【解説・配点付き】2025年九州大学化学の解答・解説
2025年の九州大学・化学の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2025年九州大学化学
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は理論化学(化学結合と結晶)の問題です。
テーマは『結晶格子の計算』『コロイドの性質』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章(1)と(2)を読み、問1〜問6に答えよ。
(1) 金属は外部からの光を反射する $\boxed{\text{ア}}$ や、たたいて薄く広げることができる $\boxed{\text{イ}}$ などの性質をもっており、これらは金属中の $\boxed{\text{ウ}}$ と関係している。金属結晶の構造の多くは $\boxed{\text{エ}}$ 、 $\boxed{\text{オ}}$ および六方最密構造の3つの結晶格子に分類される。ここで、 $\boxed{\text{エ}}$ と $\boxed{\text{オ}}$ の2種類の格子について考える。単位格子の一辺の長さを $a$ 、原子半径を $r$ とし、 $a$ と $r$ の関係を比較すると、 $\boxed{\text{エ}}$ では $a=$ $\boxed{\text{カ}}$ $r$ であるのに対し、 $\boxed{\text{オ}}$ では $a=2\sqrt{2}r$ となる。単位格子中の原子数と充塡率を比較すると、 $\boxed{\text{エ}}$ では原子数が $\boxed{\text{キ}}$ 、充塡率が $\dfrac{\sqrt{3}\pi}{8}\times100$〔%〕であるのに対し、 $\boxed{\text{オ}}$ では原子数が4、充塡率が $\boxed{\text{ク}}$ $\times100$〔%〕となる。
問1. 文章(1)の空欄 $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{ク}}$ に入る適切な語句または数値を以下の(A)〜(X)のなかからひとつずつ選んで記号を記入せよ。
(A) $\dfrac{1}{4}\sqrt{3}$ (B) $\dfrac{\sqrt{2}\pi}{6}$ (C) 共有結合格子 (D) $\dfrac{1}{3}\sqrt{2}$
(E) $\dfrac{\sqrt{2}\pi}{8}$ (F) 展性 (G) 価電子 (H) 金属光沢
(I) 共有電子対 (J) $4\sqrt{3}$ (K) $\dfrac{\sqrt{3}\pi}{6}$ (L) イオン結晶格子
(M) 体心立方格子 (N) $\dfrac{4}{3}\sqrt{3}$ (O) 延性 (P) $\dfrac{2}{3}\sqrt{3}$
(Q) 6 (R) 自由電子 (S) 面心立方格子 (T) $\sqrt{2}$
(U) 分子結晶格子 (V) 発光 (W) 2 (X) 薄片化
問2. ある元素の結晶は温度を上げることによって体心立方格子から面心立方格子へ結晶格子が変化する。体心立方格子の単位格子の体積を1とするとき、面心立方格子の単位格子の体積を有効数字2桁で答えよ。ただし、原子半径 $r$ は温度に依存せず、各単位格子中の最も近接する原子は互いに接していると仮定する。
問3. ある金属元素 M と Z を混ぜ合わせて結晶格子が体心立方格子となる合金をつくった。その単位格子は、各頂点に M 原子、中心に Z 原子が位置し、 M と Z 原子は互いに接していると仮定する。 M と Z の原子半径をそれぞれ $r_{\mathrm{M}}$ および $r_{\mathrm{Z}}$ 、原子量を $A_{\mathrm{M}}$ および $A_{\mathrm{Z}}$ とするとき、この合金の密度を求める計算式を以下の(A)〜(J)のなかからひとつ選んで記号を記入せよ。ただし、アボガドロ定数は $N_{\mathrm{A}}$ とする。
(A) $\dfrac{3\sqrt{3}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{8N_{\mathrm{A}}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$ (B) $\dfrac{N_{\mathrm{A}}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{2\sqrt{2}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$ (C) $\dfrac{\sqrt{3}N_{\mathrm{A}}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{2\sqrt{2}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$
(D) $\dfrac{2N_{\mathrm{A}}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{\sqrt{2}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$ (E) $\dfrac{3\sqrt{3}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{2N_{\mathrm{A}}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$ (F) $\dfrac{3\sqrt{3}N_{\mathrm{A}}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{8(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$
(G) $\dfrac{3\sqrt{3}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{8N_{\mathrm{A}}(r_{\mathrm{M}}+2r_{\mathrm{Z}})^3}$ (H) $\dfrac{\sqrt{3}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{2N_{\mathrm{A}}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$ (I) $\dfrac{N_{\mathrm{A}}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{\sqrt{2}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$
(J) $\dfrac{\sqrt{2}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{4N_{\mathrm{A}}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$
(2) 金属であっても直径1 nm〜100 nm(nm= $10^{-9}$ m)程度のナノ粒子となると、金属の塊とは違う特徴を示す。金属ナノ粒子の一例として、コロナウイルスの簡易検査キット(陽性判定の可視化)などに用いられている金ナノ粒子がある。金ナノ粒子の水中での振る舞いについて考える。
典型的な金ナノ粒子の合成法として、テトラクロリド金(Ⅲ)酸( $\ce{HAuCl4}$ )を液中で還元する方法がある。沸騰させた $\ce{HAuCl4}$ 水溶液をかき混ぜながら、三価カルボン酸の塩であるクエン酸三ナトリウムの水溶液を加えると、無色透明な溶液から金ナノ粒子に由来する赤色溶液へと変化する。反応後の溶液に光を当てると、光の通路が明るく輝いて見える(a)。
金は水と比べ密度が非常に高い(19.3 g/cm³)にもかかわらず、この方法で合成した金ナノ粒子は水溶液中において沈むことなく分散する。これは、重力による沈降とつりあう作用(b)が働いているためである。また、金ナノ粒子が電離したクエン酸に覆われ、電荷を帯びることによって互いに反発することも、金ナノ粒子の分散に大きく関わっている。このため、金ナノ粒子の分散性は、溶液条件や金ナノ粒子を覆う分子の影響を大きく受ける(c)。
問4. 下線部(a)と同じ現象が見られるものを以下の(A)〜(E)のなかからすべて選んで記号を記入せよ。
(A) 硫酸銅(Ⅱ)水溶液 (B) スクロース水溶液 (C) 煙
(D) デンプン水溶液 (E) 塩化鉄(Ⅲ)水溶液
問5. 下線部(b)に関する以下の文章の空欄 $\boxed{\text{ケ}}$ と $\boxed{\text{コ}}$ に入る適切な語句を答えよ。
金ナノ粒子の水溶液に光を当てながら散乱光を顕微鏡で観察すると、粒子が不規則に運動する様子が見られる。これは、熱運動している $\boxed{\text{ケ}}$ が金ナノ粒子に不規則に衝突するためである。このようにして起こる粒子の不規則な運動を $\boxed{\text{コ}}$ 運動という。
問6. 下線部(c)に関して以下の問いに答えよ。
(i) 金ナノ粒子の水溶液に電解質を添加すると、凝集させることができる。本文中の方法によって合成された金ナノ粒子に対し、最も少ない物質量で凝集させることができる化合物を以下から選んで化学式で答えよ。
炭酸ナトリウム 硝酸カリウム リン酸三ナトリウム 硫酸アルミニウム 塩化マグネシウム
(ii) 合成した金ナノ粒子の水溶液にチオール基( $\ce{-SH}$ )をもつ分子を加えると、チオール基と金との強い結合によって金ナノ粒子を覆う分子を置き換えることができる。この方法で、チオール基をもつアミノ酸であるシステインで覆われた金ナノ粒子を作製した。pH の異なる水溶液 X と水溶液 Y 中で金ナノ粒子の電気泳動を行ったところ、水溶液 X 中では陰極の方へ移動したが、水溶液 Y 中ではいずれの電極側にも移動しなかった。水溶液 X と水溶液 Y の pH として適切なものを以下の(A)〜(C)のなかから選んで記号を記入せよ。ただし、金ナノ粒子の帯びる電荷は金ナノ粒子に結合したシステインのみで決まるものとし、その等電点は6.0とする(金ナノ粒子自体とチオール基の影響は無視する)。
(A) pH 2.0 (B) pH 6.0 (C) pH 10.0
解答の方針
【問1の方針】
体心立方格子・面心立方格子の基本の5項目(配位数・原子数・1辺と半径・充塡率・密度)を自分で導けるか。1辺と半径の関係は、原子どうしが接している面で切った断面図で決まる(下の図)。


- (ア)(イ) 光を反射する性質と、たたいて薄く広げられる性質の名前を答える。
- (ウ) 金属の性質のもとになる、結晶の中を動き回る電子の名前を答える。
- (エ)(オ) 本文の $a=2\sqrt2r$・原子数4 は面心立方格子の値なので、オを面心立方格子、エを体心立方格子と決める。
- (カ) 体心立方格子を斜めの面で切り、対角線 $\sqrt3a=4r$ から $a$ を $r$ で表す。
- (キ) 体心立方格子の単位格子の中の原子数を、位置ごとに数える。
- (ク) 面心立方格子の充塡率を、定義に原子数4と $a=2\sqrt2r$ を入れて求める。
【問2の方針】
体心立方格子から面心立方格子に変わっても、原子半径 $r$ は変わらない。2つの構造で変わらないものを先に決め、それぞれの1辺を同じ $r$ で表せば、体積の比は1辺の比の3乗になる。
- 体心立方格子の1辺を $a$、面心立方格子の1辺を $b$ とおき、問1 の切り口の式 $\sqrt3a=4r$・$\sqrt2b=4r$ を並べる。
- $r$ が共通なことから、1辺の比 $\dfrac ba$ を求める。
- 1辺の比を3乗して体積の比にし、最後に近似値を入れて有効数字2桁にする。
【問3の方針】
原子が2種類になっても、やることはいつもの体心立方格子と同じ。斜めの面で切ると、対角線の上で頂点の M と中心の Z が接している(下の図)。


- 単位格子の中の M と Z の数を、位置ごとに数える。
- 斜めの面で切った断面図の対角線から、 $\sqrt3a=2(r_{\mathrm M}+r_{\mathrm Z})$ で1辺 $a$ を半径で表す。
- 密度の定義に入れて整理し、選択肢と比べる。
【問4・問5の方針】
光の通路が輝いて見えるのは、コロイドの大きさの粒子が光を散乱するとき(チンダル現象)。選択肢は、粒子がコロイドの大きさかどうかだけで分けられる(下の図)。


- (問4) 5つの選択肢を、散らばっている粒子がイオン・ふつうの分子か、コロイド粒子かに分け、コロイドをすべて選ぶ。
- (ケ) 金ナノ粒子にぶつかる、熱運動している分散媒(水)の分子を答える。
- (コ) この不規則な運動の名前を答える。
【問6の方針】
凝析も電気泳動も、まず粒子の電荷の符号を決める。(i) は本文から粒子の電荷を読み取り、(ii) はシステインを1つのアミノ酸とみなして pH と等電点で電荷を決める(下の図)。




- (i) 電離したクエン酸(陰イオン)に覆われているので、金ナノ粒子は負に帯電していると決める。
- (i) 5つの化合物の陽イオンの価数を比べ、価数が最も大きい陽イオンを含む化合物を化学式で答える。
- (ii) システインは、等電点6.0 より酸性では正、等電点では0、塩基性では負に帯電すると押さえる。
- (ii) 陰極へ移動した X は正に帯電、どちらにも移動しない Y は電荷が0として、pH を選ぶ。
解答




解答をテキストで読む
問1
金属の結晶では、価電子が特定の原子にとどまらずに結晶全体を動き回っている(自由電子)。この自由電子が光を反射するので金属光沢があり、原子の位置がずれても自由電子が結合を保つので、たたくと薄く広がり(展性)、引っぱると延びる(延性)。「たたいて薄く広げる」は展性。
ウは、大学の標準解答例では (G) 価電子も正解になっている(金属では価電子が自由電子としてはたらくため)。
本文の $a=2\sqrt2r$・原子数4 は面心立方格子の値なので、オが面心立方格子、エが体心立方格子。
体心立方格子は、向かい合う2辺を通る斜めの面で切ると、1辺 $a$ と $\sqrt2a$ の長方形になり、対角線の上に原子が3個並んで接している(下の図)。対角線の長さ $\sqrt3a$ が半径4つ分なので
$$\sqrt3a=4r\qquad\therefore\ a=\dfrac{4}{\sqrt3}r=\dfrac43\sqrt3\,r$$
単位格子の中の原子数は、頂点が $\dfrac18$ 個分で8か所、中心が1個なので、 $\dfrac18\times8+1=2$ 個。
面心立方格子は手前の面で切ると、正方形の対角線の上に原子が3個並んで接し、 $\sqrt2a=4r$ 、つまり $a=2\sqrt2r$ (本文の式)。原子数は $\dfrac18\times8+\dfrac12\times6=4$ 個。充塡率は、単位格子の体積に占める原子の体積の割合なので
$$\dfrac{\dfrac43\pi r^3\times4}{a^3}=\dfrac{\dfrac{16}{3}\pi r^3}{(2\sqrt2r)^3}=\dfrac{\dfrac{16}{3}\pi r^3}{16\sqrt2r^3}=\dfrac{\pi}{3\sqrt2}=\dfrac{\sqrt2\pi}{6}$$
答(ア) (H) 金属光沢(1点)
答(イ) (F) 展性(1点)
答(ウ) (R) 自由電子((G) 価電子も正解)(1点)
答(エ) (M) 体心立方格子(1点)
答(オ) (S) 面心立方格子(1点)
答(カ) (N) $\dfrac43\sqrt3$(1点)
答(キ) (W) 2(1点)
答(ク) (B) $\dfrac{\sqrt2\pi}{6}$(1点)
問2
体心立方格子の1辺を $a$、面心立方格子の1辺を $b$ とする。温度を上げて構造が変わっても、原子半径 $r$ は変わらない(問題文の仮定)。最も近い原子どうしが接しているので、問1 の切り口の式がそのまま使える(問1 の図)。
$$\text{体心立方格子}\quad\sqrt3a=4r,\qquad\text{面心立方格子}\quad\sqrt2b=4r$$
$r$ が共通なので $\sqrt3a=\sqrt2b$ 、1辺の比は $\dfrac ba=\dfrac{\sqrt3}{\sqrt2}$ 。体積は1辺の3乗なので、体心立方格子の体積を1としたときの面心立方格子の体積は
$$\dfrac{b^3}{a^3}=\left(\dfrac{\sqrt3}{\sqrt2}\right)^3=\dfrac{3\sqrt3}{2\sqrt2}=\dfrac{3\sqrt6}{4}=\dfrac{3\times1.4\times1.7}{4}=1.785\fallingdotseq1.8$$
$\sqrt6$ を $2.45$ として計算しても $1.84$ で、同じく1.8。
一方、問1 の $a=\dfrac43\sqrt3\,r$ に先に $\sqrt3=1.7$ を入れて $a=2.27r$ とし、それぞれを3乗してから割ると $\dfrac{(2\times1.4)^3}{2.27^3}=1.88$ で、1.9 になる。近似値を入れる順番で値が変わるので、大学の標準解答例は1.9 も正解にしている。近似値は、文字のまま式を整理してから最後に入れる。
答 1.8(近似値を入れる順番によっては1.9も正解)(5点)
問3
単位格子の中の原子は、頂点の M が $\dfrac18\times8=1$ 個、中心の Z が1個。
斜めの面で切ると、対角線の上に M・Z・M が並び、M と Z が接している(下の図)。対角線 $\sqrt3a$ は、両端の M の半径1つずつと、Z の直径1つ分なので
$$\sqrt3a=2r_{\mathrm M}+2r_{\mathrm Z}=2(r_{\mathrm M}+r_{\mathrm Z})\qquad\therefore\ a=\dfrac{2}{\sqrt3}(r_{\mathrm M}+r_{\mathrm Z}),\quad a^3=\dfrac{8(r_{\mathrm M}+r_{\mathrm Z})^3}{3\sqrt3}$$
1個あたりの質量は、原子量をアボガドロ定数で割ったもの。密度は「1個あたりの質量×個数」を単位格子の体積で割る。
$$\dfrac{\dfrac{A_{\mathrm M}}{N_{\mathrm A}}\times1+\dfrac{A_{\mathrm Z}}{N_{\mathrm A}}\times1}{a^3}=\dfrac{A_{\mathrm M}+A_{\mathrm Z}}{N_{\mathrm A}}\times\dfrac{3\sqrt3}{8(r_{\mathrm M}+r_{\mathrm Z})^3}=\dfrac{3\sqrt3(A_{\mathrm M}+A_{\mathrm Z})}{8N_{\mathrm A}(r_{\mathrm M}+r_{\mathrm Z})^3}$$
(G) は、対角線を $2(r_{\mathrm M}+2r_{\mathrm Z})$ としたときの式。中心の Z は1個で、対角線に乗るのは直径 $2r_{\mathrm Z}$ だけ。 $N_{\mathrm A}$ が分子にある (B)(C)(D)(F)(I) は、1個あたりの質量を $A\times N_{\mathrm A}$ とした式で、誤り。
答 (A) $\dfrac{3\sqrt{3}(A_{\mathrm{M}}+A_{\mathrm{Z}})}{8N_{\mathrm{A}}(r_{\mathrm{M}}+r_{\mathrm{Z}})^3}$(4点)
問4
下線部(a)はチンダル現象。直径1〜100 nm 程度のコロイド粒子は光を散乱するので、横から見ると光の通路が明るく輝く。イオンやふつうの分子は小さすぎて、光をほとんど散乱しない(下の図)。
・(A) 硫酸銅(Ⅱ)水溶液:$\ce{Cu^2+}$ と $\ce{SO4^2-}$ が溶けた、ふつうの溶液。チンダル現象は見られない
・(B) スクロース水溶液:スクロースの分子が溶けた、ふつうの溶液。チンダル現象は見られない
・(C) 煙:空気の中に細かい固体の粒子が散らばったコロイド(分散媒が気体)。チンダル現象が見られる
・(D) デンプン水溶液:デンプンは分子1個がコロイドの大きさになる高分子(分子コロイド)。チンダル現象が見られる
・(E) 塩化鉄(Ⅲ)水溶液:$\ce{Fe^3+}$ と $\ce{Cl-}$ が溶けた、ふつうの溶液。沸騰水に加えると水酸化鉄(Ⅲ)のコロイドができるが、塩化鉄(Ⅲ)水溶液そのものはコロイドではない
答 (C)・(D)(3点)
問5
限外顕微鏡(横から強い光を当てる顕微鏡)で見ると、コロイド粒子は光る点として見え、不規則に動いている。これは、熱運動している分散媒の分子(ここでは水分子)が、四方八方から不規則にぶつかるからで、この運動をブラウン運動という。金でできた重い粒子でも沈まないのは、このブラウン運動が重力による沈降とつりあうから(下線部(b))。
答(ケ) 水分子(分散媒分子)(2点)
答(コ) ブラウン(1点)
問6
(i) 本文に「金ナノ粒子が電離したクエン酸に覆われ、電荷を帯びる」とある。クエン酸は3価のカルボン酸で、電離すると $\ce{-COO-}$ をもつ陰イオンになるので、金ナノ粒子は負に帯電している。負に帯電した粒子どうしは反発して分散しているので、反対の電荷(正)のイオンを加えると電荷が打ち消され、粒子が集まって沈む(凝析)。反対の電荷のイオンは、価数が大きいほど少ない量で凝析させる(下の図)。
5つの化合物の陽イオンは、 $\ce{Na+}$ (炭酸ナトリウム・リン酸三ナトリウム)、 $\ce{K+}$ (硝酸カリウム)、 $\ce{Al^3+}$ (硫酸アルミニウム)、 $\ce{Mg^2+}$ (塩化マグネシウム)。価数が最も大きい $\ce{Al^3+}$ を含む硫酸アルミニウムが、最も少ない物質量で凝析させる(1 mol から $\ce{Al^3+}$ が2 mol 生じることも有利にはたらく)。リン酸三ナトリウムは価数の大きい陰イオン $\ce{PO4^3-}$ を含むが、陰イオンが効くのは、水酸化鉄(Ⅲ)のコロイドのように正に帯電した粒子のとき。
答 $\ce{Al2(SO4)3}$(5点)
(ii) 金ナノ粒子の電荷はシステインだけで決まるので、システイン1分子の電荷で考える。アミノ酸は、pH が等電点より小さい(酸性)と $\ce{-NH3+}$ と $\ce{-COOH}$ の形が多くなって全体が正、等電点では全体の電荷が0、等電点より大きい(塩基性)と $\ce{-NH2}$ と $\ce{-COO-}$ の形が多くなって全体が負になる(下の図)。
陰極へ移動した X は正に帯電しているので、等電点6.0 より酸性の pH 2.0。どちらにも移動しない Y は全体の電荷が0なので、等電点の pH 6.0。pH 10.0 では負に帯電して陽極へ移動する。
答(水溶液 X) (A) pH 2.0(1点)
答(水溶液 Y) (B) pH 6.0(1点)
別解
問2 (それぞれの体積を $r$ で表してから割る)体心立方格子は $a=\dfrac{4}{\sqrt3}r$ 、面心立方格子は $b=2\sqrt2r$ なので、体積はそれぞれ $a^3=\dfrac{64}{3\sqrt3}r^3$ 、 $b^3=16\sqrt2r^3$ 。比をとると $\dfrac{b^3}{a^3}=\dfrac{16\sqrt2\times3\sqrt3}{64}=\dfrac{3\sqrt6}{4}\fallingdotseq1.8$ で、本解と同じ。ただし、途中で $\sqrt3$ に近似値を入れると1.9 になるので、近似値は最後に入れる。
出題意図
問1 金属の性質を自由電子と結びつけて答え、体心立方格子・面心立方格子の1辺と半径の関係・原子数・充塡率を自分で導けるか
問2 構造が変わっても原子半径は変わらないことに注目し、2つの単位格子の1辺を同じ $r$ で表して体積の比を求められるか
問3 頂点と中心に違う原子がある体心立方格子でも、原子が接している面で切って1辺と半径の関係を立て、密度の定義から式を組み立てられるか
問4・問5 チンダル現象とブラウン運動を、コロイド粒子の大きさと分散媒の分子の熱運動で説明できるか
問6 本文から金ナノ粒子の電荷の符号を読み取り、凝析させやすいイオンと、システインで覆った粒子の電気泳動の向きを、アミノ酸の等電点の考え方で判断できるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 25点 | 15点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
配点が30点と2025年で一番大きい大問だが、中身は結晶格子の基本の5項目とコロイドの知識。
体心立方格子・面心立方格子の5項目を白紙から導けて、重要問題集のコロイドの問題が完璧なら満点も狙える。
差がつくのは、構造が変わっても半径は変わらないと気づく問2、合金の単位格子を体心立方格子と同じに切る問3、本文から粒子の電荷を読み取る問6 (i)。
凝析と電気泳動は「まず電荷の符号を決める」と言い切って解くこと。
差がつく所・失点しやすい所
- 問6 (i):本文の「電離したクエン酸に覆われ」から金ナノ粒子が負に帯電していると読み取り、反対の電荷で価数の大きい $\ce{Al^3+}$ を選ぶ、という発想に行き着けるか。電荷の符号を決めずに価数だけを見ると、価数の大きい陰イオンを含むリン酸三ナトリウムを選んでしまう。
- 問2:構造が変わっても原子半径は変わらないことに注目して、2つの1辺を同じ $r$ で表せるか。重要問題集には無い型で、近似値を入れる順番でも値が揺れる。
- 問3:頂点と中心に違う原子がある合金の単位格子を、見慣れた体心立方格子と同じ斜めの面で切って考えられるか。設定が見慣れないので、解きにくい。
コラム 金ナノ粒子で「陽性」が赤く見える ― 検査キットのしくみ
問題文(2)の冒頭にある「コロナウイルスの簡易検査キット(陽性判定の可視化)」は、イムノクロマト法と呼ばれる検査で、金ナノ粒子のコロイドがそのまま使われている。


- なぜ赤いのか:金の塊は金色だが、直径数十 nm の金ナノ粒子が水に散らばると赤く見える。粒子の表面の自由電子がまとめて揺れ、緑のあたりの光を強く吸収するためで、問1 の自由電子がここでも主役になっている。問題文の「無色透明な溶液から赤色溶液へ」は、金ナノ粒子ができたしるし。
- 検査キットのしくみ:検体を落とす所の先に、ウイルスに結びつく抗体を付けた金ナノ粒子が置かれている。検体は細長い膜の中を毛細管現象で流れ、ウイルスがあると、金ナノ粒子はウイルスと結びついたまま流れていく。テストラインには別の抗体が固定されていて、ウイルスをはさんで金ナノ粒子がそこに集まり、赤い線として見える。コントロールラインは、金ナノ粒子に付けた抗体そのものをとらえる線で、液がきちんと流れたことを確かめるためのもの。
- なぜ途中で沈まないのか:金ナノ粒子が液の中で沈まずに散らばっていられるのは、問5 のブラウン運動と、表面の電荷どうしの反発のため。電荷が打ち消されると凝析してしまうのは、問6 (i) と同じ話。
入試のコロイドの知識は、身近な検査キットの中でそのまま使われている。チンダル現象・ブラウン運動・凝析を用語の暗記ではなく「粒子の大きさと電荷で何が起きるか」で押さえておけば、初めて見る題材でも解ける。
2025年九州大学化学
第2問 解答・解説
第2問は理論化学(酸化・還元と電池・電気分解)・無機化学の問題です。
テーマは『電池の起電力の計算』『電気分解の計算』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章(1)と(2)を読み、問1〜問5に答えよ。
(1) 燃料電池は、水素と酸素の反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができる装置である。電極には多孔性の白金電極が用いられており、負極では水素の $\boxed{\text{ア}}$ 反応、正極では酸素の $\boxed{\text{イ}}$ 反応が進行し、放電によって水が生成する。一方、希硫酸の電気分解では、電気エネルギーを化学エネルギーに変換することができる。電極には白金電極が用いられ、陰極では水素イオンの $\boxed{\text{イ}}$ 反応、陽極では水の $\boxed{\text{ア}}$ 反応が進行し、燃料電池の放電時とは逆の反応が起きる。燃料電池の放電が自発的に進行するのに対し、希硫酸から水素と酸素が自発的に生成しないのは、この反応が $\boxed{\text{ウ}}$ 反応であるためである。
問1. 文章(1)の空欄 $\boxed{\text{ア}}$ 〜 $\boxed{\text{ウ}}$ に入る適切な語句を答えよ。
問2. 燃料電池の理論的な起電力〔V〕を小数点以下2桁で答えよ。なお、各反応の標準電極電位の値は以下の通りである。
$\ce{4H+ + 4e- -> 2H2}$ 0.00 V
$\ce{2O2 + 4H+ + 4e- -> 2H2O2}$ +0.70 V
$\ce{O2 + 4H+ + 4e- -> 2H2O}$ +1.23 V
$\ce{2H2O2 + 4H+ + 4e- -> 4H2O}$ +1.76 V
問3. 希硫酸の電気分解の反応 $\ce{2H2O -> 2H2 + O2}$ におけるエネルギー変化 $\Delta E$〔J〕は、電気量 $Q$〔C〕と各電極で起きる反応の標準電極電位の差 $\Delta V$〔V〕の積から求めることができる。この反応のエネルギー変化〔kJ〕を有効数字3桁で答えよ。
(2) クロムは空気中で不動態を作るため、鉄や鋼製品のめっきに広く用いられている。クロムめっきは、酸化クロム水溶液を電気分解する電気めっき法によって作られている。酸化クロムを用いた電気めっき法では、陰極に鉄、陽極に白金を用い、酸化クロムを溶かした希硫酸をよくかき混ぜながら電気分解する。このとき、陰極ではクロムが析出し、気体も発生する。一方、陽極では気体が発生する。
問4. 酸化クロム( $\ce{CrO3}$ )は以下の式①〜⑤のように反応する。空欄 $\boxed{\text{エ}}$ 〜 $\boxed{\text{カ}}$ に入る適切な化学式を答えよ。
$\ce{CrO3 + H2O ->}$ $\boxed{\text{エ}}$ + $\ce{2H+}$ ①
2 $\boxed{\text{エ}}$ + $\ce{2H+ ->}$ $\boxed{\text{オ}}$ + $\ce{H2O}$ ②
陰極
$\boxed{\text{オ}}$ + $\ce{14H+ + 6e- ->}$ 2 $\boxed{\text{カ}}$ + $\ce{7H2O}$ ③
$\boxed{\text{カ}}$ + $\ce{3e- -> Cr}$ ④
陽極
$\boxed{\text{カ}}$ $\ce{-> Cr^6+ + 3e-}$ ⑤
問5. 陽極に流れた電気量のうち、 $\dfrac{3}{4}$ が気体の生成に消費されて標準状態(0℃、 $1.013\times10^5$ Pa)において20.2 L の気体が発生し、 $\dfrac{1}{4}$ が式⑤の反応に消費されたとする。また、陰極に流れた電気量のうち、 $\dfrac{1}{3}$ が気体の生成に消費され、 $\dfrac{1}{2}$ が式③の反応に消費され、 $\dfrac{1}{6}$ が式④の反応に消費されたとする。このとき、陰極で析出するクロムの質量〔g〕を有効数字2桁で答えよ。ただし、生成した気体は全て理想気体とみなし、希硫酸には溶けないとする。
解答の方針
【問1の方針】
電子を放出する反応が酸化、受け取る反応が還元。電池の負極と電気分解の陽極が電子を放出する。水の電気分解は、燃料電池の放電の逆向き(下の図)。


- 燃料電池の負極と正極の反応を書き、電子を放出するか受け取るかで ア・イ を決める。
- 電気分解の陽極と陰極の反応を書き、燃料電池と逆向きになっていることを確かめる。
- 水素の燃焼は発熱反応なので、逆向きの水の分解は吸熱反応と決める(ウ)。
【問2の方針】
電池の起電力は、正極と負極の反応の標準電極電位の差。表の4本のうち、燃料電池で起こるのは水素の反応と、酸素が水になる反応の2本だけ(下の図)。


- 問1 の燃料電池の負極・正極の反応に当たる式を、表から選ぶ(過酸化水素が出てくる2本は使わない)。
- 正極の標準電極電位から負極の標準電極電位を引いて、起電力を求める。
【問3の方針】
電気量は、流れた電子の物質量にファラデー定数をかけたもの。水2 mol を分解するとき電子が何 mol 動くかを電極反応から数え、電位差は問2 の値を使う(下の図)。


- 陽極と陰極の反応式の電子の数をそろえて足し、水2 mol の分解で動く電子の物質量を求める。
- 電子の物質量にファラデー定数をかけて、電気量 $Q$ を求める。
- $\Delta E=Q\times\Delta V$ に $\Delta V=1.23$ V を入れ、J を kJ に直す。
【問4の方針】
初めて見る反応式でも、空欄の化学式は左右で原子の数と電荷がそろうように決まる。クロムの酸化数を追えば、どこで還元されるかが見える(下の図)。


- 式① は右辺に $\ce{2H+}$ があるので、エは水素を含まない。Cr と O の数と電荷のつりあいから、エを決める。
- 式② で、エ2個に $\ce{2H+}$ が加わって $\ce{H2O}$ が抜けるので、Cr と O の数と電荷のつりあいから、オを決める。
- 式③ は二クロム酸イオンが電子6個を受け取る反応なので、Cr の酸化数が +6 から +3 に下がる。これと式④・⑤の電荷から、カを決める。
【問5の方針】
電気分解の計算は、まず電子の物質量を求める。陽極と陰極に流れる電気量は同じで、クロムが析出するのは陰極の電気量のうち式④に使われた分だけ(下の図)。


- 陽極は白金で溶けず、ハロゲン化物イオンも無いので、水が反応して酸素が発生する。陰極で発生する気体は水素。
- 発生した酸素の物質量の4倍が、陽極に流れた電子の $\dfrac34$ に当たる。これから全体の電子の物質量を求める。
- 陰極にも同じ物質量の電子が流れ、その $\dfrac16$ が式④に使われる。式④の係数から析出する Cr の物質量を求め、質量に直す。
解答




解答をテキストで読む
問1
燃料電池の負極では、水素が電子を放出して水素イオンになる。電子を放出するので酸化。正極では、酸素が電子を受け取って水になる。電子を受け取るので還元。
$$\text{負極}\quad\ce{H2 -> 2H+ + 2e-}\qquad\text{正極}\quad\ce{O2 + 4H+ + 4e- -> 2H2O}$$
希硫酸の電気分解では、陽極は白金なので溶けず、ハロゲン化物イオンも無いので水が反応する。陰極は銀イオンも銅(Ⅱ)イオンも無いので水素イオンが反応する。
$$\text{陽極}\quad\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}\qquad\text{陰極}\quad\ce{2H+ + 2e- -> H2}$$
陽極は電子を放出するので水の酸化、陰極は電子を受け取るので水素イオンの還元で、どちらも燃料電池の電極反応の逆向きになっている(下の図)。
全体の反応は、燃料電池が $\ce{2H2 + O2 -> 2H2O}$ 、電気分解が $\ce{2H2O -> 2H2 + O2}$ で、ちょうど逆向き。水素の燃焼は反応エンタルピーが負の発熱反応なので、向きが逆の水の分解は反応エンタルピーが正の吸熱反応になる。吸熱の大きい水の分解は自然には進まないので、電気エネルギーを加えて進める(反応が自然に進むかには乱雑さも関わるが、水の分解では吸熱の効果のほうがはるかに大きい)。
答(ア) 酸化(1点)
答(イ) 還元(1点)
答(ウ) 吸熱(1点)
問2
標準電極電位は、電子を受け取る向きに書いた反応の進みやすさを表し、値が大きいほど電子を受け取りやすい。電池では、電子を受け取りやすい反応が正極で進み、受け取りにくい反応が逆向きに(電子を放出する向きに)負極で進む。起電力はその差になる。
燃料電池で起こる反応は、問1 の2本。
・負極: $\ce{H2 -> 2H+ + 2e-}$ は、表の $\ce{4H+ + 4e- -> 2H2}$ (0.00 V)が逆向きに進むもの
・正極: $\ce{O2 + 4H+ + 4e- -> 2H2O}$ (+1.23 V)
過酸化水素が出てくる2本(+0.70 V・+1.76 V)は、燃料電池の反応には出てこない(下の図)。
$$1.23-0.00=1.23\ \mathrm{V}$$
答 1.23 V(5点)
問3
陽極と陰極の反応式を、電子の数をそろえて並べる(陰極の式を2倍する)。
$$\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}\qquad\ce{4H+ + 4e- -> 2H2}$$
2本を足すと $\ce{4H+}$ と $\ce{4e-}$ が消えて $\ce{2H2O -> 2H2 + O2}$ になる。水2 mol を分解するとき、電子は4 mol 動く(下の図)。
電気量は電子の物質量×ファラデー定数なので
$$Q=4\times9.65\times10^4=3.86\times10^5\ \mathrm{C}$$
電位差は、問2 と同じ2本の反応の標準電極電位の差で $\Delta V=1.23-0.00=1.23$ V。
$$\Delta E=Q\times\Delta V=3.86\times10^5\times1.23=4.7478\times10^5\ \mathrm{J}\fallingdotseq475\ \mathrm{kJ}$$
水1 mol あたりでは約237 kJ で、燃料電池で水素1 mol から水1 mol ができるとき、理論上取り出せる電気エネルギーと同じ大きさである。
答 475 kJ(5点)
問4
式① 右辺に $\ce{2H+}$ があるので、エには H が残らない。左辺の Cr 1個と O 4個( $\ce{CrO3}$ の3個と $\ce{H2O}$ の1個)がエに入り、電荷は左辺の0から $\ce{2H+}$ の $2+$ を除いた $2-$ 。よってエはクロム酸イオン $\ce{CrO4^2-}$ 。酸化クロム(Ⅵ)は金属の酸化物だが、水と反応して酸を生じる酸性酸化物である(クロムのように大きな酸化数をもつ金属の酸化物に見られる)。
$$\ce{CrO3 + H2O -> CrO4^2- + 2H+}\qquad\text{①}$$
式② エ2個(Cr 2個・O 8個・電荷 $4-$ )に $\ce{2H+}$ が加わり、 $\ce{H2O}$ が1個抜ける。残りは Cr 2個・O 7個・電荷 $2-$ なので、オは二クロム酸イオン $\ce{Cr2O7^2-}$ 。酸性にすると黄色のクロム酸イオンが赤橙色の二クロム酸イオンに変わる平衡で、Cr の酸化数はどちらも +6 のまま(酸化還元反応ではない)。
$$\ce{2CrO4^2- + 2H+ -> Cr2O7^2- + H2O}\qquad\text{②}$$
式③ 酸化ラダーより、二クロム酸イオン(+6)は電子を受け取ってクロム(Ⅲ)イオン(+3)になる。Cr 2個がそれぞれ3ずつ下がるので電子6個。電荷も左辺 $-2+14-6=+6$ 、右辺 $2\times(+3)=+6$ でそろう。よってカは $\ce{Cr^3+}$ 。
$$\ce{Cr2O7^2- + 14H+ + 6e- -> 2Cr^3+ + 7H2O}\qquad\text{③}$$
式④ $\ce{Cr^3+ + 3e- -> Cr}$ 、式⑤ $\ce{Cr^3+ -> Cr^6+ + 3e-}$ も、カが $\ce{Cr^3+}$ なら電荷と電子の数がそろう。陰極では式③・④で +6 → +3 → 0 と下がってクロムが析出し、陽極では式⑤で +3 の一部が +6 に戻される(下の図)。
クロムのイオンは、酸化数と色をセットで押さえておく。クロム酸イオン $\ce{CrO4^2-}$ は黄色、二クロム酸イオン $\ce{Cr2O7^2-}$ は赤橙色で、どちらも +6。クロム(Ⅲ)イオン $\ce{Cr^3+}$ は緑色で +3。二クロム酸イオンは酸性で強い酸化剤として働き、緑色の $\ce{Cr^3+}$ になる(式③)。
答(エ) $\ce{CrO4^2-}$(2点)
答(オ) $\ce{Cr2O7^2-}$(2点)
答(カ) $\ce{Cr^3+}$(2点)
問5
まず電極反応を書く。陽極は白金で溶けず、ハロゲン化物イオンも無いので、水が反応して酸素が発生する(酸性なのでそのままの式)。陰極で発生する気体は、水素イオンが還元されてできる水素。
・陽極: $\ce{2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-}$ に電気量の $\dfrac34$ 、式⑤に $\dfrac14$
・陰極: $\ce{2H+ + 2e- -> H2}$ に $\dfrac13$ 、式③に $\dfrac12$ 、式④に $\dfrac16$
次に、電子の物質量を求める。発生した酸素は
$$\frac{20.2}{22.4}\fallingdotseq0.902\ \mathrm{mol}$$
酸素1 mol あたり電子は4 mol なので、酸素の発生に使われた電子は $0.902\times4\fallingdotseq3.61$ mol。これが陽極に流れた電子の $\dfrac34$ に当たるので、全体の電子は
$$3.61\times\frac43\fallingdotseq4.81\ \mathrm{mol}$$
陽極で放出された電子は導線を通ってそのまま陰極に届くので、陰極に流れる電子も4.81 mol(下の図)。
そのうち $\dfrac16$ が式④に使われる。式③の $\dfrac12$ は $\ce{Cr2O7^2-}$ を $\ce{Cr^3+}$ にするだけで、クロムは析出しない。
$$4.81\times\frac16\fallingdotseq0.802\ \mathrm{mol}\quad(\text{式④の電子})$$
式④より、Cr 1 mol あたり電子は3 mol なので
$$0.802\times\frac13\fallingdotseq0.267\ \mathrm{mol}\quad(\text{析出した Cr})$$
$$0.267\times52.0\fallingdotseq13.9\ \mathrm{g}$$
答 14 g(6点)
別解
問5 (電子を1 mol と置いて係数をたどる)全体の電子を1 mol と置くと、酸素は $1\times\dfrac34\times\dfrac14=\dfrac{3}{16}$ mol、析出する Cr は $1\times\dfrac16\times\dfrac13=\dfrac{1}{18}$ mol。よって Cr の物質量は酸素の $\dfrac{1}{18}\div\dfrac{3}{16}=\dfrac{8}{27}$ 倍で、 $\dfrac{20.2}{22.4}\times\dfrac{8}{27}\times52.0\fallingdotseq13.9$ g。本解と同じ14 g。
出題意図
問1 燃料電池の放電と水の電気分解が逆向きの反応であることを、電極ごとの酸化・還元と、反応エンタルピーの符号でとらえることができるか
問2 標準電極電位の表から燃料電池の正極と負極の反応を選び、その差を起電力として求めることができるか
問3 水の分解で動く電子の物質量を電極反応から数え、電気量と電位差の積でエネルギー変化を求めることができるか
問4 初めて見るクロムめっきの反応式を、原子の数と電荷のつりあい、クロムの酸化数で完成させることができるか
問5 陽極で発生した気体から全体の電気量を求め、陰極の電気量のうちクロムの析出に使われた分だけを取り出すことができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 25点 | 20点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
前半の燃料電池は基本なので、ここは必ず解き切りたい。
負極・陽極で電子を放出し、正極・陰極で電子を受け取る、という電極反応が書ければ、初めて見る標準電極電位も表から2本を選んで差をとるだけ。
後半のクロムめっきは初めて見る反応で解きにくい。
原子の数と電荷のつりあい、電子の物質量からたどる、という決まった流れで落ち着いて解こう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2・問3:表の4本から燃料電池の正極と負極の反応を選び、その差を起電力とする発想に行き着けるか。標準電極電位は重要問題集にも載っておらず、初めて見た受験生が多い。問3 は問2 の 1.23 V を使うので、ここでつまずくと2問を続けて落とす。
- 問5:陽極の $\dfrac34$ から全体の電子の物質量を求め、陰極ではクロムが析出する式④の $\dfrac16$ だけを使う、という電気量の配分を読み取れるか。電気分解の量計算そのものは典型問題だが、分数が5つ並ぶので読み違えやすい。
コラム 燃料電池はなぜ効率がよいのか
問3 で求めた475 kJ は、水2 mol を電気で分解するのに必要なエネルギーだった。逆に、燃料電池で水素と酸素から水をつくると、理論上は同じ大きさのエネルギー(水1 mol あたり約237 kJ)を電気として取り出せる。これを、水素を燃やしたときの熱と比べてみる。


- 燃やすと、すべて熱になる:水素1 mol を燃やして液体の水にすると、286 kJ の熱が出る(水素の燃焼エンタルピーは $-286$ kJ/mol)。この熱で湯をわかしてタービンを回し、電気にする方法では、熱の一部を必ず外に捨てなければならないので、電気になるのはさらに少ない。
- 燃料電池は、電子の受け渡しを直接電流にする:燃料電池は熱を経由せず、負極の水素が放出した電子を、導線を通して正極の酸素に渡す。その電子の流れがそのまま電流になる。理論上は286 kJ のうち237 kJ(約83%)を電気にでき、残りの約49 kJ だけが熱になる。実際の電池では電圧が下がるので割合はもっと小さく、重要問題集の燃料電池の問題では、平均電圧0.800 V で燃焼の熱の54.0%になる。
- 家庭用の燃料電池は、熱も使う:都市ガスから取り出した水素で発電する家庭用の燃料電池は、発電に回せるのは方式によっておよそ4〜5割だが、出てくる熱でお湯をわかすので、電気と熱を合わせると9割前後のエネルギーを使える。
問3 の「電気量×電位差」は、電池からどれだけの電気エネルギーを取り出せるかを表す式でもある。電池・電気分解の計算は、エネルギーがどこへ行くかとセットで押さえておくと忘れにくい。
2025年九州大学化学
第3問 解答・解説
第3問は無機化学・理論化学の問題です。
テーマは『肥料の化学』『工業的製法の量的計算』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章を読み、問1〜問4に答えよ。
窒素、リン酸(a)、カリウム(b)は肥料の三大要素である。窒素は、空気から分離することによって得られ、資源としては無尽蔵に存在しているといえる。しかし、空気中の窒素をそのまま肥料として利用することはできない。窒素を生物が利用可能な窒素化合物に変換するプロセスを窒素固定という。マメ科植物は、その根に共生するバクテリアの働きによって窒素固定を行っている。また、雷による窒素固定も知られている。雷による空中放電によって、空気中の窒素と酸素が反応して、窒素酸化物(c)が生成し、それが雨に溶けて地上に降り注ぎ、植物の栄養源となる。
一方、人類は工業的に窒素の窒素化合物への変換を行っている。ハーバー・ボッシュ法を用いて窒素と水素を反応させることでアンモニアを合成することができる。オストワルト法を用いるとアンモニアから硝酸が得られる。これらのアンモニアや硝酸を得るための一連の工業プロセスは20世紀初頭にドイツの化学者たちによって確立された。それにより、化学肥料の大量生産が可能となり、農業生産性が飛躍的に向上した。しかしながら、化学肥料の使用には環境への影響の観点から多くの課題が残されている(d)。
問1. 下線部(a)に関して、リン酸肥料について述べた次の文章中の空欄 $\boxed{\text{ア}}$ と $\boxed{\text{イ}}$ に入る適切な化学式を以下の(A)〜(P)のなかからひとつずつ選んで記号を記入せよ。
リン鉱石は $\boxed{\text{ア}}$ を主成分とし、水に不溶であるため、それをそのまま肥料として用いることはできない。そこで、それを硫酸と反応させて得られる $\boxed{\text{イ}}$ と硫酸カルシウムの混合物である過リン酸石灰が肥料として用いられる。
(A) $\ce{P3O4}$ (B) $\ce{Ca3P2}$ (C) $\ce{Ca(HPO)3}$ (D) $\ce{Ca2PO4}$
(E) $\ce{Ca2HPO3}$ (F) $\ce{HPO2}$ (G) $\ce{H3PO4}$ (H) $\ce{Ca3(H2PO3)2}$
(I) $\ce{Ca(H3PO)2}$ (J) $\ce{P2O5}$ (K) $\ce{Ca3(PO4)2}$ (L) $\ce{Ca3(HPO2)2}$
(M) $\ce{Ca2HPO4}$ (N) $\ce{Ca2PO3}$ (O) $\ce{Ca(H2PO4)2}$ (P) $\ce{Ca(HP2O)2}$
問2. 下線部(b)に関して、主要なカリウム肥料として、塩化カリウムが知られている。これは、塩化カリウムと塩化ナトリウムの混合物であるシルビナイトという鉱物を熱水に溶解し、その飽和水溶液を冷却して析出させることで得られる。この溶解の過程について述べた次の文章中の空欄 $\boxed{\text{ウ}}$ 〜 $\boxed{\text{オ}}$ に入る適切な語句を答えよ。
室温における塩化カリウムと塩化ナトリウムの $\boxed{\text{ウ}}$ はそれぞれ $+17.2$ kJ/mol および $+3.88$ kJ/mol である。これは、これらの物質の溶解が、エネルギーの高い状態への変化であることを示しており、それは溶解を妨げる駆動力となる。しかし、溶解によって、構成粒子のイオンが規則正しく配列した状態から、水中に分散した状態へと変化することにより $\boxed{\text{エ}}$ が大きな状態になろうとする駆動力が上回るため、溶解が自発的に進行する。粒子の $\boxed{\text{エ}}$ の度合いは、 $\boxed{\text{オ}}$ と呼ばれる量で表される。 $\boxed{\text{オ}}$ の影響は、温度が高いほど大きくなる。
問3. 下線部(c)に関して、刺激臭のある赤褐色の気体で、水に溶けやすい性質をもち、奇数個の電子を有する窒素酸化物の分子式およびその窒素酸化物における窒素原子の酸化数を答えよ。
問4. 下線部(d)に関して、化学肥料の生産および使用における環境負荷軽減技術の開発が進められている。生産時の環境負荷軽減策として、再生可能エネルギーを利用した水の電気分解による水素の製造があげられる。ここで、5.0 A の電流を1930秒間流して、水を電気分解して得られた水素を用いて、ハーバー・ボッシュ法でアンモニアを合成したとする。そのアンモニアを用いて、オストワルト法で硝酸を合成した場合、理論上硝酸は最大何 g 得られるか、有効数字2桁で答えよ。ただし、水、およびハーバー・ボッシュ法やオストワルト法で必要となる窒素や酸素は無尽蔵に供給されるものとする。
解答の方針
【問1の方針】
リン酸のイオンは $\ce{H+}$ を受け取るほど電荷が小さくなり、カルシウムの塩は水に溶けやすくなる(下の図)。リン鉱石は一番左の水に溶けない塩、過リン酸石灰は硫酸から $\ce{H+}$ を受け取った一番右の塩。


- リン鉱石の主成分を、水に溶けないリン酸カルシウム $\ce{Ca3(PO4)2}$ と決める(ア)。
- 硫酸との反応式を書き、水に溶けるリン酸二水素カルシウム $\ce{Ca(H2PO4)2}$ と硫酸カルシウムができることを確かめる(イ)。
- 選んだ化学式が、 $\ce{Ca^2+}$ とリン酸のイオンの電荷のつりあいを満たしているかを確かめる。
【問2の方針】
変化が自然に進むかは、エンタルピーが下がる効果と、乱雑さが大きくなる効果の兼ね合いで決まる。塩化カリウムの溶解は吸熱だが、後者が上回る(下の図)。


- 単位が kJ/mol で、物質1 mol を水に溶かすときの値なので、ウは溶解エンタルピー。正の値は吸熱(溶かした後の方が上)。
- 規則正しい配列から水中に散らばる変化で大きくなるものを、エ(乱雑さ)と答える。
- 乱雑さの度合いを表す量の名前を、オ(エントロピー)と答える。
【問3の方針】
窒素酸化物で赤褐色・刺激臭をもつのは $\ce{NO2}$ だけ。電子の数は窒素7個と酸素8個ずつを足せば数えられる(下の図)。


- 赤褐色・刺激臭・水に溶けやすいことから $\ce{NO2}$ と決める。
- 電子の数 $7+8\times2=23$ が奇数であることを確かめる。
- 酸素を $-2$ として、化合物全体の電荷0から窒素の酸化数を求める。
【問4の方針】
電気分解の問題は、まず電子の物質量を求める。あとは電子 → 水素 → アンモニア → 硝酸と、反応式の係数の比を順にたどるだけ(下の図)。


- 電流と時間から電気量を求め、ファラデー定数で割って電子の物質量を求める。
- 陰極の反応 $\ce{2H+ + 2e- -> H2}$ の係数の比から、水素の物質量を求める。
- ハーバー・ボッシュ法 $\ce{N2 + 3H2 -> 2NH3}$ の係数の比から、アンモニアの物質量を求める。
- オストワルト法の全体の式 $\ce{NH3 + 2O2 -> HNO3 + H2O}$ の係数の比から硝酸の物質量を求め、質量に直す。
解答




解答をテキストで読む
問1
リン鉱石の主成分はリン酸カルシウム $\ce{Ca3(PO4)2}$ で、水に溶けないので、そのままでは植物が吸収できない。そこで強い酸の硫酸を作用させると、 $\ce{PO4^3-}$ が $\ce{H+}$ を受け取って $\ce{H2PO4-}$ になり、水に溶けるリン酸二水素カルシウムになる(弱い酸の塩に強い酸を加える、弱酸の遊離と同じ形)。
$$\ce{Ca3(PO4)2 + 2H2SO4 -> Ca(H2PO4)2 + 2CaSO4}$$
この $\ce{Ca(H2PO4)2}$ と $\ce{CaSO4}$ の混合物が過リン酸石灰。硫酸の代わりにリン酸で処理すると、硫酸カルシウムを含まない重過リン酸石灰になる。
$$\ce{Ca3(PO4)2 + 4H3PO4 -> 3Ca(H2PO4)2}$$
選択肢は16個あるが、カルシウムを含み、 $\ce{Ca^2+}$ とリン酸のイオン( $\ce{PO4^3-}$ ・ $\ce{HPO4^2-}$ ・ $\ce{H2PO4-}$ )で電荷がつりあう化学式は (K) $\ce{Ca3(PO4)2}$( $+2\times3=+6$ と $-3\times2=-6$ )と (O) $\ce{Ca(H2PO4)2}$( $+2$ と $-1\times2=-2$ )の2つだけ。(D) $\ce{Ca2PO4}$ ・(M) $\ce{Ca2HPO4}$ は電荷がつりあわず、(B) $\ce{Ca3P2}$ は酸素を含まないリン化カルシウムでリン酸の塩ではない。
答(ア) (K) $\ce{Ca3(PO4)2}$(2点)
答(イ) (O) $\ce{Ca(H2PO4)2}$(2点)
問2
溶解エンタルピーは、物質1 mol を多量の水に溶かすときの反応エンタルピー。塩化カリウムでは $+17.2$ kJ/mol と正なので、溶かした後の方がエンタルピーが上にあり、吸熱(下の図の左)。
$$\ce{KCl}(\text{固})+\mathrm{aq}\ \ce{->}\ \ce{K+}\mathrm{aq}+\ce{Cl-}\mathrm{aq}\qquad\Delta H=+17.2\ \mathrm{kJ}$$
エンタルピーの面では、下の状態から上の状態へ行くのは不利で、溶解を妨げる向きに働く。それでも溶けるのは、イオンが規則正しく並んだ結晶から、水中にばらばらに散らばった状態へ変わり、乱雑さが大きくなるから(下の図の右)。自然界の変化には、乱雑さが大きくなる向きに進もうとする傾向がある。この乱雑さの度合いを表す量がエントロピーで、変化が進むかどうかは「エンタルピーの効果」と「乱雑さの効果」の兼ね合いで決まる。乱雑さの効果は温度が高いほど大きい。
第2問 問1 で、希硫酸から水素と酸素が自然には生じない理由を「吸熱反応だから」と答えさせている。吸熱でも進む変化があるのは、この問2 のとおり。水の分解は吸熱の度合いが非常に大きく、気体ができて乱雑さが大きくなる効果でも埋められないので、常温では進まない。
答(ウ) 溶解エンタルピー(2点)
答(エ) 乱雑さ(2点)
答(オ) エントロピー(2点)
問3
窒素の酸化物のうち、赤褐色で刺激臭があり、水に溶けやすいのは二酸化窒素 $\ce{NO2}$ 。電子の数は、窒素7個と酸素8個×2で $7+8\times2=23$ 個の奇数で、問題の条件にも合う(下の図)。一酸化窒素 $\ce{NO}$ も電子が $7+8=15$ 個の奇数だが、無色で水に溶けにくい。 $\ce{NO2}$ が2つ結合した四酸化二窒素 $\ce{N2O4}$ は無色。
雷の空中放電では、まず空気中の窒素と酸素から $\ce{NO}$ ができ( $\ce{N2 + O2 -> 2NO}$ )、それが酸化されて $\ce{NO2}$ になり( $\ce{2NO + O2 -> 2NO2}$ )、雨に溶けて硝酸になる。後半の2つは、問4 のオストワルト法の②・③と同じ反応。
酸素の酸化数を $-2$ 、窒素の酸化数を $x$ とすると、化合物全体の電荷は0なので
$$x+(-2)\times2=0\qquad\therefore\ x=+4$$
答(分子式) $\ce{NO2}$(2点)
答(酸化数) $+4$(2点)
問4
まず、流れた電子の物質量を求める。電気量は電流×時間で、ファラデー定数(電子1 mol あたりの電気量)で割ると電子の物質量になる。
$$\frac{5.0\times1930}{9.65\times10^4}=0.100\ \mathrm{mol}\quad(\text{流れた電子の物質量})$$
水の電気分解では、陰極で水素が発生する( $\ce{2H+ + 2e- -> H2}$ 。中性なら $\ce{2H2O + 2e- -> H2 + 2OH-}$ で、どちらも電子2 mol で水素1 mol)。係数の比は物質量の比なので
$$0.100\times\frac12=0.0500\ \mathrm{mol}\quad(\text{得られた水素の物質量})$$
ハーバー・ボッシュ法 $\ce{N2 + 3H2 -> 2NH3}$ では、水素3 mol からアンモニア2 mol ができる。窒素は無尽蔵にあるので、水素がすべて使われる。
$$0.0500\times\frac23=\frac{1}{30}\ \mathrm{mol}\quad(\text{できたアンモニアの物質量})$$
オストワルト法は次の3段階で進み、③で出た一酸化窒素は②に戻して使う(下の図)。
$$\ce{4NH3 + 5O2 -> 4NO + 6H2O}\ \text{①}\qquad\ce{2NO + O2 -> 2NO2}\ \text{②}\qquad\ce{3NO2 + H2O -> 2HNO3 + NO}\ \text{③}$$
①+②×3+③×2 で $\ce{NO}$ と $\ce{NO2}$ を消し、4で割ると全体の式になる。
$$\ce{NH3 + 2O2 -> HNO3 + H2O}$$
「理論上最大」なので一酸化窒素をすべて戻して使い、アンモニア1 mol から硝酸1 mol ができる。 $\ce{HNO3}$ の分子量は $1.00+14.0+16.0\times3=63.0$ なので
$$\frac{1}{30}\times63.0=2.10\ \mathrm{g}\quad(\text{得られる硝酸の質量})$$
答 2.1 g(6点)
別解
問4 (原子に注目する)電子1個で水素原子1個が $\ce{H+}$ から $\ce{H}$ になるので、水素原子は電子と同じ0.100 mol。アンモニア1個は水素原子3個を含むので、アンモニアは $\dfrac{0.100}{3}=\dfrac{1}{30}$ mol。窒素原子はアンモニアから硝酸へ途中で抜けずに移るので、硝酸も $\dfrac{1}{30}$ mol で、本解と同じ2.1 g。慣れてきたら、こちらの方が速い。
出題意図
問1 リン鉱石の主成分が水に溶けないリン酸カルシウムで、硫酸で処理すると水に溶けるリン酸二水素カルシウムになることを、化学式で区別できるか
問2 溶解エンタルピーが正(吸熱)でも溶解が進む理由を、エンタルピーの効果と乱雑さ(エントロピー)の効果の兼ね合いで説明できるか
問3 色・におい・水への溶けやすさ・電子の数から窒素酸化物を $\ce{NO2}$ と決め、窒素の酸化数を求められるか
問4 水の電気分解・ハーバー・ボッシュ法・オストワルト法の3つの工程を、電子の物質量から係数の比でつなぎ、硝酸の質量を求められるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや簡単 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 10分 | 10分 |
肥料の三大要素を題材にした、知識と定番の量的計算でできた大問。
ハーバー・ボッシュ法・オストワルト法は反応式・触媒・全体の式まで白紙に書けるようにしておけば、問4 は係数を3回たどるだけで解ける。
差がつくのは新課程で入った乱雑さとエントロピー。
「吸熱なのに進むのは乱雑さの効果」と言い切れるようにしておくこと。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2:新課程で入った「乱雑さ」「エントロピー」という言葉を準備していたか。吸熱なのに溶ける理由はこの2語でしか答えられないので、知らなければ文章の誘導があっても書けない。この年は新課程の最初の年だった。
- 問4:電子 → 水素 → アンモニア → 硝酸の3つの工程を、係数の比で1つずつつなげられるか。とくにオストワルト法を全体の式 $\ce{NH3 + 2O2 -> HNO3 + H2O}$ で1:1とまとめられるかが決め手で、③の式で止めると答えが変わる。
コラム シルビナイトから塩化カリウムを取り出す ― 温度で溶けやすさが変わる塩だけが出てくる
問2 の文章には「シルビナイトを熱水に溶かし、その飽和水溶液を冷やして塩化カリウムを析出させる」とある。塩化カリウムと塩化ナトリウムが混ざった鉱物から、なぜ塩化カリウムだけを取り出せるのか。カギは、問題に出てくる2つの溶解エンタルピー(塩化カリウム $+17.2$ kJ/mol 、塩化ナトリウム $+3.88$ kJ/mol )の大きさの違いにある。


- 吸熱が大きい塩ほど、温度で溶けやすさが大きく変わる:溶解が吸熱の塩は、温度を上げると溶ける向きに平衡が移る(ルシャトリエの原理)。吸熱の大きい塩化カリウムは、水100 g に溶ける量が0℃で約28 g、100℃で約56 g と、およそ2倍になる。吸熱の小さい塩化ナトリウムは約36 g から約39 g で、ほとんど変わらない。
- 熱い液で溶かして、冷やして取り出す:鉱石を熱い液で溶かすと、塩化カリウムが多く溶け込み、塩化ナトリウムの多くは溶け残る。溶け残りを除いて液を冷やすと、溶けきれなくなった塩化カリウムだけが結晶として出てくる。塩化ナトリウムは冷やしても溶ける量がほとんど変わらないので、液に残る。残った液は温め直して、次の鉱石を溶かすのに使う。
- 教科書の再結晶と同じ考え方:温度による溶解度の差を使って目的の物質だけを取り出すのは、硝酸カリウムの再結晶と同じ。2つが混ざった水溶液でも、塩化カリウムだけが温度で大きく変わるという傾向は変わらない。
問題文の数値( $+17.2$ と $+3.88$ )は、問2 の語句を答えるためだけでなく、この分け方の理由そのものになっている。溶解度曲線を見たら「傾きが大きい塩は溶解の吸熱が大きいことが多い」と結びつけておくと、無機の工業的製法と理論化学がつながる。
2025年九州大学化学
第4問 解答・解説
第4問は有機化学の問題です。
テーマは『アルコールの構造決定』『二重結合の酸化開裂』。
問題


問題文をテキストで読む
次の文章(1)〜(6)を読み、問1〜問5に答えよ。構造式を記入するときは、記入例にならって記せ。
構造式の記入例
(1) 分子式 $\ce{C6H12O}$ の化合物 A、 B、 C はそれぞれ単一の化合物であり、いずれも不斉炭素原子や、立体異性体が生じうる構造を含まない。
(2) 各化合物をナトリウムの単体と反応させたところ、すべての化合物から気体の発生が見られた。
(3) 各化合物を二クロム酸カリウムと反応させると、化合物 A、 C からは酸化された生成物が得られたが、化合物 B は酸化されなかった。
(4) 各化合物を白金触媒の存在下で水素と混合すると、化合物 C からは等モル量の水素が付加した化合物が生成したが、化合物 A、 B は反応しなかった。
(5) 化合物 A、 B、 C を適切な酸性条件で加熱したところ、化合物 A からは化合物 D が、化合物 B からは化合物 E が、化合物 C からは化合物 F が、それぞれ主な生成物として得られた。化合物 D、 E、 F は、いずれも炭素原子と水素原子のみからなる化合物である。なお、それぞれの反応条件において、分子間反応や、アルケンの異性化(二重結合の位置が異なる構造異性体に変化する反応)は起こらないものとする。
(6) 化合物 D を酸性の過マンガン酸カリウム水溶液と完全に反応させると、 $\boxed{\text{ア}}$ が得られた。 $\boxed{\text{ア}}$ はナイロン66の原料である。
問1. 化合物 A、 B、 C の構造式を下記の①〜⑥から選んで番号で答えよ。
問2. 文章(5)において、化合物 B からは主生成物である化合物 E のほかに、構造異性体の関係にある別の生成物が生じる可能性がある。化合物 E、および考えられるもう一方の生成物それぞれの構造式を答えよ。
問3. 文章(6)の空欄 $\boxed{\text{ア}}$ にあてはまる化合物の名称を答えよ。
問4. 2.00 g の化合物 F を酸性の過マンガン酸カリウム水溶液と完全に反応させると、気体の発生とともに化合物 G が生成した。化合物 G の構造式を答えよ。また、生じた気体の名称、およびその標準状態(0℃、 $1.013\times10^5$ Pa)における体積〔L〕を有効数字3桁で答えよ。
問5. 直鎖状の炭素骨格をもつ化合物 H、 I は、化合物 A、 B、 C と分子式が同じであるが、構造は問1の①〜⑥のいずれとも異なる。また、次の(i)〜(iii)のような化学的性質をもつ。化合物 H と I の構造式を答えよ。
(i) いずれの化合物も、単体ナトリウムと反応させても気体を生じない。
(ii) 塩基性の水溶液中でヨウ素と反応させると、化合物 H を加えた場合のみ黄色沈殿が生じる。
(iii) アンモニア性硝酸銀水溶液中で加熱すると、化合物 I を加えた場合のみ銀の析出が見られる。
解答の方針
【問1の方針】
候補が6つ与えられているので、構造を組み立てる必要はない。条件(1)〜(4)を順に当てはめ、合わないものを消していけば A〜C が決まる(下の図)。


- 条件(1)で、不斉炭素原子やシス-トランス異性体をもつ①・⑥を外す。
- 条件(2)で、ナトリウムと反応しない(ヒドロキシ基がない)エーテルの②を外す。残りは③④⑤。
- 条件(3)で、二クロム酸カリウムで酸化されない第三級アルコールの③を B とする。
- 条件(4)で、水素が付加する( $\ce{C=C}$ をもつ)⑤を C とし、残る④を A とする。
【問2の方針】
脱水では、OH の付いた炭素の隣の炭素から H が抜ける。B の③では隣の炭素が2種類あるので、アルケンも2種類できる(下の図)。


- ③の OH の付いた炭素の隣の炭素を確かめる(環の $\ce{CH2}$ が2つ、メチル基が1つ)。
- 環の $\ce{CH2}$ から H が抜けると、環の中に二重結合ができる。メチル基から H が抜けると、環の外に二重結合ができる。
- H の少ない炭素(環の $\ce{CH2}$ )から H が抜けた方を主生成物 E とし、もう一方と合わせて構造式を書く。
【問3の方針】
A の④を脱水すると環のシクロヘキセン D になる。過マンガン酸カリウムで二重結合が切れると環が開き、両端がカルボキシ基の鎖になる(下の図)。


- ④の脱水で D(シクロヘキセン)を書く。
- 二重結合を切り、両側の $\ce{CH}$ をそれぞれ $\ce{COOH}$ にする。
- できた $\ce{HOOC-(CH2)4-COOH}$ の名称を答える。
【問4の方針】
C の⑤を脱水すると、両端に二重結合をもつ F になる。酸化開裂で、端の $\ce{=CH2}$ は二酸化炭素まで酸化される(下の図)。


- ⑤の脱水で F( $\ce{CH2=CH-CH2-CH2-CH=CH2}$ )を書く。
- 2つの二重結合を切り、内側の2つの炭素を $\ce{COOH}$ にして G を書く。両端の $\ce{CH2}$ は二酸化炭素になる。
- F の物質量を求め、その2倍の二酸化炭素の体積を求める。
【問5の方針】
ナトリウムと反応しないので OH はなく、酸素はカルボニル基。ヨードホルム反応は $\ce{CH3CO}{-}$、銀鏡反応は $\ce{-CHO}$ の目印になる(下の図)。


- 分子式から、二重結合または環が1つ分あることを確かめる。直鎖で OH がないので、酸素はカルボニル基( $\ce{C=O}$ )。
- ヨードホルム反応を示す H は、2番目の炭素がカルボニル基のケトン( $\ce{CH3CO}{-}$ をもつ)。
- 銀鏡反応を示す I は、端の炭素がカルボニル基のアルデヒド( $\ce{-CHO}$ をもつ)。
解答




解答をテキストで読む
問1
・条件(1):①は OH の付いた炭素とメチル基の付いた炭素がどちらも不斉炭素原子。⑥は二重結合の両側に異なる基が付くので、シス-トランス異性体がある。①・⑥は外れる
・条件(2):ナトリウムと反応して水素が発生するのは、ヒドロキシ基をもつ化合物。②はエーテルなので外れる。残りは③④⑤
・条件(3):二クロム酸カリウムで酸化されないのは、OH の付いた炭素に H が付いていない第三級アルコール。③が B
・条件(4):水素が付加するのは $\ce{C=C}$ をもつ化合物。⑤が C。残る④(第二級アルコール)が A
答(A) ④ シクロヘキサノール(2点)
答(B) ③ 1-メチルシクロペンタノール(2点)
答(C) ⑤ 5-ヘキセン-1-オール(2点)
問2
B の③を酸性の条件で加熱すると、OH の付いた炭素から OH、その隣の炭素から H が抜けて、二重結合ができる(脱水)。隣の炭素は、環の $\ce{CH2}$(H が2個)とメチル基(H が3個)の2種類。
・環の $\ce{CH2}$ から H が抜けると、環の中に二重結合ができ、1-メチルシクロペンテンになる
・メチル基から H が抜けると、環の外に二重結合ができ、メチレンシクロペンタンになる
H の少ない炭素から H が抜けた方(二重結合の炭素に付く炭素の数が多く、安定なアルケン)が主生成物になる(ザイツェフ則)。よって E は1-メチルシクロペンテン。
答(化合物 E) 1-メチルシクロペンテン(構造式は上の図)(3点)
答(もう一方の生成物) メチレンシクロペンタン(構造式は上の図)(2点)
問3
A の④(シクロヘキサノール)を脱水すると、D のシクロヘキセン $\ce{C6H10}$ になる。D を酸性の過マンガン酸カリウムと完全に反応させると、環の二重結合が切れ、両側の $\ce{CH}$ がどちらもカルボキシ基になる。環が開いて、炭素6個の鎖の両端がカルボキシ基になる。
$\ce{HOOC-(CH2)4-COOH}$ はヘキサメチレンジアミンと縮合重合してナイロン66 になる。
答 アジピン酸(ヘキサン二酸)(3点)
問4
C の⑤(5-ヘキセン-1-オール)を脱水すると、OH の付いた端の炭素と隣の炭素の間に二重結合ができる。異性化は起こらないので、F は両端に二重結合をもつ $\ce{CH2=CH-CH2-CH2-CH=CH2}$( $\ce{C6H10}$ )。
F を酸性の過マンガン酸カリウムと完全に反応させると、2つの二重結合が切れる。
・内側の $\ce{=CH}{-}$ の2つの炭素は、カルボキシ基になる → G はコハク酸 $\ce{HOOC-CH2-CH2-COOH}$
・両端の $\ce{=CH2}$ の炭素は、ギ酸を経て二酸化炭素まで酸化される → 1分子の F から二酸化炭素が2分子
答(化合物 G) $\ce{HOOC-CH2-CH2-COOH}$(構造式は上の図)(2点)
答(気体) 二酸化炭素(1点)
F( $\ce{C6H10}$ )のモル質量は $12.0\times6+1.00\times10=82.0$ g/mol。二酸化炭素は F の2倍の物質量なので、
$$\dfrac{2.00}{82.0}\times2\times22.4=1.092\cdots\fallingdotseq1.09\ \mathrm{L}$$
答(体積) 1.09(2点)
問5
$\ce{C6H12O}$ は、炭素6個の飽和の化合物 $\ce{C6H14O}$ より H が2個少ないので、二重結合か環が1つある。H・I は直鎖で、ナトリウムと反応しない(ヒドロキシ基がない)ので、酸素は $\ce{C=O}$ のカルボニル基として入っている。
・(ii) ヨードホルム反応を示すのは $\ce{CH3-CO}{-}$ をもつ化合物。直鎖のケトンでこれをもつのは、2番目の炭素がカルボニル基の2-ヘキサノンだけ(3-ヘキサノンは $\ce{CH3CO}{-}$ をもたない)
・(iii) 銀鏡反応を示すのはアルデヒド。直鎖のアルデヒドはヘキサナールだけ
答(化合物 H) $\ce{CH3-CH2-CH2-CH2-CO-CH3}$(構造式は上の図)(3点)
答(化合物 I) $\ce{CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CHO}$(構造式は上の図)(3点)
出題意図
問1 与えられた条件を1つずつ構造に当てはめ、候補を絞り込むことができるか
問2 第三級アルコールの脱水で、H が抜ける位置の違いから2つのアルケンを書き分けられるか
問3・問4 過マンガン酸カリウムによる二重結合の酸化開裂で、できる化合物と、端の炭素が二酸化炭素になることを捉えることができるか
問5 ヨードホルム反応と銀鏡反応から、カルボニル基の位置を決められるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 20点 | 20点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
候補が与えられた、九大の有機としてオーソドックスな構造決定。
差がつくのは、脱水で H が抜ける位置と、過マンガン酸カリウムで端の炭素が二酸化炭素になることの2つで、どちらも教科書の発展レベルの知識だ。
標準的な問題集の構造決定を一通り解いていれば、医学科は満点を狙える。
反応ごとに「どの結合が切れ、何ができるか」を構造式で書いて覚えておこう。
差がつく所・失点しやすい所
- 問4:端の $\ce{=CH2}$ は $\ce{COOH}$ で止まらず二酸化炭素まで酸化される、という発想に行き着けるか。二酸化炭素を1分子と数えると体積は半分の0.546 L になり、G もアジピン酸と同じ形だと思い込むと書けない。
- 問2:脱水で H が抜ける位置が2通りあり、環の中の二重結合が主生成物になる、という発想に行き着けるか。ザイツェフ則を知っていても、環の外に二重結合ができるメチレンシクロペンタンは書き落としやすい。
2025年九州大学化学
第5問 解答・解説
第5問は高分子化合物(糖類)の問題です。
テーマは『糖の異性体』『二糖の合成』。
問題


問題文をテキストで読む
(1) グルコースは、環状構造と鎖状構造の平衡状態にある(図1)。図1では、環状構造をいす形と呼ばれる形式で表記している。
鎖状構造に $\boxed{\text{ア}}$ 基があるため、グルコースの水溶液をフェーリング液と混合すると、 $\boxed{\text{イ}}$ を含む赤色沈殿を生じる。
環状構造の1位炭素(C1)は $\boxed{\text{ア}}$ 基をもたず、エーテル結合とヒドロキシ基からなる $\boxed{\text{ウ}}$ 構造をもつ。環状構造には、立体異性体の関係にある $\alpha$ 型と $\beta$ 型がある。
グルコースは、水溶液中で反応条件Xにおくと、エンジオール中間体①となったあと、グルコースへ戻る反応と、グルコースの構造異性体である化合物②やグルコースの立体異性体である化合物③に変換される反応が起こり、それらの混合物となる(図2)。
問1. 文章(1)の空欄 $\boxed{\text{ア}}$ と $\boxed{\text{ウ}}$ に入る適切な語句、空欄 $\boxed{\text{イ}}$ に入る適切な化学式を答えよ。
問2. グルコースと、そのC4の立体異性体であるガラクトースの鎖状構造を、フィッシャー投影式で表記すると図3のようになる。これを参考に、化合物②と③のフィッシャー投影式を図4のように作成する。空欄(あ)〜(く)に入る適切な部分構造を、(A)〜(F)から選んで記号を記入せよ。なお、部分構造(A)〜(F)は複数回使用してもよい。
(2) 二糖類は、多糖の酵素による分解などによって生成するが、化学合成することも可能である。以下に、化学合成の一例を述べる。
グルコースのヒドロキシ基をひとつだけ残し、他のすべてのヒドロキシ基に「保護基」を結合させた化合物④と⑤を合成する(図5)。なお保護基とは、ヒドロキシ基に結合させると、理想的にはそのヒドロキシ基の性質が消失する置換基の一種である。ここでは、保護基が理想的に働くとする。化合物④は、C1に結合したヒドロキシ基だけ保護基と結合しておらず、 $\alpha$ 型と $\beta$ 型の環状構造の混合物である。本問題では、化合物④の鎖状構造は存在しないものとする。化合物⑤は、C4に結合したヒドロキシ基だけ保護基と結合していない。
化合物④を反応条件Zにおくと、炭素陽イオンをC1に有する中間体⑥が生成する(図6)。ここに化合物⑤を加えると、C4に結合した保護基をもたないヒドロキシ基の酸素原子が、水素イオンを失いながら、中間体⑥のC1と共有結合を形成する反応が進行する。これをグリコシル化反応と呼ぶ。その結果、化合物⑦とその立体異性体である化合物⑧が生成する。化合物⑦と化合物⑧にあるすべての保護基を適切な化学反応によって取り除くと、化合物⑦からは二糖である化合物⑨、化合物⑧からは二糖である化合物⑩がそれぞれ生成する。化合物⑩は、化合物⑨の立体異性体であり、甘みはほとんどなく、松葉に少量含まれることが知られている。
問3. 化合物⑨の名称を答えよ。また、化合物⑨の説明として正しい記述を次の(A)〜(E)のなかからすべて選んで記号を記入せよ。
(A) 水あめの主成分である。
(B) サトウキビをアミラーゼで加水分解した際の主生成物である。
(C) ふたつのグルコースが $\alpha$-1,4-グリコシド結合で連結している。
(D) 酸性水溶液で分解すると、 $\alpha$ 型のグルコースのみ生成する。
(E) 哺乳類の乳汁の主成分である。
問4. 本反応で化合物⑤を加える際に、誤って微量のエタノールを混入させた。このとき、化合物⑨と化合物⑩のほかに生成しうる化合物として、適切なものを次の(A)〜(F)のなかからすべて選んで記号を記入せよ。
問5. 炭素陽イオンを有する中間体⑥に対して、化合物⑤ではなく化合物④を加え、還元性のない二糖を合成した。このとき、何種類の立体異性体が生成しうるかを、数字で答えよ。また、生じる立体異性体のうちのひとつは、甘味料や化粧品の保湿成分として利用されており、自然界にはキノコや昆虫の体液に含まれることが知られている。その化合物の名称を答えよ。
解答の方針
【問1の方針】
グルコースの還元性は、水溶液中にわずかに存在する鎖状構造のホルミル基による。環状構造の C1 のヘミアセタール構造が開いてホルミル基になる(下の図)。


- ア:鎖状構造の C1 の $-\ce{CHO}$ の名前を書く。
- イ:フェーリング液の $\ce{Cu^2+}$ がホルミル基に還元されてできる赤色沈殿の化学式を書く。
- ウ:環状構造の C1 の、エーテル結合とヒドロキシ基が1つの炭素に付いた構造の名前を書く。
【問2の方針】
エンジオール中間体は C1 と C2 の間が二重結合になっただけで、C3〜C6 はグルコースのまま。変わるのは C1・C2 だけ、と見る(下の図)。


- 図3 のグルコースのフィッシャー投影式で、C3 は OH が左、C4・C5 は OH が右であることを確かめる。C3〜C5 は化合物②・③でも変わらない。
- 化合物②(構造異性体):C1 に H が付いて $-\ce{CH2OH}$、C2 の OH が C=O になる(ケトース=フルクトース)。(あ)〜(え) は C1〜C4 の部分構造を選ぶ。
- 化合物③(立体異性体):C1 はホルミル基に戻り、C2 には H がグルコースと逆の側から付くので、C2 の OH が左になる(マンノース)。(お)〜(く) は C1〜C4 の部分構造を選ぶ。
【問3の方針】
α 型・β 型は C1 の結合の向きで決まる。図1 のとおり、C1 から下向きに出ていれば α 型、横向きなら β 型(下の図)。


- 化合物⑨の結合を α-1,4-グリコシド結合と読み、グルコース2分子の α-1,4 結合でマルトースと決める。化合物⑩(β-1,4)はセロビオース。
- (A)〜(E) を、二糖の系列(マルトース・セロビオース・スクロース・ラクトース・トレハロース)の知識で1つずつ判定する。
【問4の方針】
中間体⑥は C1 だけが陽イオンで、ほかの OH は保護基でふさがれている。エタノールが付けるのは C1 だけ(下の図)。


- エタノールのエチル基が付く位置を C1 の O に限る。C2・C4 にエチル基がある (A)(B)(D)(E) は除く。
- C1 の $-\ce{OC2H5}$ が下向き(α 型)の (C) と、横向き(β 型)の (F) の両方を選ぶ。
【問5の方針】
還元性がないのは、両方の C1 が結合に使われているとき。2つの単位が同じものなので、順番を入れかえたものは同じ分子と見る(下の図)。


- 両方の C1(ヘミアセタール構造)が結合に使われるので、還元性がないことを確かめる。
- ⑥側と④側の C1 の向きの組み合わせ αα・αβ・βα・ββ のうち、αβ と βα は同じ分子なので3種類。
- αα の組み合わせ(α-グルコース2分子の1位どうしの結合)がトレハロース。
解答




解答をテキストで読む
問1
グルコースは、水溶液中で環状構造(α 型・β 型)と鎖状構造の平衡にある。鎖状構造の C1 はホルミル基 $-\ce{CHO}$ をもち、これがフェーリング液の $\ce{Cu^2+}$ を還元して、酸化銅(Ⅰ) $\ce{Cu2O}$ の赤色沈殿を生じる。鎖状構造はごくわずかだが、反応で減った分は平衡が移動して補われるので、目に見える量の沈殿ができる。
環状構造の C1 は、環の O とのエーテル結合と、ヒドロキシ基が1つの炭素に付いたヘミアセタール構造。この部分が開いて鎖状構造のホルミル基になる。
答(ア) ホルミル(アルデヒドでもよい)(1点)
答(イ) $\ce{Cu2O}$(1点)
答(ウ) ヘミアセタール(1点)
問2
エンジオール中間体①は C1 と C2 の間が二重結合で、C1・C2 の両方に OH が付いている。C3〜C6 はグルコースのままなので、図3 から、C3 は OH が左((F))、C4 は OH が右((D))。C5・C6 は図4 に書かれている。
化合物②は「構造異性体」なので、炭素の骨格の付き方が変わる。中間体の C1 に H が付き、C2 の OH が C=O になると、C1 は $-\ce{CH2OH}$((B))、C2 は $\ce{C=O}$((C))のケトースになる。これがフルクトース。
化合物③は「立体異性体」なので、原子のつながり方はグルコースと同じで、向きだけが違う。C1 はホルミル基((A))に戻り、平らな二重結合だった C2 には、グルコースと逆の側から H が付く。C2 の OH は左((F))になり、C2 の向きだけがグルコースと逆のマンノースになる。
化合物②(フルクトース)
答(あ) (B)(1点)
答(い) (C)(1点)
答(う) (F)(1点)
答(え) (D)(1点)
化合物③(マンノース)
答(お) (A)(1点)
答(か) (F)(1点)
答(き) (F)(1点)
答(く) (D)(1点)
問3
化合物⑨は、左のグルコースの C1 から下向き(α 型)に出た O が、右のグルコースの C4 と結合している。α-グルコース2分子の α-1,4-グリコシド結合なので、化合物⑨はマルトース。β 型でつながった化合物⑩はセロビオース(マツの葉に含まれる)。
(A)〜(E) は、二糖の系列で判定する。
・マルトース:α-1,4 結合、還元性あり、水あめの主成分。デンプンをアミラーゼで分解するとできる
・セロビオース:β-1,4 結合、還元性あり。セルロースをセルラーゼで分解するとできる
・スクロース:グルコースの1位とフルクトースの2位の結合、還元性なし。サトウキビ・テンサイに含まれる
・ラクトース:ガラクトースとグルコースの β-1,4 結合、還元性あり。哺乳類の乳汁に含まれる
・トレハロース:α-グルコース2分子の1位どうしの結合、還元性なし
(A) 正しい。(B) 誤り。サトウキビの糖はスクロースで、アミラーゼはデンプンを分解する酵素。(C) 正しい。(D) 誤り。加水分解で生じたグルコースは、水溶液中で α 型・鎖状構造・β 型の平衡になるので、 $\alpha$ 型だけにはならない。(E) 誤り。乳汁の主成分はラクトース。
答(名称) マルトース(麦芽糖)(2点)
答(記号) (A)、(C)(3点)
問4
中間体⑥は、C1 だけが炭素陽イオンで、C2・C3・C4・C6 の O には保護基が付いている。混入したエタノールの O は、化合物⑤の C4 の O と同じように C1 の陽イオンと結合する。化合物⑤が C1 の下向き(化合物⑦)と横向き(化合物⑧)の両方に付いたのと同じく、エタノールも下向き(α 型)と横向き(β 型)の2通りで付く。保護基を取り除くと、C1 にエトキシ基 $-\ce{OC2H5}$ が付いた α 型の (C) と β 型の (F) になる。
(A)(D) は C2 に、(B)(E) は C4 にエチル基が付いているが、中間体⑥の C2・C4 の O は保護基でふさがれているので、エタノールとは反応しない。
答 (C)、(F)(4点)
問5
中間体⑥の C1 に、化合物④の C1 の OH が結合する。両方のヘミアセタール構造が結合に使われるので、開環してホルミル基になることができず、還元性はない。
⑥側の C1 も④側の C1 も、それぞれ α 型と β 型がありうるので、組み合わせは αα・αβ・βα・ββ の4通り。ただし2つの単位はどちらもグルコース(保護基を取り除けば同じ)なので、αβ と βα は同じ分子になる。立体異性体は αα・αβ・ββ の3種類。
このうち αα(α-グルコース2分子の1位どうしの結合)がトレハロース。キノコや昆虫の体液に含まれ、甘味料や保湿剤に使われる。
答(立体異性体の数) 3(3点)
答(名称) トレハロース(別名ミコース)(2点)
出題意図
問1 グルコースの還元性が鎖状構造のどの部分によるか、環状構造の C1 がどんな構造かを答えられるか
問2 エンジオール中間体で変わるのは C1 と C2 だけだと捉え、構造異性体と立体異性体をフィッシャー投影式で組み立てることができるか
問3 C1 の結合の向きから α-1,4 結合を読み取り、マルトースの性質を二糖の系列の中で判断できるか
問4・問5 保護基の付いていない C1 だけが反応し、そこに α 型と β 型の2通りがあることを、文章と図から理解できるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | やや難 | |
| 目標得点 | 20点 | 15点 |
| 目標時間 | 15分 | 15分 |
2025年の化学の合否を分けた大問。
初見の設定だが、問われているのは「どこが変わり、どこが変わらないか」だけなので、時間制限のある中で、医学科は20点、その他の学部も15点は取りたい。
エンジオール中間体では C1・C2 だけが変わり、保護基を使った合成では保護基の付いていない C1 だけが反応する。
これを図から読み取れれば、あとは二糖の系列の知識で答えが決まる。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2・問4:中間体(エンジオール中間体・C1 の炭素陽イオン)を見て、「変わるのは C1・C2 だけ、ほかはそのまま」「反応できるのは保護基の付いていない C1 だけ」という発想に行き着けるか。2025年でいちばん差がついた所で、文章と図を読み取る初見の設定だった。
- 問5:還元性がない=両方の C1 が結合に使われていると読みかえ、αβ と βα が同じ分子だと気づけるか。αβ と βα を別に数えると4種類になる。
2025年九州大学・化学の
講評とまとめ
5問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 標準 | 25点 | 15点 |
| 第2問 | 標準 | 25点 | 20点 |
| 第3問 | やや簡単 | 20点 | 20点 |
| 第4問 | 標準 | 20点 | 20点 |
| 第5問 | やや難 | 20点 | 15点 |
| 全体 | 標準 | 105点 | 85点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で85点)にはなりません。
全体的に難易度は標準的な年。
新課程の最初の年で、熱化学はエンタルピーで書かれ、「乱雑さ」「エントロピー」も初めて出題されました。
この年の合否を分けたのは第5問の糖類で、エンジオール中間体や保護基を使った二糖の合成という初見の設定を、文章と図から読み取れたかで大きく差がつきました。
糖類は「何位と何位が、α と β のどちらで結合しているか」と「還元性の有無」を組で押さえておきたいところです。
第1問は配点が30点と最も大きく、結晶格子の5項目とコロイドの知識で大半が取れるので、ここで確実に点を積みます。
第2問の標準電極電位は重要問題集にも載っていませんが、燃料電池の正極と負極の反応が書けていれば、表から2本を選んで差をとるだけです。
第3問は知識と定番の計算なので、短い時間で取り切りたい大問です。
第4問は候補が与えられた、オーソドックスな構造決定です。
九大の化学は大問5題を75分で解くので、1つの大問に15分以上かけず、浮いた時間を第2問・第5問に回す時間の使い方が大事です。
解く流れ
第1問 → 第2問 → 第3問 → 第4問 → 第5問。
2025年九州大学・化学に
関するよくある質問
2025年の九州大学・化学について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2025年の九州大学・化学は難しかった?
-
全体的に難易度は標準的な年でした。
第1問・第2問・第4問は標準、第3問はやや簡単、第5問はやや難です。
新課程の最初の年で、第5問の糖類は文章と図を読み取る初見の設定でした。 - 2025年の九州大学・化学は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で85点です(125点満点)。
- 2025年の九州大学・化学はどこで差がつく?
-
この年の合否を分けたのは第5問で、差がついたのは次の3つでした。
- 第5問 問2・問4:エンジオール中間体では C1・C2 だけが変わり、保護基を使った合成では保護基の付いていない C1 だけが反応する、と図から読み取れたか。
- 第2問 問2・問3:表の4本から燃料電池の正極と負極の反応を選び、標準電極電位の差を起電力にできたか。
- 第1問 問2・問6 (i):構造が変わっても原子半径は変わらないと気づけたか、本文から金ナノ粒子の電荷を読み取れたか。
- 2025年の九州大学・化学は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:理論化学(化学結合と結晶)
- 第2問:理論化学(酸化・還元と電池・電気分解)・無機化学
- 第3問:無機化学・理論化学
- 第4問:有機化学
- 第5問:高分子化合物(糖類)




