトルエンのように側鎖の長いものでもよい。パラの p-キシレンからはテレフタル酸ができるので誤り。
答 o-キシレン $\ce{C6H4(CH3)2}$ (構造式は上の図)(5点)
出題意図
問1 ベンゼンが付加より置換を起こしやすいことと、フェノール類の検出法を答えられるか
問2 元素分析の質量百分率から組成式を求められるか
問3 ヨードホルム反応の生成物を答えられるか
問4 分子量と加熱での脱水から、オルトのジカルボン酸とその酸無水物を決められるか
問5 ベンゼン環の側鎖の酸化から、E をつくる芳香族炭化水素を逆にたどれるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 10分 | 10分 |
フタル酸と無水フタル酸、ヨードホルム反応という教科書の知識だけで決まる、九大の有機としてオーソドックスな構造決定だ。
「加熱で水が取れて、水で戻る」と読んだ瞬間にオルトのジカルボン酸が浮かべば、あとは書くだけになる。
こうした典型の反応は構造式まで白紙に再現できるようにして、短い時間で満点を取り切ろう。
差がつく所・失点しやすい所
- 差がつくとしたら 問4 で、「分子量166」と「加熱で水が取れ、水で戻る」を、オルトのフタル酸と無水フタル酸の関係に結びつけるという発想に行き着けるか。ここで決まれば問5 もすぐに書ける。
2008年九州大学化学
第6問 解答・解説
第6問は高分子化合物(糖類)・有機化学の問題です。
テーマは〔6A〕『合成高分子』『共重合体の計算』/〔6B〕『セルロースと発酵』『ポリ乳酸』。
問題


問題文をテキストで読む
(選択問題)〔6A〕または〔6B〕のいずれか一つを選択し、解答せよ。
〔6A〕 次の文章(1)〜(6)を読み、問1〜問5に答えよ。
(1) PETボトル本体の材質はポリエチレンテレフタラートである。また、フタはポリプロピレン(a)、ラベルはポリスチレン(b)から主につくられる。分別回収されたPETボトルは、洗浄粉砕後、乾燥溶融などをへて、繊維や容器などの原料として再利用される。またポリエチレンテレフタラートを加水分解することにより、単量体にまで分解し、再利用することも試みられている。
(2) 6-ナイロンは化合物Aの $\boxed{\text{ ア }}$ 重合により得られる。6-ナイロンを高温に加熱すると、Aを含む平衡状態になる。この状態で、Aを反応系外へと取り出すと、単量体であるAが連続的に再生してくる。
(3) ポリ酢酸ビニル(c)を水酸化ナトリウムで加水分解するとポリビニルアルコール(d)ができる。ポリビニルアルコールを $\boxed{\text{ イ }}$ と反応させるとビニロンが得られる。
(4) 生ゴムは化合物Bが重合した構造をもつもので、$\boxed{\text{ ウ }}$ という操作により、S原子を含む架橋構造を形成することで弾性が大きくなる。また、合成ゴムとして、Bに似た構造をもつ単量体を重合させたものがつくられている。1,3-ブタジエンの重合体や、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体がその例である。
(5) スチレンと $p$-ジビニルベンゼンとの共重合体に、アルキルアンモニウム基を多数導入した樹脂は、$\boxed{\text{ エ }}$ イオン交換樹脂として利用される。
(6) 次の図は、化合物Cと $\boxed{\text{ イ }}$ とを重合させて得られる樹脂の構造式の一部である。立体網目構造を有するこの樹脂は、熱 $\boxed{\text{ オ }}$ 性樹脂の一つである。
問1. 文中の $\boxed{\text{ ア }}$ 〜 $\boxed{\text{ オ }}$ に適切な語句を記せ。ただし $\boxed{\text{ イ }}$ には化合物名を入れよ。
問2. 化合物A、B、Cの構造式を以下の例にならって記せ。
(例)
問3. 下線部(a)〜(d)の合成高分子のなかで最も水溶性が高いものはどれか、記号で答えよ。
問4. 分子量が $4.80\times10^4$ のポリエチレンテレフタラート1.20 gを、単量体にまで加水分解するのに必要な水は理論上何gか。有効数字3桁で答えよ。
問5. 1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体10.6 mgを完全燃焼させたところ、二酸化炭素が35.2 mg、水が9.00 mg生成した。この共重合体5.30 gに臭素を十分に反応させると理論上何gの臭素が反応するか。有効数字3桁で答えよ。ただし臭素はベンゼン環とは反応しないこととする。
〔6B〕 次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。
衣料に用いられる木綿は、綿花から得られる繊維であり、その主成分は、$\boxed{\text{ ア }}$ である。$\boxed{\text{ ア }}$ は植物の細胞壁の主成分であり、木材からはパルプとして得られるが、そのままでは衣料に適さない。そこで無水酢酸と反応させ部分的にアセチル化して、$\boxed{\text{ イ }}$ にする。一方、$\boxed{\text{ ア }}$ を適当な試薬を含む溶液にして、再び長繊維としてとりだしたのが $\boxed{\text{ ウ }}$ とよばれる。
$\boxed{\text{ ア }}$ は、グルコースが $\boxed{\text{ エ }}$ 重合した高分子であり、繊維にもちいられるばかりでなく、酵素や酸で加水分解したのち(a)、アルコール発酵によってエタノールへ変換できる。一方、乳酸発酵では、グルコースから乳酸がつくられる。
アルコール発酵と乳酸発酵のいずれにおいても、1分子のグルコースは、解糖系とよばれる代謝経路をへて、2分子のピルビン酸に変換される。酵母菌は、ピルビン酸1分子を酸素のいらない嫌気呼吸により、1分子のエタノールと1分子の $\boxed{\text{ オ }}$ に分解する(b)。一方、乳酸発酵では、ピルビン酸は還元のみで乳酸を生じる。乳酸を $\boxed{\text{ エ }}$ 重合させたポリマーがポリ乳酸であり(c)、生分解性プラスチック原料として注目されている。乳酸の重合反応において、加熱により、いったん乳酸2分子からなる環状二量体構造の化合物(d)が得られ、続いてスズ触媒によって、それが開環すると同時に重合してポリマーになる。
問1. 文中の $\boxed{\text{ ア }}$ 〜 $\boxed{\text{ オ }}$ に適切な語句を記せ。
問2. 下線部(a)について、次の問いに答えよ。
80 gの(ア)をすべて加水分解したのち、さらに酵母菌により発酵させると、何gのエタノールができるか。有効数字2桁で答えよ。
問3. 下線部(b)について次の問いに答えよ。
(1) 下線部(b)の説明から推定してピルビン酸の構造式を示せ。
(2) アルコール発酵の際に、ピルビン酸からエタノールに至る中間体の構造式とその名称を答えよ。
問4. 下線部(c)について、次の問いに答えよ。
80 gの(ア)をすべて加水分解したのち、さらに乳酸菌により発酵させた。この乳酸菌は発酵効率が47 %であり、得られた乳酸がすべて重合して、$1.0\times10^{-2}$ molのポリ乳酸が得られた。このポリ乳酸の重合度を求めよ。なお、解答は、小数第一位を四捨五入して整数で答えよ。
問5. 下線部(d)の乳酸2分子から得られる化合物の構造式を以下の例にならって記せ。
(例)
解答の方針
〔6A〕合成高分子(選択問題)
【問1の方針】
合成高分子は「単量体」「重合の種類」「性質・用途」を組で覚えておく。空欄の前後の「6-ナイロン」「ビニロン」「架橋構造」「アルキルアンモニウム基」「立体網目構造」が、それぞれの組を指している。
- ア 6-ナイロンが環状の単量体からどの重合でできるかを書く。
- イ ポリビニルアルコールをアセタール化してビニロンにする化合物を書く((6) の樹脂の単量体の1つでもある)。
- ウ 硫黄を加えて架橋し、ゴムの弾性を大きくする操作の名前を書く。
- エ アンモニウム基(陽イオン)が交換するイオンの符号を書く。
- オ 立体網目構造の樹脂が熱でどうなるかを書く。
【問2の方針】
A は6-ナイロンを加熱すると戻ってくる単量体=環状のアミド。C は (6) の樹脂の図で、環と N をつなぐ $\ce{CH2}$ がホルムアルデヒドから来た部分なので、そこを外して N に H を戻せば単量体になる(下の図)。


- A 6-ナイロンの繰り返し単位 $\ce{-NH-(CH2)5-CO-{}}$ の両端の N と C をつないだ七員環を書く。
- B 天然ゴム(ポリイソプレン)の単量体のイソプレンを書く。
- C 樹脂の図から $\ce{CH2}$ を外し、3つの N をすべて $\ce{-NH2}$ にしたメラミンを書く。
【問3の方針】
水に溶けやすいかどうかは、側鎖が水と水素結合をつくれるかで決まる。4つの高分子のうち、親水基の $\ce{-OH}$ を単位ごとにもつものが最も溶けやすい。
- (a)〜(d) の繰り返し単位の側鎖を書き出し、 $\ce{-OH}$ を多数もつものを選ぶ。
【問4の方針】
PET の繰り返し単位にはエステル結合が2つあり、1単位を単量体まで加水分解するのに水が2分子いる。繰り返し単位の物質量を基準にすれば、水の量はすぐに決まる(下の図)。


- 繰り返し単位 $\ce{C10H8O4}$ の式量を求め、1.20 g が何 mol の単位かを求める。
- 必要な水はその2倍の物質量なので、質量にする。
【問5の方針】
完全燃焼で生じた $\ce{CO2}$ と $\ce{H2O}$ から C と H の物質量の比を求めれば、ブタジエンとスチレンの単位の数の比が決まる。臭素が付加するのは、ブタジエンの単位に残る二重結合だけ(下の図)。


- $\ce{CO2}$ と $\ce{H2O}$ の質量から、C と H の物質量の比を求める。
- ブタジエンの単位 $\ce{C4H6}$ を $x$ 個、スチレンの単位 $\ce{C8H8}$ を $y$ 個として、C と H の比の式から $x:y$ を求める。
- その比の組の式量を求め、5.30 g が何 mol の組かを求める。
- 組1つあたりの二重結合の数から、付加する $\ce{Br2}$ の物質量を求め、質量にする。
〔6B〕セルロースと発酵(選択問題)
【問1の方針】
セルロースの繊維は、「溶かして繊維に戻す=再生繊維(レーヨン)」と「$\ce{-OH}$ の一部をアセチル化する=半合成繊維(アセテート)」で区別する。アルコール発酵では、グルコースがエタノールと二酸化炭素になる。
- ア 木綿・細胞壁の主成分を書く。
- イ・ウ アセチル化したもの、溶かして繊維に戻したものの名前をそれぞれ書く。
- エ グルコースや乳酸から水が取れてつながる重合の名前を書く。
- オ 酵母がピルビン酸からエタノールと一緒にできる物質を書く。
【問2の方針】
セルロースの単位 $\ce{C6H10O5}$ 1つからグルコース1分子ができ、グルコース1分子からエタノール2分子ができる(下の図)。


- セルロースの単位の式量で 80 g を割り、グルコースの物質量を求める。
- エタノールはグルコースの2倍の物質量なので、質量にする。
【問3の方針】
ピルビン酸は説明から構造が決まる。エタノールと $\ce{CO2}$ に分かれるので炭素は3つで、 $\ce{CO2}$ はカルボキシ基から取れる。還元だけで乳酸になるので、乳酸より H が2つ少ない形(下の図)。


- (1) 乳酸 $\ce{CH3-CH(OH)-COOH}$ から H を2つ取り、 $\ce{CH(OH)}$ を $\ce{C=O}$ にした形を書く。
- (2) ピルビン酸のカルボキシ基から $\ce{CO2}$ を取った形を書き、それが還元されるとエタノールになることを確かめる。
【問4の方針】
グルコース1分子から乳酸2分子ができる。ポリ乳酸の重合度は、乳酸の物質量をポリ乳酸の物質量で割れば求まる。
- グルコースの物質量は問2 と同じ。乳酸はその2倍に発酵効率0.47を掛けた量。
- 乳酸の物質量をポリ乳酸の物質量で割って重合度にする。
【問5の方針】
乳酸は1分子に $\ce{-COOH}$ と $\ce{-OH}$ を1つずつもつ。2分子が互いの $\ce{-COOH}$ と $\ce{-OH}$ でエステル結合を2つつくると、水2分子が取れて六員環になる(下の図)。


- 乳酸2分子を向かい合わせに置き、一方の $\ce{-COOH}$ と他方の $\ce{-OH}$ をエステル結合でつなぐことを2か所で行う。
- できた六員環を、冊子の例の形で書く。
解答




解答をテキストで読む
〔6A〕
問1
(2) 6-ナイロンは、環状のアミドである $\varepsilon$-カプロラクタムの環が開いてつながる開環重合でできる。水は取れない。
(3) ポリビニルアルコールは $\ce{-OH}$ が多く水に溶けるので、ホルムアルデヒド $\ce{HCHO}$ で $\ce{-OH}$ の一部をアセタール化してビニロンにする。
(4) 生ゴムに硫黄を数%加えて加熱すると、分子どうしが S 原子で架橋されて弾性が大きくなる。この操作が加硫。
(5) アルキルアンモニウム基 $\ce{-N+(CH3)3}$ は正の電荷をもち、 $\ce{OH-}$ などの陰イオンを交換する。母体はスチレンと $p$-ジビニルベンゼンの共重合体で、立体網目構造をもつ。
(6) 単量体に反応できる所が3か所以上あると立体網目構造になり、加熱しても軟らかくならずに硬くなる熱硬化性樹脂になる。図の樹脂はメラミン樹脂。
答(ア) 開環(1点)
答(イ) ホルムアルデヒド(1点)
答(ウ) 加硫(1点)
答(エ) 陰(1点)
答(オ) 硬化(1点)
問2
A は、6-ナイロンの繰り返し単位 $\ce{-NH-(CH2)5-CO-{}}$ の両端がアミド結合でつながった七員環の $\varepsilon$-カプロラクタム(下の図)。
答(A) $\varepsilon$-カプロラクタム(上の図)(2点)
B は、天然ゴム(シス形のポリイソプレン)の単量体のイソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)。
答(B) イソプレン $\ce{CH2=C(CH3)-CH=CH2}$(上の図)(2点)
C は、(6) の樹脂の図から読む。環と N をつなぐ $\ce{CH2}$ は、ホルムアルデヒドがアミノ基の H と反応して入った部分。これを外して N に H を戻すと、3つの C にそれぞれ $\ce{-NH2}$ が付いた六員環(C と N が交互)になる(下の図)。
答(C) メラミン(上の図)(2点)
問3
(a)〜(d) の繰り返し単位の側鎖は、次のとおり(下の図)。
ポリプロピレン($\ce{-CH3}$)・ポリスチレン(ベンゼン環)は疎水性で水に溶けない。ポリ酢酸ビニル($\ce{-OCOCH3}$)も水に溶けない。ポリビニルアルコールは単位ごとに $\ce{-OH}$ をもち、水と水素結合をつくるので水によく溶ける。そのままでは繊維に向かないので、(3) でアセタール化してビニロンにしている。
答 (d)(2点)
問4
PET の繰り返し単位は $\ce{-O-CH2-CH2-O-CO-C6H4-CO-{}}$ で、式量は $\ce{C10H8O4}=192$。1単位にエステル結合が2つあるので、1単位を加水分解するのに水が2分子いる。
$$\ce{C10H8O4 + 2H2O -> C6H4(COOH)2 + C2H4(OH)2}$$
1.20 g の PET に含まれる繰り返し単位の物質量は
$$\dfrac{1.20}{192}=6.25\times10^{-3}\ \mathrm{mol}$$
必要な水は
$$6.25\times10^{-3}\times2\times18.0=0.225\ \mathrm{g}$$
分子量 $4.80\times10^4$ は重合度が250になる値で、鎖の両端の違いは有効数字3桁の答えに影響しない。
答 0.225 g(3点)
問5
燃焼で生じた C と H の物質量は
$$\ce{C}\ :\ \dfrac{35.2}{44.0}=0.800\ \mathrm{mmol}\qquad \ce{H}\ :\ \dfrac{9.00}{18.0}\times2=1.00\ \mathrm{mmol}$$
ブタジエンの単位 $\ce{-CH2-CH=CH-CH2-{}}$($\ce{C4H6}$)を $x$ 個、スチレンの単位 $\ce{-CH2-CH(C6H5)-{}}$($\ce{C8H8}$)を $y$ 個とすると
$$(4x+8y):(6x+8y)=0.800:1.00=4:5\qquad\therefore\ x:y=2:1$$
ブタジエン2単位とスチレン1単位の組は $\ce{C16H20}$ で、式量は212。5.30 g の共重合体に含まれる組の物質量は
$$\dfrac{5.30}{212}=2.50\times10^{-2}\ \mathrm{mol}$$
二重結合はブタジエンの単位に1つずつ残っていて、組1つあたり2つ。ベンゼン環には付加しないので、付加する $\ce{Br2}$ は
$$2.50\times10^{-2}\times2\times159.8\fallingdotseq7.99\ \mathrm{g}$$
答 7.99 g(4点)
〔6B〕
問1
木綿・植物の細胞壁の主成分はセルロース。セルロースの $\ce{-OH}$ の一部を無水酢酸でアセチル化したものがアセチルセルロースで、その繊維がアセテート(半合成繊維)。セルロースをシュワイツァー試薬や水酸化ナトリウムと二硫化炭素などで溶かし、再び繊維として取り出したものがレーヨン(再生繊維)。
グルコースは、 $\ce{-OH}$ どうしから水が取れてつながる縮合重合でセルロースになる。乳酸も $\ce{-COOH}$ と $\ce{-OH}$ から水が取れる縮合重合でポリ乳酸になる。
酵母はピルビン酸をエタノールと二酸化炭素にする(アルコール発酵の全体は $\ce{C6H12O6 -> 2C2H5OH + 2CO2}$)。
答(ア) セルロース(1点)
答(イ) アセテート(アセチルセルロース)(1点)
答(ウ) レーヨン(再生繊維)(1点)
答(エ) 縮合(1点)
答(オ) 二酸化炭素(1点)
問2
セルロース $\ce{(C6H10O5)_{n}}$ の単位の式量は162。単位1つからグルコース1分子ができるので、80 g のセルロースから得られるグルコースは
$$\dfrac{80}{162}=0.494\ \mathrm{mol}$$
$\ce{C6H12O6 -> 2C2H5OH + 2CO2}$ より、エタノールはその2倍できるので
$$0.494\times2\times46.0\fallingdotseq45.4\ \mathrm{g}$$
答 45 g(3点)
問3
酵母の説明から、ピルビン酸1分子はエタノール(炭素2つ)と $\ce{CO2}$(炭素1つ)になるので、炭素は3つ。 $\ce{CO2}$ はカルボキシ基から取れる。また、ピルビン酸は還元(H が付く)だけで乳酸 $\ce{CH3-CH(OH)-COOH}$ になるので、骨格は乳酸と同じで、H が2つ少ない。乳酸の $\ce{CH(OH)}$ から H を2つ取ると $\ce{C=O}$ になるので、ピルビン酸は $\ce{CH3-CO-COOH}$($\ce{C3H4O3}$)(下の図)。
答((1)) $\ce{CH3-CO-COOH}$(上の図)(2点)
ピルビン酸のカルボキシ基から $\ce{CO2}$ が取れる(脱炭酸)と、 $\ce{CH3-CHO}$ のアセトアルデヒドになる。これが還元されるとエタノールになる。
$$\ce{CH3COCOOH -> CH3CHO + CO2}\qquad \ce{CH3CHO + 2H -> C2H5OH}$$
答((2) 構造式) $\ce{CH3-CHO}$(上の図)(2点)
答((2) 名称) アセトアルデヒド(1点)
問4
問2 と同じく、グルコースは0.494 mol。グルコース1分子から乳酸 $\ce{CH3CH(OH)COOH}$ が2分子できるが、発酵効率が47 %なので、得られる乳酸は
$$0.494\times2\times0.47\fallingdotseq0.464\ \mathrm{mol}$$
乳酸がすべて重合して $1.0\times10^{-2}$ mol のポリ乳酸になったので、1分子あたりの乳酸の数(重合度)は
$$\dfrac{0.464}{1.0\times10^{-2}}=46.4$$
答 46(3点)
問5
乳酸2分子が、互いの $\ce{-COOH}$ と $\ce{-OH}$ でエステル結合を2つつくり、水2分子が取れると、O を2つ含む六員環のラクチド($\ce{C6H8O4}$)になる(下の図)。
答 ラクチド(上の図)(4点)
出題意図
問1・問3(〔6A〕) 合成高分子を「単量体」「重合の種類」「性質」の組で正しく言えるか
問2(〔6A〕) ナイロン6・天然ゴム・メラミン樹脂の単量体を、冊子の例の形で構造式に書けるか
問4・問5(〔6A〕) 繰り返し単位の物質量を基準にして、加水分解に必要な水や付加する臭素の量を求められるか
問1(〔6B〕) セルロースからつくる繊維の名前と、グルコースのつながり方を正しく言えるか
問2・問4(〔6B〕) 加水分解と発酵の物質量の関係をたどり、質量や重合度を求められるか
問3・問5(〔6B〕) 問題文の説明から、ピルビン酸・アセトアルデヒド・ラクチドの構造を推定できるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 10分 | 10分 |
〔6A〕〔6B〕から1つを選ぶ選択問題で、上の表は〔6B〕を選んだときの値。
〔6A〕は標準。
選ぶなら〔6B〕で、セルロース・発酵・ポリ乳酸の知識と軽い計算で20点を取り切れる。
問3 のピルビン酸は見慣れないが、説明文に沿って乳酸から H を2つ取る形を書けば決まる。
〔6A〕は合成高分子の知識に加えて、繰り返し単位を基準にした量的関係と共重合体の組成の計算があり、少し難しい。
差がつく所・失点しやすい所
- 〔6A〕問5:燃焼の結果から C:H の比を求めて共重合の比を2:1と決め、臭素が付加する二重結合を組あたり2つと数えるという発想に行き着けるか。ブタジエンの単位に二重結合を2つ数える・ベンゼン環にも付加させると、4点がそのまま落ちる。
- 〔6B〕問3:ピルビン酸を知らなくても、「エタノールと二酸化炭素に分解」と「還元のみで乳酸」から、乳酸より H が2つ少ない $\ce{CH3-CO-COOH}$ を推定するという発想に行き着けるか。ここで止まると (1)(2) の5点がまとめて落ちる。
- 〔6A〕問4:PET の繰り返し単位にエステル結合が2つあり、水が2分子いると数えられるか。1分子と数えると答えが半分の0.113 g になる。
2008年九州大学・化学の
講評とまとめ
6問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | やや簡単 | 18点 | 18点 |
| 第2問 | やや難 | 15点 | 10点 |
| 第3問 | 標準 | 18点 | 15点 |
| 第4問 | 標準 | 20点 | 15点 |
| 第5問 | やや簡単 | 20点 | 20点 |
| 第6問 | やや簡単 | 20点 | 20点 |
| 全体 | 標準 | 100点 | 75点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で100点、その他の学部で75点)にはなりません。
第6問は〔6A〕〔6B〕から1つを選ぶ選択問題です。
表の第6問は、おすすめの〔6B〕を選んだときの難易度と目標得点です(〔6A〕の難易度は標準です)。
全体的に難易度は標準な年。
大問が6題あるので、1題にかけられる時間が短い年でした。
第1問・第5問・第6問(〔6B〕)は教科書の知識と定番の計算だけで、ここは短い時間で満点を取りたいところです。
この年の合否を分けたのは第2問の水銀柱と燃焼の気体の計算で、状態遷移図を書いて、液体の水と凝縮しない気体を分けて考えられるかが決め手です。
第2問の最後の問4 は難しいので、問1〜問3 を丁寧に取り切りましょう。
第3問はヘンリーの法則と電離平衡を組み合わせた問1、第4問はアレニウスの式の問7 で差がつきます。
第6問は〔6A〕〔6B〕の選択問題で、選ぶなら〔6B〕です。
1つの大問に15分以上かけないことが大事です。
解く流れ
第1問 → 第2問 → 第3問 → 第4問 → 第5問 → 第6問(〔6B〕を選ぶ)。
2008年九州大学・化学に
関するよくある質問
2008年の九州大学・化学について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2008年の九州大学・化学は難しかった?
-
全体的に難易度は標準な年でした。
第2問はやや難、第3問・第4問は標準、第1問・第5問・第6問(〔6B〕)はやや簡単です。
第6問は〔6A〕〔6B〕の選択問題で、〔6A〕は標準です。
大問が6題あり、1題にかけられる時間が短い年でした。 - 2008年の九州大学・化学は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で100点、その他の学部で75点です(125点満点)。
- 2008年の九州大学・化学はどこで差がつく?
-
この年の合否を分けたのは第2問の水銀柱と燃焼の気体の計算で、差がついたのは次の3つでした。
- 第2問 問1:水銀面の上下から燃焼前後の圧力を読み、水蒸気の飽和蒸気圧を引いて、燃焼で減った物質量からメタノールの量を求められたか。
- 第3問 問1 (2):大気と平衡な雨水では二酸化炭素の濃度が一定だと読み、2次方程式を解かずに水素イオン濃度を求められたか。
- 第4問 問7:2つの温度の式を辺々引き、自然対数を常用対数に直して、速度定数の比を求められたか。
- 2008年の九州大学・化学は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:理論化学(化学結合と結晶)
- 第2問:理論化学(物質の三態・気体の法則)
- 第3問:理論化学(電離平衡)・無機化学
- 第4問:理論化学(反応の速さと化学平衡)
- 第5問:有機化学
- 第6問:高分子化合物(糖類)・有機化学




