【解説・配点付き】2017年九州大学化学の解答・解説
2017年の九州大学・化学の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2017年九州大学化学
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は無機化学・理論化学の問題です。
テーマは『アルミニウムと両性元素』『結晶格子』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問7に答えよ。
日本で発見された原子番号113番の新元素の名称案が $\boxed{\text{①}}$ になることが、2016年6月9日に発表された。この元素は、原子番号30番の典型元素である亜鉛と原子番号83番の典型元素であるビスマスを高速で衝突させ、核融合により合成する。 $\boxed{\text{①}}$ は、周期表においてアルミニウムと同じ $\boxed{\text{ア}}$ 族に属する元素である。単体のアルミニウムは、軽くてやわらかい金属で、ボーキサイトを精製してアルミナとよばれる純粋な $\boxed{\text{A}}$ をつくり、さらにこれを融解塩電解して製造される。
アルミニウムの価電子数は $\boxed{\text{イ}}$ 個である。単体のアルミニウムは酸の水溶液にも強塩基の水溶液にも反応して溶ける性質をもち、 $\boxed{\text{②}}$ 元素と呼ばれる(a)。 $\boxed{\text{②}}$ 元素としては他に、亜鉛、スズ、鉛が知られている。常温におけるアルミニウムの結晶格子は $\boxed{\text{③}}$ 格子である。 $\boxed{\text{③}}$ 格子では、配位数は $\boxed{\text{ウ}}$ である。 $\boxed{\text{③}}$ 格子は最密(充填)構造であり、充填率は $\boxed{\text{エ}}$ %である。
問1. 文中の $\boxed{\text{①}}$ 〜 $\boxed{\text{③}}$ にあてはまる適切な語句を答えよ。文中の $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{エ}}$ にあてはまる適切な数値を整数で答えよ。また、文中の $\boxed{\text{A}}$ にあてはまる化学式を答えよ。
問2. 下線部(a)について、アルミニウムが水酸化ナトリウム水溶液に溶ける反応を化学反応式で示せ。
問3. 単体のアルミニウムを濃硝酸に入れると、不動態になる。下記の金属のうち、アルミニウムと同様に不動態になりうる金属を一つ選び元素記号で答えよ。
$\ce{Na}$、 $\ce{Cr}$、 $\ce{Zn}$、 $\ce{Sn}$、 $\ce{Pb}$
問4. ジュラルミンは、アルミニウムに銅、マグネシウム、マンガンの3種類の金属を混合してつくられる合金である。銅、マグネシウム、マンガンの水溶液中でのイオン化傾向を、大きなものから順に元素記号で記せ。
問5. ある金属は $\boxed{\text{③}}$ 格子の結晶で、単位格子の一辺の長さが $a$[cm]、密度は $d$[g/cm³]である。アボガドロ定数を $N_{\mathrm{A}}$[/mol]として、この金属の原子量 $A$ を求める式を示せ。
問6. 亜鉛の各電子殻(K殻、L殻、M殻、N殻)中の電子数を答えよ。
問7. 亜鉛と硫黄を反応させたところ、組成式 $\ce{ZnS}$ で表される硫化亜鉛結晶が生成した。この $\ce{ZnS}$ 結晶の構造は図に示すとおり、陽イオン数と陰イオン数の比が1:1であり、また、 $\ce{Zn^2+}$ と $\ce{S^2-}$ の間の結合距離はすべて同じである。次の(1)、(2)の問に答えよ。
(1) 単位格子中の $\ce{Zn^2+}$ および $\ce{S^2-}$ の数を求めよ。
(2) $\ce{ZnS}$ 結晶の単位格子は一辺の長さが0.54 nm の立方体であるとして、 $\ce{Zn^2+}$ と $\ce{S^2-}$ の結合距離を有効数字2桁で答えよ。なお、 $\sqrt{3}=1.7$ とする。
解答の方針
【問1の方針】
①・アは新元素の問題で、周期表の位置は原子番号から決まる。③〜エは面心立方格子の配位数と充塡率で、1辺と半径の関係は原子が接している面の断面図で決まる(下の図)。


- ①は2016年に名称案が発表された113番元素。原子番号113から周期表の位置を決めてアを答える。
- Aはボーキサイトを精製してできるアルミナの化学式、イは13族の価電子の数を答える。
- ②は酸にも強塩基にも溶ける元素の呼び名、③は最密構造でアルミニウムがとる格子を答える。
- ウは1個の原子に接している原子を数え、エは手前の面の断面図から1辺と半径の関係を求めて、充塡率の定義に入れる。
【問2の方針】
両性元素と塩基の反応式は、いきなり書かず、まず酸との反応式を書いてから $\ce{OH-}$ を足して錯イオンにする。アルミニウムは強塩基の中では $\ce{[Al(OH)4]-}$ として溶け、単体なので水素が出る。
- アルミニウムと酸の反応のイオン反応式( $\ce{2Al + 6H+ -> 2Al^3+ + 3H2}$ )を書く。
- 右辺の $\ce{Al^3+}$ を $\ce{[Al(OH)4]-}$ にするために、両辺に $\ce{OH-}$ を加える。
- 左辺の $\ce{H+}$ と $\ce{OH-}$ を水にまとめ、両辺の水を整理してイオン反応式にする。
- 両辺に $\ce{Na+}$ を加えて化学反応式にする。
【問3の方針】
不動態は、濃硝酸や熱濃硫酸で表面に緻密な酸化被膜ができ、内部が守られて溶けなくなる状態。つくる金属は鉄・ニッケル・アルミニウムの3つで押さえ、ほかにクロム・コバルトもつくる(下の図)。


- 不動態をつくる金属(Fe・Ni・Al、ほかに Cr・Co)を思い出す。
- 5つの金属のうち、その中に入るものを選ぶ。
【問4の方針】
マグネシウムと銅はイオン化列の語呂に入っているが、マンガンは入っていない。マンガンはアルミニウムと亜鉛の間に入ることを押さえておけば、3つの並びはすぐ決まる(下の図)。


- イオン化列でマグネシウムと銅の位置を確かめる。
- マンガンをアルミニウムと亜鉛の間に置く。
- 大きい順に元素記号で並べる。
【問5の方針】
原子量を求める問題だが、やっていることは密度の式。面心立方格子の単位格子には原子が4個分入っている(問1 の図)。密度を「1個あたりの質量×個数÷単位格子の体積」の定義で立て、原子量について解く。


- 面心立方格子の単位格子の中の原子の数を、頂点と面の中心で数える。
- 1個あたりの質量 $\dfrac{A}{N_{\mathrm A}}$ と単位格子の体積 $a^3$ で密度の式を立てる。
- $A$ について解く。
【問6の方針】
電子は内側の電子殻から入り、 $n$ 番目の殻には $2n^2$ 個まで入る。ただし第4周期は、カリウム・カルシウムで先に N殻に入り、スカンジウムから M殻が埋まっていく(下の図)。亜鉛は M殻が18個で満たされた元素。


- 亜鉛の原子番号30から電子の総数を30個とする。
- K殻2個・L殻8個を入れ、第4周期の決まりで N殻に2個入れる。
- 残りを M殻に入れ、M殻が18個で $2n^2$ の上限と合うことを確かめる。
【問7の方針】
$\ce{ZnS}$ 型は、単位格子を8つに分けた小立方体で考える。中心の $\ce{Zn^2+}$ は1つおきの頂点の $\ce{S^2-}$ 4つと同じ距離で接し、結合距離は小立方体の体対角線の半分になる(下の図)。


- (1) は、図の $\ce{S^2-}$ を頂点と面の中心で、 $\ce{Zn^2+}$ を内部で数える。
- (2) は、単位格子を8つに分けた小立方体(1辺 $\dfrac a2$ )を取り出す。
- 小立方体の体対角線の長さを1辺で表し、その半分を結合距離とする。
- $a=0.54$ nm と $\sqrt3=1.7$ を入れ、有効数字2桁で答える。
解答




解答をテキストで読む
問1
①は、2016年に名称案が発表された113番元素のニホニウム(元素記号 Nh)。原子番号118が第7周期の18族(希ガス)なので、113はそこから5つ戻った13族で、アルミニウムの真下の列に入る。
13族の元素は価電子が3個。アルミニウムは K殻2個・L殻8個・M殻3個で、最外殻の3個が価電子になる。
アルミニウムの製法は2段階。まずボーキサイトを濃い水酸化ナトリウム水溶液に溶かし、両性酸化物の酸化アルミニウムだけを溶かし出して不純物の酸化鉄(Ⅲ)をこし取り、水酸化アルミニウムを経て加熱し、純粋な酸化アルミニウム(アルミナ)にする。次に、アルミナを融解した氷晶石に溶かして融解塩電解する。
酸にも強塩基にも溶ける元素を両性元素という。アルミニウム・亜鉛・スズ・鉛の4つで、リード文の「他に、亜鉛、スズ、鉛」と合う。単体・酸化物・水酸化物のどれも、酸とも強塩基とも反応する。
アルミニウムの結晶は、銅・銀・金と同じ面心立方格子。1個の原子に注目すると、同じ層の4個、上の層の4個、下の層の4個の計12個と接している(配位数12)。
面心立方格子は手前の面で切ると、正方形の対角線の上に隅・中心・隅の原子が並んで接し、対角線が半径4つ分になる(下の図)。
$$\sqrt2a=4r$$
単位格子の中の原子は $\dfrac18\times8+\dfrac12\times6=4$ 個なので、充塡率は
$$\dfrac{\dfrac43\pi r^3\times4}{a^3}\times100=\dfrac{\dfrac43\pi\left(\dfrac{\sqrt2}{4}a\right)^3\times4}{a^3}\times100=\dfrac{\sqrt2\pi}{6}\times100\fallingdotseq74$$
答(①) ニホニウム(1点)
答(②) 両性(1点)
答(③) 面心立方(1点)
答(ア) 13(1点)
答(イ) 3(1点)
答(ウ) 12(1点)
答(エ) 74(1点)
答(A) $\ce{Al2O3}$(1点)
問2
両性元素と塩基の反応式は、まず酸との反応のイオン反応式から作る。
$$\ce{2Al + 6H+ -> 2Al^3+ + 3H2}$$
強塩基の中ではアルミニウムは $\ce{[Al(OH)4]-}$ として溶けているので、右辺の $\ce{2Al^3+}$ を $\ce{2[Al(OH)4]-}$ にするために、両辺に $\ce{8OH-}$ を加える。
$$\ce{2Al + 6H+ + 8OH- -> 2[Al(OH)4]- + 3H2}$$
左辺の $\ce{6H+}$ と $\ce{6OH-}$ は中和して $\ce{6H2O}$ になるので、イオン反応式は
$$\ce{2Al + 2OH- + 6H2O -> 2[Al(OH)4]- + 3H2}$$
両辺に $\ce{2Na+}$ を加えると化学反応式になる。生じるのはテトラヒドロキシドアルミン酸ナトリウムで、単体が溶けるので水素が発生する(酸化アルミニウム・水酸化アルミニウムが溶けるときは水素は出ない)。亜鉛も同じ形になる。
$$\ce{Zn + 2NaOH + 2H2O -> Na2[Zn(OH)4] + H2}$$
生成物を古い書き方のアルミン酸ナトリウム $\ce{NaAlO2}$ にして $\ce{2Al + 2NaOH + 2H2O -> 2NaAlO2 + 3H2}$ と書いてもよい。
答 $\ce{2Al + 2NaOH + 6H2O -> 2Na[Al(OH)4] + 3H2}$(3点)
問3
濃硝酸や熱濃硫酸に入れると、鉄・ニッケル・アルミニウムは表面に緻密な酸化被膜ができ、内部が守られて反応が止まる。この状態が不動態。クロムとコバルトも不動態をつくり、クロムは酸化被膜で守られるので、めっきやステンレス鋼に使われる(下の図)。
・$\ce{Cr}$ 不動態になる。選択肢の中で、アルミニウムと同じように濃硝酸で不動態になるのはクロムだけ
・$\ce{Zn}$ ・ $\ce{Sn}$ ・ $\ce{Pb}$ リード文で両性元素として挙がっている金属で、不動態をつくる金属には入らない
・$\ce{Na}$ 水と激しく反応するので、灯油の中で保存する。不動態をつくる金属には入らない
不動態は「金属は Fe・Ni・Al(ほかに Cr・Co)」「酸は濃硝酸・熱濃硫酸」「正体は緻密な酸化被膜」の3点をセットで押さえる。希硝酸では不動態にならない。
答 $\ce{Cr}$(2点)
問4
イオン化列は
$$\ce{Li}>\ce{K}>\ce{Ca}>\ce{Na}>\ce{Mg}>\ce{Al}>\ce{Zn}>\ce{Fe}>\ce{Ni}>\ce{Sn}>\ce{Pb}>(\ce{H2})>\ce{Cu}>\ce{Hg}>\ce{Ag}>\ce{Pt}>\ce{Au}$$
マンガンはこの語呂の列に入っていないが、アルミニウムと亜鉛の間に入る(下の図)。マンガンは希塩酸や希硫酸に水素を出して溶け、鉄よりもイオン化傾向が大きい。マグネシウムはアルミニウムより大きく、銅は水素より小さい。
よって、大きい順にマグネシウム、マンガン、銅。ジュラルミンは、アルミニウムにこの3つを少量ずつ混ぜた軽くて強い合金で、航空機の機体などに使われる。
答 $\ce{Mg}>\ce{Mn}>\ce{Cu}$(3点)
問5
密度は「1個あたりの質量×個数」を単位格子の体積で割ったもの。1個あたりの質量は原子量をアボガドロ定数で割った $\dfrac{A}{N_{\mathrm A}}$ [g]、面心立方格子の単位格子の中の原子は $\dfrac18\times8+\dfrac12\times6=4$ 個、単位格子の体積は $a^3$ [cm³](問1 の図)。
$$d=\dfrac{\dfrac{A}{N_{\mathrm A}}\times4}{a^3}$$
$A$ について解くと
$$A=\dfrac{a^3dN_{\mathrm A}}{4}$$
答 $A=\dfrac{a^3dN_{\mathrm A}}{4}$(3点)
問6
亜鉛は原子番号30なので、電子は30個。内側の殻から、 $n$ 番目の殻に $2n^2$ 個まで入る(K殻2・L殻8・M殻18・N殻32)。
第4周期では、カリウムとカルシウムで M殻が8個のまま先に N殻に入り、スカンジウムから M殻が埋まっていく(下の図)。亜鉛は N殻に2個、残りの $30-2-8-2=18$ 個が M殻に入り、M殻が上限の18個で満たされる。
例外として覚えるのは、カリウム・カルシウム(N殻に先に入る)と、クロム・銅(N殻が1個)の4つだけ。亜鉛は例外ではない。
答 K殻 2、L殻 8、M殻 18、N殻 2(2点)
問7 (1)
個数は位置ごとに「何個分×数」を足す(頂点は8分の1個・面は2分の1個・内部は1個)。図の大きな白い球の $\ce{S^2-}$ は頂点と面の中心、小さな球の $\ce{Zn^2+}$ は内部にある(下の図)。
$$\mathrm{S}^{2-}\quad\dfrac18\times8+\dfrac12\times6=4\qquad\mathrm{Zn}^{2+}\quad1\times4=4$$
答($\ce{Zn^2+}$) 4個(1点)
答($\ce{S^2-}$) 4個(1点)
問7 (2)
単位格子を8つの小立方体に分けると、 $\ce{Zn^2+}$ が入っている小立方体では、中心に $\ce{Zn^2+}$ 、1つおきの頂点4つに $\ce{S^2-}$ があり、残りの頂点4つは空いている。 $\ce{Zn^2+}$ は4つの $\ce{S^2-}$ がつくる正四面体の中心にあり、4つとの距離はすべて等しい(問題文の「結合距離はすべて同じ」)。この小立方体を取り出す(下の図)。
小立方体の1辺は $\dfrac a2$ 。体対角線の上に、頂点の $\ce{S^2-}$ 、中心の $\ce{Zn^2+}$ 、空いている頂点が並ぶので、結合距離は体対角線の半分になる。
$$\text{体対角線}=\sqrt3\times\dfrac a2\qquad\text{結合距離}=\dfrac12\times\dfrac{\sqrt3}{2}a=\dfrac{\sqrt3}{4}a$$
$a=0.54$ nm、 $\sqrt3=1.7$ を入れると
$$\dfrac{1.7\times0.54}{4}=0.2295\fallingdotseq0.23\ \mathrm{nm}$$
$\ce{Zn^2+}$ のまわりの $\ce{S^2-}$ は4個で、配位数は4。 $\ce{ZnS}$ 型・ $\ce{NaCl}$ 型・ $\ce{CsCl}$ 型の配位数は4・6・8。
答 0.23 nm(2点)
別解
問7 (2) (座標で求める)頂点の $\ce{S^2-}$ を原点に置くと、いちばん近い $\ce{Zn^2+}$ は $x$・$y$・$z$ 方向にそれぞれ $\dfrac a4$ ずつ進んだ点にある。距離は $\sqrt{\left(\dfrac a4\right)^2\times3}=\dfrac{\sqrt3}{4}a$ で、本解と同じ0.23 nm。立体をイメージしにくいときの確かめに使える。
出題意図
問1 新元素の族・アルミニウムの製法と価電子・両性元素・面心立方格子の配位数と充塡率を、空欄の記号に合わせて正しく答えられるか
問2 両性元素の単体が強塩基に溶ける反応を、錯イオン $\ce{[Al(OH)4]-}$ と水素の発生まで含めて化学反応式にできるか
問3 不動態をつくる金属を、アルミニウムと同じ仲間から選べるか
問4 ジュラルミンの3つの成分のイオン化傾向を、語呂の列に無いマンガンも含めて並べられるか
問5 面心立方格子の原子数と密度の定義から、原子量を求める式を組み立てられるか
問6 電子殻に入る電子の数の決まりから、原子番号30の亜鉛の電子配置を書けるか
問7 閃亜鉛鉱型の単位格子のイオンの数を数え、単位格子を8つに分けた小立方体を取り出して結合距離を求められるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 10分 | 12分 |
アルミニウムと亜鉛を題材に、無機の知識と結晶格子の基本を並べた大問で、どの学部も満点を取りたい。
重要問題集の新元素・面心立方格子の問題が完璧なら、ほとんど迷わずに解ける。
差がつくのは、語呂に入っていないマンガンのイオン化傾向と、ZnS 型の小立方体を取り出して求める結合距離の2つ。
結晶格子は面心立方格子と ZnS 型・NaCl 型・CsCl 型を白紙に書けるまで練習し、無機は知識で埋めて時間を浮かせること。
差がつく所・失点しやすい所
- 問4:マンガンがアルミニウムと亜鉛の間に入ることを知っているか。語呂の列にマンガンが無いので、覚えていないと並びが決まらない。
- 問7 (2):単位格子を8つに分けた小立方体を取り出し、結合距離が体対角線の半分だと気づけるか。 $\ce{ZnS}$ 型は $\ce{NaCl}$ 型・ $\ce{CsCl}$ 型ほど練習していない受験生が多く、単位格子の体対角線の半分(0.46 nm)や面の対角線を使ってしまう。
コラム ニホニウム ― 九大の教授が率いたチームが見つけた113番元素
問1 の①のニホニウムは、日本が初めて名前を付けた元素(アジアで初めての元素名)。原子番号30の亜鉛の原子核を、原子番号83のビスマスに高速でぶつけ、2つの原子核が1つにくっつく核融合で作られた。陽子の数は $30+83=113$ になる(下の図)。


- だれが見つけたか:理化学研究所(理研)の加速器を使ったチームで、率いたのは森田浩介氏。森田氏は九州大学大学院理学研究院の教授も務めた。九大を受ける受験生にとって、いちばん身近な新元素と言える。
- どれだけ大変だったか:理研は2004年に113番元素の合成を発表し、2012年に3個目の合成を確かめた。2004年から2012年までの間に、作ることができた原子はわずか3個だった。
- 名前が決まるまで:2015年12月に国際機関が新元素と認め、2016年11月に名称 nihonium・元素記号 Nh が正式に決まった。この入試(2017年)は、その直後の出題。
周期表の位置は原子番号だけで決まる。118番が18族なので、113番は13族で、アルミニウムの真下の列に入る。価電子は3個で、アルミニウムと同じ(問1 のア・イ)。新しい元素でも、周期表のどこに入るかが分かれば性質の見当がつく。
2017年九州大学化学
第2問 解答・解説
第2問は理論化学(溶液)の問題です。
テーマは『蒸気圧降下と沸点上昇』『溶解度積と凝固点降下』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。
難溶性で不揮発性の塩Aを溶媒Bに溶かすと、1価の陽イオンと1価の陰イオンに完全に電離する。この溶液の沸点上昇と凝固点降下に関する以下の実験を行う。溶媒Bは一種類の分子からなる液体で、その分子量は $M_{\mathrm{B}}$ である。また、圧力 $1.0\times10^5$ Pa での溶媒Bの沸点は $T_{\mathrm{B}}$[K]である。なお、解答にベキ指数を用いて良い。
[実験1]
図1の密閉容器に溶媒Bが入っている。この容器は内容物の温度調節が可能であり、容器内の温度を $T_{\mathrm{B}}$ 付近でゆっくり変化させて蒸気圧 $P_{\mathrm{B}}$[Pa]の変化を測定した。その結果を図2に示す。温度 $T_{\mathrm{B}}$ 付近で温度を変えたときの $P_{\mathrm{B}}$ の変化は直線とみなすことができ、温度を1 K 上げると蒸気圧は $\Delta P$[Pa]だけ上昇することがわかった。
[実験2]
沸点 $T_{\mathrm{B}}$ よりわずかに低い温度で、 $w$[g]の塩Aを質量 $1000\,w$[g]、体積 $V_{\mathrm{B}}$[L]の溶媒Bに溶かした。その温度で、溶媒Bに溶かすことができる塩Aの最大の質量は $w$[g]である。その時の溶液の体積は $V_{\mathrm{BA}}$[L]、Bの蒸気圧は $P_{\mathrm{BA}}$[Pa]であった。なお、この溶媒Bのモル沸点上昇は $K_{\mathrm{b}}$[K·kg/mol]である。
問1. 実験2の圧力 $1.0\times10^5$ Pa における溶液の沸点 $T_{\mathrm{BA}}$[K]を答えよ。
問2. 塩Aの式量を答えよ。
問3. 沸点 $T_{\mathrm{B}}$ よりわずかに低い温度において、塩Aから生じる陽イオンと陰イオンの溶解度積を単位も含めて答えよ。
[実験3]
実験2の溶液にさらに塩Aを $w_{\mathrm{A}}$[g]加えてかき混ぜた。しかし、 $w_{\mathrm{A}}$[g]の塩Aは固体のまま溶けずに残った。
問4. この固体の塩を含む溶液の沸点に関して、以下の(A)〜(D)から最も適切なものを一つ選び記号で答えよ。なお、モル沸点上昇 $K_{\mathrm{b}}$ は十分小さく溶質が溶けた場合の沸点の変化は小さい。そのため塩Aの溶解度は、純溶媒Bの沸点でも溶液の沸点でも同じであるとする。また、固体の塩の融点は $T_{\mathrm{B}}$ より十分高い。
(A) 溶媒Bの沸点 $T_{\mathrm{B}}$ より低くなる。
(B) 溶媒Bの沸点 $T_{\mathrm{B}}$ より高く、実験2の溶液の沸点 $T_{\mathrm{BA}}$ より低くなる。
(C) 実験2の溶液の沸点 $T_{\mathrm{BA}}$ とほとんど変わらない。
(D) 実験2の溶液の沸点 $T_{\mathrm{BA}}$ と溶媒Bの沸点 $T_{\mathrm{B}}$ の差の約2倍分高くなる。
[実験4]
実験3で用いた溶液から液体部分だけを一部取り出した。その溶液を $T_{\mathrm{B}}$ よりわずかに低い温度からゆっくり冷やした。その結果、塩Aが析出し始めた。溶液が凝固を始める直前に析出した塩を分離して質量をはかったところ $0.25\,w$[g]であった。また、純粋な溶媒Bの凝固点に比べてこの溶液の凝固点は $\Delta T_{\mathrm{BA}}$[K]だけ低かった。なお、溶媒Bのモル凝固点降下は $K_{\mathrm{f}}$[K·kg/mol]である。
問5. 実験4の冒頭において取り出した溶液の体積は、固体を含まない溶液全体の体積の何%か答えよ。なお $K_{\mathrm{f}}$ は十分小さく、溶質が溶けた場合の凝固点の変化は小さい。そのため塩Aの溶解度は、純溶媒Bの凝固点でも溶液の凝固点でも同じであるとする。
解答の方針
【問1の方針】
沸点上昇の公式は、式量が分からないのでここでは使えない。沸点上昇のもとは蒸気圧降下。溶液の蒸気圧の直線は、溶媒Bの直線を蒸気圧降下の分だけ平行に下げたものなので、それが $1.0\times10^5$ Pa に届く温度を読む(下の図)。


- 実験2の温度は $T_{\mathrm{B}}$ よりわずかに低いだけなので、 $T_{\mathrm{B}}$ とみなす。このとき溶媒Bの蒸気圧は $1.0\times10^5$ Pa なので、蒸気圧降下は $1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}$。
- 溶液の直線は、溶媒Bの直線を $1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}$ だけ平行に下げたもので、1 K 上げると $\Delta P$ 上がる。
- 溶液の蒸気圧が $1.0\times10^5$ Pa に届くまでに上げる温度(沸点上昇度)を求め、 $T_{\mathrm{B}}$ に足す。
【問2の方針】
問1で沸点上昇度が文字で求まったので、あとは公式に入れるだけ。塩Aは完全に電離するので粒子の数は2倍。溶媒の質量が $1000w$ g なのは、 $w$ が消えるように作られているから。
- 塩Aの式量を $M$ とおき、実験2の質量モル濃度を求める(溶媒 $1000w$ g= $w$ kg)。
- 1価の陽イオンと1価の陰イオンに完全に電離するので、個数2。
- 沸点上昇度= $K_{\mathrm{b}}$ ×質量モル濃度×2 を問1の沸点上昇度と等しいとおき、 $M$ について解く。
【問3の方針】
実験2の溶液は飽和溶液。陽イオンと陰イオンのモル濃度は塩Aのモル濃度と同じで、その積が溶解度積。モル濃度なので、溶媒でなく溶液の体積で割る(問4の図の左)。
- 溶けている塩Aの物質量( $w$ g を式量 $M$ で割った値)を溶液の体積 $V_{\mathrm{BA}}$ L で割り、モル濃度を求める。
- 陽イオン・陰イオンのモル濃度はどちらもこの値なので、2乗が溶解度積。
- 問2の $M$ を代入し、単位 $\mathrm{mol^2/L^2}$ を付ける。
【問4の方針】
固体が溶け残っていれば、溶液は飽和溶液のまま。溶けている量は実験2と同じなので、濃度も沸点上昇度も変わらない。溶け残った固体は溶けていないので、沸点には関係しない(下の図)。


- 加えた塩Aは固体のまま残るので、溶けている塩Aは実験2と同じ $w$ g(溶解度は沸点でも同じ)。
- 質量モル濃度が同じなので、沸点は $T_{\mathrm{BA}}$ と変わらない。
【問5の方針】
取り出したのは飽和溶液の一部なので、溶媒も溶けている塩Aも同じ割合で取り出される。その割合を $x$ とおく。冷やすと塩Aが析出するが、凝固する前なので溶媒は減らない。減るのは溶けている塩Aだけ(下の図)。


- 取り出した割合を $x$ とおき、取り出した溶液の溶媒と溶けている塩Aの量を書く(溶媒 $wx$ kg、塩A $wx$ g)。
- 凝固する直前に溶けている塩Aは、析出した $0.25w$ g を引いた $(x-0.25)w$ g。溶媒は $wx$ kg のまま。
- 凝固点降下度 $\Delta T_{\mathrm{BA}}$ = $K_{\mathrm{f}}$ ×質量モル濃度×2 に、問2の $M$ を入れて $x$ について解き、百分率にする。
解答




解答をテキストで読む
問1
沸点とは、蒸気圧が外の圧力(ここでは $1.0\times10^5$ Pa)と等しくなる温度。不揮発性の塩Aを溶かすと、蒸気圧をつくる溶媒分子の割合が減るので蒸気圧が下がり(蒸気圧降下)、その結果として沸点が上がる(沸点上昇)。
実験2の温度は $T_{\mathrm{B}}$ よりわずかに低いだけなので、 $T_{\mathrm{B}}$ とみなす。 $T_{\mathrm{B}}$ での溶媒Bの蒸気圧は $1.0\times10^5$ Pa なので、蒸気圧降下は $1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}$ [Pa]。
$T_{\mathrm{B}}$ 付近で蒸気圧降下の幅は一定とみなせるので、溶液の直線は溶媒Bの直線を $1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}$ だけ平行に下げたもので、傾きは同じ $\Delta P$ [Pa/K](下の図)。
溶液の蒸気圧が $P_{\mathrm{BA}}$ から $1.0\times10^5$ Pa に届くまでに上げる温度が沸点上昇度なので
$$\Delta T_{\mathrm{b}}=\dfrac{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}{\Delta P}\ \mathrm{K}$$
沸点上昇度は上がった幅なので、 $T_{\mathrm{B}}$ に足して沸点にする。
答 $T_{\mathrm{BA}}=T_{\mathrm{B}}+\dfrac{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}{\Delta P}$ [K](5点)
問2
塩Aの式量を $M$ とおく。実験2では、塩A $w$ g を溶媒 $1000w$ g= $w$ kg に溶かしているので、質量モル濃度は
$$\dfrac{\ \dfrac wM\ }{w}=\dfrac1M\ \mathrm{mol/kg}\quad\text{(分子は塩Aの物質量)}$$
塩Aは1価の陽イオンと1価の陰イオンに完全に電離するので、ばらばらに動く粒子の個数は2。沸点上昇度は「定数×質量モル濃度×個数」なので、問1の沸点上昇度と等しいとおいて
$$\dfrac{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}{\Delta P}=K_{\mathrm{b}}\times\dfrac1M\times2\qquad\therefore\ M=\dfrac{2K_{\mathrm{b}}\Delta P}{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}$$
答 $\dfrac{2K_{\mathrm{b}}\Delta P}{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}$(5点)
問3
実験2の溶液は、その温度で溶かすことができる最大の量 $w$ g を溶かしているので飽和溶液。1価・1価の塩なので、陽イオンと陰イオンのモル濃度はどちらも塩Aのモル濃度に等しい。モル濃度は溶液1 L あたりなので、溶媒の体積 $V_{\mathrm{B}}$ ではなく溶液の体積 $V_{\mathrm{BA}}$ で割る(問4の図の左)。
$$[\text{陽イオン}]=[\text{陰イオン}]=\dfrac{\ \dfrac wM\ }{V_{\mathrm{BA}}}=\dfrac{w}{MV_{\mathrm{BA}}}\ \mathrm{mol/L}$$
溶解度積はこの2つの積なので、問2の $M$ を代入して
$$K_{\mathrm{sp}}=\left(\dfrac{w}{MV_{\mathrm{BA}}}\right)^2=\left\{\dfrac{w(1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}})}{2K_{\mathrm{b}}\Delta P\,V_{\mathrm{BA}}}\right\}^2$$
答 $\left\{\dfrac{w(1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}})}{2K_{\mathrm{b}}\Delta P\,V_{\mathrm{BA}}}\right\}^2\ \mathrm{mol^2/L^2}$(5点)
問4
実験2の溶液はすでに飽和溶液なので、加えた塩A $w_{\mathrm{A}}$ g は溶けずに固体のまま残る。問題文より、塩Aの溶解度は溶液の沸点でも同じなので、沸騰させても溶けている塩Aは $w$ g のまま。溶け残った固体は溶けていないので粒子として数えず、融点も十分高いので液体にもならない。蒸気圧にも沸点にも関係しない(下の図)。
溶けている量が同じなので質量モル濃度が同じで、沸点上昇度も同じ。よって沸点は $T_{\mathrm{BA}}$ とほとんど変わらない。
(A) は溶質が溶けているのに沸点が下がることになり、(B)・(D) は溶けている量が実験2より減る・増えることになるので、どれも誤り。
答 (C)(5点)
問5
実験3の液体部分は、溶媒B $w$ kg に塩A $w$ g が溶けた飽和溶液。その一部を取り出すと、溶媒も溶けている塩Aも同じ割合で取り出される。取り出した体積の割合を $x$ とおくと、取り出した溶液は溶媒B $wx$ kg、溶けている塩A $wx$ g。
冷やすと塩Aが $0.25w$ g 析出する。凝固が始まる直前なので、溶媒Bは固体になっておらず $wx$ kg のまま。減るのは溶けている塩Aだけで、残りは $(x-0.25)w$ g(下の図)。
凝固点降下度も「定数×質量モル濃度×個数」で、個数は2。
$$\Delta T_{\mathrm{BA}}=K_{\mathrm{f}}\times\dfrac{\ \dfrac{(x-0.25)w}{M}\ }{wx}\times2=\dfrac{2K_{\mathrm{f}}(x-0.25)}{Mx}$$
これを $x$ について解くと
$$\Delta T_{\mathrm{BA}}Mx=2K_{\mathrm{f}}x-0.5K_{\mathrm{f}}\qquad\therefore\ x=\dfrac{K_{\mathrm{f}}}{4K_{\mathrm{f}}-2M\Delta T_{\mathrm{BA}}}$$
ここに問2の式量
$$M=\dfrac{2K_{\mathrm{b}}\Delta P}{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}$$
を代入し、分母と分子に $1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}$ をかけると
$$x=\dfrac{K_{\mathrm{f}}(1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}})}{4\{K_{\mathrm{f}}(1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}})-K_{\mathrm{b}}\Delta P\,\Delta T_{\mathrm{BA}}\}}$$
百分率にするため100倍する。
答 $\dfrac{25K_{\mathrm{f}}(1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}})}{K_{\mathrm{f}}(1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}})-K_{\mathrm{b}}\Delta P\,\Delta T_{\mathrm{BA}}}$ %(5点)
別解
問2 (ラウールの法則で溶媒Bの分子量 $M_{\mathrm{B}}$ を使う) 溶液の蒸気圧は「純溶媒の蒸気圧×溶媒のモル分率」。 $T_{\mathrm{B}}$ での純溶媒の蒸気圧は $1.0\times10^5$ Pa、溶媒Bの物質量は $1000w$ g を $M_{\mathrm{B}}$ で割った値、イオンの物質量は塩Aの物質量の2倍なので、蒸気圧降下の割合は
$$\dfrac{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}{1.0\times10^5}=\dfrac{\ \dfrac{2w}{M}\ }{\dfrac{1000w}{M_{\mathrm{B}}}+\dfrac{2w}{M}}\fallingdotseq\dfrac{2M_{\mathrm{B}}}{1000M}\qquad\therefore\ M=\dfrac{200M_{\mathrm{B}}}{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}$$
(溶液は薄いので、分母のイオンの物質量は溶媒に比べて無視した)。沸点上昇は蒸気圧降下の結果なので、2つの答えの間には
$$K_{\mathrm{b}}=\dfrac{100M_{\mathrm{B}}}{\Delta P}$$
の関係があり、本解の答えと同じ値になる。ただし問題文は実験2の直後に $K_{\mathrm{b}}$ を与えているので、 $K_{\mathrm{b}}$ で答える本解が自然。
問5 (公式を2本並べて比をとり、 $M$ を消す) 実験2(沸点上昇)と凝固する直前(凝固点降下)の公式を並べる。
$$\dfrac{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}{\Delta P}=K_{\mathrm{b}}\times\dfrac1M\times2,\qquad \Delta T_{\mathrm{BA}}=K_{\mathrm{f}}\times\dfrac{x-0.25}{Mx}\times2$$
2本目を1本目で割ると、式量 $M$ と個数の2が消えて
$$\dfrac{\Delta P\,\Delta T_{\mathrm{BA}}}{1.0\times10^5-P_{\mathrm{BA}}}=\dfrac{K_{\mathrm{f}}}{K_{\mathrm{b}}}\times\dfrac{x-0.25}{x}=\dfrac{K_{\mathrm{f}}}{K_{\mathrm{b}}}\left(1-\dfrac{0.25}{x}\right)$$
これを $x$ について解くと本解と同じ式になる。問2の式量を経由しないので、式量の式を間違えても問5は合う。
出題意図
問1 沸点上昇を「蒸気圧降下の結果」として捉え、溶媒の蒸気圧の直線を平行に下げて、溶液の蒸気圧が $1.0\times10^5$ Pa に届く温度を求めることができるか
問2・問3 沸点上昇度を「定数×質量モル濃度×個数」に結びつけて式量を求め、飽和溶液のイオンの濃度から溶解度積を求めることができるか
問4 溶け残った固体があっても、飽和溶液の濃度は変わらないので沸点も変わらないと判断できるか
問5 冷却で減るのは溶けている塩だけで溶媒は減らないことに気づき、取り出した割合を文字でおいて凝固点降下の式を立てることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや難 | |
| 目標得点 | 20点 | 15点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
全部が文字式で、2017年の合否を分けた、やや難の大問。
ただし中身は「蒸気圧降下がベースで、その結果として沸点上昇が起きる」という1点に尽きる。
沸点上昇の公式を暗記しているだけだと問1 で止まり、問2・問3・問5 までまとめて落とす。
問4 は固体が残っても飽和溶液のままなので、すぐに (C) を選んで5点を確保できる。
蒸気圧の直線を平行に下げる図を白紙から書けるようにしておけば、文字式でも怖くない。
差がつく所・失点しやすい所
- 問1〜問3(この年の合否を分けた所):沸点上昇の公式から入らず、溶媒の蒸気圧の直線を平行に下げて溶液の沸点を読む、という発想に行き着けるか。式量が分からないので公式には数値が入らず、ここで止まる受験生が多い。問1で止まると問2・問3・問5もまとめて落ち、第2問だけで15点以上の差がつく。
- 問5:冷やして減るのは溶けている塩だけで溶媒は減らない、取り出した割合を $x$ とおけば溶媒も塩も $x$ 倍になる、という発想に行き着けるか。凝固点降下の問題は「溶媒が凍って減る」形に慣れている受験生が多く、逆の設定で式を立てられたかで差がつく。
2017年九州大学化学
第3問 解答・解説
第3問は無機化学・理論化学の問題です。
テーマは『アンモニアとソルベー法』『緩衝液』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問6に答えよ。
アンモニアは常温・常圧で空気より軽い気体であり、分子中の窒素原子と水素原子は $\boxed{\text{ア}}$ を形成している。一方、アンモニア分子どうしは、窒素原子が大きな $\boxed{\text{イ}}$ を有するため、他の分子中の水素原子と $\boxed{\text{ウ}}$ で引き合い、 $\boxed{\text{エ}}$ を形成する。
アンモニアは工業的にはハーバー・ボッシュ法(A)により合成される。アンモニアは濃塩酸と反応し、塩化アンモニウムを生成する。この際、水素イオンとアンモニアの窒素原子は $\boxed{\text{オ}}$ を形成する。固体の塩化アンモニウムは塩化セシウム型の結晶構造を有し、アンモニウムイオンと塩化物イオンの間で $\boxed{\text{カ}}$ が形成される。塩化アンモニウムと水酸化カルシウムの混合物を加熱すると再びアンモニアが生成する(B)。アンモニアと塩化アンモニウムが等モル量溶解した水溶液は緩衝液となる(C)。アンモニア水に金属イオンを加えると、金属の水酸化物やアンミン錯体などを生成する(D)。
問1. $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{カ}}$ に当てはまる最も適切な語を以下の語群から選び、答えよ。
語群
イオン結合、共有結合、金属結合、水素結合、配位結合、アミド結合、ペプチド結合、ファンデルワールス力、原子半径、電離定数、エンタルピー、エントロピー、イオン化エネルギー、電気陰性度、静電気力、酸化力、還元力
問2. 以下の文章(1)〜(4)は下線部(A)のアンモニア製造プロセスについて説明したものである。誤っているものをすべて選び、番号で答えよ。
(1) 窒素と水素をアンモニアの原料とし、酸化鉄を主な成分とした触媒が用いられる。
(2) 触媒の量を変えることにより反応の平衡定数が変化する。
(3) 温度を上げるほど反応の平衡定数が大きくなるため、反応は高温で行われる。
(4) 反応は高圧で行い、特殊な反応容器が用いられる。
問3. 下線部(B)はアンモニアの実験室的製造方法を示している。この反応を化学反応式で示せ。
問4. 次の式(1)、(2)はアンモニアを原料とした炭酸ナトリウムの合成法(ソルベー法)を示す。 $\boxed{\text{キ}}$ 〜 $\boxed{\text{ケ}}$ に入る化学式をそれぞれ答えよ。
$\boxed{\text{キ}}$ $\ce{+ H2O + NH3 +}$ $\boxed{\text{ク}}$ $\ce{->}$ $\boxed{\text{ケ}}$ $\ce{+ NH4Cl}$ (1)
$2$ $\boxed{\text{ケ}}$ $\ce{-> Na2CO3 + H2O +}$ $\boxed{\text{ク}}$ (2)
問5. 下線部(C)について、濃度0.2 mol/L のアンモニア水溶液100 mL と0.2 mol/L の塩化アンモニウム水溶液100 mL を混合した溶液(a)のpHを答えよ。さらに、溶液(a)に0.02 mol/L の塩酸200 mL を混合した溶液(b)のpHを求めよ。ただし、溶液の温度はすべて25℃とする。また、計算には以下の数値の中から必要なものを用い、小数第2位まで答えよ。
アンモニアの電離定数 $K_{\mathrm{b}}=2.0\times10^{-5}$ mol/L
$\log_{10}2.0=0.30$ $\log_{10}3.0=0.48$ $\log_{10}5.0=0.70$
問6. 下線部(D)について、次に示す金属イオンが含まれる水溶液に過剰のアンモニア水を加えたときの主な生成物の化学式を示せ。また、その様子を下の語群から選び、答えよ。
(1) $\ce{Fe^3+}$
(2) $\ce{Cu^2+}$
語群
白色沈殿、黒色沈殿、深青色沈殿、黄緑色沈殿、赤褐色沈殿、無色溶液、深青色溶液、黄褐色溶液、黄緑色溶液、赤褐色溶液
解答の方針
【問1の方針】
分子の中の結合、分子どうしの引き合い、イオンの中の結合、イオンどうしの結合は別物で、文の主語で区別する。窒素の大きな電気陰性度と非共有電子対が、水素結合と配位結合のもとになる(下の図)。


- 「分子中の窒素原子と水素原子」の結合を答える(ア)。
- 分子どうしが引き合う理由になる窒素原子の性質(イ)、引き合う力(ウ)、その結果できる結合(エ)を答える。
- 窒素原子の非共有電子対が水素イオンと結びつく結合(オ)を答える。
- 塩化セシウム型の結晶で、アンモニウムイオンと塩化物イオンの間の結合(カ)を答える。
【問2の方針】
平衡定数は温度だけで決まり、触媒は反応を速くするが平衡は動かさない。アンモニアの合成は発熱反応なので、温度を上げると平衡定数は小さくなる。それでも高温で行うのは、平衡ではなく反応の速さのため(下の図)。


- (1) の触媒の主成分と原料を確かめる。
- (2) を「触媒は平衡定数を変えない」で判定する。
- (3) を「発熱反応は温度を上げると平衡定数が小さくなる」で判定し、高温にする本当の理由を確かめる。
- (4) を「気体の分子数が減る反応なので高圧が有利」で判定する。
【問3の方針】
塩化アンモニウムは弱塩基アンモニアの塩なので、強塩基の水酸化カルシウムを加えると弱塩基のアンモニアが追い出される(弱塩基の遊離)。アンモニアは水に溶けやすいので、水溶液でなく固体どうしを加熱する(下の図)。


- 反応物( $\ce{NH4Cl}$ ・ $\ce{Ca(OH)2}$ )と生成物( $\ce{CaCl2}$ ・ $\ce{NH3}$ ・ $\ce{H2O}$ )を並べる。
- $\ce{NH4+}$ が $\ce{H+}$ を $\ce{OH-}$ に渡すことから、係数を決める。
【問4の方針】
ソルベー法は、食塩と石灰石から炭酸ナトリウムをつくる方法。沈殿した炭酸水素ナトリウムを加熱すると炭酸ナトリウムになり、そこで出る気体が式(1) にもう一度使われる、という流れから空欄を決める(下の図)。


- 式(2) で、加熱すると炭酸ナトリウム・水・気体の3つになる物質(ケ)と、その気体(ク)を決める。
- 式(1) で、ケと塩化アンモニウムができるために必要な残りの原料(キ)を、原子の数から決める。
【問5の方針】
アンモニアとアンモニウムイオンが両方ある溶液は緩衝液で、pH は2つの物質量の比で決まる。塩酸を加えると $\ce{H+}$ がアンモニアをアンモニウムイオンに変えるので、比を取り直す(下の図)。


- 溶液(a) のアンモニアとアンモニウムイオンの物質量を求め、緩衝液だと確かめる。
- 電離定数の式を $[\ce{OH-}]$ について直し、物質量の比を入れて $[\ce{OH-}]$ 、pOH、pH を求める。
- 溶液(b) では、塩酸の $\ce{H+}$ とアンモニアの反応を物質量の表で追い、反応後もアンモニアとアンモニウムイオンが両方残ることを確かめる。
- 反応後の物質量の比を電離定数の式に入れて、pOH、pH を求める。
【問6の方針】
アンモニア水は弱塩基なので、少量ではどの金属イオンも水酸化物(銀は酸化銀)の沈殿になる。過剰に加えて沈殿が溶けるのは、アンモニアとアンミン錯イオンをつくる銅・亜鉛・銀だけ(下の図)。


- $\ce{Fe^3+}$ は水酸化物の沈殿のまま残るので、その化学式と色を答える。
- $\ce{Cu^2+}$ は水酸化物がいったんできたあと錯イオンになって溶けるので、その化学式と溶液の色を答える。
解答






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問1
アンモニア分子の中の窒素原子と水素原子は、互いに不対電子を出し合って電子対を共有している。これは共有結合。
窒素は周期表の右上にあり電気陰性度が大きいので、N−H の共有電子対は窒素の側にかたよる。窒素はわずかに負の電荷 $\delta-$ 、水素はわずかに正の電荷 $\delta+$ を帯びる。窒素の非共有電子対と、ほかの分子の正に帯電した水素が静電気力で引き合い、分子どうしの間に水素結合ができる(下の図)。水素結合ができるのは、電気陰性度の大きい F・O・N に結合した H だけ。だから $\ce{NH3}$ ・ $\ce{H2O}$ ・ $\ce{HF}$ の沸点は、分子量から予想されるよりも高い。
アンモニアが塩酸の $\ce{H+}$ と反応するときは、窒素の非共有電子対を $\ce{H+}$ に一方的に与えて結合する。これは配位結合。できたアンモニウムイオンの4本の N−H 結合は、できてしまえば性質がまったく同じで、どれが配位結合かは区別できない(上の図の右)。
固体の塩化アンモニウムは、陽イオン $\ce{NH4+}$ と陰イオン $\ce{Cl-}$ が交互に並んだイオン結晶(塩化セシウム型)で、イオンどうしは静電気的な引力によるイオン結合で結びついている。
答(ア) 共有結合(1点)
答(イ) 電気陰性度(1点)
答(ウ) 静電気力(1点)
答(エ) 水素結合(1点)
答(オ) 配位結合(1点)
答(カ) イオン結合(1点)
問2
ハーバー・ボッシュ法は、窒素と水素からアンモニアをつくる発熱反応。
$$\ce{N2 + 3H2 -> 2NH3}\qquad\Delta H=-92\ \mathrm{kJ}$$
・(1) 正しい。原料は窒素と水素で、四酸化三鉄 $\ce{Fe3O4}$ を主成分とする触媒を使う
・(2) 誤り。触媒は活性化エネルギーの小さい別の経路をつくって反応を速くするだけで、正反応も逆反応も同じように速くなる。平衡には早く達するが、平衡の位置も平衡定数も変わらない。平衡定数は温度だけで決まる
・(3) 誤り。発熱反応なので、温度を上げると平衡は吸熱の向き(左)へ移動し、平衡定数は小さくなる。収率だけを考えれば低温の方が有利。それでも450〜500 ℃ の高温で行うのは、低温では反応が遅すぎて平衡に達するまでに時間がかかるから(反応の速さのため)
・(4) 正しい。左辺の気体は4 mol、右辺は2 mol で、圧力を上げると濃度が上がり、気体の分子数が減る右へ平衡が移動する。約 $2\times10^7$ Pa の高圧に耐える特殊な反応容器を使う
温度・圧力・触媒が、平衡と反応の速さのそれぞれにどう効くかを分けて押さえておく(下の図)。
答 (2)、(3)(3点)
問3
塩化アンモニウムは、弱塩基のアンモニアと強酸の塩酸からできた塩。強塩基の水酸化カルシウムを加えると、弱塩基のアンモニアが遊離する。 $\ce{NH4+}$ 1個が $\ce{H+}$ 1個を $\ce{OH-}$ に渡して $\ce{NH3}$ と $\ce{H2O}$ になる。 $\ce{Ca(OH)2}$ には $\ce{OH-}$ が2個あるので、 $\ce{NH4Cl}$ は2個必要。
$$\ce{2NH4Cl + Ca(OH)2 -> CaCl2 + 2H2O + 2NH3}$$
水溶液どうしなら加熱しなくても進むが、アンモニアは水に非常によく溶けるので、水を加えずに固体どうしを加熱する。生じた水が加熱部に流れこんで試験管が割れないように試験管の口を少し下げ、アンモニアは塩基性の乾燥剤のソーダ石灰で乾燥し、空気より軽いので上方置換で集める(下の図)。塩化カルシウムはアンモニアを吸収するので乾燥剤に使えない。
答 $\ce{2NH4Cl + Ca(OH)2 -> CaCl2 + 2H2O + 2NH3}$(3点)
問4
まず式(2) を見る。2個の $\boxed{\text{ケ}}$ を加熱すると、炭酸ナトリウム・水・ $\boxed{\text{ク}}$ になる。ナトリウムを含み、加熱で炭酸ナトリウムと水と気体に分かれるのは炭酸水素ナトリウムなので、ケ= $\ce{NaHCO3}$ 、出てくる気体のク= $\ce{CO2}$ 。
$$\ce{2NaHCO3 -> Na2CO3 + H2O + CO2}$$
次に式(1) で、ケ= $\ce{NaHCO3}$ と $\ce{NH4Cl}$ ができるのに足りない原子は Na と Cl。よってキ= $\ce{NaCl}$ 。
$$\ce{NaCl + H2O + NH3 + CO2 -> NaHCO3 + NH4Cl}$$
飽和食塩水にまずアンモニアを十分に溶かして弱塩基性にしてから、二酸化炭素を吹き込む(二酸化炭素を先に入れてもほとんど溶けない)。炭酸水素ナトリウムは塩化ナトリウムや塩化アンモニウムより水に溶けにくいので、沈殿として取り出せる。
式(1) でできた塩化アンモニウムは、問3 の反応で水酸化カルシウムと加熱してアンモニアに戻し、式(1) に再び使う。二酸化炭素は、石灰石 $\ce{CaCO3}$ の熱分解と式(2) から式(1) に送る(下の図)。全体をまとめると、原料は塩化ナトリウムと石灰石、生成物は炭酸ナトリウムと塩化カルシウムで、アンモニアは消費されない。
答(キ) $\ce{NaCl}$(1点)
答(ク) $\ce{CO2}$(1点)
答(ケ) $\ce{NaHCO3}$(1点)
問5
アンモニア(弱塩基)とアンモニウムイオン(そのイオン)が両方ある溶液なので、緩衝液の問題。
溶液(a):アンモニアは $0.2\times\dfrac{100}{1000}=2.0\times10^{-2}$ mol、塩化アンモニウムは完全に電離して $\ce{NH4+}$ が $2.0\times10^{-2}$ mol(下の図の上)。 $\ce{NH4+}$ が多量にあるので、アンモニアの電離 $\ce{NH3 + H2O <=> NH4+ + OH-}$ はほとんど進まず、アンモニアの量・アンモニウムイオンの量はそのまま使える。
電離定数の式を $[\ce{OH-}]$ について直すと
$$[\ce{OH-}]=K_{\mathrm b}\times\dfrac{[\ce{NH3}]}{[\ce{NH4+}]}$$
溶液の量は同じなので、濃度でなく物質量の比を入れてよい。
$$[\ce{OH-}]=2.0\times10^{-5}\times\dfrac{2.0\times10^{-2}}{2.0\times10^{-2}}=2.0\times10^{-5}\ \mathrm{mol/L}$$
$$\mathrm{pOH}=-\log_{10}(2.0\times10^{-5})=5-0.30=4.70$$
25 ℃ なので
$$\mathrm{pH}=14-4.70=9.30$$
答(溶液(a)) 9.30(3点)
溶液(b):加えた塩酸の $\ce{H+}$ は $0.02\times\dfrac{200}{1000}=4.0\times10^{-3}$ mol。 $\ce{H+}$ はアンモニアと1:1で反応してアンモニウムイオンになる( $\ce{NH3 + H+ -> NH4+}$ )。反応前・変化量・反応後を物質量で書くと、アンモニアは $2.0\times10^{-2}-4.0\times10^{-3}=1.6\times10^{-2}$ mol、アンモニウムイオンは $2.0\times10^{-2}+4.0\times10^{-3}=2.4\times10^{-2}$ mol(上の図の下)。両方残っているので、まだ緩衝液。
$$[\ce{OH-}]=2.0\times10^{-5}\times\dfrac{1.6\times10^{-2}}{2.4\times10^{-2}}=\dfrac43\times10^{-5}\ \mathrm{mol/L}$$
$\log_{10}\dfrac43=2\log_{10}2.0-\log_{10}3.0=0.60-0.48=0.12$ なので
$$\mathrm{pOH}=5-0.12=4.88$$
$$\mathrm{pH}=14-4.88=9.12$$
溶液(a) のかわりに純水200 mL に同じ塩酸を加えれば pH は2.0 になるが、緩衝液では9.30から9.12へ、0.18しか変わらない。加えた $\ce{H+}$ を $\ce{NH3}$ が受け取って打ち消すからで、これが緩衝作用。
答(溶液(b)) 9.12(3点)
問6
アンモニア水を加えると、アンモニアの電離で生じた $\ce{OH-}$ で、まず水酸化物の沈殿ができる。アンモニア水は弱塩基なので、過剰に加えても $\ce{OH-}$ の濃度はそれほど大きくならず、ヒドロキシド錯イオンはできない。過剰のアンモニア水で沈殿が溶けるのは、アンモニア分子と錯イオン(アンミン錯イオン)をつくる銅・亜鉛・銀だけ(下の図)。
・(1) $\ce{Fe^3+}$ の場合、水酸化鉄(Ⅲ)の赤褐色沈殿ができ、過剰に加えても溶けない。 $\ce{Fe^3+ + 3OH- -> Fe(OH)3}$ 。語群の「黄褐色溶液」は、アンモニア水を加える前の $\ce{Fe^3+}$ の水溶液の色
・(2) $\ce{Cu^2+}$ の場合、いったん水酸化銅(Ⅱ)の青白色沈殿ができるが、過剰に加えるとテトラアンミン銅(Ⅱ)イオンになって溶け、深青色の溶液になる。 $\ce{Cu(OH)2 + 4NH3 -> [Cu(NH3)4]^2+ + 2OH-}$
答((1) 化学式) $\ce{Fe(OH)3}$(1点)
答((1) 様子) 赤褐色沈殿(1点)
答((2) 化学式) $\ce{[Cu(NH3)4]^2+}$(1点)
答((2) 様子) 深青色溶液(1点)
別解
問5 (濃度で入れて、水のイオン積から $[\ce{H+}]$ を求める)溶液(a) は全体で200 mL なので
$$[\ce{NH3}]=[\ce{NH4+}]=\dfrac{2.0\times10^{-2}}{0.200}=0.10\ \mathrm{mol/L}$$
$$[\ce{OH-}]=2.0\times10^{-5}\times\dfrac{0.10}{0.10}=2.0\times10^{-5}\ \mathrm{mol/L}$$
$$[\ce{H+}]=\dfrac{1.0\times10^{-14}}{2.0\times10^{-5}}=5.0\times10^{-10}\ \mathrm{mol/L}\qquad\mathrm{pH}=10-\log_{10}5.0=10-0.70=9.30$$
溶液(b) は全体で400 mL なので
$$[\ce{NH3}]=\dfrac{1.6\times10^{-2}}{0.400}=0.040\ \mathrm{mol/L}\qquad[\ce{NH4+}]=\dfrac{2.4\times10^{-2}}{0.400}=0.060\ \mathrm{mol/L}$$
$$[\ce{OH-}]=2.0\times10^{-5}\times\dfrac{0.040}{0.060}=\dfrac43\times10^{-5}\ \mathrm{mol/L}\qquad[\ce{H+}]=\dfrac{1.0\times10^{-14}}{\dfrac43\times10^{-5}}=7.5\times10^{-10}\ \mathrm{mol/L}$$
$\log_{10}7.5=\log_{10}3.0+\log_{10}5.0-\log_{10}2.0=0.88$ なので
$$\mathrm{pH}=10-0.88=9.12$$
体積は分母と分子で消えるので、本解と同じ値になる。問題の $\log_{10}5.0=0.70$ は、この求め方で使う値。
出題意図
問1 アンモニアの分子の中・分子どうし・アンモニウムイオン・塩化アンモニウムの結晶で、それぞれどの結合がはたらいているかを区別できるか
問2 触媒は平衡定数を変えず、平衡定数は温度だけで決まることから、ハーバー・ボッシュ法の条件の説明の誤りを見抜けるか
問3 塩化アンモニウムと水酸化カルシウムの反応を、弱塩基の遊離として反応式で書けるか
問4 ソルベー法の2つの反応式を、原料と生成物の流れから組み立てられるか
問5 アンモニアと塩化アンモニウムの混合溶液を緩衝液と見抜き、塩酸を加えたあとの物質量の比から pH を求められるか
問6 アンモニア水を過剰に加えたとき、水酸化物の沈殿のまま残るイオンとアンミン錯イオンをつくって溶けるイオンを区別できるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 12分 | 15分 |
アンモニアを題材にした、無機の知識と緩衝液の計算の大問。
問1〜問4・問6 は重要問題集の典型問題と無機の基本知識で取り切れるので、ここは確実に取りたい。
差がつくのは問5 の緩衝液の計算だけ。
「弱塩基とそのイオンの物質量の比で pH が決まる」と言い切れれば、塩酸を加えた (b) も比を取り直すだけで迷わない。
ソルベー法やアンミン錯イオンは、反応式と色を白紙に書けるまで仕上げておくこと。
差がつく所・失点しやすい所
- 問5 (b):塩酸を加えても、アンモニアが残っている間は緩衝液のままだという発想に行き着けるか。電離平衡は苦手な受験生が多く、塩酸の濃度から $[\ce{H+}]$ を直接求めたり、物質量を数え違えたりすると答えが合わない。
- 問2:触媒は平衡定数を変えず、温度を上げると発熱反応の平衡定数は小さくなる、という基本を言い切れるか。(3) は「反応は高温で行われる」という後半が事実なので、文全体を正しいと読みやすい。
2017年九州大学化学
第4問 解答・解説
第4問は有機化学・理論化学の問題です。
テーマは『アルケンへの付加と構造決定』『臭素の同位体』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問5に答えよ。構造式を記入するときは、記入例にならって答えよ。
構造式の記入例
分子式 $\ce{C3H6}$ で表されるアルケン A と $\ce{C5H10}$ で表される分岐型アルケン B がある。化合物 A および B を、触媒を用いて水素と反応させると、それぞれ飽和炭化水素化合物 C および D が生成する。また、酸を触媒にして化合物 A および B に水を付加させると、A からはアルコール E および F が、B からはアルコール G および H が生成する。ただし、G および H は第一級アルコールではない。A および B を臭素と反応させると臭素の色が消え、それぞれ化合物 I および J が生成する。また、化合物 B をオゾンで酸化したのち、亜鉛で処理すると、カルボニル化合物 K および L が得られ、K は銀鏡反応を示す。なお、化合物 A〜L において、光学異性体(鏡像異性体)が存在しても区別していない。
問1. 化合物 C および D の構造式を答えよ。
問2. 化合物 E、F、G、H の構造式を答えよ。ただし、水の付加反応ではアルケンは異性化せず、E および G は少量しか生成しない。
問3. 化合物 E、F、G、H、I、J のうち、光学異性体を持つものをすべて記号で答えよ。
問4. 化合物 L を還元するとアルコールが得られるが、このとき E、F、G、H のどれと同じ分子が得られるか記号で答えよ。
問5. 臭素原子には相対質量79.0と81.0の同位体が51:49で存在し、そのため化合物 I には、1モルあたりの質量が異なる分子が存在する。そのうちでもっとも小さい質量と、その存在比を百分率(%)で示せ。質量、百分率ともに、小数点以下は四捨五入せよ。ただし、炭素と水素の同位体は無視できるものとする。
解答の方針
【問1の方針】
水素の付加では二重結合が単結合になるだけで、炭素骨格は変わらない。分岐型の $\ce{C5H10}$ アルケンは3つあるが、どれも同じ骨格なので、B を決めなくても D は1つに決まる(下の図)。


- $\ce{C3H6}$ のアルケンはプロペンだけなので A をプロペンとし、水素を付けた C をプロパンとする。
- 分岐型の $\ce{C5H10}$ アルケン(2-メチル-1-ブテン・3-メチル-1-ブテン・2-メチル-2-ブテン)は、どれも水素を付けると2-メチルブタンになるので、D を2-メチルブタンとする。
- C・D の構造式を記入例の形で書く。
【問2の方針】
水の付加では二重結合のどちらかの炭素に OH が付き、端の $\ce{CH2}$ に付くと第一級アルコールになる。「G・H は第一級アルコールではない」から B の二重結合の位置が決まる(下の図)。


- 分岐型の $\ce{C5H10}$ アルケン3つに、それぞれ OH を2通りに付けて、第一級アルコールができるかを確かめる。
- 第一級アルコールができない2-メチル-2-ブテンを B と決める。
- A・B それぞれで、H が H の多い炭素に付いた方を主生成物(F・H)、逆向きを少量の副生成物(E・G)とする。
【問3の方針】
不斉炭素は4つの違う基が付いた炭素。 $\ce{CH3}$ が2つ付いた枝分かれの炭素は不斉炭素にならないので、そこを見落とさずに炭素1つずつ確かめる(下の図)。


- 臭素の付加で、A から I(1,2-ジブロモプロパン)、B から J(2,3-ジブロモ-2-メチルブタン)ができるとして構造式を書く。
- E〜J の炭素1つずつについて、付いた4つの基がすべて違うかを確かめる。
- 不斉炭素をもつものをすべて選ぶ。
【問4の方針】
オゾン分解では二重結合が切れ、両側の炭素がそれぞれ $\ce{C=O}$ になる。B の二重結合の左はアセトン、右はアセトアルデヒドになり、銀鏡反応を示すアルデヒドが K(下の図)。


- B の二重結合を切って、両側の炭素を $\ce{C=O}$ にした2つのカルボニル化合物を書く。
- 銀鏡反応を示すアルデヒドを K、残りのケトンを L とする。
- L を還元してできるアルコールを、E〜H の構造式と見比べる。
【問5の方針】
I は Br を2個もつので、臭素原子の組み合わせで質量が変わる。質量の最小は軽い $\ce{^{79}Br}$ を2個もつもので、その存在比は「臭素原子を1個取り出して戻す」を2回くり返す確率で求める(下の図)。


- I の分子式 $\ce{C3H6Br2}$ で、Br を2個とも $\ce{^{79}Br}$ にしたものが最も軽いとして、1モルあたりの質量を求める。
- 2回とも $\ce{^{79}Br}$ を取り出す確率として存在比を求め、百分率で答える。
解答




解答をテキストで読む
問1
$\ce{C3H6}$ で二重結合を1つもつ鎖式の化合物はプロペン $\ce{CH2=CH-CH3}$ だけなので、A はプロペン。水素が付くと二重結合が単結合になり、C はプロパン。
答 $\mathbf{C}=\ce{CH3-CH2-CH3}$(プロパン。構造式は上の図)(2点)
分岐型の $\ce{C5H10}$ アルケンは、2-メチル-1-ブテン・3-メチル-1-ブテン・2-メチル-2-ブテンの3つ。水素の付加では炭素骨格は変わらないので、どれから始めても D は2-メチルブタンになる(下の図)。
答 $\mathbf{D}=\ce{CH3-CH(CH3)-CH2-CH3}$(2-メチルブタン。構造式は上の図)(2点)
問2
アルケンに水が付くとき、H は二重結合の炭素のうち H の多い方に付き、OH は H の少ない方に付いたものが主生成物になる(マルコフニコフ則)。逆向きに付いたものは少量しかできない。
A(プロペン)では、H が端の $\ce{CH2}$ に付いて OH が真ん中の炭素に付いた2-プロパノールが主生成物、OH が端に付いた1-プロパノールが少量。問題文より E が少量なので、E が1-プロパノール、F が2-プロパノール。
答 $\mathbf{E}=\ce{CH3-CH2-CH2-OH}$(1-プロパノール。構造式は上の図)(2点)
答 $\mathbf{F}=\ce{CH3-CH(OH)-CH3}$(2-プロパノール。構造式は上の図)(2点)
B を決める。分岐型の $\ce{C5H10}$ アルケン3つに、OH を2通りに付けると次のようになる(下の図)。
・2-メチル-1-ブテン $\ce{CH2=C(CH3)-CH2-CH3}$:OH が端の $\ce{CH2}$ に付くと第一級アルコール(2-メチル-1-ブタノール)
・3-メチル-1-ブテン $\ce{CH2=CH-CH(CH3)-CH3}$:OH が端の $\ce{CH2}$ に付くと第一級アルコール(3-メチル-1-ブタノール)
・2-メチル-2-ブテン $\ce{(CH3)2C=CH-CH3}$:OH がどちらに付いても第三級か第二級のアルコール
G・H はどちらも第一級アルコールではないので、B は2-メチル-2-ブテン。水素原子は二重結合の $\ce{CH}$ の炭素(H が1つ)に付き、OH は H のない枝分かれの炭素に付く。よって主生成物は2-メチル-2-ブタノールで、これが H。逆向きの3-メチル-2-ブタノールが少量の G。
答 $\mathbf{G}=$ 3-メチル-2-ブタノール(構造式は上の図)(2点)
答 $\mathbf{H}=$ 2-メチル-2-ブタノール(構造式は上の図)(2点)
問3
臭素は二重結合の2つの炭素に1つずつ付く。I は A から1,2-ジブロモプロパン $\ce{CH2Br-CHBr-CH3}$、J は B から2,3-ジブロモ-2-メチルブタン $\ce{(CH3)2CBr-CHBr-CH3}$。
E〜J の炭素1つずつに付いた4つの基を確かめる。
・E(1-プロパノール)・F(2-プロパノール):F の真ん中の炭素には $\ce{CH3}$ が2つ付くので、どちらも不斉炭素はない
・G(3-メチル-2-ブタノール):OH の付いた炭素に H・OH・ $\ce{CH3}$・ $\ce{CH(CH3)2}$ の4つの違う基が付くので不斉炭素
・H(2-メチル-2-ブタノール):OH の付いた炭素には $\ce{CH3}$ が2つ付くので不斉炭素ではない
・I:真ん中の炭素に H・Br・ $\ce{CH3}$・ $\ce{CH2Br}$ の4つの違う基が付くので不斉炭素
・J:H の付いた炭素に H・Br・ $\ce{CH3}$・ $\ce{C(CH3)2Br}$ の4つの違う基が付くので不斉炭素。となりの炭素は $\ce{CH3}$ が2つ付くので不斉炭素ではない
不斉炭素(*)の位置は下の図のとおり。
答 G、I、J(4点)
問4
オゾンで酸化したのち亜鉛で処理すると、二重結合が切れて、両側の炭素がそれぞれ $\ce{C=O}$ になる。B は $\ce{(CH3)2C=CH-CH3}$ なので、二重結合の左側からはアセトン $\ce{CH3-CO-CH3}$、右側からはアセトアルデヒド $\ce{CH3-CHO}$ ができる。銀鏡反応を示すのはアルデヒドなので、K がアセトアルデヒド、L がアセトン。
アセトンを還元すると、 $\ce{C=O}$ が $\ce{CH-OH}$ になって2-プロパノールができる。これは問2 の F と同じ分子(下の図)。
答 F(3点)
問5
聞かれているのは質量の最小値と存在比。質量は最小値の組み合わせ、存在比は確率で求める。I の分子式は $\ce{C3H6Br2}$ で、質量がいちばん小さいのは、Br が2個とも軽い $\ce{^{79}Br}$ のもの(下の図)。炭素と水素の同位体は無視するので、原子量 C=12.0、H=1.00 を使う。
$$3\times12.0+6\times1.00+2\times79.0=200$$
答(質量) 200 g/mol(3点)
存在比は確率で求める。臭素原子を1個取り出して戻すことを2回くり返し、2回とも $\ce{^{79}Br}$ が出る確率なので
$$0.51\times0.51=0.2601$$
小数点以下を四捨五入して26 %。なお、Br が1個ずつのもの(202)は $2\times0.51\times0.49$ 、2個とも $\ce{^{81}Br}$ のもの(204)は $0.49\times0.49$ になる。
答(存在比) 26 %(3点)
出題意図
問1 水素を付けても炭素骨格は変わらないことから、アルケンに対応する飽和炭化水素を書けるか
問2 「第一級アルコールではない」から B の二重結合の位置を決め、マルコフニコフ則で主生成物と副生成物を見分けられるか
問3 付加でできた化合物の中から、4つの違う基が付いた炭素をもつものをすべて選べるか
問4 オゾン分解でできるカルボニル化合物を決め、還元でできるアルコールと結びつけられるか
問5 同位体の組み合わせで、質量の最小値と存在比(確率)を求められるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 25点 | 25点 |
| 目標時間 | 12分 | 12分 |
アルケンの付加とオゾン分解の基本だけで答えが決まる、九大の有機としては解きやすい構造決定で、どの学部も満点を取りたい。
決め手は「第一級アルコールではない」の1文で、分岐型の3つの候補を書き出して OH を付けてみれば、B は2-メチル-2-ブテンに決まる。
候補を全部書き出して条件で消していく構造決定の型を身につけ、不斉炭素は炭素1つずつ4つの基を確かめよう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2:「第一級アルコールではない」から、水の付加でできるアルコールの級を候補ごとに確かめ、B を2-メチル-2-ブテンに決めるという発想に行き着けるか。B を取り違えると G・H・J・問4 までまとめて落ちる(10点前後)。
- 問3:J の2つの炭素のうち、 $\ce{CH3}$ が2つ付いた方は不斉炭素ではないと見抜き、G・I・J をすべて選び切れるか。「すべて」なので1つでも過不足があると点にならない。
2017年九州大学化学
第5問 解答・解説
第5問は高分子化合物(糖類)・理論化学の問題です。
テーマは『セルロースとアルコール発酵』『燃焼エンタルピー』。
問題


問題文をテキストで読む
※ 旧課程の問題なので、問7・問8 の反応熱・燃焼熱を、反応エンタルピーの表記に直して載せています。
次の文章を読み、問1〜問8に答えよ。計算問題の答えは、すべて有効数字3桁で答えよ。
(補足説明:セルロースの分子量は十分に大きいものとする。)
地球上に豊富に存在する有機化合物の一つであるセルロースから、下図の過程によりエタノールを作り出すことができる。
上図の具体的な操作を次の通り行った。まずセルロース粉末72.0 g の懸濁液に、酵素Aを作用させ化合物Cを得た後、酵素Bを作用させグルコースを得た(1)。次に、このグルコース溶液に酵母を加え、一定の条件下で反応させると、気体Dの発生が見られ、アルコール発酵が確認された(2)。
問1. セルロースの性質を説明する次の文章には、二箇所の下線部に誤りがある。その箇所を示し、正せ。
セルロース分子は、複数のグルコースが縮合重合したものであり、1位と3位間が $\beta$-グリコシド結合でつながった直線状の構造をもつ。この分子は、分子内で水素結合を形成し、繊維状の物質となる。
問2. 下線(1)の、酵素A、酵素B、化合物C、それぞれの名称を答えよ。
問3. 下線(1)の酵素反応が進行したことを確認するための操作として、適当なものを、以下の(a)〜(e)からすべて選び、記号で答えよ。
(a) ヨウ素ヨウ化カリウム水溶液を加えても、青から青紫色の色を示さないことを観察する。
(b) フェーリング液を加えて加熱して、赤色沈殿が生じることを観察する。
(c) ニンヒドリン水溶液を加えて加熱して、赤紫色を示すことを観察する。
(d) 赤色リトマス試験紙が青変することを観察する。
(e) 白いにごり(懸濁状態)が薄くなったことを観察する。
問4. 下線(1)の酵素反応により、セルロースがグルコースにまで完全に分解された場合に、得られるグルコースの質量を答えよ。
問5. 下線(2)で述べるアルコール発酵の過程を化学反応式で示せ。
問6. 下線(2)にて発生した気体Dを定量したところ0.500 mol であった。この時、エタノールと気体Dの生成に使われたセルロースの質量を答えよ。
問7. 下線(2)で述べるアルコール発酵の化学反応の反応エンタルピーは $-84.0$ kJ/mol である。また、グルコースの燃焼エンタルピーは $-2820$ kJ/mol である。エタノールの燃焼エンタルピーを答えよ。
問8. 図の過程でセルロースからエタノールを作り出すことの利点に関する説明として、正しいものを、以下の選択肢の中から選び、記号で答えよ。
(a) 最終的に得られるエタノールの質量は、原料のセルロースの質量に比べて増える。
(b) 最終的に得られるエタノールの物質量は、原料のセルロースの物質量に比べて減る。
(c) 途中で得られるグルコースの質量あたりの燃焼で発生する熱量は、原料のセルロースの質量あたりの燃焼で発生する熱量に比べて大きくなる。
(d) 最終的に得られるエタノールの質量あたりの燃焼で発生する熱量は、原料のセルロースの質量あたりの燃焼で発生する熱量に比べて大きくなる。
(e) 最終的に得られるエタノールの物質量あたりの燃焼で発生する熱量は、原料のセルロースの物質量あたりの燃焼で発生する熱量に比べて大きくなる。
解答の方針
【問1・問2の方針】
セルロースは β-グルコースが1位と4位の間でつながった直線状の分子で、となりの分子と水素結合をつくるので繊維になる(下の図)。分解はデンプンと同じ2段で、まず二糖、次に単糖になる(下の図)。




- 問1 下線部を1つずつセルロースの構造と照らし、「3位」と「分子内」を直す。
- 問2 セルロースを二糖に切る酵素がセルラーゼ、その二糖がセロビオース、セロビオースを単糖に切る酵素がセロビアーゼ。
【問3の方針】
反応が進んだ確かめには、反応の前には無く、後に現れる変化を選ぶ。セルロースは還元性が無く水に溶けないが、できたグルコース・セロビオースは還元性があって水に溶ける。
- (a)〜(e) の操作が、反応の前のセルロースと後の糖でそれぞれどうなるかを考える。
- 前と後で結果が変わるもの(還元性・にごり)だけを選ぶ。
【問4〜問6の方針】
分子量が十分に大きいので、セルロースは単位 $\ce{C6H10O5}$ がつながったものとみて両端を無視する。単位1 mol からグルコース1 mol、そこからエタノール2 mol と二酸化炭素2 mol ができる(下の図)。


- 問4 セルロース72.0 g を単位 $\ce{C6H10O5}$(162)の物質量にし、同じ物質量のグルコース(180)の質量にする。
- 問5 グルコースからエタノールと二酸化炭素ができるアルコール発酵の式を書き、係数を合わせる。
- 問6 気体D(二酸化炭素)の物質量を発酵の式の係数でグルコースの物質量に直し、セルロースの単位の質量にする。
【問7の方針】
発酵と燃焼の2つの反応を1枚のエンタルピー図につなぐ。グルコースは、直接燃えても、発酵してから燃えても、同じ二酸化炭素と水になる(下の図)。


- 発酵の式をベースとなる式にし、グルコースの燃焼でも使う $\ce{6O2}$ を両辺に足して上の2段を書く。
- 一番下に燃焼後の $\ce{6CO2 + 6H2O}$ を置き、エタノール2 mol の燃焼の矢印を $2x$( $x$ はエタノールの燃焼エンタルピー)とする。
- グルコースから $\ce{6CO2 + 6H2O}$ へ行く2通りの矢印の和が等しいとして $x$ を求める。
【問8の方針】
セルロースの燃焼の値は無いが、グルコースはセルロースの単位に水が付いただけで、燃えてできる物質は同じ。単位1つの発熱はグルコースとほぼ同じとみて、質量あたり・物質量あたりで比べる(下の図)。


- (a)(b) セルロースの単位1 mol(162 g)からエタノール2 mol(92 g)ができることから、質量と物質量の増減を判断する。
- (c)(d) グルコース・セルロース・エタノールの1 g あたりの発熱を求めて比べる。
- (e) セルロース1分子は単位がとても多いことから、物質量あたりの発熱を比べる。
解答




解答をテキストで読む
問1
セルロースは β-グルコースが縮合重合したもので、1位と4位の間が β-グリコシド結合(β-1,4 結合)でつながる。となりのグルコースの単位が上下交互に逆向きにつながるので直線状になり、直線状の分子どうしが近づいて分子間に水素結合をつくる。そのため水に溶けず、繊維状の物質になる(下の図)。
「縮合重合」「1位」「 $\beta$-グリコシド結合」「直線状」は正しい。
答(1つ目の誤り) 「3位」→「4位」(2点)
答(2つ目の誤り) 「分子内」→「分子間」(2点)
問2
セルロースはセルラーゼで加水分解されて二糖のセロビオース(β-グルコース2分子が β-1,4 結合したもの)になり、セロビオースはセロビアーゼで加水分解されてグルコースになる(下の図)。デンプンがアミラーゼでマルトース、マルターゼでグルコースになるのと同じ2段の流れ。
答(酵素A) セルラーゼ(1点)
答(酵素B) セロビアーゼ(1点)
答(化合物C) セロビオース(1点)
問3
反応の前(セルロース)と後(セロビオース・グルコース)で、結果が変わる操作を選ぶ。
・(a) セルロースはもともとヨウ素デンプン反応を示さない。色が出ないのは反応の前から同じなので、確かめにならない
・(b) グルコース・セロビオースは水溶液中で一部が鎖状構造になってホルミル基をもつので還元性があり、フェーリング液を還元して $\ce{Cu2O}$ の赤色沈殿ができる。セルロースは分子量が十分に大きく、末端の還元性は無視できるので沈殿はできない。確かめになる
・(c) ニンヒドリン反応はアミノ酸(アミノ基)を調べる反応で、糖には関係しない
・(d) 糖の水溶液は中性で、リトマス試験紙の色は変わらない
・(e) セルロースは分子間の水素結合のため水に溶けず、懸濁液は白くにごっている。水に溶けるグルコースになればにごりが薄くなる。確かめになる
答 (b)、(e)(3点)
問4
分子量が十分に大きいので、両端を無視してセルロースを単位 $\ce{C6H10O5}$(式量162)が $n$ 個つながったものとみる。加水分解の式は
$$(\ce{C6H10O5})_n+n\,\ce{H2O}\ \ce{->}\ n\,\ce{C6H12O6}$$
係数の比から、単位1 mol がグルコース(分子量180)1 mol になる(下の図)。
セルロースの単位の物質量は $\dfrac{72.0}{162}$ mol なので、グルコースの質量は
$$\dfrac{72.0}{162}\times180=80.0\ \mathrm{g}$$
答 80.0 g(2点)
問5
アルコール発酵では、グルコース1分子からエタノール2分子と二酸化炭素2分子ができる(気体Dは二酸化炭素)。C・H・O の数を合わせると次の式になる。
答 $\ce{C6H12O6 -> 2C2H5OH + 2CO2}$(2点)
問6
問5 の式の係数から、二酸化炭素2 mol ができるとき使われるグルコースは1 mol。二酸化炭素0.500 mol に使われたグルコースは
$$0.500\times\dfrac12=0.250\ \mathrm{mol}$$
グルコース1 mol はセルロースの単位1 mol からできるので、使われたセルロースの質量は
$$0.250\times162=40.5\ \mathrm{g}$$
答 40.5 g(3点)
問7
発酵の反応エンタルピー $-84.0$ kJ/mol(グルコース1 mol あたり)とグルコースの燃焼エンタルピー $-2820$ kJ/mol の2つの反応を、1枚のエンタルピー図につなぐ。
ベースとなる式は発酵の式 $\ce{C6H12O6 -> 2C2H5OH + 2CO2}$ (反応エンタルピー $-84.0$ kJ)。グルコースの燃焼でも、エタノール2 mol の燃焼でも $\ce{O2}$ を6 mol 使うので、両辺に $\ce{6O2}$ を足して段をそろえる。
・一番上: $\ce{C6H12O6 + 6O2}$
・発酵で $84.0$ kJ 下がった段: $\ce{2C2H5OH + 2CO2 + 6O2}$
・一番下(燃焼後): $\ce{6CO2 + 6H2O}$
エタノールの燃焼エンタルピーを $x$〔kJ/mol〕とおく。燃焼エンタルピーはエタノール1 mol あたりなので、2 mol 分の矢印は $2x$ 。一番上から一番下へ行く2通りの矢印の和は等しい(下の図)。
$$-84.0+2x=-2820\qquad\therefore\ x=-1368$$
有効数字3桁でエタノールの燃焼エンタルピーは $-1.37\times10^3$ kJ/mol。
答 $-1.37\times10^3$ kJ/mol(3点)
問8
問4 の図のとおり、セルロースの単位1 mol(162 g)からグルコース1 mol(180 g)、エタノール2 mol(92 g)ができる。
・(a) 162 g のセルロースから得られるエタノールは92 g で、質量は減る。誤り
・(b) セルロース1分子は単位が $n$ 個(分子量が十分に大きいので $n$ はとても大きい)で、そこからエタノールが $2n$ 分子できる。物質量は増える。誤り
1 g あたりの発熱を比べる。グルコースの燃焼は2820 kJ/mol、エタノールの燃焼は問7 の1368 kJ/mol なので
$$\text{グルコース}\quad\dfrac{2820}{180}\fallingdotseq15.7\ \mathrm{kJ}\qquad\text{エタノール}\quad\dfrac{1368}{46.0}\fallingdotseq29.7\ \mathrm{kJ}$$
セルロースの燃焼の値は与えられていない。しかし、セルロースの単位 $\ce{C6H10O5}$ はグルコースから $\ce{H2O}$ を1つ除いただけ。単位が燃えると $\ce{6CO2 + 5H2O}$ 、グルコースが燃えると $\ce{6CO2 + 6H2O}$ で、違いは燃えない水1つ分だけになる。加水分解のエンタルピー変化は燃焼に比べてとても小さいので、単位1 mol が燃えたときの発熱はグルコースとほぼ同じ約2820 kJ とみてよい。質量は162 g と軽いので、1 g あたりにするとグルコースより大きくなる(下の図)。
$$\text{セルロース}\quad\dfrac{2820}{162}\fallingdotseq17.4\ \mathrm{kJ}$$
・(c) グルコース(15.7 kJ)はセルロース(約17.4 kJ)より小さい。燃えない水の分だけ重くなっただけなので、質量あたりでは小さくなる。誤り
・(d) エタノール(29.7 kJ)はセルロース(約17.4 kJ)より大きい。正しい
・(e) セルロース1 mol(分子)が燃えると単位 $n$ 個分の約 $2820n$ kJ が発生し、エタノール1 mol の1368 kJ よりはるかに大きい。誤り
答 (d)(5点)
別解
問7 (式の足し引き) 発酵 $\ce{C6H12O6 -> 2C2H5OH + 2CO2}$ ( $\Delta H=-84.0$ kJ)と、エタノールの燃焼の2倍 $\ce{2C2H5OH + 6O2 -> 4CO2 + 6H2O}$ ( $\Delta H=2x$ )を足すと、グルコースの燃焼 $\ce{C6H12O6 + 6O2 -> 6CO2 + 6H2O}$ になる。よって $-84.0+2x=-2820$ 、 $x=-1368$ kJ/mol。
出題意図
問1・問2 セルロースの構造(β-1,4 結合・直線状・分子間の水素結合)と、セルロースを分解する酵素の名前を正確に言えるか
問3 反応の前後で何が変わるか(還元性・水への溶けやすさ)を捉え、もともと示さない反応を「確かめ」に使わないと判断できるか
問4〜問6 セルロースの単位・グルコース・エタノールと二酸化炭素の物質量の関係を、化学反応式の係数でつなぐことができるか
問7 発酵と燃焼の2つの反応を1枚のエンタルピー図でつなぎ、エタノールの燃焼エンタルピーを求めることができるか
問8 値が与えられていない量も、構造と化学反応式から見積もって比べることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
問1〜問7 は、セルロースの構造と分解の流れ、アルコール発酵の式、2つの反応をつなぐエンタルピー図という基本の組み合わせで、どの学部も20点は取りたい。
差がつくのは問8 で、値が無いセルロースの燃焼も「グルコースに水が付いただけ」と見積もれれば比べられる。
高分子は暗記だけで終わらせず、単位の式量と化学反応式の係数で量をつなぐ練習まで積んでおこう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問8:セルロースの燃焼の値が無い中で、グルコースはセルロースの単位に水が付いただけ、という構造から「単位1つの発熱はグルコースとほぼ同じ」と見積もる発想に行き着けるか。質量あたりではエタノール>セルロース>グルコースの順になり、(c) と (d) を見分けられるかで5点が分かれる。
- 問3:(a) を「ヨウ素デンプン反応が消えた」と読んで選んでしまわないか。セルロースはもともと青紫色を示さないので確かめにならない、と判断できるかで差がつく。
- 問7:エタノールの燃焼エンタルピーは1 mol あたりで、発酵ではグルコース1 mol からエタノールが2 mol できることを図に入れられるか。2で割り忘れると2736になる。
2017年九州大学・化学の
講評とまとめ
5問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 第2問 | やや難 | 20点 | 15点 |
| 第3問 | 標準 | 20点 | 20点 |
| 第4問 | やや簡単 | 25点 | 25点 |
| 第5問 | 標準 | 20点 | 20点 |
| 全体 | 標準 | 105点 | 90点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で90点)にはなりません。
全体的に難易度は標準の年。
第1問・第4問は重要問題集と教科書の知識で満点が取れ、第3問・第5問も知識と定番の計算が中心で、差がつく小問は1つずつでした。
この年の合否を分けたのは、全部が文字式の第2問でした。
式量が分からないので沸点上昇の公式に数値が入らず、「蒸気圧降下がベースで、その結果として沸点上昇が起きる」の1点を図で使えるかで、問1〜問3・問5 がまとめて決まります。
第2問は解きにくい大問ですが、ほかの4題は解きやすいので、1つの大問に15分以上かけず、取れる大問で確実に点を積み上げることが大事です。
解く流れ
第1問 → 第2問 → 第3問 → 第4問 → 第5問。
2017年九州大学・化学に
関するよくある質問
2017年の九州大学・化学について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2017年の九州大学・化学は難しかった?
-
全体的に難易度は標準の年でした。
第2問はやや難、第3問・第5問は標準、第1問・第4問はやや簡単です。
やや難の大問は第2問の1題だけで、ほかの4題は解きやすい年でした。 - 2017年の九州大学・化学は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で90点です(125点満点)。
- 2017年の九州大学・化学はどこで差がつく?
-
この年の合否を分けたのは第2問の溶液で、差がついたのは次の3つでした。
- 第2問 問1:沸点上昇の公式から入らず、溶媒の蒸気圧の直線を平行に下げて溶液の沸点を読めたか。
- 第1問 問7 (2):ZnS 型の単位格子から小立方体を取り出し、結合距離を体対角線の半分と求められたか。
- 第3問 問5 (b):塩酸を加えても緩衝液のままと見抜き、物質量の比を取り直せたか。
- 2017年の九州大学・化学は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:無機化学・理論化学
- 第2問:理論化学(溶液)
- 第3問:無機化学・理論化学
- 第4問:有機化学・理論化学
- 第5問:高分子化合物(糖類)・理論化学




