【解説・配点付き】2017年九州大学物理の解答・解説
2017年の九州大学・物理の、
解答・解説【完全版】です。
方針の立て方・考え方はもちろん
オリジナルの配点付き。
このページで過去問演習が完結するので
赤本などは一切不要です。
※本記事の問題は、九州大学の入学試験問題から引用しています。
解答・解説は九大専門塾・竜文会が独自に作成したもので、九州大学が公表したものではありません。
2017年九州大学物理
第1問 解答・解説
この記事の小問ごとの配点は九州大学が公表しているものではなく、竜文会が独自に作成したものです。
第1問は力学の問題です。
テーマは「ばねで押し出された台車と小物体。台車が車止めに当たって止まったあと粗い面を進んで水平に飛び出す小物体の速さと、点Dを通る条件。同じ高さから同時に飛び出した小物体と小球が、壁で折り返した小球と再び衝突する条件(反発係数 $e$ の値、ばねの縮みの下限)」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。
図1のように、質量 $M$ の台車が滑らかで水平な台の上に乗っている。台車はばね定数 $k$ で質量が無視できるばねにつながれ、ばねの左端は壁に固定されている。台車の上面は滑らかな水平面であり、上面の点Aには大きさが無視できる質量 $m$ の小物体が台車の壁に接して置かれている。ばねが自然長のとき台車の右面は車止めの壁に接しており、台車の上面と車止め上面の高さは同じである。車止め上面左端の点Bと上面右端の点Cの間は水平方向の距離が $L$、動摩擦係数 $\mu$ の粗い水平面であり、点Cは水平な床面にある点Oからの高さが $d$ の位置にある。物体の運動は鉛直平面内に限り、空気抵抗は無視できるとする。また、重力加速度の大きさは $g$ とする。
問1. ばねを自然長から $a$ だけ縮ませて静かに離すと、小物体は点Aに位置したまま台車とともに前進し、その後台車は車止めで完全非弾性衝突して瞬時に停止した。
(1) 車止めに達した瞬間の台車の速さ $V$ を $m$、 $M$、 $k$、 $a$ の中から必要なものを用いて表せ。
台車が停止したと同時に、小物体は速さ $V$ で点Aから台車の上面を進み、点Bを通過した後に点Cから速さ $v_0$ で飛び出した。
(2) 速さ $v_0$ を $m$、 $M$、 $k$、 $a$、 $\mu$、 $g$、 $L$ の中から必要なものを用いて表せ。
(3) 点Cを飛び出した後、小物体は床に達する前に壁COから距離 $d$、床からの高さが $\dfrac12d$ の位置にある点Dを通過した。この時、速さ $v_0$ を $d$、 $g$ を用いて表せ。
(4) 前問(3)のような状況を実現するばねの縮み $a$ を $m$、 $M$、 $k$、 $\mu$、 $d$、 $g$、 $L$ の中から必要なものを用いて表せ。
問2. 次に、図2のように点Cに大きさが無視できる質量 $m$ の小球がある場合を考える。ばねを自然長から $a’$ だけ縮ませて静かに離すと、小物体は点Aに位置したまま台車とともに前進し、その後台車は車止めで完全非弾性衝突して瞬時に停止した。台車が停止したと同時に小物体は点Aから台車上面を衝突直前の速さで進み、点Bを通過した後に点Cにある小球と衝突した。小物体が点Cに達した瞬間の速さを $v_0’$ とし、小物体と小球の反発係数を $e$ とする。
(1) 小物体と小球の衝突直後に、小物体の速さは $v_1$、小球の速さは $v_2$ となった。 $v_1$ と $v_2$ を $e$、 $v_0’$ を用いて表せ。
(2) 小物体と小球の衝突の前後に失われた力学的エネルギー $\Delta E$ を $e$、 $m$、 $v_0’$ を用いて表せ。
小物体と小球は大きさを無視できるため、点Cで衝突した後、同時に点Cから飛び出した。小球は、床に達する前に点Oから水平距離 $2d$ の位置にある滑らかな垂直壁で弾性衝突し、その後床に達する前に点Oから水平距離 $d$ の位置で小物体と再び衝突した。
(3) この時の小物体と小球の反発係数 $e$ の値を求めよ。
(4) 小物体と小球が床に達する前に衝突するためには、ばねの縮み $a’$ がいくらより大きくなければならないか。 $m$、 $M$、 $k$、 $\mu$、 $d$、 $g$、 $L$ の中から必要なものを用いて答えよ。反発係数 $e$ の値は前問(3)で求めたものを用いよ。
解答の方針
【問1の方針】
まず運動を想像する。ばねを縮めて放すと、小物体は台車の壁に押されて台車といっしょに加速する。ばねが自然長にもどる位置で、ちょうど台車の右面が車止めに当たる。つまり、ばねの力が0になって速さが最大になった瞬間に台車が止まる。台車の上面は滑らかなので、台車が止まっても小物体には水平の力がはたらかず、小物体はその速さのまま台車の上を進む。そのあとは粗い面BCで減速し、点Cから水平に飛び出す。1つの運動を「ばね→粗い面→投射」の3つの区間に切って、区間ごとに使う法則を決める(下の図)。
(3) の水平に飛び出したあとは、重力だけがはたらく。水平と鉛直で動きが別々だと見れば、点Dを通る条件から速さが決まる。(4) は、(2) と (3) が同じ速さ $v_0$ を表していることに気づけば、ばねの縮みへつながる。


- ばねが自然長にもどるまで、台車と小物体は同じ速さで動く。縮み $a$ のときと自然長のときで力学的エネルギー保存を立てて、 $V$ を求める((1))。
- 台車が止まったあと、小物体だけに注目する。B から C の粗い面で、動摩擦力の仕事と運動エネルギーの変化の関係を立てて、 $v_0$ を求める((2))。
- 点Cを原点に、水平は等速、鉛直下向きは自由落下と分ける。点Dの座標(水平 $d$ 、鉛直下向きに $\dfrac12d$ )を入れて、 $v_0$ を求める((3))。
- (2) の $v_0$ と (3) の $v_0$ を等しいとおいて、 $a$ を求める((4))。
【問2の方針】
(1)(2) は質量が等しい2物体の衝突。運動量保存と反発係数の2本で解ける基本の衝突。
(3) の決め手は、2つが点Cから同時に水平に飛び出すこと。2つとも鉛直方向は初速度0で、重力だけがはたらく。だから鉛直の動きはずっと同じで、いつも同じ高さにいる。2つが再び出会うのは、水平の位置がそろったときだけなので、水平方向だけ見ればよい。小物体は水平に等速で進む。小球は水平に等速で進み、壁に当たると、弾性衝突なので速さを変えずに向きだけ逆になる。これは、壁がないと考えて小球をそのまま進ませた道を、壁を鏡にして折り返したものと同じ。折り返した道をのばして1本の直線として考えればよい(下の図)。
(4) は、再衝突の時刻が、床に落ちる時刻より前になるための条件。壁に当たるのは再衝突より前なので、この1本だけでよい。


- 衝突前後の速度を水平右向き正で置き、運動量保存と反発係数の式を連立して $v_1$ 、 $v_2$ を求める((1))。
- 衝突前後の力学的エネルギーの差から $\Delta E$ を求める((2))。
- 再衝突までの時間 $t_1$ に、小物体は水平に $d$ 、小球はのばした道で $3d$ 進むとして、 $v_2=3v_1$ を作り、(1) の式に入れて $e$ を求める((3))。
- (3) の $e$ から $v_1$ を $v_0’$ で表し、再衝突の時刻 $t_1$ を求める。点Cから床までの自由落下の時間より短い条件から $v_0’$ の下限を求め、 $v_0’$ をばねの縮み $a’$ で表して $a’$ の下限を求める((4))。
解答




解答をテキストで読む
問1 (1)
ばねを縮めて放すと、小物体は台車の壁に押されて、台車といっしょに動く。台車は滑らかな台の上、小物体は滑らかな台車の上なので、摩擦はない。ばねの力は保存力で、台車と小物体のあいだの力(垂直抗力)は、2つに同じ大きさで逆向きの仕事をして和が0になる。だから、ばねと台車と小物体をまとめた力学的エネルギーが保存する。
ばねが自然長にもどった瞬間に、台車の右面が車止めに達する(このとき速さは最大。下の図)。台車と小物体の速さは同じ $V$ なので
$$\frac12ka^2=\frac12(M+m)V^2$$
答 $V=a\sqrt{\dfrac{k}{M+m}}$(4点)
問1 (2)
台車が止まったあと、小物体は台車の上面(滑らか)を速さ $V$ のまま進み、B から粗い面に入る。粗い面で小物体にはたらく動摩擦力は $\mu mg$ で、運動と逆向き。長さ $L$ のあいだ、この力が小物体に負の仕事をするので、仕事と力学的エネルギーの関係より
$$-\mu mgL=\frac12m{v_0}^2-\frac12mV^2$$
${v_0}^2=V^2-2\mu gL$ に (1) の $V$ を入れて
答 $v_0=\sqrt{\dfrac{ka^2}{M+m}-2\mu gL}$(4点)
問1 (3)
点Cから水平に速さ $v_0$ で飛び出したあとは、重力だけがはたらく。点Cを原点に、水平方向は右向き、鉛直方向は下向きを正とする。水平は等速、鉛直は初速度0の自由落下なので、時間 $t$ たったときの位置は
$$x=v_0t,\qquad y=\frac12gt^2$$
点Dは水平に $d$ 、点Cから鉛直下向きに $\dfrac12d$ (床からの高さが $\dfrac12d$ 、点Cの高さが $d$ )の位置なので
$$d=v_0t,\qquad \frac12d=\frac12gt^2$$
後ろの式から $t=\sqrt{\dfrac dg}$ 。これを前の式に入れて $v_0=\dfrac dt$ より
答 $v_0=\sqrt{gd}$(5点)
問1 (4)
(2) の $v_0$ と (3) の $v_0$ は同じ速さなので
$$\frac{ka^2}{M+m}-2\mu gL=gd$$
$a>0$ なので
答 $a=\sqrt{\dfrac{(M+m)(d+2\mu L)g}{k}}$(5点)
問2 (1)
点Cで、小物体(質量 $m$ 、速度 $v_0’$ )が静止している小球(質量 $m$ )に衝突する。水平右向きを正とし、衝突後の小物体の速度を $v_1$ 、小球の速度を $v_2$ とする。衝突の瞬間は2物体のあいだの力(内力)だけで考えられるので、運動量が保存する。さらに反発係数の式を立てる(衝突後の離れる速さ $v_2-v_1$ は、衝突前の近づく速さ $v_0’$ の $e$ 倍)。
$$mv_0’=mv_1+mv_2$$
$$e=-\frac{v_1-v_2}{v_0′-0}\qquad\therefore\ v_2-v_1=ev_0’$$
$v_1+v_2=v_0’$ と $v_2-v_1=ev_0’$ を足し引きして
答( $v_1$ ) $v_1=\dfrac{1-e}{2}v_0’$(3点)
答( $v_2$ ) $v_2=\dfrac{1+e}{2}v_0’$(3点)
問2 (2)
衝突の前後で、運動エネルギーの差が失われた力学的エネルギー。衝突前は $\dfrac12m{v_0′}^2$ 、衝突後は $\dfrac12m({v_1}^2+{v_2}^2)$ 。(1) より ${v_1}^2+{v_2}^2=\dfrac{(1-e)^2+(1+e)^2}{4}{v_0′}^2=\dfrac{1+e^2}{2}{v_0′}^2$ なので
$$\Delta E=\frac12m{v_0′}^2-\frac12m\cdot\frac{1+e^2}{2}{v_0′}^2$$
答 $\Delta E=\dfrac14m(1-e^2){v_0′}^2$(6点)
( $e=1$ で0、つまり弾性衝突では失われない)
問2 (3)
衝突の時刻を0とし、再衝突の時刻を $t_1$ とする。2つは点Cから同時に水平に飛び出す。鉛直方向は2つとも初速度0で重力だけなので、鉛直の動きはまったく同じで、いつも同じ高さにある。だから、再衝突は水平の位置がそろったとき(下の図)。
水平方向を見る。小物体は水平に速さ $v_1$ の等速運動で、点Oからの水平距離が $d$ の位置で小球と再衝突するので
$$v_1t_1=d$$
小球は水平に速さ $v_2$ で進み、壁(水平距離 $2d$ )で弾性衝突する。弾性衝突なので、水平の速さは $v_2$ のまま、向きだけ逆になる。壁がないと考えて小球をそのまま進ませた道を、壁を鏡にして折り返したものが実際の道なので、折り返した道をのばして1本の直線にすると、壁まで $2d$ 、戻って $d$ の位置までで、進んだ道のりは $2d+d=3d$ (下の図)。
$$v_2t_1=3d$$
2式を割って $\dfrac{v_2}{v_1}=3$ 。(1) の式を入れて
$$\frac{1+e}{1-e}=3\qquad\therefore\ 1+e=3-3e$$
答 $e=\dfrac12$(5点)
(このとき $v_1=\dfrac14v_0’$ 、 $v_2=\dfrac34v_0’$ 。壁に当たる時刻は $\dfrac{2d}{v_2}=\dfrac23t_1$ で、再衝突より前。小物体は水平に $d$ しか進まないので、壁には届かない)
問2 (4)
$e=\dfrac12$ より $v_1=\dfrac14v_0’$ 。再衝突の時刻は
$$t_1=\frac{d}{v_1}=\frac{4d}{v_0′}$$
床に達する前に再衝突するには、点C(高さ $d$ )から自由落下して床に着く時間 $\sqrt{\dfrac{2d}{g}}$ より $t_1$ が短ければよい(小球が壁に当たるのは $\dfrac23t_1$ で、再衝突より前なので、壁に当たる前に床に落ちることはない。下の図)。
$$\frac{4d}{v_0′}<\sqrt{\frac{2d}{g}}\qquad\therefore\ {v_0′}^2>8gd$$
$v_0’$ は (2) と同じ形で、縮み $a’$ のとき ${v_0′}^2=\dfrac{k{a’}^2}{M+m}-2\mu gL$ 。これを入れて
$$\frac{k{a’}^2}{M+m}-2\mu gL>8gd\qquad\therefore\ {a’}^2>\frac{(M+m)(8gd+2\mu gL)}{k}$$
答 $a’>\sqrt{\dfrac{2(M+m)(4d+\mu L)g}{k}}$(5点)
別解
問2 (2) (重心から見る型で) 質量が等しい2物体の重心の速度は、衝突前後で変わらず $\dfrac12v_0’$ 。重心から見た運動エネルギー(相対運動のエネルギー)は、衝突前が $\dfrac12\cdot\dfrac m2{v_0′}^2$ 、衝突後は相対速度が $e$ 倍になるので $\dfrac12\cdot\dfrac m2(ev_0′)^2$ 。重心の運動エネルギーは変わらないので、差が失われたエネルギーで
$$\Delta E=\frac14m{v_0′}^2-\frac14me^2{v_0′}^2=\frac14m(1-e^2){v_0′}^2$$
本解は、(1) の $v_1$ 、 $v_2$ をそのまま使える差のとり方にした。
問2 (3) (壁で折り返す道をのばさずに、時刻を追う型で) 小球が壁(水平距離 $2d$ )に当たる時刻は $t_{\mathrm w}=\dfrac{2d}{v_2}$ 。そのあと、壁から $d$ の位置まで戻るのに $v_2(t_1-t_{\mathrm w})=d$ 。これと $v_1t_1=d$ から、同じく $v_2t_1=3d$ 、 $\dfrac{v_2}{v_1}=3$ が求まる。のばした道を使うと、壁での向きの反転を式に入れずに済み、間違いが減る。
出題意図
問1 (1)〜(4) ばねのエネルギーが台車と小物体の運動エネルギーになり、粗い面で摩擦に仕事をされ、水平に飛び出す一連の運動を、区間に切って順に追うことができるか
問2 (1)(2) 質量が等しい物体の衝突を、運動量保存と反発係数で解くことができるか
問2 (3)(4) 同じ高さから同時に飛び出した2物体は鉛直の動きが同じなので水平だけ見ればよいこと、壁で折り返した小球の動きを壁の向こうにのばして考えられることに気づき、再衝突の条件を求めることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 40点 | 30点 |
| 目標時間 | 20分 | 25分 |
決め手は、運動を想像できるかどうか。
ばねが自然長にもどる瞬間に台車が止まり、小物体は止まらずに進む。
2つの物体が同じ高さから同時に水平に飛べば、いつも同じ高さにいて、出会うかどうかは水平の位置だけで決まる。
壁で折り返す動きは、壁がないと考えてのばせばまっすぐな運動になる。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2 (3):運動を想像できるか。同じ高さから同時に飛び出す2物体は、鉛直の動きが同じでいつも同じ高さにいる、と気づいて水平だけ見る。さらに、壁で折り返す小球の道をのばして $3d$ と見る発想に行き着けるか。気づかずに、2つの放物線の交点を連立しに行くと、計算が重く時間を失う。
- 問2 (4):(3) の $e$ から $v_1$ を求め、再衝突の時刻が床に落ちる時刻より前、という1本の不等式に読みかえられるか。(3) を間違えると道連れ。
2017年九州大学物理
第2問 解答・解説
第2問は電磁気+原子の問題です。
テーマは「水素原子を「原子核のまわりを等速円運動する電子」とみなし、円電流が原点につくる磁束密度を求める。そこに弱い一様な磁場をかけると、ローレンツ力が加わって電子の速さが変わる。その変化を近似で求め、円電流のつくる磁束密度の変化の大きさと向きを考える(回る向きを逆にしても、変化はかけた磁場と逆向きになる)」。
問題


問題文をテキストで読む
以下の問いに答えよ。ただし、クーロンの法則の真空中での比例定数を $k_0\,[\mathrm{N\cdot m^2/C^2}]$ とし、真空の透磁率を $\mu_0\,[\mathrm{N/A^2}]$ とする。磁束密度の単位は $1\,\mathrm{T}=1\,\mathrm{N/(A\cdot m)}=1\,\mathrm{Wb/m^2}$ と表される。円周率を $\pi$ とする。
水素原子の構造として、真空中で質量 $m\,[\mathrm{kg}]$、電気量 $-e\,[\mathrm{C}]\ (e>0)$ をもつ電子が、電気量 $+e\,[\mathrm{C}]$ をもつ原子核のまわりを等速円運動している模型を考える。回転半径を $r\,[\mathrm{m}]$、速さを $v_0\,[\mathrm{m/s}]$ とし、電子は電磁波を放出することなく、安定に等速円運動するものとする。原子核は電子に比べて十分重いため動かないものとする。図1に示すように直交座標系をとり、原子核の位置を座標原点とする。電子は $xy$ 平面で円運動するものとし、円運動の向きは図1に示す向きとする。原子核および電子は点電荷とし、重力の影響は無視できるものとする。また、電子の運動がつくる磁場の、電子および原子核への影響は無視できるものとする。
問1. 電子の円運動は半径 $r$ の円電流とみなすことができる。電流の大きさを $I_0\,[\mathrm{A}]$ とする。
(1) 円電流が原点につくる磁束密度 $\overrightarrow{B_0}\,[\mathrm{T}]$ の大きさ $B_0\,[\mathrm{T}]$ を $I_0$、 $r$、 $\mu_0$ の中から必要なものを用いて表せ。
(2) 磁束密度 $\overrightarrow{B_0}$ の向きとして正しいものを、次の①〜③から一つ選び番号で答えよ。
① $z$ 軸の正の向き② $z$ 軸の負の向き③ $\overrightarrow{B_0}=\vec{0}$ なので、向きは定まらない
問2. 電流の定義に基づいて、 $I_0$ を $m$、 $e$、 $r$、 $v_0$ の中から必要なものを用いて表せ。
問3. 電子の速さ $v_0$ は、電子の運動方程式から求まる。 $v_0$ を $m$、 $e$、 $r$、 $k_0$ の中から必要なものを用いて表せ。
次に、図2に示すように $z$ 軸の正の向きに磁束密度 $\vec{B}\,[\mathrm{T}]$ の一様な十分弱い磁場をかける。 $\vec{B}$ の大きさ $B\,[\mathrm{T}]$ が十分小さいときには、回転半径の変化は無視できることが知られている。したがって、ここでは磁束密度 $\vec{B}$ の磁場があるときも、回転半径 $r$ で等速円運動するものとする。電子の速さは変わりうるので $v\,[\mathrm{m/s}]$ とする。
問4. 電子が磁束密度 $\vec{B}$ の磁場から受ける力を $\vec{f}\,[\mathrm{N}]$ とする。
(1) 力 $\vec{f}$ の大きさ $f\,[\mathrm{N}]$ を $m$、 $e$、 $r$、 $v$、 $\mu_0$、 $B$ の中から必要なものを用いて表せ。
(2) 力 $\vec{f}$ の向きとして正しいものを、次の①〜⑤から一つ選び番号で答えよ。
① $z$ 軸の正の向き ② $z$ 軸の負の向き③ 原点から電子に向かう向き ④ 電子から原点に向かう向き⑤ $\vec{f}=\vec{0}$ なので、向きは定まらない
問5. 電子の運動方程式から、電子の速さ $v$ は
$$v^2=\left(\boxed{\text{ア}}\right)\times\left[1+\left(\boxed{\text{イ}}\right)\times B\times v\right]$$
という2次方程式を満たす。
(1) $\boxed{\text{ア}}$ および $\boxed{\text{イ}}$ にあてはまる式を $m$、 $e$、 $r$、 $\mu_0$、 $k_0$、 $B$ の中から必要なものを用いて表せ。
(2) 磁束密度 $\vec{B}$ の磁場をかけたことによる電子の速さの変化 $\Delta v_0\,[\mathrm{m/s}]$ を
$$\Delta v_0=v-v_0$$
とする。 $B$ が十分小さいとき、 $|\Delta v_0|$ は $v_0$ に比べて十分小さいので
$$v^2=(v_0+\Delta v_0)^2\fallingdotseq{v_0}^2+2\,v_0\times\Delta v_0$$
および
$$B\times v=B\times(v_0+\Delta v_0)\fallingdotseq B\times v_0$$
と近似してよい。このとき $\Delta v_0$ は
$$\Delta v_0\fallingdotseq\left(\boxed{\text{ウ}}\right)\times B$$
と $B$ に比例する。 $\boxed{\text{ウ}}$ に当てはまる式を $m$、 $e$、 $r$、 $v_0$、 $\mu_0$ の中から必要なものを用いて表せ。
問6. 電子の速さの変化 $\Delta v_0$ により、電子の回転による円電流も変化する。それにより、円電流が原点につくる磁束密度も $\overrightarrow{\Delta B_0}\,[\mathrm{T}]$ だけ変化する。 $\overrightarrow{\Delta B_0}$ の大きさ $\left|\overrightarrow{\Delta B_0}\right|$ を $m$、 $e$、 $r$、 $v_0$、 $\mu_0$、 $B$ の中から必要なものを用いて表せ。
問7. 電子の円運動の向きが図2に示した向きと逆向きの場合を考える。これまでと同様に考え、 $z$ 軸の正の向きに磁束密度 $\vec{B}$ の一様な十分弱い磁場をかけたことにより、円電流が原点につくる磁束密度が $\overrightarrow{\Delta B_0′}\,[\mathrm{T}]$ だけ変化したとする。このとき、 $\overrightarrow{\Delta B_0′}$ の大きさは $\overrightarrow{\Delta B_0}$ の大きさに等しい。 $\overrightarrow{\Delta B_0}$ の向きと $\overrightarrow{\Delta B_0′}$ の向きの組合せとして正しいものを、次の①〜⑤から一つ選び番号で答えよ。
| $\overrightarrow{\Delta B_0}$ の向き | $\overrightarrow{\Delta B_0′}$ の向き | |
|---|---|---|
| ① | $z$ 軸の正の向き | $z$ 軸の正の向き |
| ② | $z$ 軸の正の向き | $z$ 軸の負の向き |
| ③ | $z$ 軸の負の向き | $z$ 軸の正の向き |
| ④ | $z$ 軸の負の向き | $z$ 軸の負の向き |
| ⑤ | $\overrightarrow{\Delta B_0}=\vec{0}$ なので向きは定まらない | $\overrightarrow{\Delta B_0′}=\vec{0}$ なので向きは定まらない |
解答の方針
【問1〜問3の方針】
水素原子を「電子が原子核のまわりを回る」模型にしているので、この電子の動きは2つの顔を持つ。1つは力学の円運動で、向心力はクーロン力。もう1つは電気の流れで、電子が円周を回り続けるので円電流とみなせる(問題文のとおり)。電流は「1秒間に断面を通る電気量」なので、1秒間に何周するかを数えればよい。
向きに注意が必要で、電子は負の電荷なので、電流の向きは電子の回る向きと逆になる。問題の図は斜めから見ていて向きが読みにくいので、$z$ 軸の正の側(上)から見た図に書き直して考える(下の図)。


- 上から見た図を書き、電子の回る向き(反時計回り)と電流の向き(その逆の時計回り)を決める。
- 円電流の中心の磁場の大きさを $H=\dfrac{I_0}{2r}$、$B_0=\mu_0H$ で求め、向きを右ねじの法則で決める(問1)。
- 電子は1秒間に何周するかを数え、通る電気量から $I_0$ を求める(問2)。
- クーロン力=向心力として円運動の運動方程式を立て、$v_0$ を求める(問3)。
【問4〜問7の方針】
磁場をかけても、クーロン力は変わらない。新しく加わるのはローレンツ力だけで、電子は負の電荷なので力の向きは正の電荷と逆になる。向きを図で決めると、図2の回り方ではローレンツ力も中心向きで、クーロン力と同じ向き。すると、同じ半径で回るには中心向きの力が増えた分だけ速さが増える。
近似は問題文が与えているので、発想すべきは別の所にある。もとの式($B=0$)が成り立っていることを使うと、$v_0$ の式と $v$ の式が引き算で簡単になる。最後の問6・問7 は、速さ → 電流 → 磁束密度がすべて比例でつながっていることに気づけば、新しい計算は要らない。回る向きを逆にすると、ローレンツ力の向きが外向きに変わる(下の図)。


- 電子の位置と速度とかけた磁場から、ローレンツ力の向きを図で決め、大きさ $evB$ を求める(問4)。
- クーロン力とローレンツ力がどちらも中心向きなので、運動方程式に $evB$ を足す。問題の形 $v^2=(\text{ア})\times[1+(\text{イ})\times B\times v]$ になるようにくくる(問5 (1))。
- 近似した式を代入し、問3の関係 $m\dfrac{{v_0}^2}{r}=k_0\dfrac{e^2}{r^2}$ を使って $\Delta v_0$ を求める(問5 (2))。
- 電流の変化 $\Delta I$ を問2の式から、磁束密度の変化 $\left|\overrightarrow{\Delta B_0}\right|$ を問1の式から求める(問6)。
- 図2の向きでは速くなる → 中心の磁場が強まる向きを調べる。逆回りでは力が外向き → 遅くなる → 電流の向きも逆、と追って向きを比べる(問7)。
解答




解答をテキストで読む
問1 (1)
円電流の中心の磁場は、円形電流の $H$ の式($H=\dfrac{I}{2r}$)を使い、$B=\mu_0H$ と2段に分けて求める。
$$H=\frac{I_0}{2r},\qquad B_0=\mu_0H$$
答 $B_0=\dfrac{\mu_0I_0}{2r}$(4点)
問1 (2)
電子は $z$ 軸の正の側から見て反時計回りに回っている(図1の電子の位置と速度の向き)。電子は負の電荷なので、電流の向きはその逆の時計回り。右ねじを時計回りに回すと、ねじは奥($z$ 軸の負の向き)へ進むので、中心の磁場は $z$ 軸の負の向き(下の図)。
答 ②(3点)
問2
電流は1秒間に断面を通る電気量。電子は1周 $2\pi r$ を速さ $v_0$ で回るので、1秒間に $\dfrac{v_0}{2\pi r}$ 周する。1周するごとに断面を電気量 $e$ が通るので
$$I_0=e\times\frac{v_0}{2\pi r}$$
答 $I_0=\dfrac{ev_0}{2\pi r}$(4点)
問3
電子の向心力はクーロン力。円運動の運動方程式(中心向きを正)は
$$m\frac{{v_0}^2}{r}=k_0\frac{e^2}{r^2}$$
$v_0>0$ なので
答 $v_0=e\sqrt{\dfrac{k_0}{mr}}$(4点)
問4 (1)
電子の速度は磁場に垂直なので、ローレンツ力の大きさは電気量の大きさ×速さ×磁束密度。
答 $f=evB$(4点)
問4 (2)
ローレンツ力の向きは、正の電荷ならフレミングの左手の法則(電流の向き=速度の向き)で決まる。電子は負なので、その逆。電子が $x$ 軸上にあって $y$ 軸の正の向きに動き、磁場が $z$ 軸の正の向きのとき、正の電荷なら外向き($x$ 軸の正の向き)に力を受けるので、電子は中心向きに受ける(下の図)。クーロン力も中心向きなので、2つの力は同じ向き。
答 ④(3点)
問5 (1)
中心向きを正とし、クーロン力とローレンツ力の和が向心力。
$$m\frac{v^2}{r}=k_0\frac{e^2}{r^2}+evB$$
両辺に $\dfrac rm$ をかけて、問題の形 $v^2=(\text{ア})\times[1+(\text{イ})\times B\times v]$ に合わせて $\dfrac{k_0e^2}{mr}$ をくくり出す。
$$v^2=\frac{k_0e^2}{mr}+\frac{erB}{m}v=\frac{k_0e^2}{mr}\left[1+\frac{r^2}{k_0e}Bv\right]$$
答(ア) $\dfrac{k_0e^2}{mr}$(4点)
答(イ) $\dfrac{r^2}{k_0e}$(4点)
(ア=問3の ${v_0}^2$。$B=0$ のときの式にもどるので、ア・イの形はこれで確かめられる)
問5 (2)
$B=0$ のときの問3の式 ${v_0}^2=\dfrac{k_0e^2}{mr}$(=ア)が成り立っている。問題の近似を問5 (1) の式に入れる。
$$v^2\fallingdotseq{v_0}^2+2v_0\Delta v_0,\qquad Bv\fallingdotseq Bv_0$$
$${v_0}^2+2v_0\Delta v_0={v_0}^2\left(1+\frac{r^2}{k_0e}Bv_0\right)$$
${v_0}^2$ が両辺で消えるので、$2v_0\Delta v_0={v_0}^2\cdot\dfrac{r^2}{k_0e}Bv_0$。右辺の ${v_0}^2=\dfrac{k_0e^2}{mr}$ を使って $k_0$ を消すと
$$2v_0\Delta v_0=\frac{k_0e^2}{mr}\cdot\frac{r^2}{k_0e}Bv_0=\frac{er}{m}Bv_0$$
両辺を $2v_0$ で割って
答(ウ) $\dfrac{er}{2m}$(5点)
($\Delta v_0=\dfrac{er}{2m}B$。$v_0$ を含まない。$B$ に比例して速くなる)
問6
着眼点のとおり、問2・問1の式をそのまま使う。電流は速さに比例するので、速さが $\Delta v_0$ 増えたときの電流の変化は
$$\Delta I_0=\frac{e\Delta v_0}{2\pi r}$$
円電流の中心の磁束密度も電流に比例するので
$$\left|\overrightarrow{\Delta B_0}\right|=\frac{\mu_0\Delta I_0}{2r}=\frac{\mu_0}{2r}\cdot\frac{e}{2\pi r}\cdot\frac{erB}{2m}$$
答 $\left|\overrightarrow{\Delta B_0}\right|=\dfrac{\mu_0e^2B}{8\pi mr}$(5点)
問7
図2の向き:ローレンツ力が中心向き → 速くなる(問5 (2))→ 時計回りの電流が強まる → 中心の磁場($z$ 軸の負の向き)が強まる。つまり $\overrightarrow{\Delta B_0}$ は $z$ 軸の負の向き。
逆向き:電子は時計回りに回るので、ローレンツ力は外向き(問4 (2) の逆)。クーロン力(中心向き)と逆なので、中心向きの力が減り、電子は遅くなる。電流は反時計回り(中心の磁場は $z$ 軸の正の向き)で、その大きさが弱まるので、磁場は $z$ 軸の正の向きに減る。減る=負の向きの変化なので、$\overrightarrow{\Delta B_0′}$ も $z$ 軸の負の向き(下の図)。
答 ④(5点)
(どちらの回り方でも、変化はかけた磁場と逆向き。かけた磁場を打ち消す向きに変わる)
別解
問7
電子の回る向きを符号つきの速度で表す。反時計回りを正とし、逆回りは $v$ を負にする。ローレンツ力は速度の符号とともに向きが変わるので、中心向きの力は $evB$($v<0$ なら外向き)と書け、運動方程式は回る向きによらず
$$m\frac{v^2}{r}=k_0\frac{e^2}{r^2}+evB$$
となる。問5 (2) と同じ計算で $\Delta v_0=\dfrac{erB}{2m}$(正)。逆回りでは $v_0<0$ なので、$v_0+\Delta v_0$ は絶対値が小さくなる(遅くなる)。中心の磁場の $z$ 成分は速度の符号つきで $-\dfrac{\mu_0ev}{4\pi r^2}$ と書けるので、変化は回る向きによらず $-\dfrac{\mu_0e\Delta v_0}{4\pi r^2}<0$。本解のほうが「力が外向きになる → 遅くなる」と物の動きで追えるので、本解にした。
出題意図
問1〜問3 水素原子の模型を、円電流(電流の定義と円電流の磁場)と円運動(クーロン力が向心力)の2つに読みかえられるか
問4・問5 (1) 負の電荷のローレンツ力の向きを正しく決め、クーロン力とローレンツ力の両方を入れた運動方程式を立てることができるか
問5 (2) 問題が与える近似を、入れる場所を間違えずに使い、$\Delta v_0$ を求めることができるか
問6・問7 速さの変化 → 電流の変化 → 磁束密度の変化を比例関係でつなぎ、回る向きを逆にしたときの符号の変化まで追い切れるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 45点 | 35点 |
| 目標時間 | 25分 | 25分 |
原子の問題だが、中身は「円運動の運動方程式」と「円電流の磁場」だけで、原子の知識を深く求める問題ではない。
九大の物理で原子が出ても、教科書レベルの知識で足りる。
この大問は、前半で円運動と円電流の基本の式を作り、後半でそこに少しだけ変化を加える。
差がつく所・失点しやすい所
- 問4 (2):電子は負の電荷なので、ローレンツ力が中心向きになる(外向きではない)という発想に行き着けるか。ここを外向きにすると、問5 (1) の式の符号が逆になり、問5 (2)〜問7 まで続けて落ちる。
- 問5 (2):与えられた近似を、どこにどう入れるか。${v_0}^2$ が両辺で消え、問3の関係で $k_0$ が消えるところまで進める。近似の入る小問は難しく、大きく差がつく。
- 問7:回る向きを逆にすると、ローレンツ力が外向きになって遅くなり、電流の向きも逆になる、という2段の符号を追い切れるか。符号を1つ見落とすと、選択肢①や③に行ってしまう。
2017年九州大学物理
第3問 解答・解説
第3問は波動・原子の問題です。
テーマは「平面鏡での光の反射を、波(反射の位相のずれ・ロイド鏡の干渉)と粒子(光子の運動量・動く鏡との保存則)の両面から調べる。前半は鏡と光源が作る干渉縞の明線の位置、後半は動く鏡ではね返った光の波長のびを、光子の保存則と波面の図形の2通りで導く」。
問題


問題文をテキストで読む
平面鏡の表面による光の反射について、光の波動性と粒子性の両方の観点から考える。真空の屈折率を1、真空中の光速を $c$、プランク定数を $h$ として、以下の問いに答えよ。
問1. 真空中で固定された平面鏡に垂直に入射した光の反射について考える。
(1) 光を波として考えた場合に、反射の際の位相のずれはいくらか。ただし、平面鏡の屈折率は1より大きいとする。
(2) 振動数 $\nu$ の光を粒子(光子)として考えた場合に、反射の際に光子1個が平面鏡に与える力積の大きさはいくらか。ただし、光の振動数は反射の前後で変わらないものとする。
問2. 図1のような装置を用いて、線状の光源から出た波長 $\lambda$ の単色光を細いスリットSにあてて回折させ、スリットから距離 $L$ だけ離れたスクリーンに生じる光の明暗の縞模様を観察する。スリットから距離 $d$ だけ離れた位置にスクリーンと垂直になるように平面鏡を置く。この鏡は屈折率が1より大きい物質でできている。光源、スリット、スクリーン、平面鏡はすべて紙面に垂直に配置し、この装置全体は、図1の灰色の領域も含めて、最初、真空に保たれている。
ここで、スクリーン上では、スリットから直接届いた光と、鏡によって反射されてから届いた光が重なり合って干渉が起こる。
(1) 平面鏡から距離 $x$ の位置にあるスクリーン上の点をPとする。スリットから直接に点Pに届いた光が進んだ距離を $l_1$、鏡によって反射されてから点Pに届いた光が進んだ距離を $l_2$ とする。 $l_2-l_1$ を求めよ。
(2) $d$ と $x$ はいずれも $L$ に比べて十分に小さいものとする。 $|a|$ が1に比べて十分に小さいとき、 $\sqrt{1+a^2}\fallingdotseq1+\dfrac{a^2}{2}$ としてよい。前問(1)の結果にこの近似を用いて、スクリーン上の明線の位置を求めたとき、鏡に最も近い明線の位置の $x$ を $\lambda$、 $L$、 $d$ を用いて表せ。
次に、図1の灰色の領域を屈折率が $n$ の物質で満たした場合を考える。ただし、鏡の屈折率は $n$ より大きいとする。
(3) 前問(2)と同じ近似を用いて、スクリーン上の明線の位置を求めたとき、鏡に最も近い明線の位置の $x$ を $\lambda$、 $L$、 $d$、 $n$ を用いて表せ。
問3. 真空中を $x$ 軸の正の向きに動く平面鏡による光の反射を考える。鏡の表面は $x$ 軸に垂直であるとする。以下の $\boxed{\text{(ア)}}$ から $\boxed{\text{(カ)}}$ の空欄に適した式をそれぞれの解答欄に記入せよ。
(1) 光を粒子として考える。光子1個が振動数 $\nu$ で $x$ 軸の正の向きに鏡に入射し、振動数 $\nu’$ で $x$ 軸の負の向きに反射したとする。このとき、鏡の速さが光子との衝突によって、 $V$ から $V’$ に変わったとする。鏡の質量を $M$ として、エネルギー保存則より、 $\dfrac{M}{2}V’^2-\dfrac{M}{2}V^2=\boxed{\text{(ア)}}$ である。また、運動量保存則より、 $MV’-MV=\boxed{\text{(イ)}}$ である。ただし、(ア)と(イ)は $h$、 $c$、 $\nu$、 $\nu’$ の中から必要なものを用いて表せ。
これらの保存則を満たすように、 $\nu’$ と $\nu$ の関係が決まる。その関係を入射光子の波長 $\lambda$ と反射光子の波長 $\lambda’$ の関係に書き直すと、 $\dfrac{\lambda’}{\lambda}=\boxed{\text{(ウ)}}$ となる。ここで、(ウ)は $c$ と $V$ を用いて表せ。ただし、 $V$ から $V’$ への変化は、 $V$ に比べて十分に小さいとして、 $V’+V\fallingdotseq2V$ と近似せよ。
以下では、光の反射による鏡の速さの変化を無視し、鏡は一定の速さ $V$ で動くものとして扱う。
(2) 光を波として考える。図2のように、光の入射角を $\alpha\,(\geqq0)$、反射角を $\beta\,(\geqq0)$ とし、入射波は直線ABに垂直な波面をもつ平面波、反射波は直線 $\mathrm{AA’}$ に垂直な波面をもつ平面波とする。線分ABの長さを入射波の波長 $\lambda$ と等しくなるようにとる。時刻 $t=0$ に点Bにあった光が、時刻 $t=t_0$ に鏡上の点 $\mathrm{B’}$ に達したとする。この間に、 $t=0$ に鏡上の点Aで反射した光は、 $t=t_0$ に点 $\mathrm{A’}$ に達していたとすると、入射波も反射波も同じ速さ $c$ で進むので、線分 $\mathrm{BB’}$ の長さと線分 $\mathrm{AA’}$ の長さは等しい。これを等式で表すと、 $\boxed{\text{(エ)}}=ct_0$ となる。ただし、(エ)は $V$、 $t_0$、 $\alpha$、 $\lambda$ を用いて表せ。
反射波の波長を $\lambda’$ とすると、 $\lambda’$ は点 $\mathrm{A’}$ を通る反射波の波面と点 $\mathrm{B’}$ を通る反射波の波面の間の距離に等しく、
$$\lambda’=ct_0+\boxed{\text{(オ)}}\times\cos(\alpha+\beta)$$
となる。ただし、(オ)は $V$、 $t_0$、 $\alpha$ を用いて表せ。
(エ)と(オ)を含む2つの式から $t_0$ を消去して、 $\dfrac{\lambda’}{\lambda}=\boxed{\text{(カ)}}$ を得る。(カ)において、 $\alpha=\beta=0$ とすると、(ウ)が得られる。
解答の方針
【問1の方針】
光の反射は「波」と「光子」の2通りに見られる。波として見ると、鏡の屈折率が真空の1より大きいので、屈折率の小さい側から大きい側への反射になり、位相が変わる。光子として見ると、運動量は向きのある量で、反射すると向きが逆になる。鏡に与える力積は、光子の運動量の変化を向きまで含めて考えて決まる(下の図)。


- (1) 反射が屈折率の小さい側から大きい側への反射であることを確かめ、位相のずれを答える。
- (2) 光子1個の運動量を $\dfrac{h\nu}{c}$ とし、入射の向きを正として反射の前後の運動量を書く。光子の運動量の変化を求め、鏡が受ける力積は作用・反作用で光子の変化と大きさが等しいことから答える。
【問2の方針】
鏡で反射した光は、鏡の向こう側にあるスリットの像 $\mathrm{S’}$ からまっすぐ来た光と、道のりが同じ。つまり直接来る光と反射してくる光の干渉は、スリット $\mathrm{S}$ と像 $\mathrm{S’}$ の2つの光源によるヤングの実験と同じ形になる(下の図)。ただし、鏡で反射するときに位相が $\pi$ ずれるので、ヤングの実験と明暗の条件が入れかわる。(3) は装置全体を媒質で満たすので、光の波長だけが $\dfrac1n$ になる。


- 鏡に関して $\mathrm{S}$ と対称な位置(鏡から $d$ の反対側)に像 $\mathrm{S’}$ をとる。 $l_1=\mathrm{SP}$、 $l_2=\mathrm{S’P}$ を三平方の定理で書き、その差を求める((1))。
- $d$、 $x$ が $L$ に比べて小さいので、ルートの中を $L^2$ でくくり、与えられた近似で $l_2-l_1$ を $x$ の1次式にする。
- 反射で位相が $\pi$ ずれることを考え、明線の条件を経路差=(半波長の奇数倍)で作る。鏡に最も近い明線の $x$ を求める((2))。
- 装置全体が屈折率 $n$ の物質で満たされているので、波長を $\dfrac\lambda n$ に置きかえる。置きかえる前に、反射の位相のずれが変わらないことを確かめる((3))。
【問3 (1)の方針】
光子も鏡も動く物体で、光子が鏡にぶつかってはね返る「2つが動く衝突」。2つとも動く衝突では、運動量保存とエネルギー保存の2本を立てる。この2本には、ほしくない鏡の質量 $M$ と速さの変化が入っているので、2本を割り算すると質量 $M$ が消える(下の図)。光子はエネルギーを鏡にわたして反射するので、反射後の振動数は下がる。


- エネルギー保存の右辺(光子が失うエネルギー)を書く(ア)。
- 運動量保存の右辺(光子の運動量の変化の大きさ。向きが逆なので和になる)を書く(イ)。
- (ア)÷(イ)で $M$ を消し、 $V’+V\fallingdotseq2V$ を入れて $\nu’$ と $\nu$ の関係を求める。
- 波長 $\lambda=\dfrac c\nu$ で $\dfrac{\lambda’}{\lambda}$ に直す(ウ)。
【問3 (2)の方針】
反射の瞬間、波は「1波長あとの波面が、動いている鏡に追いつく」ことで反射していく。時刻 $t=0$ に点Aで反射した波面と、1波長あとの点Bの波面が時刻 $t_0$ に鏡の点 $\mathrm{B’}$ に達する。その間に、鏡は $Vt_0$ 動き、Aで反射した波面は反射の向きに $ct_0$ 進む。入射波も反射波も速さ $c$ なので、 $\mathrm{BB’}$ と $\mathrm{AA’}$ は同じ長さ(下の図)。反射波の波長は、反射した2つの波面の間の距離。


- 鏡の動く距離 $Vt_0$ を入射の向きに測り直した長さを $\mathrm{AB’}$ とし、 $\mathrm{BB’}=\lambda+\mathrm{AB’}$ を $\mathrm{AA’}=ct_0$ と等しいとおく(エ)。
- 反射波の波面は反射の向きに垂直なので、 $\mathrm{AB’}$ を反射の向きに測り直した成分を $\mathrm{AA’}$ に足して反射波の波面の間隔を書く(オ)。
- エから $t_0$ を求め、オの式に入れて $t_0$ を消去する(カ)。
- $\alpha=\beta=0$ で (1) のウにもどることを確かめる。
解答




解答をテキストで読む
問1 (1)
真空(屈折率1)から、屈折率が1より大きい鏡にぶつかって反射するので、屈折率の小さい側から大きい側への反射。この反射では位相が $\pi$ ずれる(鏡の表面は節になる)。
答 $\pi$(3点)
問1 (2)
入射する向きを正にとる。光子1個の運動量は $\dfrac{h\nu}{c}$。振動数は反射の前後で変わらないので、反射後の運動量は向きだけが逆になり $-\dfrac{h\nu}{c}$。光子の運動量の変化は
$$-\frac{h\nu}{c}-\frac{h\nu}{c}=-\frac{2h\nu}{c}$$
鏡は作用・反作用の法則により、光子の運動量の変化と大きさが等しく向きが逆の力積を受ける(下の図)。
答 $\dfrac{2h\nu}{c}$(4点)
問2 (1)
鏡に関して $\mathrm{S}$ と対称な位置に像 $\mathrm{S’}$ をとる。鏡で反射してから点Pに届いた光は、 $\mathrm{S’}$ からまっすぐ来た光と道のりが同じ。 $\mathrm{S}$ は鏡から $d$、点Pは鏡から $x$ の位置で、スクリーンまでの距離は $L$ なので、三平方の定理より
$$l_1=\mathrm{SP}=\sqrt{L^2+(x-d)^2},\qquad l_2=\mathrm{S’P}=\sqrt{L^2+(x+d)^2}$$
( $\mathrm{S’}$ は鏡の反対側に $d$ だけ離れているので、点Pとの横のずれが $x+d$ になる)。
答 $l_2-l_1=\sqrt{L^2+(x+d)^2}-\sqrt{L^2+(x-d)^2}$(4点)
問2 (2)
$d$、 $x$ は $L$ に比べて十分に小さいので、ルートの中を $L^2$ でくくって「1+小さい量」の形にし、与えられた近似を使う。
$$l_1=L\sqrt{1+\left(\dfrac{x-d}{L}\right)^2}\fallingdotseq L+\frac{(x-d)^2}{2L},\qquad l_2=L\sqrt{1+\left(\dfrac{x+d}{L}\right)^2}\fallingdotseq L+\frac{(x+d)^2}{2L}$$
引くと、 $x^2+d^2$ の部分が消えて
$$l_2-l_1\fallingdotseq\frac{(x+d)^2-(x-d)^2}{2L}=\frac{2xd}{L}$$
経路差 $\Delta=\dfrac{2xd}{L}$ は、ヤングの実験の経路差 $\dfrac{dx}{L}$ の $d$ を、2つの光源の間隔 $2d$ に置きかえたもの。ここで、鏡で反射した光は位相が $\pi$ ずれるので、経路差が0になる鏡の位置( $x=0$ )は暗線になり、明線の条件は、経路差が半波長の奇数倍
$$\frac{2xd}{L}=\left(m-\frac12\right)\lambda\quad(m=1,2,\dots)$$
鏡に最も近い明線は $m=1$ で $\dfrac{2xd}{L}=\dfrac\lambda2$ なので、下の図の最初の山になる。
答 $x=\dfrac{L\lambda}{4d}$(5点)
問2 (3)
装置全体が屈折率 $n$ の物質で満たされると、光の波長は $\dfrac\lambda n$ になる。鏡の屈折率は $n$ より大きいので、反射は「屈折率が小さい側から大きい側」のままで、位相のずれ $\pi$ は(2)と変わらない。よって(2)の条件の波長を $\dfrac\lambda n$ に置きかえればよく、経路差 $\dfrac{2xd}{L}$ は変わらない( $l_1$、 $l_2$ は距離なので、物質があっても同じ)。
$$\frac{2xd}{L}=\frac12\cdot\frac\lambda n$$
鏡に近づく向きに縞が寄り、最も近い明線は真空のときの $\dfrac1n$ 倍の位置になる(上の図の下の段)。
答 $x=\dfrac{L\lambda}{4nd}$(4点)
問3 (1)
光子は振動数 $\nu$ から $\nu’$ に変わり、光子の持つエネルギーは $h\nu$ から $h\nu’$ になる。このエネルギーの減少分が、鏡の運動エネルギーの増加分になる。
$$\frac M2V’^2-\frac M2V^2=h\nu-h\nu’$$
答(ア) $h(\nu-\nu’)$(3点)
運動量は向きのある量で、入射の向きを正にとる。光子の運動量は $\dfrac{h\nu}{c}$ から $-\dfrac{h\nu’}{c}$ に変わるので、光子の運動量の変化は $-\dfrac{h(\nu+\nu’)}{c}$。鏡の運動量の変化は、この反対の符号になる。
$$MV’-MV=\frac{h\nu}{c}+\frac{h\nu’}{c}$$
答(イ) $\dfrac hc(\nu+\nu’)$(2点)
(ア)÷(イ)をつくる。左辺は $\dfrac M2(V’-V)(V’+V)$ を $M(V’-V)$ で割って $\dfrac{V’+V}{2}$ になり、 $M$ と $V’-V$ が消える。右辺は $\dfrac{h(\nu-\nu’)}{\frac hc(\nu+\nu’)}=c\cdot\dfrac{\nu-\nu’}{\nu+\nu’}$ なので
$$\frac{V’+V}{2}=c\cdot\frac{\nu-\nu’}{\nu+\nu’}$$
$V$ から $V’$ への変化は $V$ に比べて十分小さいので $V’+V\fallingdotseq2V$ を入れる。
$$V(\nu+\nu’)=c(\nu-\nu’)\qquad\therefore\ \frac\nu{\nu’}=\frac{c+V}{c-V}$$
$c=\nu\lambda=\nu’\lambda’$ なので $\dfrac{\lambda’}{\lambda}=\dfrac\nu{\nu’}$ になる(下の図。遠ざかる鏡ではね返ると波長がのびる)。
答(ウ) $\dfrac{c+V}{c-V}$(5点)
問3 (2)
図2で、入射の向きは $x$ 軸(鏡の動く向き)と $\alpha$ の角をなし、B・A・ $\mathrm{B’}$ は入射の向きの1本の線上にある。鏡は $t_0$ の間に $Vt_0$ 動くので、その $x$ 方向の距離 $Vt_0$ を入射の向きに測り直すと
$$\mathrm{AB’}=\frac{Vt_0}{\cos\alpha}$$
$\mathrm{AB}=\lambda$ なので $\mathrm{BB’}=\lambda+\mathrm{AB’}$。これが $\mathrm{AA’}=ct_0$ に等しい(下の図)。
答(エ) $\lambda+\dfrac{Vt_0}{\cos\alpha}$(4点)
反射波の波面は反射の向きに垂直で、波長はその間隔。 $\mathrm{B’}$ は、Aから入射の向きに $\mathrm{AB’}$ 進んだ点。入射の向きと反射の向きのなす角は $180^\circ-(\alpha+\beta)$ なので、 $\mathrm{B’}$ を反射の向きに測ると、Aより $\mathrm{AB’}\cos(\alpha+\beta)$ だけ手前になる。つまり、 $\mathrm{B’}$ を通る反射波の波面と $\mathrm{A’}$ を通る反射波の波面の間隔は、 $\mathrm{AA’}$ にこれを足した長さになる。
答(オ) $\dfrac{Vt_0}{\cos\alpha}$ [3点](問題の式 $\lambda’=ct_0+\boxed{\text{(オ)}}\times\cos(\alpha+\beta)$ の (オ) は $\mathrm{AB’}$ の長さ)
エの式 $\lambda+\dfrac{Vt_0}{\cos\alpha}=ct_0$ から $t_0$ を求める。
$$t_0\left(c-\frac V{\cos\alpha}\right)=\lambda\quad\therefore\ t_0=\frac{\lambda\cos\alpha}{c\cos\alpha-V}$$
オの式 $\lambda’=ct_0+\dfrac{Vt_0}{\cos\alpha}\cos(\alpha+\beta)=\dfrac{t_0}{\cos\alpha}\left\{c\cos\alpha+V\cos(\alpha+\beta)\right\}$ に入れて
$$\lambda’=\frac{\lambda}{c\cos\alpha-V}\left\{c\cos\alpha+V\cos(\alpha+\beta)\right\}$$
答(カ) $\dfrac{c\cos\alpha+V\cos(\alpha+\beta)}{c\cos\alpha-V}$(3点)
( $\alpha=\beta=0$ とすると $\dfrac{c+V}{c-V}$ で、(1) のウと一致する。光子の見方と波の見方が同じ答えになる)
別解
問2 (2) (因数分解で導く) $l_2^2-l_1^2=(x+d)^2-(x-d)^2=4xd$ を、和と差の積に分ける。
$$(l_2-l_1)(l_2+l_1)=4xd$$
$l_2+l_1\fallingdotseq2L$( $d$、 $x$ が $L$ に比べて十分に小さいので)を入れると $l_2-l_1\fallingdotseq\dfrac{2xd}{L}$。本解と同じ結果が、近似の公式を使わずに出る。本問は近似の公式が与えられているので、本解は誘導どおりにした。
問3 (1) (波として、ドップラー効果を2段階で考える) 鏡が遠ざかる速さ $V$、光速 $c$ とする。
①鏡を観測者として見る:遠ざかる鏡に会う波の数が減るので、鏡が受ける振動数は $\nu_1=\dfrac{c-V}{c}\nu$。
②鏡を $\nu_1$ の波源として見る:鏡は遠ざかりながら波を送り出すので、波源が遠ざかる分だけ振動数が下がり $\nu’=\dfrac{c}{c+V}\nu_1$。
$$\nu’=\frac{c-V}{c+V}\nu\qquad\therefore\ \frac{\lambda’}{\lambda}=\frac\nu{\nu’}=\frac{c+V}{c-V}$$
本解(光子)と同じ答えが、近似 $V’+V\fallingdotseq2V$ を使わずに出る(反射板は2段階で考える型。HD-25)。光子の見方は、鏡の速さの変化を $V$ に比べて小さいと見たのが近似。
出題意図
問1 反射の位相のずれ( $\pi$ )と、光子の運動量が反射で向きを変えるという教科書の基本が理解できているか
問2 (1)〜(3) 鏡で反射した光を「鏡に映したスリットの像から直進してきた光」と見て、ヤングの実験と同じ形にでき、反射の位相のずれと媒質の屈折率まで含めて明線の位置を求めることができるか
問3 (1) 光子と鏡の2つが動く衝突として、運動量保存とエネルギー保存から、近似を使って振動数と波長の変化を求めることができるか
問3 (2) 動く鏡に斜めに入る波を、波面の図形で捉えて反射波の波長を求めることができるか
講評
| 医学部医学科 | その他の学部 | |
|---|---|---|
| 難易度 | 標準 | |
| 目標得点 | 30点 | 25点 |
| 目標時間 | 25分 | 25分 |
この大問は、鏡での反射を「波」と「光子」の2つの見方で調べ、同じ答えに着く問題。
光の干渉は「どの光とどの光が干渉するか → 経路差 → 反射の位相 → 条件」という決まった流れで、ロイドの鏡も像 $\mathrm{S’}$ を作ればヤングの実験と同じ形。
遠ざかる鏡に光子がはね返る様子をイメージできれば、問3 は光子の保存則でも波面の図形でも $\dfrac{c+V}{c-V}$ に着く。
差がつく所・失点しやすい所
- 問2 (2):鏡で反射した光は位相が $\pi$ ずれるので、鏡の位置( $x=0$ )が暗線になり、明線の条件が「半波長の奇数倍」に入れかわる、という発想に行き着けるか。ここを忘れると $x=\dfrac{L\lambda}{2d}$ としてしまい、(3) まで道連れになる。
- 問3 (1) ウ:光子と鏡の保存則の2本を割り算して $M$ を消し、近似 $V’+V\fallingdotseq2V$ で $\dfrac{\nu}{\nu’}$ を求める、という発想に行き着けるか。ア・イは書けても、割り算に気づかず連立で行き詰まる。
- 問3 (2) エ〜カ:動く鏡に斜めに入る波を、「1波長あとの波面が鏡に追いつく」図形で捉えられるか。 $\mathrm{AB’}$ を入射の向きに測る長さ $\dfrac{Vt_0}{\cos\alpha}$ と、反射の向きの成分 $\cos(\alpha+\beta)$ が難所で、ここは取れなくても合否には響きにくい。
コラム 光の力で進む宇宙ヨット IKAROS
問1 (2) で、鏡にはね返った光子は鏡に $\dfrac{2h\nu}{c}$ の力積を与えた。この「光に押される力」を使って、宇宙を進む探査機がある。


- 光の粒に押される帆:宇宙航空研究開発機構(JAXA)のソーラー電力セイル実証機 IKAROS(イカロス)は、2010年5月21日に打ち上げられ、約14m四方の薄い膜の帆を広げた。帆が太陽の光を受けると、光子1個あたり、はね返れば $\dfrac{2h\nu}{c}$、吸収すれば $\dfrac{h\nu}{c}$ の力積を受ける。2010年7月9日には、光子による加速(光子加速)が確認され、その大きさは推力 $1.12\ \mathrm{mN}$ に相当した。
- 確かめの計算:太陽光の強さ(太陽定数)を約 $1.36\times10^3\ \mathrm{W/m^2}$ とすると、1秒間に $1\ \mathrm{m^2}$ に届く光子の運動量の合計は $\dfrac{I}{c}$。完全な鏡で垂直にはね返せば $\dfrac{2I}{c}\fallingdotseq9\times10^{-6}\ \mathrm{N/m^2}$ で、 $14\ \mathrm{m}\times14\ \mathrm{m}$ の帆なら約 $1.8\ \mathrm{mN}$。実測の推力 $1.12\ \mathrm{mN}$ は、これより小さい。帆は完全な鏡ではなく、向きも太陽に対して垂直とは限らないなどのためと考えられる。それでも桁は見積もりと合う。
- 反射のしかたで向きを変える:帆の一部には液晶デバイスが付いている。電気を通す(ON)と光が鏡のように反射し、通さない(OFF)とばらばらに反射する(JAXAの資料)。鏡のように反射するほうが、光子の運動量の向きが完全に逆になるので受ける力が大きい。ON・OFFを切りかえて帆の場所ごとに力を変えると、燃料を使わずに帆の向き(姿勢)を変えられる。
九大の物理は、このように光の粒子性を身近な装置の題材で問うことがある。光は波であり、運動量を持つ粒でもあることを、問1 のような教科書の知識と結びつけて使えるようにしておきたい。
2017年九州大学・物理の
講評とまとめ
3問の難易度と目標得点をまとめると、次のとおりです。
| 大問 | 難易度 | 医学部医学科 | その他の学部 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 標準 | 40点 | 30点 |
| 第2問 | 標準 | 45点 | 35点 |
| 第3問 | 標準 | 30点 | 25点 |
| 全体 | 標準 | 105点 | 90点 |
大問ごとの目標得点は、それぞれの大問を単体で解いたときの理想の点です。そのため、総合の目標点(医学部医学科で105点、その他の学部で90点)にはなりません。
3題とも標準の年でした。
第1問は力学的エネルギーと衝突の基本で、運動を想像できるかが決め手になります。
後半は落としてもかまいません。
第2問はローレンツ力の基本で、問5を越えられれば満点が取れます。
第3問はヤングの実験の基本に原子が少し絡む複合問題で、後半だけ少し難しくなっています。
原子は基本的な知識しか問われませんが、名問の森レベルまでは対策しておきましょう。
「原子は出ない」と高をくくってはいけません。
解く流れ
第2問 → 第1問 → 第3問。
2017年九州大学・物理に
関するよくある質問
2017年の九州大学・物理について、よく聞かれる質問にお答えします。
- 2017年の九州大学・物理は難しかった?
-
標準的な年でした。
3題とも標準で、第2問はやや簡単寄り、第3問は後半だけ少し難しくなっています。 - 2017年の九州大学・物理は何点取れば合格できる?
-
目標点は、医学部医学科で105点、その他の学部で90点です(125点満点)。
- 2017年の九州大学・物理はどこで差がつく?
-
3題とも標準のセットで、基本を押さえれば取れる所が多い年です。そのうえで、差がつくとしたら次の3つです。
- 第1問 問2 (3):同じ高さから同時に飛び出す2つの物体は鉛直の動きが同じだと気づき、水平だけを見て、壁で折り返した小球の道をのばして考えられたか。
- 第2問 問5 (2):与えられた近似をどこに入れるかを判断し、式が簡単になる所まで進められたか。
- 第3問 問3 (2) エ〜カ:動く鏡に斜めに入る波を、1波長あとの波面が鏡に追いつく図形で捉えられたか。
- 2017年の九州大学・物理は何が出題された?
-
大問ごとの単元は、次のとおりです。
- 第1問:力学
- 第2問:電磁気+原子
- 第3問:波動・原子


