【解説・配点付き】2010年九州大学物理の解答・解説

2010年の九州大学・物理の、
解答・解説【完全版】です。

方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。

このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。

※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。

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中原 遼太郎

九大受験に特化した学習塾
『竜文会』代表

『竜文会』開校後、初年度には国立大学医学部や九州大学に合格者を輩出。

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目次

2010年九州大学物理
第1問 解答・解説

この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。

第1問は力学の問題です。
テーマは「ばねにつながれた板と、板に接した小物体が、一緒に動いたあと『自然長』で離れる(水平面と斜面)。離れたあと板だけが単振動をして、振幅と、もとの位置にもどるまでの時間を求める」。

問題

2010年九州大学物理 第1問 問題
2010年九州大学物理 第1問 問題
問題文をテキストで読む

以下の問いに答えよ。

問1. 自然長 $l$、ばね定数 $k$ のばねが一端は固定され、他端には質量 $m$ の板が取り付けられて、なめらかな水平面上に置かれている。その板に接して質量 $M$ の小物体を置き、図1(a)のように小物体と板とを接触させたまま、ばねを長さ $d$ だけ縮めて静かに手を離した。ばねは十分軽くその質量は無視できる。また空気抵抗も無視できる。

(1) はじめ小物体は板に接触したまま運動をする。接触した状態で自然長からのばねの縮みが $x$ であるときの小物体の加速度の大きさを求めよ。

(2) 小物体はやがて板から離れる。手を離してから小物体が板から離れるまでにかかる時間を求めよ。

(3) 小物体が板から離れた直後の小物体の速度の大きさを求めよ。

問2. 次に図1(b)のように、前問で考えたなめらかな面を、水平面から角度 $\theta$ だけ傾けた場合を考えよう。小物体がない場合には、ばねが自然長 $l$ から長さ $x_0$ だけ伸びたつりあいの位置で板は静止する。図のように小物体を板に接触させたまま、ばねを自然長から $D$ だけ縮めて静かに手を離した。重力加速度の大きさを $g$ とする。

(1) つりあいの位置におけるばねの伸び $x_0$ を求めよ。

(2) 手を離したのち、小物体は板と接触したまま運動し、自然長からのばねの伸びが $s$ のとき板から離れた。ばねの伸び $s$ を求めよ。

(3) 板から離れた直後の小物体の速度の大きさを求めよ。答えは $x_0$ を用いずに表せ。

(4) 板は小物体と離れたのち、単振動を行う。 $M=\dfrac75m$、 $D=\dfrac65x_0$ であるとして、その単振動の振幅を( $\theta$ は用いずに) $x_0$ を用いて表せ。

(5) 小物体と離れてから、板は斜面下向きに運動し、一瞬静止したのち、斜面上向きに運動を始め、そして小物体と離れた位置(ばねの伸びが $s$ の位置)に戻った。小物体と離れてから初めて同じ位置に戻るまでの時間を、 $m$ と $k$ を用いて表せ。ただし、前問同様 $M=\dfrac75m$、 $D=\dfrac65x_0$ であるとする。

解答の方針

【問1の方針】

着眼点

まず運動を想像する。板と小物体は押し合ったまま動き出し、板が小物体を押す力 $N$ が0になったときに離れる(下の図)。

2010年九州大学物理 第1問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第1問 解答の方針の図
  1. 2つの物体にはたらく力をすべて書く。接触している間は同じ加速度なので、全体(質量 $M+m$)の運動方程式を立てて、加速度を求める(問1 (1))。
  2. 小物体だけの運動方程式から $N$ を求め、 $N=0$ になる縮みを調べる。ばねにつながれた物体と接した物体は自然長で離れる。手を離した位置は単振動の端、離れる位置(自然長)は中心で、端から中心までは周期の $\dfrac14$ で、周期は質量 $M+m$ とばね定数 $k$ で決まる(問1 (2))。
  3. 手を離した位置から自然長までの間で、ばねの弾性エネルギーが全体の運動エネルギーになる。エネルギー保存を立てる(問1 (3))。

【問2の方針】

着眼点

斜面でも重力は板にも小物体にも同じ加速度を与えるだけなので、離れる位置は変わらない。離れたあとは板だけの単振動を定義し直して、振動の範囲の図に書く。時間は円運動の射影で読む(下の図)。

2010年九州大学物理 第1問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第1問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第1問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第1問 解答の方針の図
  1. 板だけのつり合いから $x_0$ を求める(問2 (1))。
  2. 力を斜面に平行・垂直に分けて、一緒の間の運動方程式を全体と小物体で立て、 $N$ を求める。重力の成分は両方の式で同じ加速度を与えるので消え、 $N=0$ になるのは自然長の位置((2))。
  3. 手を離した位置から自然長までで、ばねの弾性エネルギーと重力の位置エネルギーが運動エネルギーになる。エネルギー保存を立てる((3))。
  4. 離れたあとは、板だけで単振動を定義し直す(中心は板だけのつり合いの位置、単振動定数は $k$)。離れた位置は中心から $x_0$ だけ上。その位置の中心からの変位と速さを、単振動のエネルギー保存に入れて振幅を求める。 $M=\dfrac75m$、 $D=\dfrac65x_0$ と $g\sin\theta=\dfrac{kx_0}{m}$ を使って( $\theta$ を消して)まとめ、振動の範囲の図に離れた位置・中心・両端を書く((4))。
  5. 離れた位置(中心から振幅の半分だけ上)を円に移して中心角を求め、出発してもどるまでに回る角を足す。角振動数 $\sqrt{\dfrac km}$ で割って時間を求める((5))。

解答

2010年九州大学物理 第1問 解答・解説
2010年九州大学物理 第1問 解答・解説
2010年九州大学物理 第1問 解答・解説(続き)
2010年九州大学物理 第1問 解答・解説(続き)
解答をテキストで読む

問1 (1)

2つの物体にはたらく力を、重力→触れているものの順にすべて書く(左向きを正とする)。小物体 $M$ には、重力 $Mg$、床からの垂直抗力 $R_1$、板から押される力 $N$。板 $m$ には、重力 $mg$、床からの垂直抗力 $R_2$、小物体から押される力 $N$(作用・反作用)、ばねの力 $kx$(下の図)。

鉛直方向はつり合っている。接触している間は2つが同じ加速度 $a$ で動くので、 $N$ を使わずに全体(質量 $M+m$)で運動方程式を立てる。

$$(M+m)a=kx$$

答 $\dfrac{kx}{M+m}$(5点)

問1 (2)

小物体だけの運動方程式は $Ma=N$。(1) の $a$ を入れると

$$N=\frac{Mkx}{M+m}$$

$N$ は縮み $x$ に比例し、 $N=0$ になるのは $x=0$(自然長)。縮んでいる間は板が小物体を押し続けるが、自然長を過ぎると板はばねに引きもどされて遅くなる。小物体は同じ速さで進み続けるので離れる。

手を離してから自然長までは、全体が単振動をしている。中心は自然長、手を離した位置(縮み $d$)は端で、端から中心までは周期の $\dfrac14$。周期は質量 $M+m$ とばね定数 $k$ で決まる。

$$T=2\pi\sqrt{\frac{M+m}{k}}\qquad\therefore\ \frac T4=\frac\pi2\sqrt{\frac{M+m}{k}}$$

答 $\dfrac\pi2\sqrt{\dfrac{M+m}{k}}$(7点)

問1 (3)

離れる位置(自然長)まで、なめらかな水平面で、仕事をするのはばねの力(保存力)だけ。ばねの弾性エネルギーが、一緒に動く2つの運動エネルギーに変わる。離れた直後も、小物体の速さは板と同じ。

$$\frac12kd^2=\frac12(M+m)v^2$$

答 $d\sqrt{\dfrac{k}{M+m}}$(6点)

問2 (1)

小物体がないとき、板がつり合いの位置で静止している。ばねの力(斜面上向き)と、重力の斜面に平行な成分(斜面下向き)がつり合う。

$$kx_0=mg\sin\theta$$

答 $x_0=\dfrac{mg\sin\theta}{k}$(4点)

問2 (2)

斜面下向きを正とする。ばねの縮みを $y$ とする。力を書くと、小物体 $M$ には重力 $Mg$、斜面に垂直な垂直抗力 $R_1$、板から押される力 $N$(斜面下向き)。板 $m$ には重力 $mg$、垂直抗力 $R_2$、小物体から押される力 $N$(斜面上向き)、ばねの力 $ky$(斜面下向き)(下の図)。

斜面に垂直な方向はつり合っている。斜面に平行な方向で、接触している間の加速度を $a$ として、全体と小物体の運動方程式を立てる。

$$(M+m)a=(M+m)g\sin\theta+ky$$

$$Ma=Mg\sin\theta+N$$

$a$ を消すと

$$N=\frac{Mky}{M+m}$$

重力の成分 $g\sin\theta$ は、両方の式で同じように現れて消える。 $N=0$ になるのは $y=0$(自然長)。縮み $D$ から自然長までは $N>0$ なので、小物体は板に押され続けて、自然長で離れる。

答 $0$(6点)

(水平面の問1 (2) と同じ答え。「伸びが $s$」と聞かれても 0 でよい)

問2 (3)

自然長までの間で、仕事をするのは重力とばねの力(どちらも保存力)だけ。垂直抗力は進む向きと垂直なので仕事をしない。力学的エネルギーが保存する。自然長の位置を位置エネルギーの基準にする。手を離した位置は、自然長から斜面に沿って $D$ だけ上なので、高さは $D\sin\theta$ だけ高い。

$${\small\frac12kD^2+(M+m)gD\sin\theta=\frac12(M+m)v^2}$$

答 $\sqrt{\dfrac{kD^2}{M+m}+2gD\sin\theta}$(7点)

問2 (4)

離れたあとは、板だけの運動。単振動を定義し直す。

・中心:板だけのつり合いの位置(自然長から $x_0$ だけ伸びた位置)

・単振動定数:斜面でも $k$(質量は $m$)

・離れた位置(自然長)は、中心から $x_0$ だけ上。速さは (3) の $v$

$M=\dfrac75m$、 $D=\dfrac65x_0$、 $g\sin\theta=\dfrac{kx_0}{m}$ を (3) に入れて $v^2$ をまとめる。

$$v^2=\frac{k}{M+m}D^2+2gD\sin\theta=\frac{5k}{12m}\cdot\frac{36}{25}{x_0}^2+2\cdot\frac{kx_0}{m}\cdot\frac65x_0=\frac{3k}{m}{x_0}^2$$

単振動のエネルギー保存(中心からの変位で書く。重力の位置エネルギーは入れない)を、離れた位置と端で書く。振幅を $A$ とする。

$$\frac12mv^2+\frac12k{x_0}^2=\frac12kA^2$$

$$\frac32k{x_0}^2+\frac12k{x_0}^2=\frac12kA^2\qquad\therefore\ A^2=4{x_0}^2$$

振動の範囲は、中心から上下に $2x_0$ ずつ。自然長から見て、上の端は $x_0$ だけ上、下の端は $3x_0$ だけ下になる(下の図)。

答 $2x_0$(5点)

問2 (5)

板の動きを想像する。離れた位置(中心から振幅の半分だけ上)を下向きに通り、中心を通って下の端で一瞬静止し、中心を通って、離れた位置を上向きに通る。ここで初めてもとの位置にもどる。

単振動を、半径 $A$ の等速円運動を軸に映したものと見る。離れた位置は中心から $\dfrac A2$ なので、直角三角形の辺の比 $1:2:\sqrt3$ から、円の上では中心から $30^\circ$ の点。出発してもどるまでに回る角は

$$30^\circ+180^\circ+30^\circ=240^\circ=\frac{4\pi}{3}$$

(下の図)。

角振動数は $\omega=\sqrt{\dfrac km}$ なので、時間は $\dfrac{4\pi}{3}\cdot\dfrac1\omega$。

答 $\dfrac{4\pi}{3}\sqrt{\dfrac mk}$(5点)

(周期 $T=2\pi\sqrt{\dfrac mk}$ で書くと $\dfrac T2+2\times\dfrac T{12}=\dfrac23T$。 $\theta$・$x_0$ は答えに残らない)

別解

問2 (3) (一緒の運動を1つの単振動と見て) 全体(質量 $M+m$)は、斜面でも単振動定数 $k$ の単振動。中心は全体のつり合いの位置で、自然長から $\dfrac{(M+m)g\sin\theta}{k}$ だけ伸びた位置。縮み $D$ の位置(端)から自然長までの変位を、中心からの変位で書いて、単振動のエネルギー保存を立てる。

$$\frac12(M+m)v^2=\frac12k\left(D+\frac{(M+m)g\sin\theta}{k}\right)^2-\frac12k\left(\frac{(M+m)g\sin\theta}{k}\right)^2=\frac12kD^2+(M+m)gD\sin\theta$$

同じ答え。本解は、重力の位置エネルギーとばねの弾性エネルギーを分けて書く力学的エネルギー保存にした((4) で別の質量の単振動に切り替えるので、保存力を別々に管理する形のほうが見通しがよい)。

問2 (5) (三角関数の式で) 板の中心からの変位を斜面下向きを正として $q$ とする。 $q=A\sin(\omega t+\varphi)$ で、出発は $q=-\dfrac A2$ で下向き($q$ が増える向き)なので $\varphi=-\dfrac\pi6$。もとの位置を上向きに通るのは、 $q=-\dfrac A2$ で $q$ が減る向きなので $\omega t+\varphi=\dfrac{7\pi}{6}$。

$$\omega t=\frac{7\pi}{6}+\frac\pi6=\frac{4\pi}{3}$$

同じ答え。本解は、円運動の射影の作図で求めた。三角関数の式は、位相の取り方で迷いやすい。

出題意図

問1 2物体が接して動くとき、離れる条件を接触力 $N=0$ で捉え、離れるまでの時間と速さを求めることができるか

問2 (1)〜(3) 斜面でも離れる位置が変わらないことを捉え、エネルギー保存で離れる速さを求めることができるか

問2 (4)(5) 離れたあとの板の運動を想像し、単振動を定義し直して、振幅ともとの位置にもどるまでの時間を求めることができるか

講評

医学部医学科その他の学部
難易度標準
目標得点40点35点
目標時間25分25分

この年の合否を分けた大問。
単振動の標準的な問題で、作図して丁寧に解けば難しくないが、少し複雑で時間がかかる。
ばねにつながれた物体と接した物体は自然長で離れ、離れたあとは板だけの単振動を定義し直し、時間は円運動の射影で読む、という決まった流れ。
決め手は運動を想像できるかどうかで、離れたあと板が下の端まで行ってもどる様子を図に書ければ、問2 の (3)→(4)→(5) の連鎖を最後まで取り切れる。

差がつく所・失点しやすい所

  • 問2 (4):離れたあとの板の単振動を、中心(つり合いの位置)から定義し直して、振幅 $2x_0$ に行き着けるか。(3)→(4)→(5) が連鎖しているので、ここを間違えると (5) まで落ちる。
  • 問2 (5):離れた位置が中心から振幅の半分であることを使い、円運動の射影で $30^\circ+180^\circ+30^\circ$ と読めるか。下の端を回ってもどるまでの動きを想像できるかが決め手。
  • 問2 (2):斜面でも自然長で離れる(答えは 0)と言い切れるか。「伸びが $s$」と聞かれて、0 でない値を探すと迷う。

コラム ばねにつながれた物体に接した物体は、自然長で離れる

問1 (2) と問2 (2) は、どちらも「自然長で離れる」という同じ型でできている。

2010年九州大学物理 第1問 コラムの図
2010年九州大学物理 第1問 コラムの図
  • 離れる条件:接している間は、小物体を押しているのは板だけ。板が小物体を押す力 $N$ が 0 になったとき、離れる。 $N$ は縮みに比例するので、縮みが 0(自然長)で $N=0$ になる。
  • 斜面でも同じ:重力は2つに同じ加速度 $g\sin\theta$ を与えるだけで、 $N$ の式から消える。だから離れる位置は変わらない。
  • 自然長を過ぎると:板だけがばねに引きもどされて遅くなる。小物体は同じ速さで進み続けるので、離れる。

壁にばねをつないだ水平面でも、床の上のばねに載せた台でも、ばねの先に直接つながれた物体と接していれば、離れるのは自然長。単振動の問題で2物体が離れたら、まず自然長を疑う。

2010年九州大学物理
第2問 解答・解説

第2問は電磁気の問題です。
テーマは「直方体の半導体の抵抗を、電流計・電圧計をつないだ回路とグラフから求める(電流計の内部抵抗は引き、電圧計の内部抵抗は答えに効かない)。そこから抵抗率を求める。後半は磁場をかけ、ホール電圧のグラフから、電子の動く向きと速さ、電子の個数密度を求める」。

問題

2010年九州大学物理 第2問 問題
2010年九州大学物理 第2問 問題
問題文をテキストで読む

図2(a)に示すように厚さ $t$ が $1.0\ \mathrm{cm}$、幅 $w$ が $5.0\ \mathrm{cm}$、長さ $l$ が $9.0\ \mathrm{cm}$ の直方体の半導体を用いて実験を行った。以下の問いに答えよ。ただし、数値で答える場合には、有効数字を考慮した計算結果とともに適切な単位をつけよ。なお、問1と問2で示すグラフからは最小目盛の $\dfrac15$ の精度で値が読めるものとする。

問1. 半導体の側面 $\mathrm{S_1}$ と $\mathrm{S_3}$ に平板電極を取り付け、図2(b)に示す測定回路を用いて電流と電圧の関係を調べると、図2(c)に示す結果が得られた。以下の問いに答えよ。なお、この測定範囲では半導体の温度変化は無視できる。また、導線の抵抗も無視できる。平板電極の抵抗も無視できるものとする。

(1) 電流計の内部抵抗は無く、かつ、電圧計の内部抵抗を無限大と仮定して、半導体の抵抗を求めよ。

(2) 実際は電流計の内部抵抗が $1.2\ \Omega$、電圧計の内部抵抗が $3.0\times10^6\ \Omega$ であった。このときの半導体の抵抗を求めよ。

(3) この半導体の抵抗率を求めよ。

問2. 半導体を磁場(磁界)の中に入れて電流を流すと、半導体中のキャリア(電流の担い手)にローレンツ力が加わり、キャリアが半導体の一方の端に集まることで電荷の偏りが生じる。このため電流ならびに磁場に対して垂直な方向に電場(電界)が生じて、キャリアにかかるローレンツ力とこの電場による力がつり合う。図2(d)に示すように半導体の側面 $\mathrm{S_1}$、 $\mathrm{S_3}$ 間に $x$ 軸の正の方向に $8.0\ \mathrm{mA}$ の電流を流し、 $z$ 軸の負の方向に一様な磁束密度を加えると側面 $\mathrm{S_2}$、 $\mathrm{S_4}$ 間に電圧が生じた。このときの磁束密度と電圧の関係を調べると、図2(e)に示す結果が得られた。この半導体のキャリアは自由電子のみであるとして、以下の問いに答えよ。ただし、電子の電荷は $-1.6\times10^{-19}\ \mathrm{C}$ とする。

(1) 電位は $\mathrm{S_2}$ と $\mathrm{S_4}$ とでどちらが低いか。

(2) 半導体中の自由電子の平均の速さを求めよ。

(3) 半導体中の自由電子の個数密度( $1\ \mathrm{m^3}$ あたりの個数)を求めよ。

解答の方針

【問1の方針】

着眼点

計器は「何を測っているか」を言葉にしてから回路を考える。電圧計の読みは電流計と半導体の電圧の和で、電圧計の内部抵抗は答えに効かない(下の図)。

2010年九州大学物理 第2問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第2問 解答の方針の図
  1. 図2(c)の直線の右端の点を最小目盛の $\dfrac15$ まで読み、内部抵抗が無い場合の抵抗を $\dfrac VI$ で求める((1))。
  2. 電流計は半導体と直列なので、電流計の読み $I$ は半導体を流れる電流そのもの。電圧計は電源の両端につながるので、電圧計の読み $V$ = 電流計の電圧 + 半導体の電圧 として $V=(r_{\mathrm A}+R)I$ と書き、半導体の抵抗 $R$ を求める。電圧計の内部抵抗は使わない((2))。
  3. 抵抗の式 $R=\rho\dfrac lS$ の $l$ は電流が流れる向きの長さ、 $S$ は電流に垂直な断面積。図2(a)から読み、単位を m に直して、(2) で求めた $R$ から $\rho$ を求める((3))。

【問2の方針】

着眼点

ホール効果は電子1個の力のつり合いで導く。向きは立体のままでは読みにくいので、上から見た図に書き直して決める(下の図)。

2010年九州大学物理 第2問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第2問 解答の方針の図
  1. 上から見た図を書き、電子は電流と逆向きに動くことから、ローレンツ力の向きと電子のたまる面を決めて、電位の低い面を選ぶ((1))。
  2. 電子が偏ると電場が生じて、電子に逆向きの力がはたらく。定常状態では電子1個のつり合い $eE=evB$ と、電場の向きに向かい合う2面の間の電位差 $V_{\mathrm H}=Ew$ から、速さ $v$ を $V_{\mathrm H}$ ・ $B$ ・ $w$ で表す。図2(e)の直線の右端の点を読んで、数値を入れる((2))。
  3. 電流は「1秒間に断面を通る電気量」。電流に垂直な断面(面積 $wt$ )を通る電子の数から $I=envwt$ と数え、(2) で求めた速さ(丸める前の値)を入れて $n$ を求める((3))。

解答

2010年九州大学物理 第2問 解答・解説
2010年九州大学物理 第2問 解答・解説
2010年九州大学物理 第2問 解答・解説(続き)
2010年九州大学物理 第2問 解答・解説(続き)
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問1 (1)

電流計の内部抵抗は0、電圧計の内部抵抗は無限大なので、電圧計の読み $V$ は半導体の電圧そのもの、電流計の読み $I$ は半導体の電流そのもの。よって $R_1=\dfrac VI$ で求められる。

グラフの直線は原点を通るので、電圧は電流に比例し、直線上のどの点でも $\dfrac VI$ は同じ値になる。原点から遠い右端の点( $5.0\ \mathrm{mA}$ )を使うと、読みのずれの影響が小さい。この点は横軸の格子線の上にあるので、読み取るのは縦軸だけ。最小目盛 $0.05\ \mathrm V$ の $\dfrac15$ = $0.01\ \mathrm V$ まで読んで $0.43\ \mathrm V$(下の図)。

$$R_1=\frac{0.43}{5.0\times10^{-3}}=86\ \Omega$$

答 $8.6\times10\ \Omega$(7点)

問1 (2)

実際は内部抵抗があるので、計器が何を示しているかを言葉にしてから式を立てる(下の図)。

・電流計は半導体と直列なので、電流計の読み $I$ は半導体を流れる電流そのもの。

・電圧計は電源の両端につながっている。電流計と半導体を直列につないだものの両端の電圧なので、電圧計の読み $V$ は、電流計の電圧 $r_{\mathrm A}I$ と半導体の電圧 $RI$ の和。

$$V=r_{\mathrm A}I+RI$$

$R$ について解いて

$$R=\frac VI-r_{\mathrm A}=86-1.2=84.8\ \Omega$$

電圧計の内部抵抗 $3.0\times10^6\ \Omega$ は使わない。電圧計に流れる電流は、電源から電圧計だけを通って電源にもどり、電流計を通らない。だから電流計の読み $I$ に入らず、答えに効かない数字(ひっかけ)。

答 $8.5\times10\ \Omega$(7点)

問1 (3)

抵抗の式 $R=\rho\dfrac{l}{S}$ の $l$ は電流が流れる向きの長さ、 $S$ は電流に垂直な断面積。電流は電極をつけた S₁ と S₃ の間を流れるので、図2(a)から $l=9.0\ \mathrm{cm}$、断面は $w\times t=5.0\ \mathrm{cm}\times1.0\ \mathrm{cm}$(下の図)。 cm を m に直して、 $\rho$ について解く。抵抗は (2) で求めた $R=84.8\ \Omega$ を使う。

$$\rho=\frac{R\,wt}{l}=\frac{84.8\times5.0\times10^{-2}\times1.0\times10^{-2}}{9.0\times10^{-2}}=0.471\cdots\ \Omega\cdot\mathrm m$$

答 $4.7\times10^{-1}\ \Omega\cdot\mathrm m$(7点)

問2 (1)

図2(d)で、電流は $x$ 軸の正の向き。電子は負の電荷なので、電流と逆の $x$ 軸の負の向きに動く。磁場は $z$ 軸の負の向き。上から見た図に書き直して向きを決める(下の図)。

ローレンツ力の向きは、まず正の電荷が同じ向きに動く場合をフレミングの左手の法則で調べ、電子は負なので逆にする。正の電荷が $x$ 軸の負の向きに動くとき、磁場が $z$ 軸の負の向きなら(中指=電流の向き、人差し指=磁場の向き)、力は $y$ 軸の負の向き。電子は負なので、逆の $y$ 軸の正の向きに力を受ける。

$y$ 軸の正の側の面は S₂(図2(a))。電子は S₂ にたまって S₂ が負に帯電し、反対側の S₄ は電子が減って正に帯電する。電位は、負に帯電した S₂ の方が低い。

答 $\mathrm{S_2}$(7点)

問2 (2)

電子が偏ると、S₄ から S₂ へ向かう電場 $E$ ができ、電子は電場から S₄ の向き(下向き)に力 $eE$ を受ける。定常状態では、この力がローレンツ力 $evB$ とつり合う(上の図)。

$$eE=evB\qquad\therefore\ E=vB$$

ホール電圧 $V_{\mathrm H}$ は S₂ と S₄ の間の電位差で、その距離は幅 $w$ なので、 $V_{\mathrm H}=Ew$ 。これを $E=vB$ に入れて

$$v=\frac{V_{\mathrm H}}{Bw}$$

グラフ(図2(e))の直線は原点を通る。右端の点は $B=0.50\ \mathrm T$ で格子線の上にあるので、縦軸だけを最小目盛 $0.5\ \mathrm{mV}$ の $\dfrac15$ = $0.1\ \mathrm{mV}$ まで読んで $V_{\mathrm H}=3.9\ \mathrm{mV}$(下の図)。 mV を V に直して入れる。

$$v=\frac{3.9\times10^{-3}}{0.50\times5.0\times10^{-2}}=0.156\ \mathrm{m/s}$$

答 $1.6\times10^{-1}\ \mathrm{m/s}$(7点)

((3) では、丸める前の $0.156\ \mathrm{m/s}$ を使う)

問2 (3)

電流は「1秒間に断面を通る電気量」。電子は1秒間に $v$ だけ進むので、電流に垂直な断面(面積 $wt$ )を1秒間に通る電子は、断面を底面とする長さ $v$ の柱(体積 $vwt$ )の中の電子(下の図)。電子の数は $nvwt$ 個で、1個の電気量の大きさが $e$ なので

$$I=e\times nvwt$$

$n$ について解き、 $I=8.0\ \mathrm{mA}=8.0\times10^{-3}\ \mathrm A$ と、(2) の丸める前の $v=0.156\ \mathrm{m/s}$ を入れる。

$$n=\frac{I}{evwt}=\frac{8.0\times10^{-3}}{1.6\times10^{-19}\times0.156\times5.0\times10^{-2}\times1.0\times10^{-2}}=6.41\times10^{20}$$

答 $6.4\times10^{20}\ \text{個}/\mathrm{m^3}$(5点)

( $v$ を $0.16$ に丸めてから入れると $6.25\times10^{20}$ になり、答えが $6.3\times10^{20}$ にずれる。途中は3桁で計算し、最後に2桁にそろえる)

別解

問2 (1) (電流の向きで決める) 電子が $x$ 軸の負の向きに動くことは、電流が $x$ 軸の正の向きに流れていることと同じ。電流が $x$ 軸の正の向き、磁場が $z$ 軸の負の向きで、フレミングの左手の法則を使うと、力は $y$ 軸の正の向き。電子が電流と逆向きに動く負の電荷なので、ローレンツ力の向きは「正の電荷が電流の向きに動くとき」と同じになる。本解と同じ、S₂ が低電位。

問2 (3) (式を1本にまとめる)  $V_{\mathrm H}=vBw$ と $I=envwt$ から $v$ を消すと

$$V_{\mathrm H}=\frac{IB}{ent}\qquad\therefore\ n=\frac{IB}{etV_{\mathrm H}}$$

$w$ が消えて、答えに入らない。 $I=8.0\times10^{-3}\ \mathrm A$、 $B=0.50\ \mathrm T$、 $V_{\mathrm H}=3.9\times10^{-3}\ \mathrm V$ を直接入れると

$$n=\frac{8.0\times10^{-3}\times0.50}{1.6\times10^{-19}\times1.0\times10^{-2}\times3.9\times10^{-3}}=6.41\times10^{20}\ \text{個}/\mathrm{m^3}$$

(2) の値を丸める心配がなく、同じ $6.4\times10^{20}\ \text{個}/\mathrm{m^3}$ になる。本解は、問題の流れ((2) で $v$ を求めて (3) で使う)に従った。

出題意図

問1 (1)〜(3) 電流計・電圧計の内部抵抗を考えて、グラフと回路の読みから、半導体の抵抗と抵抗率を求めることができるか

問2 (1)〜(3) 電子1個のつり合いとホール電圧のグラフから、電子の動く向きと速さ、個数密度を求めることができるか

講評

医学部医学科その他の学部
難易度やや簡単
目標得点40点35点
目標時間15分20分

ホール効果の基本的な問題で、解きやすい。
計器は「何を測っているか」を言葉にしてから回路を考え、ホール効果は電子1個のつり合いと電流の数え方の2本の式で決まる。
差がつくとしたら、電圧計の内部抵抗が答えに効かないと見抜く所と、グラフの読み・丸め方だけ。
典型の大問なので、医学科は満点、他学部も問2 (3) 以外は確実に取りたい。

差がつく所・失点しやすい所

  • 問1 (2):電圧計の内部抵抗 $3.0\times10^6\ \Omega$ は答えに効かず、電流計の $1.2\ \Omega$ を引くだけでよい、という発想に行き着けるか。電圧計が電源の両端につながっていると読み取れないと、並列の合成抵抗を考え始めて時間を使い、(3) にも響く。
  • 数値の正確さ(問1 (1)→(3)、問2 (2)→(3)):グラフを最小目盛の $\dfrac15$ まで読み、丸める前の値を使い続けられるか。前の小問の値がずれると、後の答えが連鎖してずれる( $0.44\ \mathrm V$ と読むと問1 (3) は $4.8\times10^{-1}$、 $v$ を $0.16$ に丸めると $n$ は $6.3\times10^{20}$ )。

コラム 電流計と電圧計のつなぎ方:2つの型

問1 (2) は、電圧計を電流計と半導体の両方にまたがってつないだ回路だった。電流計と電圧計で抵抗を測るつなぎ方には、次の2つの型があり、どちらを選ぶかで、読みの $\dfrac VI$ が本当の抵抗 $R$ からずれる向きと大きさが決まる。

2010年九州大学物理 第2問 コラムの図
2010年九州大学物理 第2問 コラムの図
  • 電圧計を半導体だけにつなぐ型:電圧計の読みは半導体の電圧そのもの。電流計は、半導体の電流に電圧計の電流が加わった値を示す。だから読みの $\dfrac VI$ は本当の $R$ より小さい( $\dfrac VI=\dfrac{Rr_{\mathrm V}}{R+r_{\mathrm V}}$ )。電圧計の内部抵抗 $r_{\mathrm V}$ が $R$ よりずっと大きければ、ずれは小さい。
  • 電圧計を電流計+半導体につなぐ型(本問):電流計の読みは半導体の電流そのもの。電圧計は、半導体の電圧に電流計の電圧が加わった値を示す。だから読みの $\dfrac VI$ は $R+r_{\mathrm A}$ で、本当の $R$ より大きい。電流計の内部抵抗 $r_{\mathrm A}$ が $R$ よりずっと小さければ、ずれは小さい。

ずれの割合は、前者が $\dfrac{R}{r_{\mathrm V}}$ 、後者が $\dfrac{r_{\mathrm A}}{R}$ 。この2つが等しくなるのは $R=\sqrt{r_{\mathrm A}r_{\mathrm V}}$ のときで、抵抗がこれより小さければ前者、大きければ後者の型が有利になる。本問の計器では $\sqrt{1.2\times3.0\times10^6}\fallingdotseq1.9\times10^3\ \Omega$ なので、半導体の抵抗 $85\ \Omega$ は「小さい」側。本問の型では電流計の $1.2\ \Omega$ の分(約 $1.4\%$ )だけ大きく読むのに対し、電圧計を半導体だけにつなげば、ずれは $0.01\%$ より小さい。

計器の内部抵抗の問題は、まず「どの計器が何を測っているか」を言葉にすれば、回路の型が違っても同じ手順で解ける。本問は「電圧計は電源の両端につながる」と見抜く問題だった。

2010年九州大学物理
第3問 解答・解説

第3問は波動の問題です。
テーマは「救急車が出す音を静止した測定器で聞く。音を出した時刻と届く時刻の差から、直線上と斜めのドップラー効果の式を自分で作り、式から振動数の時間変化のグラフを選び、最後に『ピーポー』の繰り返しの間隔にも同じ考えを使う。ドップラー効果の公式を『使う』のでなく『作る』問題」。

問題

2010年九州大学物理 第3問 問題
2010年九州大学物理 第3問 問題
問題文をテキストで読む

無風状態の空気中を伝わる速さ $V\ [\mathrm{m/s}]$ の音波について考える。以下の問いに答えよ。

問1. 文中の空欄にあてはまる数式を答えよ。

図3(a)のように点Mに静止している振動数測定器に対して、救急車が直線P上を $V_S\ [\mathrm{m/s}]$ (ただし、 $0<V_S<V$ )の速さで近づきながら、一定の振動数 $f\ [\mathrm{Hz}]$ の音を出している。すなわち救急車は1秒間に $f$ 個の音波(1波長分を1個と数える)を発している。測定器からの距離が $l\ [\mathrm{m}]$ の地点を点Aとする。点Aで発せられた音波が測定器に到達するまでの時間は、 $\boxed{\text{ア}}$ である。救急車が点Aを通過後、 $\Delta t$ 秒後に点Bに来た。ただし、点Bは点Aと点Mの間にある。点Bで発せられた音波が測定器に到達するまでの時間は、 $\boxed{\text{イ}}$ である。測定器が点Aからの音波を感知してから、点Bからの音波を感知するまでの時間は、 $\boxed{\text{ウ}}$ となる。時間 $\boxed{\text{ウ}}$ の間には $f\Delta t$ 個の音波が含まれるので、測定器が測定した音波の振動数は、 $\boxed{\text{エ}}$ となる。

問2. 文中の空欄にあてはまる数式を答えよ。

図3(b)のように直線P上にある点Mから測定器を点Oに離した場合を考える。問1と同じく、救急車は直線P上を $V_S\ [\mathrm{m/s}]$ の速さで左から右に移動しながら、一定の振動数 $f\ [\mathrm{Hz}]$ の音を出している。直線P上のある地点を点Cとし、線分OCと直線Pのなす角を $\theta\ [\mathrm{rad}]$ とする。救急車が点Cを通過後、 $\Delta t$ 秒後に点Dに来た。線分ODの長さを $L\ [\mathrm{m}]$ とする。図3(b)のように線分OCに対して点Dからの垂線の足を点Hとする。時間 $\Delta t$ が十分短いとき、角DOCは十分小さいので、線分ODと線分OHの長さが等しいと見なせる。このことを利用すると、線分OCの長さは、 $\boxed{\text{オ}}$ となる。点Cで発せられた音波が測定器に到達するまでの時間は、 $\boxed{\text{カ}}$ である。測定器が点Cからの音波を感知してから、点Dからの音波を感知するまでの時間は、 $\boxed{\text{キ}}$ となる。時間 $\boxed{\text{キ}}$ の間には $f\Delta t$ 個の音波が含まれるので、測定器が測定した音波の振動数は、 $\boxed{\text{ク}}$ となる。

問3. 問2において、振動数の時間変化を測定器で測定した。測定した振動数の時間変化を正しく表したグラフを、図3(c)の①〜⑥の中から一つ選べ。なお、各グラフ中の2曲線は、測定器の設置場所が直線Pから近い場合と遠い場合を表しており、横軸の点 $t_0$ は救急車が点Mで発した音波が測定器に到達した時刻である。

次に、測定器が直線Pから遠い場合の曲線は曲線A(実線)、曲線B(破線)のうちどちらであるかを記号で答えよ。

問4. 実際の救急車は、「ピーポーピーポー・・・・」というように「ピーポー」音を一定の時間間隔 $T_0\ [\mathrm{s}]$ で繰り返し発している。問1の図3(a)のように救急車が測定器に近づくときに、測定器に到達する「ピーポー」音の時間間隔を $T_1\ [\mathrm{s}]$ として、次の関係式の中で正しいものを記号で答えよ。

Ⓐ $T_1>T_0$Ⓑ $T_1<T_0$Ⓒ $T_1=T_0$

解答の方針

【問1の方針】

着眼点

第3問は公式を作る問題。使う考えは1つで、音が届く時刻=音を発した時刻+(距離÷音速)。届く時刻のずれが、測定器が2つの音を聞く時間になる(下の図)。

2010年九州大学物理 第3問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第3問 解答の方針の図
  1. 点Aの音が測定器に届く時間を、距離÷音速で求める(ア)。
  2. 点Bは点Aから $V_S\Delta t$ だけ測定器に近い。点Bの音が届く時間を求める(イ)。
  3. 点Aで音を発した時刻を $t=0$ とする。点Aの音が届く時刻は(ア)、点Bの音が届く時刻は「 $\Delta t$ +(イ)」。点Bの方が近いので、届く時刻のずれは Δt より小さい。この2つの時刻の差が、測定器が2つの音を聞く時間(ウ)。
  4. その間に $f\Delta t$ 個の波が届くので、個数÷時間で振動数を求める(エ)。

【問2の方針】

着眼点

救急車が斜めに動くと、音を発する位置によって測定器までの距離の縮み方が変わる。効くのは速度のうち測定器に向かう成分だけ(下の図)。

2010年九州大学物理 第3問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第3問 解答の方針の図
  1. 図3(b) の点Hをとり、OC を OH と HC に分ける。OH≒OD=L(近似はここだけ)、HC=CD cosθ= $V_S\Delta t\cos\theta$ から OC を求める(オ)。
  2. 点Cの音が届くまでの時間を、OC÷音速で求める(カ)。
  3. 点Cの音を発した時刻を $t=0$ とすると、点Dの音を発した時刻は Δt で、届く時刻は「Δt+ $\dfrac LV$ 」。点Cの音が届く時刻との差が、聞く時間になる(キ)。
  4. $f\Delta t$ 個の波を聞く時間(キ)で割って、振動数を求める(ク)。

【問3の方針】

着眼点

グラフを眺めずに、式 ク から振動数の変化を想像する。θ が $0\to\dfrac{\pi}{2}\to\pi$ と変わると、振動数は大きい値から $f$ を通って小さい値へ下がる(下の図)。

2010年九州大学物理 第3問 解答の方針の図
2010年九州大学物理 第3問 解答の方針の図
  1. 式 ク に θ=0、 $\dfrac{\pi}{2}$、π を入れて、振動数の大小と両端の値を求める。救急車が十分遠くにいれば θ は 0 や π に近づくので、両端の値は測定器が直線Pに近くても遠くても同じ。
  2. 選択肢のグラフから、右下がり(高い値から低い値へ)、かつ2本の曲線の両端の値が同じものを選ぶ(問3 のグラフ)。
  3. 測定器が直線Pの近くにあると、救急車が点Mの前後を通る間に θ は急に変わる。遠いと θ はゆっくり変わるので、遠い方がなだらかな曲線になる(曲線A・B)。

【問4の方針】

着眼点

「ピーポー」の1回目と2回目も、救急車が $T_0$ の間をおいて発した2つの音と見れば、問1 と同じ話になる(下の図)。

  1. 音の高さも「ピーポー」の繰り返しの間隔も、発した時刻の差が届く時刻の差にどう変わるかで決まる。「ピーポー」を発する時刻の差 $T_0$ を、問1 の Δt に置きかえる。
  2. 問1 のウと同じ式から、届く時刻の差 $T_1$ を $T_0$ で表し、 $T_0$ との大小を比べる。

解答

2010年九州大学物理 第3問 解答・解説
2010年九州大学物理 第3問 解答・解説
2010年九州大学物理 第3問 解答・解説(続き)
2010年九州大学物理 第3問 解答・解説(続き)
解答をテキストで読む

空欄ア〜エ

救急車が点Aを通るときを $t=0$ とする。音は測定器まで距離÷速さ $V$ で届く。

点Aと測定器の距離は $l$ なので、点Aの音が届くまでの時間は

答(ア) $\dfrac{l}{V}$(3点)

救急車は Δt 秒で $V_S\Delta t$ 進むので、点Bは測定器から $l-V_S\Delta t$ の所にある。

答(イ) $\dfrac{l-V_S\Delta t}{V}$(3点)

時間軸で考える。点Aの音は時刻 $t=0$ に発して、時刻 $\dfrac{l}{V}$ に届く。点Bの音は時刻 Δt に発して、時刻 $\Delta t+\dfrac{l-V_S\Delta t}{V}$ に届く。測定器が点Aの音を感知してから点Bの音を感知するまでの時間は、届く時刻の差なので

$$\left(\Delta t+\frac{l-V_S\Delta t}{V}\right)-\frac{l}{V}=\Delta t-\frac{V_S}{V}\Delta t=\frac{V-V_S}{V}\Delta t$$

答(ウ) $\dfrac{V-V_S}{V}\Delta t$(3点)

(発した時刻の差 Δt より短くなる。近づいているので、後の音ほど短い距離を進めば届くから)

この時間に $f\Delta t$ 個の波が届くので、振動数は

$$\frac{f\Delta t}{\ \dfrac{V-V_S}{V}\Delta t\ }=\frac{V}{V-V_S}f$$

答(エ) $\dfrac{V}{V-V_S}f$(3点)

(音源が速さ $V_S$ で近づくときのドップラー効果の公式と同じ形。振動数は $f$ より大きい)

空欄オ〜ク

図3(b) の点C・D・H・O の関係を図にまとめると、次のようになる。

OC は OH と HC をつないだ長さ。Δt が十分短いので ∠DOC は十分小さく、OH≒OD=L と見なせる。HC は直角三角形 CDH で、CD=$V_S\Delta t$ (救急車が Δt 秒で進む距離)、角 C が θ なので $\mathrm{HC}=\mathrm{CD}\cos\theta=V_S\Delta t\cos\theta$。

答(オ) $L+V_S\Delta t\cos\theta$(3点)

点Cの音は、この距離を音速 $V$ で進んで測定器に届く。

答(カ) $\dfrac{L+V_S\Delta t\cos\theta}{V}$(3点)

点Cの音を発した時刻を $t=0$ とすると、点Cの音が届く時刻は(カ)、点Dの音を発した時刻は Δt で、届く時刻は $\Delta t+\dfrac{L}{V}$。差をとって

$$\left(\Delta t+\frac{L}{V}\right)-\frac{L+V_S\Delta t\cos\theta}{V}=\Delta t-\frac{V_S\cos\theta}{V}\Delta t=\frac{V-V_S\cos\theta}{V}\Delta t$$

答(キ) $\dfrac{V-V_S\cos\theta}{V}\Delta t$(3点)

$f\Delta t$ 個の波を(キ)の時間で聞くので

$$\frac{f\Delta t}{\ \dfrac{V-V_S\cos\theta}{V}\Delta t\ }=\frac{V}{V-V_S\cos\theta}f$$

答(ク) $\dfrac{V}{V-V_S\cos\theta}f$(3点)

(問1 の式で $V_S$ を $V_S\cos\theta$ に置きかえた形。救急車の速度のうち、測定器に向かう成分だけが効く。θ=0 なら(エ)と一致する)

問3

式 ク の θ に、3つの値を入れる。

θ救急車の位置振動数
$\theta\to0$十分遠い前方$\dfrac{V}{V-V_S}f$
$\dfrac{\pi}{2}$点Mの真横$f$
$\theta\to\pi$十分遠い後方$\dfrac{V}{V+V_S}f$

θ が 0 に近いときの振動数が最大、π に近いときが最小で、時間とともに大きい値から $f$ を通って小さい値へ下がる。しかも両端の値($\dfrac{V}{V-V_S}f$ と $\dfrac{V}{V+V_S}f$)は、測定器が直線Pに近くても遠くても同じ。したがって、2本の曲線は右下がりで、左端どうし・右端どうしが同じ高さにそろう。時刻 $t_0$ では、どちらも θ=$\dfrac{\pi}{2}$ で振動数 $f$ となり、2本は交わる。

選択肢を見ると、上がる②④、山の⑤、谷の⑥は合わない。残る①と③のうち、両端がそろうのは①。③は曲線Bの両端が曲線Aとずれているので、測定器の位置で両端の値が変わることになり合わない。

答 ①(6点)

次に近い・遠いを見分ける。直線P上の救急車は、等しい時間ごとに等しい距離だけ進む。測定器が直線Pに近いと、点Mの前後で θ が急に変わる。遠いと、θ はゆっくり変わる(下の図)。θ が急に変わるほど振動数も急に変わるので、近い場合が急な曲線A、遠い場合がなだらかな曲線B。

答 曲線B(5点)

問4

「ピーポー」の1回目を発した時刻を $t=0$、2回目を発した時刻を $T_0$ とする。問1 の点A・点B を、この2回の「ピーポー」に置きかえる(Δt が $T_0$ になる)。届く時刻の差は、問1 の(ウ)と同じ式で

$$T_1=\frac{V-V_S}{V}T_0$$

$0<V_S<V$ なので $\dfrac{V-V_S}{V}<1$ で、 $T_1<T_0$。

答 Ⓑ(5点)

(近づく救急車では、音が高く聞こえるだけでなく、「ピーポー」の繰り返しも速く聞こえる。遠ざかるときは逆に $T_1>T_0$)

別解

空欄ウ・エ (波長で考える) 救急車が1秒間に発する $f$ 個の波は、音が $V$ 進む間に救急車が $V_S$ 進むので、長さ $V-V_S$ の区間に並ぶ。波長は

$$\lambda’=\frac{V-V_S}{f}$$

静止した測定器は、1秒間に長さ $V$ の範囲の波と出会うので、振動数は $\dfrac{V}{\lambda’}=\dfrac{V}{V-V_S}f$(エ)。聞く時間(ウ)は、 $f\Delta t$ 個を振動数で割って $\dfrac{f\Delta t}{\ \dfrac{V}{V-V_S}f\ }=\dfrac{V-V_S}{V}\Delta t$。ただし問題文が「時間」で誘導しているので、時間軸で進める方が自然。

空欄キ・ク (成分を取って公式に入れる) 救急車の速度の、測定器に向かう成分は $V_S\cos\theta$。一直線上のドップラー効果の式(エ)の $V_S$ を $V_S\cos\theta$ に置きかえれば、ク が求まる。ただし空欄が導出を問うているので、この方法は答えの確かめに使う。

出題意図

問1 空欄ア〜エ 音を発した時刻と届く時刻を時間軸に置き、直線上のドップラー効果の式を導くことができるか

問2 空欄オ〜ク 斜めに動く音源を、測定器に向かう成分 $V_S\cos\theta$ に直して、問1 と同じ流れで式を導くことができるか

問3 式 ク から θ の動きを想像して、振動数の時間変化のグラフを選べるか

問4 「ピーポー」の繰り返しの間隔にも、届く時刻の差の考えを使えるか

講評

医学部医学科その他の学部
難易度やや簡単
目標得点35点30点
目標時間20分25分

斜めのドップラー効果で、公式を覚えているかではなく、「届く時刻=発した時刻+距離÷音速」で公式を自分で作れるかを問う大問。
典型の流れは、時間軸で届く時刻の差を求めて、 $f\Delta t$ 個をその時間で割るだけで、公式で済ませてよいのはこの導出を白紙で再現できてから。
問3 は式から θ の動きを想像できれば、計算なしで選べる。
最後の問4 だけ少し取り組みにくいので、問3 までを確実に取って、残り時間で取り組めばよい。

差がつく所・失点しやすい所

  • オ:距離 OC を、OH と HC に分けて、OH≒OD=L、HC=$V_S\Delta t\cos\theta$ と書けるかという発想に行き着けるか。ここを越えないと、カ〜クが続かない。
  • 問3:式 ク から θ の動きを想像して、「測定器が近くても遠くても、両端の値は同じ」と気づけるか。①と③の見分けはここで決まる。近い・遠いの判定は、θ が急に変わるか、ゆっくり変わるかで決める。
  • 問4:「ピーポー」の繰り返しの間隔も、2つの音を発した時刻の差として問1 の考えで扱えるか。音の高さとは別の話と思い込んで、Ⓒを選ばないこと。

コラム 通り過ぎる救急車の音はどれだけ下がるか

問3 のグラフを、実際の数字で見てみよう。救急車が時速 $60\ \mathrm{km}$(約 $17\ \mathrm{m/s}$)で走り、音速を $340\ \mathrm{m/s}$ とする。測定器の近くを通り過ぎるとき、式 ク の両端の値は

$$\frac{V}{V-V_S}f=\frac{340}{340-17}f\fallingdotseq1.05f,\qquad\frac{V}{V+V_S}f=\frac{340}{340+17}f\fallingdotseq0.95f$$

  • どれくらい変わるか:近づくときは約5%高く、遠ざかるときは約5%低く聞こえる。通り過ぎる前後の差は、音の高さで言うと約1.7半音。ピアノで言えば、ドからレまで(全音)に近い幅で、はっきり分かる大きさ。
  • 道路の近くと遠くの違い:問3 の曲線A・Bの違いは、そのまま体験できる。道路のすぐ脇で聞くと、通り過ぎる瞬間に音が「ピュッ」と急に下がる。道路から離れたところで聞くと、音は長い時間をかけてなだらかに下がっていく。
  • 繰り返しも速く聞こえる:問4 の式で、近づくときの「ピーポー」の間隔は $\dfrac{V-V_S}{V}T_0\fallingdotseq0.95\,T_0$ と、約5%縮む。繰り返しが少し速く聞こえるのも、同じ理由。
2010年九州大学物理 第3問 コラムの図
2010年九州大学物理 第3問 コラムの図

身近な音も、式 ク を思い浮かべながら聞くと、物理の問題に見えてくる。物理を身近な現象に紐づける癖をつけておくと、初見の設定でも式を立てやすくなる。

2010年九州大学・物理の
講評とまとめ

3問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。

大問難易度医学部医学科その他の学部
第1問標準40点35点
第2問やや簡単40点35点
第3問やや簡単35点30点
全体やや簡単105点100点

大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で100点)にはなりません。

3題とも典型の組み合わせで、やや簡単な年でした。

この年の合否を分けたのは第1問で、単振動の標準的な問題です。

斜面でも板と小物体は自然長で離れると気づけるか、離れたあとの単振動を定義し直して、もとの位置にもどる時間を円運動の射影で求められるかで差がつきました。

作図して丁寧に解けば難しくありませんが、少し複雑で時間がかかるので、時間の使い方が大切です。

第2問は電圧計の内部抵抗がひっかけで、答えに効かないと見抜き、グラフの読みと丸め方に気をつければ取り切れます。

第3問は公式を作る誘導どおりに進めればよく、最後の問4だけ少し取り組みにくい問題です。

解く流れ

第1問 → 第2問 → 第3問。

2010年九州大学・物理に
関するよくある質問

2010年の九州大学・物理について、よく聞かれる質問にお答えします。

2010年の九州大学・物理は難しかった?

やや簡単な年でした。
第1問は標準、第2問と第3問はやや簡単です。
第1問は単振動の標準的な問題で、作図して丁寧に解けば難しくないものの、少し複雑で時間がかかる大問でした。

2010年の九州大学・物理は何点取れば合格できる?

目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で100点です(125点満点)。

2010年の九州大学・物理はどこで差がつく?

この年の合否を分けたのは第1問で、差がついたのは次の3つでした。

  • 第1問 問2 (4)(5):離れたあとの板の単振動を中心から定義し直して振幅 $2x_0$ を出し、円運動の射影で $30^\circ+180^\circ+30^\circ$ と読めたか。
  • 第2問 問1 (2):電圧計の内部抵抗は答えに効かず、電流計の $1.2\ \Omega$ を引くだけだと見抜けたか。
  • 第3問 問3:式から θ の動きを想像して、両端の値がそろう①と、遠いほどなだらかな曲線Bを選べたか。
2010年の九州大学・物理は何が出題された?

大問ごとの単元は、次のとおりです。

  • 第1問:力学
  • 第2問:電磁気
  • 第3問:波動

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